「ツンデレ」って地雷の言葉なん?

「メンヘラ」と言ったわけではない。「ツンデレ」である。くだいたメッセージのやり取りの際、調子に乗った私がこの言葉を使っただけで彼女は豹変し、精神が崩壊した。極わずかな時間でしたが良い経験をさせて頂きました。えーと、、それでは何てお呼びすればいいでしょう?デレデレさんでよろしかったでしょうか?





私的第四次婚活ブームの時に彼女と出会った。
といってもアプリ内だけでの関係で、メッセージのやり取りと少しの会話をしただけの仲である。私が出会いに積極的になるタイミングは自分でもよく分かっていないのだが、諦めるタイミングというものはしっかり分かっている。それはフラれメーターが振り切った時である。

私はアプリと生身による二次元・三次元の両面方式で出会いを切り開いていくようにしており、その理由とは自分に余裕を持たせるためである。何かしらのパートナーがいることで「別にフラれてもいっか」的な余裕が生まれ、それがさらなるパートナーを生むキッカケになる。変にハードルを上げる必要はなくメッセージや挨拶ができる相手のことをパートナーと思っていれば良い。私の能力的にアプリ3人に対し、生身2人が限界値であり、最も心地良いのが勝ち筋のあるパートナー1人:1人である。

が、そもそも「勝ち筋」をわかっていない奴にとってこの方程式は無意味であり、地雷女によって婚活開始以前のパートナーさえも失う危険性すらある。これを「フラれメーターの逆張り」と呼んでおり、この現象が起きた場合は必ず婚活に終止符を打つようにしている。それだけ傷の回復には時間を要するという事なのだろう。


今回はいつもと手法を変え、生身から攻めることにした。以前ならばアプリ内に誰かいなければ不安だったのだが、少し経験値も上がっただろうと根拠のない自信が近くの居酒屋に向かわせた。いや、違うな。あれは居酒屋の名に引っ張られただけだな。『出会い横丁』。コレは物語が始まるだろう。


カランコロン。へい、らっしゃ~い!!


店に入ると早速看板を燃やしたくなった。一人で来ている奴などオッサン以外誰もいなかったのである。


おいおいおい。店名変えろよコラ。
オッサンとの出会いなんてただの事故なんだよ。どいつもこいつもビールに枝豆ばっかり食いやがってよぉ。それをな、指でチュパチュパしてる奴の性行為話なんて誰も聞きたくねーんだよ。まずは歯を磨けボケ。

いや待て、落ち着け。もう一つの名前を信じよう。横丁。歩けば出会いがあるはずだ、、。


テクテクテク、、、。


うん。ハゲ山にデブ岡、それにヌケ作、、、。

何だこの店!!帝愛地下労働施設なのか!?ペリカ払いなのか!?ウシウシ。とりあえず焼き鳥持って来いコノヤロウ!!


「タレと塩どちらにしましょうか?」


と、若い店員が話しかけてくる。
誠に不思議なのがオヤジくさい居酒屋に限って気前のいい女店員がいることである。男のわたしには理解できないが社交性を鍛える狙いでもあるのだろう。コレ以上鍛えてどうするつもりなのだろう?それはさておき美女の前で酒は進み、どんどん私の鎧は剥がれてしまっている。


「お兄さんビールのおかわりはいかがですか?」


あ~ん??
ウシウシ。もちろん頂くよ。君の前で飲むビールは最高だよ。でもね、、。これじゃあオヤジ街道まっしぐらなんだよ。えーん。こんなつもりじゃなかったんだよ、、。ちょっと聞いて下さいよぉ~。


「お姉さん、ちょっと聞いてよー。僕、今婚活中なの。でもシャイだから中々話しかけれないのー。だからここに来たのに誰もいないの~」


「えー-!!モテそうなのにもったいない!!アタシが誰か紹介してあげるから連絡先教えて下さいよー!」


え、、、。マジで?
いいの??こんな簡単なもん??


