建設作業員独立あるある

別に建設業に限った話ではないが、会社を辞めた人間は弾ける確率が高いと思う。声高々と辞めた理由について語っているが、一歩離れた距離から聞いていると「えーと、、つまり、、弾けたかったんすね!」という感想しか出てこなく、その詳細を同じく辞めた人間である私が解説していきたい。




形式的には辞めたのだが、私は離れているだけである。私が会社を辞めた理由は、確定申告などを自分で行うことで今まで圧倒的に足りていなかった金融リテラシーを高めたいという知識の上積みが第一であって、自分の腕に自信があった訳ではない。とはいえ、いち職人である以上、仕事をせねば食いっぱぐれるのが現実であって、先駆者の方々から仕事を繋いでもらわなければならない。ここで上手に太鼓を鳴らせる者だけが独立記念日を勝ち取れるのである。


「ZEN吉~。久しぶりだなー!会社辞めるんだってな。何でも聞いてくれよ」


私が訪ねたのは、少し舐めた態度も許される人当たりが良い先輩である。であるはずなのだが風貌が変わってしまっている。知っていたら会わなかったかもしれない、、。


「久しぶりっす!わざわざ時間取ってくれてありがとうございます。髪型変えたんすね?」


何そのチョンマゲ?そして金髪?それはどうゆうメッセージ性?東京卍リベンジャーズなのか?バカにしていいのか?


「これか?そうだな。もう会社員じゃねーから好きな髪型にしようかなって。気に入ってんだ」


会社員ではねーけどアーティストでもねーかんな。普通に客にも会うし営業マンにも会うかんな。そもそも似合ってねーし、似合わな過ぎて全然話が入って来ねーんだよ。


「うん。好きなことするってのは大事なことですよね。色々聞きたい事はありますけどー、、取りあえず仕事のこと、、」


「ちょっと待って!まず月いくら欲しい?それによって変わってくるぞ」


早いなぁ、、。早いって。
確かに大事だよ。大事だしそれによって全てが決まるのも確かだけど、食い気味すぎ。そんなせっかちな人じゃなかったよね?


「月ですか、、。取りあえず最低これくらいかな。ペラっ。目標年収とか税金のこととか紙に分かりやすく書いてきたんで、これ見ながら話し付き合って下さい」


「お~。どれどれ~」


出来ればこのようなことはしたくなかったのだが、相手は時間を売っている個人事業主である。本来聞き役に徹するのが私の役目なのだが、私とてキャバ嬢ではない。今回の会合は私から持ち掛けたもので、ここでアピールできなければ一年生にすらなれないだろう。独立した人が会社員との飲み会にて「コレは経費で~、控除が~、税率が~」などと話している姿を見ていつも思うことは「何故もっと分かりやすく言わないのだろう?」ということである。一年生ながら勉強して思ったことは用語のややこしさであって、大して学のない者は変に難しく捉えるよりも売上(+)経費(-)税率(÷)所得(=)のように記号で覚えるのが一番わかりやすい気がする。そもそも彼らがしている金勘定はどこか肌感覚的であり、難しいことは税理士に任せ、自分は稼ぐことに集中しようといったもので、職人のあり方としてはコレが正解である。知らないというのは攻撃力であって、知っているというのは防御力である。一線級の職人さんは「俺ぁ、仕事以外の事は何も知らねぇ」という人が多く、より多くの売上を上げることにエネルギーを費やしている。売上高や知識をひけらかすことが彼らのエネルギー補給の場であって、今わたしが紙を広げて教えを乞うという行為は反感を買う危険もあるのだがそこは自分を下げることでバランスを取っていきたい。


「えっ!?オマエこんな少なくていいの?これじゃ独立した意味ねーだろ~」


「まぁ、オレの能力じゃこんなもんじゃないすかね。最初は上手く行かないことも多いでしょうし、、」


これは自分の能力二割減くらいに言っておいた方がいい。これ以上下げるのは危険だ。最初の売上なんて情で決まることが多い。実際ミスすることがあってもこう言っとけば二割減で留まることができるだろう。


「まぁな、、。オレもこう見えて最初はけっこう苦労したんだぞ」


今も十分苦労してるように見えるけどな、、。
不摂生しすぎなんだよ。女とメシに金かけすぎなんだよ。完全に「若い時に遊ばなかった奴」のパターンだろ。


「でもな、その苦労があって今こうして自由な時間を謳歌しているって訳だ。オマエも早くコッチに来たいだろ?」


いや、別に、、、。
だって今どこの企業もホワイト化が進んでるもん。作業員にも残業代が出る時代だもん。今なら多分アンタも辞めなかったと思うよ。


独立組はやたらと「自由な時間」を強調してくるが、週休二日・有給消化が強制された現代において社員組と差ほど変わらないだろう。むしろ自由な時間などと言えるのは追い風に乗っている時だけであって、「心の安らぐ休日」という面では社員組に旗が上がるだろうし、副業や週休三日制が導入されることによってこの旗色はさらに強まるだろう。私が思うに突き抜けた攻撃力を持っている人以外は、社員と個人事業主による二刀流が望ましい形だと思うのだが、元社員を経て独立した者は催眠術にかかる傾向がある。



「もう会社員なんてやってらんねーよな~。ちなみにZEN吉は誰がイヤで辞めたんだ?」


何もイヤじゃなかったし、いい会社だったと思うよ。
その勝手にストーリー作んの止めてくんない?そして間違っても広げないでね。また戻るかもしんないんだから。アンタも戻る気はなくても社員の情報は入れといた方がいいよ。自慢話ばかりじゃいつか弾けちゃうよ。


辞める理由なんて運みたいなものなのだろう。後になってそれが吉か凶かが分かるのであって、他人の引いたおみくじに口を出すなんて言語道断である。成功者に限って「運が良かった」と言うのはこの発言自体が運を引き寄せるのだと理解した上であって、今わたしが聞きたいのはこの言葉である。この人は付いていくべき人なのだろうか?


「うーん、、。特にイヤなことはなかったんですけどね、、。強いて言うならコッチの方が面白そうだったからかな」


「そうか!悪いな独立記念日がこんなファミレスで。これから楽しい事たくさんあるぞ~」


大丈夫ですこんなファミレスで。オレ三千円で満足できる人間なんで。アナタたちは三万円じゃないと満足できなそうだけどね、、。厳しいかな、この人は、、。


「あっ!もうこんな時間だ。わりぃ!この後予定あるんだ」


「いえいえ、ありがとうございました。また付き合って下さい。ちなみに何するんすか?」


「オマエ、そりゃ、、。嫁にゃ言えないことだよ、、。ん??」


「あー!!やったー!急きょ出勤中になってる~!!サンキューZEN吉!!お前と会ったおかげで運が向いてきた!ラッキー!!またな~」


と言ってテーブルに三千円を置いて男は去っていった。




うん。まぁ、良しとしよう、、。