自分の血液型わからない人ってたまにいるよね?

私である。そして私は子供時代に運よく出会った男のマネをしているだけである。運悪く自分の血液型を知ってしまった人も、嘘でもいいから「知らない体」を実践してみてほしい。そしてそんなのに興味を示す奴らの血液型とは、、、おそらくAB型だろう、、。





小学高学年にもなると人をグループ分けしたがる奴らで溢れかえっており、そのもっとも浅はかな手段が血液型である。当時というか社会人になるまで私は血液型診断というのが分かっていなく、「あの子絶対○○型よね」の質問には「へぇ」としか返せない不愛想な奴であった。敢えて知ろうとしなかったのは当時出会った一人の男性教諭の存在である。




「ね~先生。血液型ってそんなに大切なの?」


ムキになっていたところもあるのだろう。
本当に興味が無い者はこういう質問自体しないのだが「ZEN吉って絶対AB型~!」と断言されることに腹を立て、調べるか否か迷っている時でもあった。


「全然大事じゃないよ。だって先生、自分の血液型知らないもん。大人になっても困ることはないけどZEN吉くんが気になるなら調べればいいと思うよ」


「えっ?じゃあ大きいケガして輸血する時はどうするの?」


「その時は病院でしっかり調べてくれるから大丈夫だよ。そもそもそんな大きなケガなんてしたくても出来ないものなんだよ」


「あ、そっか、、、」


妙に腑に落ちた。
彼は教育実習生の身であって、わずかな時間で存在を示したいという思惑が合致したのかもしれないし、もしかしたら嘘だったのかもしれない。
が、道は示された。
知らないというほど魅力的な世界もないだろう。たびたび親から「そろそろ血液型くらい調べたら?」と言われるが「うっせー。マジで余計な事すんな」で通せるのは、反抗期後に道が示された幸運であって、まっさらな人間にインクを落とす行為とは、例え我が子であっても本人の同意が必要である。




さて、私の職業は建設作業員である。
ヘルメット着用は義務であり、そこに記載するのは名前と血液型。これは知らないで通す訳には行かず私は迷っていた。


どうする?どれで行く?
いつも通りABで行くか?危険じゃないか?この会社にいつまでいることになるんだ?ABレッテルは悪目立ちするんじゃないか?そもそも何で血液型書かないとダメなの?輸血するような事故なんて起こらねーし、起こったら血液型とか言ってる余裕ねーから。

A、B、Oで行くか?
それだと取り繕って生きてかないと行けないのか?それもめんどくせーな。マジで場所が悪すぎる。何で後頭部にデカデカと囚人番号みたいに書かなきゃならねーんだよ?だとしたらOがいいのか?きれいな○が書ければ敵が減るんじゃないか?つーか何でA、Bと来て、次Cじゃねーんだよ?一番風変わりなのコイツらじゃない?

う~ん悩むな、、。
敵は作りたくないけど合わせることもしたくない、、。それを表す字体は何だ?

よし、、。いつも通りABで行こう。それを限りなく丸まった字で書こう。まるでゆで卵のように柔らかく。ヘルメットの汗むれでハゲ散らかした人たちも味方に付けることができるだろう。


長い議論の末、こうして自称AB型作業員が完成した。

ヘルメット歴15年以上の者から言わせてもらうと性格と血液型は関係ない。関係ないのだが常に視覚に入ってくる位置にあると催眠術にかかったような状態になり、各自都合の良い捉え方をしている。Aはエースでええ奴だと思っているし、Bはbestでbetterなんだから邪魔するなと道を譲らない。ABはaboutにそんなんどっちでもいいよと我関せずを貫き、Oはおおらかに皆をまとめることに愉悦を感じている。普通は「何型?」という聴覚からの入るのに対し、視覚から入ってしまうとこの催眠術の効果は凄まじく、相手の顔までもがその字体に見えてくるのである。それが相手の良い所を拾うのなら世界平和の一助となるのだが人間はそういう風には出来てはいない。今回の対戦相手はOの人達となる。




「ふっ。オマエABなんだ」


言っとくが私から攻撃をしたわけではない。
いや、どうかな?「何の脈絡もないところから攻撃なんてしねーよ」というのがOの奴らの言い分でもある。被害妄想族の気に障ることを言ってしまったのかもしれない。


「そうなんですよ~。変人扱いされるのが大変で、、。AかOに生まれたかったっす」


「ふっ。いいんじゃないか?そんなん気にしなくても」


うん。全然気にしてないよ。
だって全部のフリしたことあるもん。AとBが合わないってよく言われるけど、それ以上にOってABのこと毛嫌いしてるよね。たぶんズルいと思ってるんだな。ちゃんと本心言えよって。でもね、、。そんなん全員そうじゃない?


