好きな人から言われりゃ全部正解
結局そうじゃない?恋愛に限った話ではなく好意を抱いている相手からの発言は刺さりやすい。好意から敵意に変わってしまえば「あ、あの時どうかしてたわオレ」とこの催眠術も解けるのだが、嫌いになる前に逃げるクセのある者はいつ迄も軽度な催眠術にかかり続けることになる。その結果薄っぺらな半透明な男が出来上がるのである。
昔はそうじゃなかった気がする。
敵を作る気はなかったが「いや、、」の口癖と早口が勝手に仲間の分別をしてくれていた気がする。潮目が変わってきたのは「うん。そうだね」が口癖になった三十代からであって、面白い話を聞く分母は増えたが、「爆笑」の数は今までと差ほど変わらず、皮肉なことにその爆笑を引き出してくれる相手は卒業したはずの「いや一族」なのだから悩ましい限りである。
だがある程度答えは出ている。
職人仕事の時はこだわりを持とう。こだわりなどと格好つけちゃいるが、それがまかり通るのは上位10%だけであとは融通の利かない社会不適合者である。もちろん私もこだわりを持つとなれば後者となり、「アイツ、また変なやり方して間違えてたぞ」と一服話に花を咲かせることになる。さらに旅先での体験談とフラれ話を付け加えることでお花畑は満開となり、職人界隈で私の存在は季節の風物詩のように欠かせないものになる。つまり、旅先とマッチングアプリ内のみ社会性を発揮し、仕事時では本来の非社会性を発揮するのが現時点での私の姿であり、結構満足はしている。なのに「アンタ全然出来てないから」とへし折ってきたのが今回の彼女である。
彼女の立ち位置は私に似ていた。
というより私が目指すべき場所にすでに立っているというか、好きだからそう思ったと言うべきか、、。以前記事にも書いたボランティア業務をしながらタダで宿泊できる仕組み「フリアコ」が彼女との出会いであり、生活をともにする訳だからよっぽど壁を作らない限りはすぐに仲間になることが出来る。私のライフバランス的に年二、三カ月をボランティア程度にゆっくりしたいのに対し、彼女は半年以上それをできる資金的余力があった。私が浪費しつつ貯めているとは逆に、同年代の彼女は堅実な資産運用をしていたらしい。職業は看護師でお金が無くなったら戻ると言っているが、彼女の堅実具合を見る限りはそうはならないだろう。仕事柄かベッドメイク業務も素早くこなし、私が勝っている所は筋力のみと言っていいだろう。
「初めまして~!今日からヘルパーとして参戦しました。よろしくお願いしますね」
「うわっ出た!」
これが彼女との初めのやり取りである。
このやり取りは私が舐められやすい顔をしている以外にもう一つ理由がある。まさかまさかの同郷なのである。旅人あるあるで自県以外を所狭しと駆け回っていると同県の者と会う確率は高くなる。だが同郷、同年代となれば中々な確率だろう。この前情報はあらかじめオーナーから知らされていたのでこのようなファーストコンタクトになったのである。
「出たってことはないでしょ。わざわざ○○さんに会いにきたのに」
「キモいキモい!」
彼女は自分のことを「わたし犬だもん」と言っていた。「そんな素振り1ミリも感じないけどね」と返すと「下の犬には立場が逆転するの」と言ってきた。
(都合のいい犬だこと、、)
確かにワガママ女という訳ではない。
その証拠にオーナーの指示は忠実に守るし、私が「もうちょい適当でいいじゃん」と甘えると「ちゃんとやりなさい」と叱ってくる。だがオーナーの陰口で盛り上がるくらいの許容はあり、要はイジリ上手な先輩といったところである。私は長年こういう異性が欲しかった。野郎同士のやり取りじゃ例え楽しくても知識にも行動にも限界があるのである。かと言ってアプリを通じて姉御肌の女性とマッチしてしまうと私自身、愛だの恋だのの呪縛に縛られてしまう。どうせ恋に発展するのなら「仲間」から。その錬金術を培うチャンスがようやく訪れたのである。
