合コンを20倍速したら猿がシンバル叩いてる奴がいる
今の若い子に合コンと言っても通用するのだろうか?男社会で育ってきた私にとって合コンのハードルは高く「やばい、何かしなきゃ」という焦りからか、首の上下動と手拍子を繰り返すようになる。そう。まるで子供の頃に買ってもらった猿のぬいぐるみのように、、。
私が二十代の頃は「合コン」が出会いの主戦場であった。出会いがない奴に限って選択肢の幅が狭く、彼女が欲しいのであれば手当たり次第出会い系サイトでもやればいいのだが、こいつらは「生身の女性」以外は出会える気がしないと戦う前から逃げ腰である。いや、戦ったのだが空振ったのである。そこには実態がなかった。
「はじめまして。プロフ拝見しました。良ければメッセージを通じて仲良くなりたいです」
このようなメッセージをいくら送っても返信など来ない。
この男は自分の顔をプロフィールに載せていないからである。
だって恥ずかしいじゃん。
いや、分かるよ。あった方がいいに決まってる。でも自撮りじゃ100回撮っても決まんねーんだよ。いや、あるんだって!!自然体の時は決まる顔があるんだって!!何で自撮りの時ってこんな「タマネギ畑」みてーな顔にしかならねーの?
これじゃフェアじゃないと、顔写真を載せていない女性を中心にアタックをするのだが、運良くやりとりが出来た二、三通目には「すいません。顔写真いただけないでしょうか?」が返ってくる。そして自慢のタマネギを見繕って出したところで皮も剥かずに捨てられる。こんな不公平な戦いはあるだろうか?
もうイヤだ。
これならエロサイト見てた方が100倍マシだ。何が「出会い系」だ。これならAV女優の握手会に行く方がよっぽど現実的なんだよバカヤロウ。
こうして勝者と敗者が別けられていく。
二次元から三次元へと逃避する彼らを弁護するわけじゃないが、彼らは決してつまらない人間ではなく、用は周りの人間次第だろう。彼らもその事は自覚済みで、「チャンスはまだか」と目の奥をギラつかせており、そのチャンスとは即ち「合コン」である。
「おいZEN吉。来週合コンやるからお前来るか?」
「はい!行きます」
私はこういう時は素直になれる人間である。
が、この時点からつまらない展開が始まっていたのかもしれない。ここで偏屈な部分を出せていれば「こいつモテないクセに超イキってたんだよね~」というフォローを貰えただろう。なのにコイツは「普通」で勝負しようとしており、勝ち筋というものが全くわかっていない。テンパり用員としての職務を全うすれば、懐の深いパートナーの気を引けるかもしれなかったのに、、。
かんぱーい!!
皆にビールが行き渡り、幹事が音頭を取りはじめた。私の表情は、他人行儀の貼り付いた笑顔である。
平常心、平常心、、。
みんな場馴れしているな。高校生の昼休みかよ。ヤバい、、。うつ伏せになりたい、、。
黙って汗でもかいていれば話しかけてくれる女子もいるだろうに、、。赤っ恥をかきたくない冷静さが混じりあった紫の男など飲みの席では不要である。
「へー。ZEN吉さんて左利きなんですねー。いいなぁ器用で」
左利きがメシを食っている姿というのは不自然に写るのだろう。しかも居酒屋などの座席の場合だと肘が上がり、より不自然に見えるのだが、ここで「器用」と言ってくれた目の前の女性は優しい人なのだろう。この文章をそのまま返せれば可能性の一つや二つあっただろうにそんな余裕はこの男になかった。
来た。いつもの。
えーと、どうするんだっけ?ドヤ顔するんだっけ?箸クルクルすればいいのか?ヤバい。早く返さないと。もう一秒も経っている。
「○○さんは右利きなんですね。いいなぁ器用で」
「ん??はい。右利きですよ。ははっ」
やめてその反応。あたりめーだろーが的な。普通に傷つくから。いや、今のはオレが悪いよ。つまんねーよ。つまんねーってゆうか終わってるけど何だあの本。困ったらリピートって書いてあっただろうが。ふざけんな。これ以上の困り状態ねーだろ。
「わー。コレも美味しそう!いい店ですねー」
ほらな。興味が料理の方に行っちまったじゃねーか。変に邪魔するのはよそう。もう一発リピートだ。
「うん、美味しい!いい店ですねー」
「、、、、、。うんうん」
あれ??なんか怒ってない??