「いやさ、AB型の奴ってホント何考えてるか分かんなくてよ、、。オマエは分かりやすいけどな」


は?
じゃあオレの好きなAV女優当ててみろよ。
いいか?人のこと分かるって言った時点で終わりなんだよ。自分の浅さ露呈してるだけなんだよ。しかもな、その手段が血液型の時点で浅すぎて見る気無くすんだよ。MCになりてーんなら他の血液型経験してから来いよ。


「大人になるとよ、色んな事が見えるようになって辛いよな、、。うん。そうだよな」


だから勝手に変な空気作るの止めて。
オレがいつ落ち込んだ雰囲気出したよ?こうゆう空気が一番辛いんだよ。全然見えてねーよアンタ。


「だからよ、、。オレの妹紹介してやるから前向きに生きろよ。オマエは特に血液型とかに抵抗はねーのか?妹にはオマエのことO寄りのABって言ってあるから安心しろよ」


抵抗なかったけど今持ったわ。
絶対アンタが義理兄さんになるのイヤだわ、、。つーかどうゆう一族?たぶん家族間でも血液型の話ばっかりしてんだろうな、、。全員丸顔なんだろうな、、。何て言って断ろうかな、、。


「えーと、、。めっちゃ嬉しいんですけど、、。オレの家族8人全員AB型っすけど、それでも平気っすか?」


「うわぁ、、、。マジか、、、。わりぃ!!今の話なかったことにしてくれ!」




さて、今度は自称O型で行ってみるとするか、、。




人は知らないことを嫌いになると言うが、知らないから嫌いなのか、嫌いだから知らないのか、それはどちらか分からない。
その実験のため血液型詐称くらい、いくらしても構わないだろう、、。

忖度なしでお願いしますって言って本当にズケズケ言ってくる奴には右ストレート

場所が悪かった。居酒屋。相手も悪かった。お局。内容も悪かった。結婚相談。そして言ったのが生粋の脆弱者ことZEN吉と来ればバツイチお局絶好調案件だろう、、。好感度ゼロの女版明石家さんまさんよぉ、、。マジでその前歯へし折ってやろうか?





その時、私は居酒屋なんて行きたくはなかった。
自己分析するにおそらく私は週単位で話す文字量が決まっているのだと思う。二日前に店員のお兄さんと打ち解けた会話も出来ていたし、旅人Aとの人生論も十分に堪能できていた。もちろん自己発進のマニュアル運転であって、この定数が決まっているだけであってオートマチックの文字数などいくらでも湧いてくるのが私という車である。
が、燃費は良くない。というより粘りがない。ランプ点灯からエンストまでが早すぎる。昔は所構わずエンストを繰り返していたのだが、それじゃあ犬や猫と変わらんだろうという事で、今は残りワンメーターになった所で行動を自重するようにしている。と、いうのが私の週間ルーティーンである。


対してこの旅人Aは月~年単位で会話量を調節しているようだった。その証拠に最初の飲み会の時「こんなに話したのは三年ぶりだよ」と純度100%の笑顔をしていた。マニュアル運転が三年ぶりだったという意味だろう。「旅好き」と言えば同じ穴のムジナに聞こえるが、こと会話に限って言えば真逆の性質になるのが旅の魔力でもある。「趣味=旅」に留まっている連中は一期一会を大事にしている真人間が多く、出会いの際は吸収率を重視した聞く側に回ることになる。それに対し「生活=旅」まで行ってしまった奴らは、ムジナが通った際「お嬢さんコッチおいでよ」と段ボールの家に招き入れ、溜まったものを吐き出す「責める奴ら」になる傾向が強く、私はコチラ側の人間になるつもりはない。企画モノには興味ナッシングである。




「ね~。また今日も飲み行こうよ~」



と、しつこくAが誘ってくる。
どうやら吐き出せる時に吐き出したいらしい。
言っておくがAとは一回り上の男性である。女性なら純度100%でGOに決まってる。


「ね~。結婚相手見つけるんでしょ~?行動しなきゃ見つかんないよ」


っち。この前、下手に回りすぎた、、。
この男、「バツイチトラベラー補正」でカッコ良く映っちゃいるが、ただの世捨て人でしょ?そんな演説は一回聞けば十分なんだよ。もう疲れたんだよ。


「もう明日帰るんでしょ?今日が最後だよ~」


オマエにとってはな。
人生なんて最後の繰り返しみてーなもんだろ。オレは自分のペースで一期一会を楽しんでんだよ。


「そういえば、あそこの店員さん超イケメンだったよね。おこぼれ貰えるかもよ~」


それもそうだな、、。
よし!行こう!!
と、その前に一つ言わせて、、。


そのオネエ言葉ハラ立つからやめろ。




何店舗かが入っている内の一つであるその居酒屋は、今日もカウンター席は女性で埋まっている。


「おっ!お兄さんたち、またいらしてくれたんですね?」


と声をかけてきたディーン・フジオカ似の男に会うために、わざわざホテルまで取って来る女性もいるらしい。彼に呼ばれた二人組の男がジャージ上下とあっては振り向いた女性もさぞかしガッカリしただろう。


おい。お前ら顔に出しすぎ。
「はぁ~?何この芋?ディーン様の時間奪ってんじゃねーよ。アタシの時間返せボケ」って書いてるから。わかったって。寄らねーよ。一気に萎えたわ。あそこのスナックのママに癒してもらうからいいもん。お前らなんて全員閉経しちまえ。


そう思い、足早に立ち去ろうとしたのにディーンとAが意味不明な結託をし始めた。


「お兄さんこの前パートナー欲しいって言ってましたよね?今いらっしゃるのは皆素敵な方々ですよ」


「うん。そうなの~。だから今日来ようって言ったのにホント照れちゃって困っちゃうよね~」


おいディーンこら。
何だオマエ?弱者の気持ちわかんねーのか??今そうゆうパスいらねーから。絶対ゴール決まんないから。ブッフォン100人いるから。

で、一番ムカつくのがAオマエな。
オレは照れてんじゃねーんだって。疲れてんだって!!二日前お前に宗教聞かされたせいでな!!何が「予定ってゆうのはね、入れちゃダメなの」だよ?言ったそばからぶっこんで来んじゃねーよ。むしろこうゆうのを防御するために予定って入れとくもんだろうが。あとオマエ隠れてティンダーやってんだろ?一番ゲスだろ。あわよくばヤル事しか考えてねーだろ。