結局、自分の弱みを見せるのが一番いいのである。
ここで良かったのは「モテない」ではなく「シャイだ」と言ったことである。モテないと断言してしまえばソイツといる時間は無駄なだけであって紹介先にも失礼であろう。運よく言葉選びに成功した私は、社交性を飛び越して婚活アドバイザーと化した彼女のアンテナに引っかかったようで、すんなり紹介を頂くことができた。段取りも凄まじく、一週間後にまたこの店で飲めばいいだけである。もはや居酒屋のバイトに収まる器ではないだろう。





生身の出会いは確保した。次にやることはアプリ内でのパートナーの確保である。コレも不思議なもので生身の状態で乗っている時というのはメッセージにもそれが乗り移り、引きが格段に良くなる。いつもと同じく誠実な文章を打っているだけなのに、見る人によってフォントが自動変換されているのだろう。当然、そんなまやかしに引っかかる女などロクなものではない。


「メッセージありがとうございます(笑)こちらこそよろしくお願いします(笑)」


うん。返信してくれて嬉しいよ。嬉しいけどさ、、
(笑)の使い方間違ってない??何かおもろいこと言ったか?普通に、プロフ拝見して気になりましたって言っただけだぞ。失礼じゃない??その(笑)って「っぷ。こいつの顔超ウケんだけど」って言ってるのと同じだかんな。オマエの顔はどうなんだ?クッキーの画像にしてるけどホントにオマエが作ったやつなのか?


疑念を抱きつつ、重ねたやり取りの三通目に「直接やり取りしない?」の返事が返ってきた。本来喜ばしいことなのだが、何故か男のわたしが押されてしまっている。この女は何かおかしい。


業者ではない。アダルトでもない。それくらいの事はもう分かる。スピード感が変だ。うーん、、どうしよう??行くのか?最初に誘ったのはコッチだぞ。失礼じゃあないか?そうだ!!確かアプリ内で通話をできるサービスがあったはずだ。それで行こう。声を聞けば印象も変わるかもしれない、、。お互いにな。


「そう言ってくれてありがとう!でも、直接やり取りする前に電話できないかな?緊張するかもだけど、初めて使うサービスだから是非付き合ってほしいな」


「いいよ」


まずい、、、。気を悪くさせたか?
通話機能を使うタイミングとは本来50通目以降だと思うが今回は仕方がない。だってアンタ怖いんだもん。分かったって。下手に出るから。それで許してよ。


プルルルル。プルルルル、、


やべぇ、、。緊張する、、。
申し訳ないと思ってるからだな、、。やっぱり素直に連絡先を教えれば良かったな、、。


プルルルル。プルルルル。プルルルル、、


早く出ろアバズレ!!
3コール以内に出ろって教わらなかったのか?


ガチャ。


よし!出た!100点の声で振舞おう。


「こんばんはー!聞こえてますか?付き合ってくれてありがとうね!」


「、、、、、、、、」


「もしもし?聞こえてますか?」


「、、、、、、、、」


「あれ?もしもし?もしもーし!!」


「あ゛あ゛。聞こえてるって」


おい何だ「あ゛あ゛」って?
そんな言葉、文字でもなかなか出てこねーよ。打ち方調べちゃったよオイ。そもそも何でそんな声しゃがれてんの?ホントにそれが地声なのか?ジャイ子でもまだマシな声出すぞ。女子ってこうゆうとき120点の声出すんじゃねーの??つーか聞こえてんなら早く出ろボケ。女にここまでイラついたの母さんの運転以来だわ。


「で、何でわざわざ電話しようと思ったの?」


「うん、それはね。話した方が色々分かると思ったからだよ。現在進行形でありがとうね」


「ふーん、、。で、どう?印象は?」


最悪だよ。
よくこんな短時間でマイナス植え付けられんな?逆にスゲーよ。人間から嫌われるタイプだよお前。つーか何かテレてない?絶対テレてるよね?


