コンニャク王現る

彼はおそらく本物の金持ちだったのだろう。ソレを見たことがない私にとってソレの判断はつかなかったのだが出会った場所が良かった。「ゲストハウス」。目の肥えた客人に混ざることで今回のストーリーは生まれ、曲者ぞろいのクルーの船長は彼に相応しい。恥じらいもなくこういうセリフを吐ける者だけがなれるのだろう。それでは冒険を始めよう。コンニャク王にオレはなる!!






その時の私は「客人」というより「主人」といった立ち位置であった。ブログを書くようになってから旅というか過去作りのペースが加速している気がする。結果、性格にも若干の変化が見受けられ、社交性ONタイムの時間が確実に増えており、分かりやすく言えば「明るくなった」ということなのだろう。明るくなった私は、とにかく出会いに飢えており、知り合いから教えてもらったボランティアをする代わりにタダで泊めてもらえる「フリアコ」という仕組みを知った時、即座に応募し、ONタイムを発揮することで即採用を勝ち取ることが出来た。というより、賃金が発生しない相手からすれば私が害のある人間かどうかが全てであって面談の際、「ZEN吉さんは一発やりたいタイプじゃなから大丈夫ですね~」と言われた時は、そんなん初見で分かるんか?というのが素直な感想であって、もう少し違う言い方できないの?というのが二番目の感想である。どうやらゲストハウスにいる人間は全員風変りらしい、、。と、思ったのが先輩のボランティアといる時である。


このゲストハウスの規模的にボランティア一人、二人いれば十分業務をこなすことができ、空いた時間でバイトをすることも可能である。私は休職期間を利用してフリアコを使っていたのだが、この先輩は五年くらい前からこういう生活をしているらしく、当然一つの疑問が浮かぶ。


「えっ?それじゃあお金の方ってどうしてるんですか?」


話の流れ的にアリだと思ったタイミングでこの質問をぶつけてみると


「うん。ダメダメそんなの心配しちゃ。年金も健康保険も入らなくてもいいんだよ。生きていくだけあればいいの」


という回答が返ってきた。


えー、、。年金は免除になるだろうけど、、。
健康保険も??さすがに怖くない??アンタまだ四十代でしょ?達観しすぎじゃない?


彼はブラック企業、結婚、子育て、離婚など一通りのイベントを経て今の生活に落ち着いたようで、柔らかな口調だが自分の宗教を持っている人間であった。元々スローライフ好きな私は、彼に引っ張られる形で前半を過ごしていたのだが人が変われば話も変わる。彼が別のゲストハウスに旅立ったことによって私一人で業務をこなすことになり、それを見ていた長期滞在中の客が「私もボランティアやりたい」と仲間に加わったのである。ワタシ=女子。来た。やっぱり物語はこうじゃなくては。


やはり絵的にも実務的にも男女のペアが望ましい。
二階が男性専用、三階が女性専用のドミトリーとなっており、そこで生活する私たちは「主」に近い存在になっていた。今回フリアコを体験して思ったことは「主」だと抜群に話しかけやすいのである。「僕、ボランティアで働いているんです。何か困ったことあったら言って下さいね」と笑顔で言うだけで一段、二段と交流が生まれて行く。前任の達観者はこの発言をしなかったためにスローライフを楽しんでいたようだが、私たちは記事作りのためにフリアコに参加している。彼女の職業はライター。にわかブロガーである私とは比較できないほどの想像力を持っているだろう。


「ZEN吉さーん!昨日三階に泊まった人がめっちゃ変わった人でー。二階はどうでした?」


「えー、いーなー。二階は普通かな。おじさんズがパン一で歩いてるくらいかなー」


「履いてるならまだいいですよ~。だって昨日の子、下だけ履かない子だったもん」


「ははっ!いーなー見たかったなー」


という情報から人物を深堀していくのが私たちの楽しみであった。彼女は笑いのツボも押さえているボキャブラリーに富んだライターであって、彼女が仲間に加わってから出会う人々の色合いが明らかに強くなった。その締め括りがコンニャク王たちである。