「ささっ!ちょうどカウンター二席空いてますんでどうぞどうぞ」


「やった~!ありがとう~」


あー。残りの文字数が、、、。



私の隣には45、35、25歳の順に三人組の女性が並んでおり、若手二人とディーンでお局様を盛り上げているようだった。Aの隣にはティンダーをやってそうな女の子が一人で飲んでおり、Aはその子との会話に夢中である。つまり配置的に私は、浮かれ切ったお局としか話すことが出来ず、先程ディーンが余計なことを言ったもんだから会話のテーマも決まってしまっている。あっぱれさんま大先生である。


「ねぇねぇ?さっき言ってたパートナーってどうゆう意味?」


先制攻撃を仕掛けられた。
若手の表情を見る限り、お局様は離婚経験者だろう。しかもまだ傷が癒えていなくネタにできる状態ではない。ここの言葉選びは気をつけよう。


「もちろん結婚ってことになるんでしょうけど、何せしたことがないので、、。対等な関係でいたいって意味でパートナーって言うようしてるんです。それを含めて忖度なしで色々教えてもらっていいですか?僕年上の女性好きなんでスッと入って来そうな気がします」


「ふふっ。ありがと。嬉しい。ところであなたが言う年上って実年齢のこと?それとも精神年齢?」


そんなん知らんわ。いちいち深堀すんな。
もうオレには褒める一択の体力しか残ってねーんだよ。まずいな、、。こいつ褒められ過ぎてハイになってやがる。それが反転して説教モードに変わりつつある。


「うーん、、。どっちかとゆうと精神年齢の方ですかね。でもやっぱりどっちも当てはまる人だと嬉しいですね!」


「ふーん、、。イマイチはっきりしないなー。どんな人と結婚したいの?」


はっきりしてんだろ。じゃあ何て言えばいいんだよ?あなたです!って言えばいいのか?



「僕マイペースな性格してるんで、相手もマイペースな人がいいです。あっ!でも決してただの自己中ってわけじゃなくて、、、マイペース同士、尊重し合うみたいな、、」


「え~。あなたチョット自分本位じゃない??」


はい出た自己投影説教モード。
完全に別れた旦那に照らし合わせてんだろ。


「結婚ってね。そんなフワッとしたものじゃないんだよ?マイペースが悪いとは言わないけど、支え合うものなんだよ」


わかってないけど分かってるって!!
みんなマイペースに悪意持ちすぎじゃない??マイペースって良い意味だからな??


「趣味は何なの?どうゆう趣味の人が好きなの?」


「僕、旅が好きです。今も旅行中ですし。だからやっぱり似たような人に惹かれますね」


「やっぱりね」


やっぱりって何??


「だったら最初からそうゆう人と結婚したいって言えば良かったじゃない?あなたみたくお金の心配もせずプラプラしてる自由人が好きって人けっこういるわよ。あたしだってメキシコの海見に行きたいもん」


オレがいつ金の心配してないって言ったよ??海外も行ったことねーし、勝手に決めつけてくんじゃねーよ。一番自分本意なのアンタだろ?最初から言えもなにもアンタがズケズケ進めてっただけでしょ?一回サメに喰われて来たほうがいいんじゃない?


「決まったわね。あなたの結婚相手はマイペースなおてんば娘!!そしてお互いワガママを言い合って外国人と不倫する。って確率がえーと、、5%ってところかな~。そして残りの95%はこのままプラプラし続ける。ふふっ」


うっせー数字で言ってくんな。
聞きたくなくても頭に残るんだよ。その%そっくりそのまま返してやるよ。あーもうすげー疲れたよ、、。


「ねぇねぇ。けっこう言っちゃったけど勉強になった?なったなら私たちに一杯ご馳走してほしいな」


この期に及んでそれ言う??

若手二人もキラキラさせちゃってさー。あーもう何も考えれないよ~。



「はい!もちろん!でもグラスに歯ぶつけないように気を付けて下さいね!!」



「うっさいわね!!ディーン!!グラスの赤とそれに合うお肉料理三つずつお願い!!」



「かしこまりました!お兄さん。それでよろしかったですか?」



、、、、、、、。



「うん。宛名さんま御殿で」

コンニャク王現る

彼はおそらく本物の金持ちだったのだろう。ソレを見たことがない私にとってソレの判断はつかなかったのだが出会った場所が良かった。「ゲストハウス」。目の肥えた客人に混ざることで今回のストーリーは生まれ、曲者ぞろいのクルーの船長は彼に相応しい。恥じらいもなくこういうセリフを吐ける者だけがなれるのだろう。それでは冒険を始めよう。コンニャク王にオレはなる!!