「うーん、、。優しい感じがするかなぁ、、」


「そう。よく言われるの、、。でも気をつけてね。ウチのお父さんスゲー怖いから」


誰に言われんだよ?機械にしか言われたことねーだろ。ちなみに今のオレの発言も機械と一緒だからな?いつお前のオヤジに挨拶行くんだよ?何歩話飛んでんの??マジでコイツこんなにおかしい奴だったの?プロフ作成だけ外注したんじゃねーの?


「えー。怖いんだ。僕、怖い人苦手だから大丈夫かなー。じゃあさ、○○ちゃんがアプリをやってる理由ってやっぱり結婚相手なの?」


「いや全然。ウチね。最近アプリ内の彼氏に裏切られたの。それでもう絶対利用しないって決めたの」


だったらさっさと退会しろ。アプリ内の彼氏って何だソレ?サプリ内のチラシ並に実態ねーだろ。


「だからね。アンタは絶対そうじゃないって言いきれる?」


言い切れねーよ。そもそもそんな段階じゃねーんだよ。全部オマエの被害妄想なんだよ。


「うん。そうじゃない関係になれればいいよね、、。あっ!もう時間だね。短い時間だけど色々知れて楽しかったよ。またね!」


色々。色々な、、、、。


と、いった具合に彼女との関係は終わりに近づいた。
ここで煮え切れないのが私はこのような女性と関わったことがなかったことである。つまり免疫がない。もしかしたらが消せない。好奇心に勝てないということである。しかも、どんな相手にせよ生身のデート時に安心感を与えてくれるというのは事実であり、また向けられる照れ隠しの好意というのも案外悪くなく、ズルズルとやり取りを続けることになった。もう今日が焼き鳥屋へ行く日だというのに、、。


店員の彼女からは「まずは友達だと思って飲んで下さいね~」と伺っていた。大分年上である私たちの腹積もりに突っ込んでくるほど彼女は世話好きではなく、この距離感は正解である。これから会う女性をもてなす以上に店員の彼女に失礼があってはならないというのが正直な私の気持ちであり、この心の余裕が紹介先にも好印象を与えたのだろう。


「ZEN~。コレも食べていいー?アレも食べていいー?」


友達の店員の前なのか私の雰囲気が良かったのか彼女はのっけからタメ口全開で接してきた。私も変にかしこまれるよりはこっちの方が楽なので通常運転の会話をすることができ、冷静に彼女を分析してしまっていた。


何でいちいちオーダー許可取ってくるの?もういい年なんだし好きなもの食べればいいんじゃない?いやさ、、、。奢るよ。奢るけどさ、、。この注文の仕方って奢るありきの頼み方だよね。


「あたし、スナックでも働いてるんだ~。だからお酒止められなくてさ~。だってお客さんに申し訳ないじゃん??」


ふーん、そうなんだ、、。
もう飲めませんって言えば良くない??
アナタが飲みたいだけでしょ?ちなみに今のオレは客じゃねーかんな。あとさ、少し差別発言になるけどアナタ太ってるよね?痩せてる人が言う「お酒好きなの~」は許されるけど、デブが言うと「少し控えれば?」ってなるから。そうゆう世の中だから。


「アタシよく人から相談されるの。この前もね~~」


よく人から相談される人は自分からそんなことは言わない。アナタは自己肯定感を満たしたいだけの人間だ。おそらく昔はモテたのだろう。パッチリお目目のパンダ顔が今となっては膨らんでしまっている。愛嬌は今でもあるが、それだけでは長い関係を築けないだろう。


「あっ!もうこんな時間だ!終電逃しちゃう!とりあえずトイレ行ってくるね」


あーはいはい。この間に払っておけってことね。いいパス出すねー。でもさ、ちょっと露骨すぎない??オレに言わせて。「お手洗い大丈夫ですか?」って。その間に奢るのが男子の自己肯定感だから。


そしてたっぷりと時間をかけた彼女が戻ってくる。


「お待たせ~!!間に合わなそうだから急ごっか!」


ありがとうくらい言わんのかいっ!!