「昨日変わったギャルと仲良くなってー。何か実業家の男性と一緒に旅してるんだって。全部お金はアッチ持ちで」


「えっ?それってただのパパ活じゃないの?」


「うん。アタシも絶対そうだと思ったんだけど、そうゆうのは一切ないんだって。それだとわざわざゲストハウスなんて泊まらないでしょ?」


「それもそうだね、、。面白そうなペアだね。話してみたいな」


「ね。アタシ、ギャルに駆け寄ってみますね」


情報を整理すると実業家とギャルは一ヶ月間のパートナー契約を結んでおり、ゲストハウス事業に興味があった彼と旅をしたい彼女の思惑が合致したようであった。旅の最中に撮影やブログも書いているようで、その出演料も頂戴したいという厚かましさが彼女を「ギャル」と呼ばさる理由でもある。ギャルと仲良くなったライターは一足先に実業家に会っており、焼肉・寿司・ラーメンという三大主食を食べきれない程ご馳走されたらしい。これを聞いた私は「美女二人に奢りたいだけの小金成金か?」という印象を持ったのだが、実際に会った彼女の意見は「うーん、、。よく分かんない、、」といったもので、どうやらただの金持ちではないらしい。こうなってくると私の人物眼の範疇を超えており、新たな目利きが欲しかった所に絶好の男が現れる。


「あれ?もしかして実業家の方ですか??」


「オレ??ちゃうちゃう。ただのノマドワーカー被れよ」


小綺麗な恰好をしていた彼を実業家だと勘違いした私は、ナンパの言い訳のように実業家について語ったのだが彼の反応は薄かった。


「あー、東京にはそんな連中いっぱいおるからねー」


彼は幅の広い交友関係があるようで、成金の類はもう見飽きたのだろう。なかなか姿を見せない実業家と会った際は同席して下さいね、というお願いにも「う~ん、、。気向いたらね」と、渋い反応であった。そもそもその時の出会いを楽しむのがゲストハウスであって、会えるか分からない人を待つくらいなら目の前の人と話すのが正解である。ノマドにとっては現場作業員である私がフリアコをやっている方が新鮮だったようで、何気ない話で笑ってくれる彼との会話は楽しく、リビングに居る時間が長くなっていった。そこにコンニャク王たちが現れる。美女が一人増えている。たまたま誕生日の子を見つけたらしい。3対3。場面は整った。さぁ、パーティーを始めよう。





「あーっと!!初めまして。私○○と申します。食べ物足りなそうなんで買いに行って来ますね!」


と、低姿勢であいさつしてきた彼は「大丈夫ですよ。お腹減ってないですから」という私たちを振り切って外に出て行ってしまった。その間は私たちの時間である。


「どう?ZEN吉さん?何か違う感じするでしょ?」


「確かに、、。雰囲気あるよね、、。ノマドさんから見てどう?」


「そうね、、。何か思ってたのとちゃうなぁ、、。おもろそうだからオレも同席するわ」


「やったー!アタシ一ヶ月も同じ会話で疲れちゃたぁ~」


(今日、あたしの誕生日なんだけどなぁ、、、)


私とライターとノマドの三人は実業家の素性を探りたく、ギャルは実業家のいない時間を楽しみたく、新人は自分を祝ってもらいたい。それぞれの思惑はあるだろうが主役はやはり彼だろう。放っているオーラが覇王色なのである。底なしの食欲を抱えた彼が戻ってきた。


「お待たせしましたー!お肉たくさん買ってきたんで食べましょう!あと、ピザも人数分注文してます!」


マジで買いすぎ、、。
もう夜九時だぞ、、。さっきまでお前たち外で食ってたんだろ?せめて残してもいいやつ買って来いよ。ギャルの意見聞けよ。この一か月で5㎏太ったって言ってるだろ。ギャルは正しいことしか言わないんだよ。