その時の私は「客人」というより「主人」といった立ち位置であった。ブログを書くようになってから旅というか過去作りのペースが加速している気がする。結果、性格にも若干の変化が見受けられ、社交性ONタイムの時間が確実に増えており、分かりやすく言えば「明るくなった」ということなのだろう。明るくなった私は、とにかく出会いに飢えており、知り合いから教えてもらったボランティアをする代わりにタダで泊めてもらえる「フリアコ」という仕組みを知った時、即座に応募し、ONタイムを発揮することで即採用を勝ち取ることが出来た。というより、賃金が発生しない相手からすれば私が害のある人間かどうかが全てであって面談の際、「ZEN吉さんは一発やりたいタイプじゃなから大丈夫ですね~」と言われた時は、そんなん初見で分かるんか?というのが素直な感想であって、もう少し違う言い方できないの?というのが二番目の感想である。どうやらゲストハウスにいる人間は全員風変りらしい、、。と、思ったのが先輩のボランティアといる時である。


このゲストハウスの規模的にボランティア一人、二人いれば十分業務をこなすことができ、空いた時間でバイトをすることも可能である。私は休職期間を利用してフリアコを使っていたのだが、この先輩は五年くらい前からこういう生活をしているらしく、当然一つの疑問が浮かぶ。


「えっ?それじゃあお金の方ってどうしてるんですか?」


話の流れ的にアリだと思ったタイミングでこの質問をぶつけてみると


「うん。ダメダメそんなの心配しちゃ。年金も健康保険も入らなくてもいいんだよ。生きていくだけあればいいの」


という回答が返ってきた。


えー、、。年金は免除になるだろうけど、、。
健康保険も??さすがに怖くない??アンタまだ四十代でしょ?達観しすぎじゃない?


彼はブラック企業、結婚、子育て、離婚など一通りのイベントを経て今の生活に落ち着いたようで、柔らかな口調だが自分の宗教を持っている人間であった。元々スローライフ好きな私は、彼に引っ張られる形で前半を過ごしていたのだが人が変われば話も変わる。彼が別のゲストハウスに旅立ったことによって私一人で業務をこなすことになり、それを見ていた長期滞在中の客が「私もボランティアやりたい」と仲間に加わったのである。ワタシ=女子。来た。やっぱり物語はこうじゃなくては。


やはり絵的にも実務的にも男女のペアが望ましい。
二階が男性専用、三階が女性専用のドミトリーとなっており、そこで生活する私たちは「主」に近い存在になっていた。今回フリアコを体験して思ったことは「主」だと抜群に話しかけやすいのである。「僕、ボランティアで働いているんです。何か困ったことあったら言って下さいね」と笑顔で言うだけで一段、二段と交流が生まれて行く。前任の達観者はこの発言をしなかったためにスローライフを楽しんでいたようだが、私たちは記事作りのためにフリアコに参加している。彼女の職業はライター。にわかブロガーである私とは比較できないほどの想像力を持っているだろう。


「ZEN吉さーん!昨日三階に泊まった人がめっちゃ変わった人でー。二階はどうでした?」


「えー、いーなー。二階は普通かな。おじさんズがパン一で歩いてるくらいかなー」


「履いてるならまだいいですよ~。だって昨日の子、下だけ履かない子だったもん」


「ははっ!いーなー見たかったなー」


という情報から人物を深堀していくのが私たちの楽しみであった。彼女は笑いのツボも押さえているボキャブラリーに富んだライターであって、彼女が仲間に加わってから出会う人々の色合いが明らかに強くなった。その締め括りがコンニャク王たちである。


「昨日変わったギャルと仲良くなってー。何か実業家の男性と一緒に旅してるんだって。全部お金はアッチ持ちで」


「えっ?それってただのパパ活じゃないの?」


「うん。アタシも絶対そうだと思ったんだけど、そうゆうのは一切ないんだって。それだとわざわざゲストハウスなんて泊まらないでしょ?」


「それもそうだね、、。面白そうなペアだね。話してみたいな」


「ね。アタシ、ギャルに駆け寄ってみますね」


情報を整理すると実業家とギャルは一ヶ月間のパートナー契約を結んでおり、ゲストハウス事業に興味があった彼と旅をしたい彼女の思惑が合致したようであった。旅の最中に撮影やブログも書いているようで、その出演料も頂戴したいという厚かましさが彼女を「ギャル」と呼ばさる理由でもある。ギャルと仲良くなったライターは一足先に実業家に会っており、焼肉・寿司・ラーメンという三大主食を食べきれない程ご馳走されたらしい。これを聞いた私は「美女二人に奢りたいだけの小金成金か?」という印象を持ったのだが、実際に会った彼女の意見は「うーん、、。よく分かんない、、」といったもので、どうやらただの金持ちではないらしい。こうなってくると私の人物眼の範疇を超えており、新たな目利きが欲しかった所に絶好の男が現れる。


「あれ?もしかして実業家の方ですか??」


「オレ??ちゃうちゃう。ただのノマドワーカー被れよ」


小綺麗な恰好をしていた彼を実業家だと勘違いした私は、ナンパの言い訳のように実業家について語ったのだが彼の反応は薄かった。


「あー、東京にはそんな連中いっぱいおるからねー」


彼は幅の広い交友関係があるようで、成金の類はもう見飽きたのだろう。なかなか姿を見せない実業家と会った際は同席して下さいね、というお願いにも「う~ん、、。気向いたらね」と、渋い反応であった。そもそもその時の出会いを楽しむのがゲストハウスであって、会えるか分からない人を待つくらいなら目の前の人と話すのが正解である。ノマドにとっては現場作業員である私がフリアコをやっている方が新鮮だったようで、何気ない話で笑ってくれる彼との会話は楽しく、リビングに居る時間が長くなっていった。そこにコンニャク王たちが現れる。美女が一人増えている。たまたま誕生日の子を見つけたらしい。3対3。場面は整った。さぁ、パーティーを始めよう。