よし。明日あの本燃やそう。
とゆうかさー、アナタも「お前同じこと言ってるだけやんけ」って突っ込んでくれてもいいんじゃない?オレそうゆうの言われたい派だから。Mだから。あー関西人に蹴られたい、、。
彼女は悪くない。悪いのは私の立ち位置であって、こういうスカした準レギュラーは何の脅威にもならないことを野球部時代に学んでいたのだが人はすぐには変われない。ベンチ要員で培ったオーラというのは何かしらの結果を得て変化していくものだが、その経験が当時の私にはなかった。今もないのかもしれないが、、。
よーし。じゃあ男性陣は席移動しよっかー!!
合コンは中盤に差し掛かり、皆の顔が赤くなってきたところで席替えが始まる。特に必要性を感じない。もうオートマのスイッチが入ってしまっている。
いる?この席替え?
もう勝手に動けば良くない?いやもうさぁ、、。楽しいんだけど楽しくないってゆうか、、。楽しいふりってゆうか、、。学芸会ってゆうか、、。
私は皆のテンションが上がる程、自分のテンションが下がる体質の持ち主で、物心ついた時からそうだったので最早これは直しようがないだろう。それじゃあ社会に適合するのは難しいだろうと相づちや手拍子を取り入れてはいるが、一定の旋律を弾かされる演者の精神は病んでくるものである。
「おい。ZEN吉~。飲んでるかー?」
アンタ今日それしか言ってなくない?
もうチョットいいパスくれよ。オレの趣味わかってんだろ?古今東西AVゲームっ!!とか言ってくれよ。結局さー、アンタ達って自分で点取りたい人間だよね。ほら、あそこにいる静かな子。あの子とかオレにくれよ。
「おい○○~。飲んでるかー?」
おい。次行っちゃったよ。
何だこの、おい飲んでるかゲーム??そんなことしてもお前の株上がんねーかんな。早くこっちに回せ。回せってゆうかオレの番号渡せ。オレにそんな力はない。
「おい○○~。みんな盛り上がってるぞー。よーし!」
と、言って幹事の男は静香ちゃんに狙いを定めていた。どうやら○○と静香をマッチアップさせたいらしい。
ちょい!!
不公平だろ!!コイツのターン長くない?何でオレのとき素通りしたんだよ?アンタ幹事だろ?平等に回せよ!
「君たち。お互い大人しいのが似合いそうだね。それじゃあ、、」
やめろ。
オレだってなぁ、、。ホントは「静か枠」に入りてーんだよ。でもそれじゃあ不安なんだよ。何なんだよこのゲーム?オレの存在意義は?
「それじゃあ、番号交換したまえ!」
言いやがった、、。
二人の反応は?
ツンしろ。ツンすればオレに流れるハズだ、、。
「え、それじゃあ、、。恥ずかしいけど、、」
終わった、、。
しかも静香ちゃんから話しかけやがった、、。その照れた顔がめっちゃ可愛い、、。マジでふざけんな。つーか○○。お前マジでズルくない??一番何もしてねーだろ。テメー全部払えよ。金ねーつったらブッ殺すかんな。
「さーて!!それじゃあ今日は平日だし、そろそろお開きにしますかー」
といった具合に今回の試合は終了した。
エースたちは相応しい相手が居なかったのかサッパリとした顔で引き上げて行き、一つのカップリングを成立させたという点がこの試合の見所だろう。私的には悔しさしか残らない内容なのだが、ごく稀にゲームセット後に判定が覆ることがある。さて、今回はどうだったのだろうか。
「そういえばZEN吉よ~。この間の合コンでいた大人しそうな子いただろ?その子がよ、、」
来た。逆転スリーラン。
そうだろ。○○なんてつまんねーだろ。男から見てつまんねー奴なんて女からしたらダニみてーなもんだ。オレなら静香ちゃんと年中メダパニ踊れる自信がある。
「その子がお前のこと、、」
オレのこと??
いいよ。ストレートで。抱きしめてあげるよ。
「うっ。ぷくく、、。おサルさんみたいだったってよ笑」
ゲームセット!!
10対0でZEN吉ンカスファイターズの完封負けになります。