「ゴハン行こ」
「今起きた」
「また寝る」
「じゃあ僕も」
時間はたっぷりあった。何故なら私たちは今ニートだからだ。大半の者はバイトと掛け持ちしながらフリアコをしているがそんな長時間労働に耐えきる体力などもう無く、故に価値観が合っている。「価値観の不一致」という都合の良い別れ言葉を置き換えると「時間の不一致」とも言えるだろう。お互い代謝も良かった。加えて栄養と味に詳しい彼女が決めてくれる店は体にも財布にも優しく、毎日の外食が楽しみだった。結果、声もでかくなる。
「ホントうるっさい!!」
「いやいや盛り上がってるってことじゃん」
「静かにしろ!アンタまさか初デートの時もこうじゃないでしょうね?」
「え、話題が合えばこうだけど、、。だってそれがデートじゃないの?」
「あのね、、。女子って楽しい振りが上手いの。男が思ってる以上にね。もっと静かにしてほしいの。質問とか疲れるの。凪な時間が大切なの」
「うそ、、。じゃあ僕の今までの方程式は、、」
「全部間違ってるよ」
「いやっ!全部ってことないでしょー」
「じゃあアプリであった子と二回目はあったの?」
、、、、、、、、。
「そうゆうこと」
痛い。痛すぎる、、。
まだまだある。
論理的に弱点を攻撃してくる彼女だが無神論者という訳ではなかった。日本全国どの散歩コースにも神社や寺があり、それを見つける度、目を輝かせるパートナーとの散歩は無心論者の私にとって少々辛いものがある。もちろん説教対象である。
「ねえ、アンタさぁ、、。なんでさっきアタシがお祈りしてる時ポケットに手突っ込んでボケーっとしてたの?本当ムカついたんだけど」
「あ、ごめん。だって怒ってる素振りなかったし。僕あんま神社興味ないし」
「神様の御前で怒れるわけないでしょ!!興味なくても並んで手くらい合わせろって言ってんの。何でそうゆうの大事にできないの!?」
「いや僕だって年一回くらいはお参りするけどさー。それで十分じゃん。あんまやりすぎると神様嫉妬するって」
「ああもう、、。だからモテないんだよ?結局ね、いくら小手先を磨いたところで最後は運なの。その運とか縁っていつ巡ってくるかわからないの。だから女子ってそうゆうのを大事にしている子が多いんだよ?それがわからないなんて、、。マジで終わってる、、」
、、、、、、、、。
「何?なんか反論ある?」
いや。まだ始まってねーし、、。
彼女の言い分に反論できないのは彼女が結果を出している人間だからである。常に彼氏がおり、現在もいながら束縛されずに飛び回っている彼女の姿は私の目指すところであり、憧れからか「何でモテるの?」とストレートな質問をぶつけてしまった。
「何?それはアタシの容姿が大したことないクセに何でモテるのってこと?」
「違う違う。そういう意味じゃない。○○さん可愛いじゃん。ただ恋愛アドバイザーとして教えて欲しいのさ」
「そういう意味にしか取れないけどねー。まぁいい、教えてやるか」
極々簡単なことである。
ただ相手に好意を示して告白されやすい状況をつくるだけである。それなら私も近しいことをやっている気がするが結果が出ない。そこで男女の差が出る訳である。
「アンタはさー逆なんだよねー。誰にでもウンウン言ってんなって感じがするんだよね。まぁ相手に告らせるならそれでもいいんだけどさ。アンタだって誰でもいいってわけじゃないんでしょ?そしてチョット図星突かれたら焦るでしょ?肝心な時に肝心なことが言えないとダメなんだよ」
、、、、、、、。
「ちょっといい雰囲気になっても押しが弱いよね。女の子ってそうゆうの全部見抜いてるからね」
、、、、、、、。
「そうだ!寅さんだ!古い作品なんだけど寅さんはね、旅先で毎回いい感じになるの。でも告白する度胸がなくてその恋は決して成就しないの。面白いから絶対見るべきね」
ラ~ラリラララ~
『男はつらいよ』全48作勉強中です。