忖度なしでお願いしますって言って本当にズケズケ言ってくる奴には右ストレート

場所が悪かった。居酒屋。相手も悪かった。お局。内容も悪かった。結婚相談。そして言ったのが生粋の脆弱者ことZEN吉と来ればバツイチお局絶好調案件だろう、、。好感度ゼロの女版明石家さんまさんよぉ、、。マジでその前歯へし折ってやろうか?





その時、私は居酒屋なんて行きたくはなかった。
自己分析するにおそらく私は週単位で話す文字量が決まっているのだと思う。二日前に店員のお兄さんと打ち解けた会話も出来ていたし、旅人Aとの人生論も十分に堪能できていた。もちろん自己発進のマニュアル運転であって、この定数が決まっているだけであってオートマチックの文字数などいくらでも湧いてくるのが私という車である。
が、燃費は良くない。というより粘りがない。ランプ点灯からエンストまでが早すぎる。昔は所構わずエンストを繰り返していたのだが、それじゃあ犬や猫と変わらんだろうという事で、今は残りワンメーターになった所で行動を自重するようにしている。と、いうのが私の週間ルーティーンである。


対してこの旅人Aは月~年単位で会話量を調節しているようだった。その証拠に最初の飲み会の時「こんなに話したのは三年ぶりだよ」と純度100%の笑顔をしていた。マニュアル運転が三年ぶりだったという意味だろう。「旅好き」と言えば同じ穴のムジナに聞こえるが、こと会話に限って言えば真逆の性質になるのが旅の魔力でもある。「趣味=旅」に留まっている連中は一期一会を大事にしている真人間が多く、出会いの際は吸収率を重視した聞く側に回ることになる。それに対し「生活=旅」まで行ってしまった奴らは、ムジナが通った際「お嬢さんコッチおいでよ」と段ボールの家に招き入れ、溜まったものを吐き出す「責める奴ら」になる傾向が強く、私はコチラ側の人間になるつもりはない。企画モノには興味ナッシングである。




「ね~。また今日も飲み行こうよ~」



と、しつこくAが誘ってくる。
どうやら吐き出せる時に吐き出したいらしい。
言っておくがAとは一回り上の男性である。女性なら純度100%でGOに決まってる。


「ね~。結婚相手見つけるんでしょ~?行動しなきゃ見つかんないよ」


っち。この前、下手に回りすぎた、、。
この男、「バツイチトラベラー補正」でカッコ良く映っちゃいるが、ただの世捨て人でしょ?そんな演説は一回聞けば十分なんだよ。もう疲れたんだよ。


「もう明日帰るんでしょ?今日が最後だよ~」


オマエにとってはな。
人生なんて最後の繰り返しみてーなもんだろ。オレは自分のペースで一期一会を楽しんでんだよ。


「そういえば、あそこの店員さん超イケメンだったよね。おこぼれ貰えるかもよ~」


それもそうだな、、。
よし!行こう!!
と、その前に一つ言わせて、、。


そのオネエ言葉ハラ立つからやめろ。




何店舗かが入っている内の一つであるその居酒屋は、今日もカウンター席は女性で埋まっている。


「おっ!お兄さんたち、またいらしてくれたんですね?」


と声をかけてきたディーン・フジオカ似の男に会うために、わざわざホテルまで取って来る女性もいるらしい。彼に呼ばれた二人組の男がジャージ上下とあっては振り向いた女性もさぞかしガッカリしただろう。


おい。お前ら顔に出しすぎ。
「はぁ~?何この芋?ディーン様の時間奪ってんじゃねーよ。アタシの時間返せボケ」って書いてるから。わかったって。寄らねーよ。一気に萎えたわ。あそこのスナックのママに癒してもらうからいいもん。お前らなんて全員閉経しちまえ。


そう思い、足早に立ち去ろうとしたのにディーンとAが意味不明な結託をし始めた。


「お兄さんこの前パートナー欲しいって言ってましたよね?今いらっしゃるのは皆素敵な方々ですよ」


「うん。そうなの~。だから今日来ようって言ったのにホント照れちゃって困っちゃうよね~」


おいディーンこら。
何だオマエ?弱者の気持ちわかんねーのか??今そうゆうパスいらねーから。絶対ゴール決まんないから。ブッフォン100人いるから。

で、一番ムカつくのがAオマエな。
オレは照れてんじゃねーんだって。疲れてんだって!!二日前お前に宗教聞かされたせいでな!!何が「予定ってゆうのはね、入れちゃダメなの」だよ?言ったそばからぶっこんで来んじゃねーよ。むしろこうゆうのを防御するために予定って入れとくもんだろうが。あとオマエ隠れてティンダーやってんだろ?一番ゲスだろ。あわよくばヤル事しか考えてねーだろ。