「あーっと!!初めまして。私○○と申します。食べ物足りなそうなんで買いに行って来ますね!」


と、低姿勢であいさつしてきた彼は「大丈夫ですよ。お腹減ってないですから」という私たちを振り切って外に出て行ってしまった。その間は私たちの時間である。


「どう?ZEN吉さん?何か違う感じするでしょ?」


「確かに、、。雰囲気あるよね、、。ノマドさんから見てどう?」


「そうね、、。何か思ってたのとちゃうなぁ、、。おもろそうだからオレも同席するわ」


「やったー!アタシ一ヶ月も同じ会話で疲れちゃたぁ~」


(今日、あたしの誕生日なんだけどなぁ、、、)


私とライターとノマドの三人は実業家の素性を探りたく、ギャルは実業家のいない時間を楽しみたく、新人は自分を祝ってもらいたい。それぞれの思惑はあるだろうが主役はやはり彼だろう。放っているオーラが覇王色なのである。底なしの食欲を抱えた彼が戻ってきた。


「お待たせしましたー!お肉たくさん買ってきたんで食べましょう!あと、ピザも人数分注文してます!」


マジで買いすぎ、、。
もう夜九時だぞ、、。さっきまでお前たち外で食ってたんだろ?せめて残してもいいやつ買って来いよ。ギャルの意見聞けよ。この一か月で5㎏太ったって言ってるだろ。ギャルは正しいことしか言わないんだよ。


「僕はもう人が美味しそうに食べるの見るのがたまらなく好きでして、、。さっ!今日誕生日の方も食べて食べて!」


そりゃアンタは気持ちいいだろうけどさ、、。
もう目がガンギマってるんだよ。その目で見られたらどんだけ苦しくても食うしかねーだろうが。最悪の誕生日だよ。


何とか誕生日の新人を祝いたいと思った私たちは会話を分断することにした。配置的に私、ギャル、実業家の三人で話すこととなり、ライターとノマドは彼女を祝いつつコチラにも耳を傾けている。ギャルはあちらに混ざりたそうである。


「僕ね、様々な事業をやっていてその経験から成功するためにコレだけはってのが一つあるんですよ、、それはね、、」


「ほうほう、、。すごい気になりますね」


「もう彼女にもしつこいくらい言ってるんですけどね、、それが、、」


貯めるな、、。
ギャルの目死んでんだろ。よっぽど難しいことなんだろうな。


「それが、、早起きすることです!!」


普通~~!!
んなつまんねーことに尺取ってんじゃねーよ。アンタ全部目力で解決してるだけだろーが。


「何があっても朝五時に起きる!!もう僕、毎朝起きるのが楽しみでしょうがないんですよ!!本当にワクワクします。それをねパートナーの彼女にも味わってもらいたくて常に一緒にいるんです」


うん。マジ苦痛。
これならパパ活してるほうがいいんじゃない?拘束時間多すぎない?ってかギャルもちょっとは言い返せば良くない?


それは無理な話だろう。この手の人間と初めて会った印象を簡潔に述べると「クスリやってる??」という狂気が感じられる。柔らかな物腰からほとばしる覇気は情熱というクスリが溶けている証拠なのだろう。そして次なる情熱の一つに「コンニャク」があるらしい。


「僕ね、何十年も風邪ひいたことがないんですよ。それっておそらくコンニャクのおかげなんじゃないかなって」


「へぇ、、何十年もは凄いですね、、。そんなに頻繁に食べているんですか?」


「はい。週一では必ず摂取しているんですよ」


オレでもそんくらい食うわ。
違うから。アナタが成功したのって単純に体力あるだけだから。精神論じゃねーんだよ。神に選ばれた体なんだよ。普通そんなにメシも食えねーし、早くも起きられねーんだよ。


「それでね、今はグルテンが凄い良いって注目されてるでしょ?次に来るのは絶対にコンニャクなんですよ!!絶対にコンニャク!」


そうなの??
グルテンって体に悪いんじゃないの?どこ情報?そもそもコンニャクって栄養あるのか?喜ぶの砂かけババアぐらいじゃねーのか?


「もう先行投資はしてあるんです。あとは熱意のある人だけなんです。僕はね、僕のような頑丈な人間がもっと生まれて欲しいんです。そのためには『コンニャク王』ってラベルが貼られた商品が市場に出回るべきなんです!!」


そんな『マカ王』みたいに言われてもねぇ、、。
コンニャクってそもそもイメージが良くないよね。下ネタ色が強いよね。


「どうですか皆さん!!僕と一緒にコンニャク王目指さないですか?」


、、、、、、、、、、。


ほらね。やっぱりこうなるよね。
結局、最後は全部アンタが持ってくわけだ。


「アタシはZEN吉さんが右腕になるに一票~!」
「オレも」
「アタシも~」
「私も」


ずるいよ~。
オレだって誕生日会に混ざりたかったんだよー。


「さぁ!どうしますZEN吉さん!?右腕と言わず頭になってもらっても構いませんよ!男子虎穴に入らずんば虎子を得ずですよ」


「うっ、、。じゃあオレは、、。麦わらのルフィに一票」


「決まりましたね!!それでは宴を再開しましょう!!」


ワァァー。パチパチパチパチ、、、。


と、いった感じに日付が跨ぐまでパーティーは続けられた。
コンニャク王とギャルは始発で飛び立ったようで、キレイに畳まれたシーツを見てノマドがこう呟いた。




「本物やね、、、」

建設作業員独立あるある

別に建設業に限った話ではないが、会社を辞めた人間は弾ける確率が高いと思う。声高々と辞めた理由について語っているが、一歩離れた距離から聞いていると「えーと、、つまり、、弾けたかったんすね!」という感想しか出てこなく、その詳細を同じく辞めた人間である私が解説していきたい。