このあと結局終電を逃し、最寄り駅までのタクシー代を渡すと満足そうな笑顔で彼女は帰って行った。一回の飲み会で何が分かるというわけでもないのだが、これだけは言えよう。


金のかかる女だな、、、。




生身の紹介で次々がっつけるほど私は軟派な男ではない。次に紹介を頂くまでには相応の時間が必要であり、それが店員への礼儀というものだろう。受け身の私にとっては店員からの「この前の方どうでしたか?もし続いていなかったら次に会わせたい人がいるんです」待ちであって、このメッセージが届くまでこの店での物語は小休止ということになる。これを防ぐためにアプリ内でのパートナーを確保しておいたのだが、彼女も私に不信感を抱いており、その発端とは今回の飲み会である。「ウチ飲みに行く人キライ」と今回の飲み会を牽制してきたのだが、その時の優先順位は生身の彼女であって、そんなツンデレに構っている暇などなかった。
が、今は違う。このアプリ内の彼女を生身に引っ張り出すことが今の目標であって、その頃にはお互いの距離感をゼロにしておきたい。そのためにはある程度デリカシーを取り除いたやり取りをせねばならない。


「昨日の飲み会どうだった?」


「うーん。あんま面白くなかったよ。やっぱり行かなきゃ良かったね」


「ほらね。だからウチの言った通り」


だから、そのウチってやめろ。
関西人じゃねーんだろ?イラッとするから。オレが自分のことワイって言ったらイラつくだろ?素直にワタシって言えよ。


「そうだね。○○ちゃん以外とは行く意味ないかもね(笑)」


「え~。ウチは他の男と行く~(笑)」


出たなデレ助。
この人の見た目がよく分からん。しゃがれ声のインパクトが強すぎる。予想だが良い気がする、、。あとはどれだけ同調性があるかだ。案外良い関係になれるかもしれんな、、。


「え~。じゃあ僕も他の子と行く~!いないけどね笑」


「もう知らない!」


「出た!ツンデレ笑」


「は?今なんて言った?」


は?何でマジ切れ??
逆に何でダメなの?完全にこうゆう流れだろーが。つーかメッセージで「なんて言った?」って打つヤツ初めて見たわ。どうゆう設定にしてんだよ。即時消去法にしてんのか?そもそも「ツンデレ」って失礼な言葉なのか?褒め言葉じゃないのか?まずい、、。とりあえず謝っておこう。


「ゴメン、、。怒った?」


「怒ったっつーか呆れたわ。今までそんなこと言ってくる奴いなかったから」


嘘つけ。
ホントか?ホントに言われなかったか?だとしたら周りに人間がいなかったんだろうな。機械的な奴らに囲まれて育った結果がアナタということさ。


「本当にゴメン。やり取りが楽しくてつい調子に乗ったんだよ」


「ウチは好きな人を傷つけることは絶対にしない」


説得力ゼロだよ。
好きな人のハードル低すぎない??チョロすぎない??そんなすぐに本気になれるもん?


「アンタが本気で悪いと思ってるんだったら、二度と飲みに行かないって約束して。全部オープンにして」


やだよ。
嫉妬の域超えてんだよ。それが許される器量がお前にあるのか?


返信に困っている間にラッシュは続く。


「ウチは好きな人のためなら全てを直せる」
「例え妻がいたとしてもウチは気にしない」
「刺し違えてでも取りに行く」


怖ぇ、、。怖ぇよこの女。
マジでアプリ内だけの関係で良かったよ。このままフェードアウトだ。いいでしょコレは?だってドタキャンしたわけでもないし、、。みんなだってこうするでしょ?


断末魔が続く。


「何?なんで返事がないの?」
「何で電話してきたの?」
ツンデレなんて言わなかったらこんな事にならなかったのに、、」
「また裏切られた、、」
「通報してやる」




このアプリは私にとっては大事なコミュニケーションツールであった。これがホーム画面にあるだけで彼女の断末魔が聞こえてくるようで仕方なくアンインストールすることにした。彼女が言ったように「ツンデレ」というのは呪いの言葉として私の中に残っており、コレも一種の失恋に含まれるのだろう。


皆さん。言葉のチョイスは慎重に、、。