「ささっ!ちょうどカウンター二席空いてますんでどうぞどうぞ」


「やった~!ありがとう~」


あー。残りの文字数が、、、。



私の隣には45、35、25歳の順に三人組の女性が並んでおり、若手二人とディーンでお局様を盛り上げているようだった。Aの隣にはティンダーをやってそうな女の子が一人で飲んでおり、Aはその子との会話に夢中である。つまり配置的に私は、浮かれ切ったお局としか話すことが出来ず、先程ディーンが余計なことを言ったもんだから会話のテーマも決まってしまっている。あっぱれさんま大先生である。


「ねぇねぇ?さっき言ってたパートナーってどうゆう意味?」


先制攻撃を仕掛けられた。
若手の表情を見る限り、お局様は離婚経験者だろう。しかもまだ傷が癒えていなくネタにできる状態ではない。ここの言葉選びは気をつけよう。


「もちろん結婚ってことになるんでしょうけど、何せしたことがないので、、。対等な関係でいたいって意味でパートナーって言うようしてるんです。それを含めて忖度なしで色々教えてもらっていいですか?僕年上の女性好きなんでスッと入って来そうな気がします」


「ふふっ。ありがと。嬉しい。ところであなたが言う年上って実年齢のこと?それとも精神年齢?」


そんなん知らんわ。いちいち深堀すんな。
もうオレには褒める一択の体力しか残ってねーんだよ。まずいな、、。こいつ褒められ過ぎてハイになってやがる。それが反転して説教モードに変わりつつある。


「うーん、、。どっちかとゆうと精神年齢の方ですかね。でもやっぱりどっちも当てはまる人だと嬉しいですね!」


「ふーん、、。イマイチはっきりしないなー。どんな人と結婚したいの?」


はっきりしてんだろ。じゃあ何て言えばいいんだよ?あなたです!って言えばいいのか?



「僕マイペースな性格してるんで、相手もマイペースな人がいいです。あっ!でも決してただの自己中ってわけじゃなくて、、、マイペース同士、尊重し合うみたいな、、」


「え~。あなたチョット自分本位じゃない??」


はい出た自己投影説教モード。
完全に別れた旦那に照らし合わせてんだろ。


「結婚ってね。そんなフワッとしたものじゃないんだよ?マイペースが悪いとは言わないけど、支え合うものなんだよ」


わかってないけど分かってるって!!
みんなマイペースに悪意持ちすぎじゃない??マイペースって良い意味だからな??


「趣味は何なの?どうゆう趣味の人が好きなの?」


「僕、旅が好きです。今も旅行中ですし。だからやっぱり似たような人に惹かれますね」


「やっぱりね」


やっぱりって何??


「だったら最初からそうゆう人と結婚したいって言えば良かったじゃない?あなたみたくお金の心配もせずプラプラしてる自由人が好きって人けっこういるわよ。あたしだってメキシコの海見に行きたいもん」


オレがいつ金の心配してないって言ったよ??海外も行ったことねーし、勝手に決めつけてくんじゃねーよ。一番自分本意なのアンタだろ?最初から言えもなにもアンタがズケズケ進めてっただけでしょ?一回サメに喰われて来たほうがいいんじゃない?


「決まったわね。あなたの結婚相手はマイペースなおてんば娘!!そしてお互いワガママを言い合って外国人と不倫する。って確率がえーと、、5%ってところかな~。そして残りの95%はこのままプラプラし続ける。ふふっ」


うっせー数字で言ってくんな。
聞きたくなくても頭に残るんだよ。その%そっくりそのまま返してやるよ。あーもうすげー疲れたよ、、。


「ねぇねぇ。けっこう言っちゃったけど勉強になった?なったなら私たちに一杯ご馳走してほしいな」


この期に及んでそれ言う??

若手二人もキラキラさせちゃってさー。あーもう何も考えれないよ~。



「はい!もちろん!でもグラスに歯ぶつけないように気を付けて下さいね!!」



「うっさいわね!!ディーン!!グラスの赤とそれに合うお肉料理三つずつお願い!!」



「かしこまりました!お兄さん。それでよろしかったですか?」



、、、、、、、。



「うん。宛名さんま御殿で」