形式的には辞めたのだが、私は離れているだけである。私が会社を辞めた理由は、確定申告などを自分で行うことで今まで圧倒的に足りていなかった金融リテラシーを高めたいという知識の上積みが第一であって、自分の腕に自信があった訳ではない。とはいえ、いち職人である以上、仕事をせねば食いっぱぐれるのが現実であって、先駆者の方々から仕事を繋いでもらわなければならない。ここで上手に太鼓を鳴らせる者だけが独立記念日を勝ち取れるのである。


「ZEN吉~。久しぶりだなー!会社辞めるんだってな。何でも聞いてくれよ」


私が訪ねたのは、少し舐めた態度も許される人当たりが良い先輩である。であるはずなのだが風貌が変わってしまっている。知っていたら会わなかったかもしれない、、。


「久しぶりっす!わざわざ時間取ってくれてありがとうございます。髪型変えたんすね?」


何そのチョンマゲ?そして金髪?それはどうゆうメッセージ性?東京卍リベンジャーズなのか?バカにしていいのか?


「これか?そうだな。もう会社員じゃねーから好きな髪型にしようかなって。気に入ってんだ」


会社員ではねーけどアーティストでもねーかんな。普通に客にも会うし営業マンにも会うかんな。そもそも似合ってねーし、似合わな過ぎて全然話が入って来ねーんだよ。


「うん。好きなことするってのは大事なことですよね。色々聞きたい事はありますけどー、、取りあえず仕事のこと、、」


「ちょっと待って!まず月いくら欲しい?それによって変わってくるぞ」


早いなぁ、、。早いって。
確かに大事だよ。大事だしそれによって全てが決まるのも確かだけど、食い気味すぎ。そんなせっかちな人じゃなかったよね?


「月ですか、、。取りあえず最低これくらいかな。ペラっ。目標年収とか税金のこととか紙に分かりやすく書いてきたんで、これ見ながら話し付き合って下さい」


「お~。どれどれ~」


出来ればこのようなことはしたくなかったのだが、相手は時間を売っている個人事業主である。本来聞き役に徹するのが私の役目なのだが、私とてキャバ嬢ではない。今回の会合は私から持ち掛けたもので、ここでアピールできなければ一年生にすらなれないだろう。独立した人が会社員との飲み会にて「コレは経費で~、控除が~、税率が~」などと話している姿を見ていつも思うことは「何故もっと分かりやすく言わないのだろう?」ということである。一年生ながら勉強して思ったことは用語のややこしさであって、大して学のない者は変に難しく捉えるよりも売上(+)経費(-)税率(÷)所得(=)のように記号で覚えるのが一番わかりやすい気がする。そもそも彼らがしている金勘定はどこか肌感覚的であり、難しいことは税理士に任せ、自分は稼ぐことに集中しようといったもので、職人のあり方としてはコレが正解である。知らないというのは攻撃力であって、知っているというのは防御力である。一線級の職人さんは「俺ぁ、仕事以外の事は何も知らねぇ」という人が多く、より多くの売上を上げることにエネルギーを費やしている。売上高や知識をひけらかすことが彼らのエネルギー補給の場であって、今わたしが紙を広げて教えを乞うという行為は反感を買う危険もあるのだがそこは自分を下げることでバランスを取っていきたい。


「えっ!?オマエこんな少なくていいの?これじゃ独立した意味ねーだろ~」


「まぁ、オレの能力じゃこんなもんじゃないすかね。最初は上手く行かないことも多いでしょうし、、」


これは自分の能力二割減くらいに言っておいた方がいい。これ以上下げるのは危険だ。最初の売上なんて情で決まることが多い。実際ミスすることがあってもこう言っとけば二割減で留まることができるだろう。


「まぁな、、。オレもこう見えて最初はけっこう苦労したんだぞ」


今も十分苦労してるように見えるけどな、、。
不摂生しすぎなんだよ。女とメシに金かけすぎなんだよ。完全に「若い時に遊ばなかった奴」のパターンだろ。


「でもな、その苦労があって今こうして自由な時間を謳歌しているって訳だ。オマエも早くコッチに来たいだろ?」


いや、別に、、、。
だって今どこの企業もホワイト化が進んでるもん。作業員にも残業代が出る時代だもん。今なら多分アンタも辞めなかったと思うよ。


独立組はやたらと「自由な時間」を強調してくるが、週休二日・有給消化が強制された現代において社員組と差ほど変わらないだろう。むしろ自由な時間などと言えるのは追い風に乗っている時だけであって、「心の安らぐ休日」という面では社員組に旗が上がるだろうし、副業や週休三日制が導入されることによってこの旗色はさらに強まるだろう。私が思うに突き抜けた攻撃力を持っている人以外は、社員と個人事業主による二刀流が望ましい形だと思うのだが、元社員を経て独立した者は催眠術にかかる傾向がある。



「もう会社員なんてやってらんねーよな~。ちなみにZEN吉は誰がイヤで辞めたんだ?」


何もイヤじゃなかったし、いい会社だったと思うよ。
その勝手にストーリー作んの止めてくんない?そして間違っても広げないでね。また戻るかもしんないんだから。アンタも戻る気はなくても社員の情報は入れといた方がいいよ。自慢話ばかりじゃいつか弾けちゃうよ。


辞める理由なんて運みたいなものなのだろう。後になってそれが吉か凶かが分かるのであって、他人の引いたおみくじに口を出すなんて言語道断である。成功者に限って「運が良かった」と言うのはこの発言自体が運を引き寄せるのだと理解した上であって、今わたしが聞きたいのはこの言葉である。この人は付いていくべき人なのだろうか?