「僕はもう人が美味しそうに食べるの見るのがたまらなく好きでして、、。さっ!今日誕生日の方も食べて食べて!」


そりゃアンタは気持ちいいだろうけどさ、、。
もう目がガンギマってるんだよ。その目で見られたらどんだけ苦しくても食うしかねーだろうが。最悪の誕生日だよ。


何とか誕生日の新人を祝いたいと思った私たちは会話を分断することにした。配置的に私、ギャル、実業家の三人で話すこととなり、ライターとノマドは彼女を祝いつつコチラにも耳を傾けている。ギャルはあちらに混ざりたそうである。


「僕ね、様々な事業をやっていてその経験から成功するためにコレだけはってのが一つあるんですよ、、それはね、、」


「ほうほう、、。すごい気になりますね」


「もう彼女にもしつこいくらい言ってるんですけどね、、それが、、」


貯めるな、、。
ギャルの目死んでんだろ。よっぽど難しいことなんだろうな。


「それが、、早起きすることです!!」


普通~~!!
んなつまんねーことに尺取ってんじゃねーよ。アンタ全部目力で解決してるだけだろーが。


「何があっても朝五時に起きる!!もう僕、毎朝起きるのが楽しみでしょうがないんですよ!!本当にワクワクします。それをねパートナーの彼女にも味わってもらいたくて常に一緒にいるんです」


うん。マジ苦痛。
これならパパ活してるほうがいいんじゃない?拘束時間多すぎない?ってかギャルもちょっとは言い返せば良くない?


それは無理な話だろう。この手の人間と初めて会った印象を簡潔に述べると「クスリやってる??」という狂気が感じられる。柔らかな物腰からほとばしる覇気は情熱というクスリが溶けている証拠なのだろう。そして次なる情熱の一つに「コンニャク」があるらしい。


「僕ね、何十年も風邪ひいたことがないんですよ。それっておそらくコンニャクのおかげなんじゃないかなって」


「へぇ、、何十年もは凄いですね、、。そんなに頻繁に食べているんですか?」


「はい。週一では必ず摂取しているんですよ」


オレでもそんくらい食うわ。
違うから。アナタが成功したのって単純に体力あるだけだから。精神論じゃねーんだよ。神に選ばれた体なんだよ。普通そんなにメシも食えねーし、早くも起きられねーんだよ。


「それでね、今はグルテンが凄い良いって注目されてるでしょ?次に来るのは絶対にコンニャクなんですよ!!絶対にコンニャク!」


そうなの??
グルテンって体に悪いんじゃないの?どこ情報?そもそもコンニャクって栄養あるのか?喜ぶの砂かけババアぐらいじゃねーのか?


「もう先行投資はしてあるんです。あとは熱意のある人だけなんです。僕はね、僕のような頑丈な人間がもっと生まれて欲しいんです。そのためには『コンニャク王』ってラベルが貼られた商品が市場に出回るべきなんです!!」


そんな『マカ王』みたいに言われてもねぇ、、。
コンニャクってそもそもイメージが良くないよね。下ネタ色が強いよね。


「どうですか皆さん!!僕と一緒にコンニャク王目指さないですか?」


、、、、、、、、、、。


ほらね。やっぱりこうなるよね。
結局、最後は全部アンタが持ってくわけだ。


「アタシはZEN吉さんが右腕になるに一票~!」
「オレも」
「アタシも~」
「私も」


ずるいよ~。
オレだって誕生日会に混ざりたかったんだよー。


「さぁ!どうしますZEN吉さん!?右腕と言わず頭になってもらっても構いませんよ!男子虎穴に入らずんば虎子を得ずですよ」


「うっ、、。じゃあオレは、、。麦わらのルフィに一票」


「決まりましたね!!それでは宴を再開しましょう!!」


ワァァー。パチパチパチパチ、、、。


と、いった感じに日付が跨ぐまでパーティーは続けられた。
コンニャク王とギャルは始発で飛び立ったようで、キレイに畳まれたシーツを見てノマドがこう呟いた。




「本物やね、、、」