「うーん、、。特にイヤなことはなかったんですけどね、、。強いて言うならコッチの方が面白そうだったからかな」


「そうか!悪いな独立記念日がこんなファミレスで。これから楽しい事たくさんあるぞ~」


大丈夫ですこんなファミレスで。オレ三千円で満足できる人間なんで。アナタたちは三万円じゃないと満足できなそうだけどね、、。厳しいかな、この人は、、。


「あっ!もうこんな時間だ。わりぃ!この後予定あるんだ」


「いえいえ、ありがとうございました。また付き合って下さい。ちなみに何するんすか?」


「オマエ、そりゃ、、。嫁にゃ言えないことだよ、、。ん??」


「あー!!やったー!急きょ出勤中になってる~!!サンキューZEN吉!!お前と会ったおかげで運が向いてきた!ラッキー!!またな~」


と言ってテーブルに三千円を置いて男は去っていった。




うん。まぁ、良しとしよう、、。

「ツンデレ」って地雷の言葉なん?

「メンヘラ」と言ったわけではない。「ツンデレ」である。くだいたメッセージのやり取りの際、調子に乗った私がこの言葉を使っただけで彼女は豹変し、精神が崩壊した。極わずかな時間でしたが良い経験をさせて頂きました。えーと、、それでは何てお呼びすればいいでしょう?デレデレさんでよろしかったでしょうか?





私的第四次婚活ブームの時に彼女と出会った。
といってもアプリ内だけでの関係で、メッセージのやり取りと少しの会話をしただけの仲である。私が出会いに積極的になるタイミングは自分でもよく分かっていないのだが、諦めるタイミングというものはしっかり分かっている。それはフラれメーターが振り切った時である。

私はアプリと生身による二次元・三次元の両面方式で出会いを切り開いていくようにしており、その理由とは自分に余裕を持たせるためである。何かしらのパートナーがいることで「別にフラれてもいっか」的な余裕が生まれ、それがさらなるパートナーを生むキッカケになる。変にハードルを上げる必要はなくメッセージや挨拶ができる相手のことをパートナーと思っていれば良い。私の能力的にアプリ3人に対し、生身2人が限界値であり、最も心地良いのが勝ち筋のあるパートナー1人:1人である。

が、そもそも「勝ち筋」をわかっていない奴にとってこの方程式は無意味であり、地雷女によって婚活開始以前のパートナーさえも失う危険性すらある。これを「フラれメーターの逆張り」と呼んでおり、この現象が起きた場合は必ず婚活に終止符を打つようにしている。それだけ傷の回復には時間を要するという事なのだろう。


今回はいつもと手法を変え、生身から攻めることにした。以前ならばアプリ内に誰かいなければ不安だったのだが、少し経験値も上がっただろうと根拠のない自信が近くの居酒屋に向かわせた。いや、違うな。あれは居酒屋の名に引っ張られただけだな。『出会い横丁』。コレは物語が始まるだろう。


カランコロン。へい、らっしゃ~い!!


店に入ると早速看板を燃やしたくなった。一人で来ている奴などオッサン以外誰もいなかったのである。


おいおいおい。店名変えろよコラ。
オッサンとの出会いなんてただの事故なんだよ。どいつもこいつもビールに枝豆ばっかり食いやがってよぉ。それをな、指でチュパチュパしてる奴の性行為話なんて誰も聞きたくねーんだよ。まずは歯を磨けボケ。

いや待て、落ち着け。もう一つの名前を信じよう。横丁。歩けば出会いがあるはずだ、、。


テクテクテク、、、。


うん。ハゲ山にデブ岡、それにヌケ作、、、。

何だこの店!!帝愛地下労働施設なのか!?ペリカ払いなのか!?ウシウシ。とりあえず焼き鳥持って来いコノヤロウ!!


「タレと塩どちらにしましょうか?」


と、若い店員が話しかけてくる。
誠に不思議なのがオヤジくさい居酒屋に限って気前のいい女店員がいることである。男のわたしには理解できないが社交性を鍛える狙いでもあるのだろう。コレ以上鍛えてどうするつもりなのだろう?それはさておき美女の前で酒は進み、どんどん私の鎧は剥がれてしまっている。


「お兄さんビールのおかわりはいかがですか?」


あ~ん??
ウシウシ。もちろん頂くよ。君の前で飲むビールは最高だよ。でもね、、。これじゃあオヤジ街道まっしぐらなんだよ。えーん。こんなつもりじゃなかったんだよ、、。ちょっと聞いて下さいよぉ~。


「お姉さん、ちょっと聞いてよー。僕、今婚活中なの。でもシャイだから中々話しかけれないのー。だからここに来たのに誰もいないの~」


「えー-!!モテそうなのにもったいない!!アタシが誰か紹介してあげるから連絡先教えて下さいよー!」


え、、、。マジで?
いいの??こんな簡単なもん??


結局、自分の弱みを見せるのが一番いいのである。
ここで良かったのは「モテない」ではなく「シャイだ」と言ったことである。モテないと断言してしまえばソイツといる時間は無駄なだけであって紹介先にも失礼であろう。運よく言葉選びに成功した私は、社交性を飛び越して婚活アドバイザーと化した彼女のアンテナに引っかかったようで、すんなり紹介を頂くことができた。段取りも凄まじく、一週間後にまたこの店で飲めばいいだけである。もはや居酒屋のバイトに収まる器ではないだろう。





生身の出会いは確保した。次にやることはアプリ内でのパートナーの確保である。コレも不思議なもので生身の状態で乗っている時というのはメッセージにもそれが乗り移り、引きが格段に良くなる。いつもと同じく誠実な文章を打っているだけなのに、見る人によってフォントが自動変換されているのだろう。当然、そんなまやかしに引っかかる女などロクなものではない。


「メッセージありがとうございます(笑)こちらこそよろしくお願いします(笑)」


うん。返信してくれて嬉しいよ。嬉しいけどさ、、
(笑)の使い方間違ってない??何かおもろいこと言ったか?普通に、プロフ拝見して気になりましたって言っただけだぞ。失礼じゃない??その(笑)って「っぷ。こいつの顔超ウケんだけど」って言ってるのと同じだかんな。オマエの顔はどうなんだ?クッキーの画像にしてるけどホントにオマエが作ったやつなのか?


疑念を抱きつつ、重ねたやり取りの三通目に「直接やり取りしない?」の返事が返ってきた。本来喜ばしいことなのだが、何故か男のわたしが押されてしまっている。この女は何かおかしい。


業者ではない。アダルトでもない。それくらいの事はもう分かる。スピード感が変だ。うーん、、どうしよう??行くのか?最初に誘ったのはコッチだぞ。失礼じゃあないか?そうだ!!確かアプリ内で通話をできるサービスがあったはずだ。それで行こう。声を聞けば印象も変わるかもしれない、、。お互いにな。


「そう言ってくれてありがとう!でも、直接やり取りする前に電話できないかな?緊張するかもだけど、初めて使うサービスだから是非付き合ってほしいな」


「いいよ」


まずい、、、。気を悪くさせたか?
通話機能を使うタイミングとは本来50通目以降だと思うが今回は仕方がない。だってアンタ怖いんだもん。分かったって。下手に出るから。それで許してよ。


プルルルル。プルルルル、、


やべぇ、、。緊張する、、。
申し訳ないと思ってるからだな、、。やっぱり素直に連絡先を教えれば良かったな、、。


プルルルル。プルルルル。プルルルル、、


早く出ろアバズレ!!
3コール以内に出ろって教わらなかったのか?


ガチャ。


よし!出た!100点の声で振舞おう。


「こんばんはー!聞こえてますか?付き合ってくれてありがとうね!」


「、、、、、、、、」


「もしもし?聞こえてますか?」


「、、、、、、、、」


「あれ?もしもし?もしもーし!!」


「あ゛あ゛。聞こえてるって」


おい何だ「あ゛あ゛」って?
そんな言葉、文字でもなかなか出てこねーよ。打ち方調べちゃったよオイ。そもそも何でそんな声しゃがれてんの?ホントにそれが地声なのか?ジャイ子でもまだマシな声出すぞ。女子ってこうゆうとき120点の声出すんじゃねーの??つーか聞こえてんなら早く出ろボケ。女にここまでイラついたの母さんの運転以来だわ。


「で、何でわざわざ電話しようと思ったの?」


「うん、それはね。話した方が色々分かると思ったからだよ。現在進行形でありがとうね」


「ふーん、、。で、どう?印象は?」


最悪だよ。
よくこんな短時間で植え付けられんな?逆にスゲーよ。人間から嫌われるタイプだよお前。つーか何かテレてない?絶対テレてるよね?


「うーん、、。優しい感じがするかなぁ、、」


「そう。よく言われるの、、。でも気をつけてね。ウチのお父さんスゲー怖いから」


誰に言われんだよ?機械にしか言われたことねーだろ。ちなみに今のオレの発言も機械と一緒だからな?いつお前のオヤジに挨拶行くんだよ?何歩話飛んでんの??マジでコイツこんなにおかしい奴だったの?プロフ作成だけ外注したんじゃねーの?


「えー。怖いんだ。僕、怖い人苦手だから大丈夫かなー。じゃあさ、○○ちゃんがアプリをやってる理由ってやっぱり結婚相手なの?」


「いや全然。ウチね。最近アプリ内の彼氏に裏切られたの。それでもう絶対利用しないって決めたの」


だったらさっさと退会しろ。アプリ内の彼氏って何だソレ?サプリ内のチラシ並に実態ねーだろ。


「だからね。アンタは絶対そうじゃないって言いきれる?」


言い切れねーよ。そもそもそんな段階じゃねーんだよ。全部オマエの被害妄想なんだよ。


「うん。そうじゃない関係になれればいいよね、、。あっ!もう時間だね。短い時間だけど色々知れて楽しかったよ。またね!」


色々。色々な、、、、。


と、いった具合に彼女との関係は終わりに近づいた。
ここで煮え切れないのが私はこのような女性と関わったことがなかったことである。つまり免疫がない。もしかしたらが消せない。好奇心に勝てないということである。しかも、どんな相手にせよ生身のデート時に安心感を与えてくれるというのは事実であり、また向けられる照れ隠しの好意というのも案外悪くなく、ズルズルとやり取りを続けることになった。もう今日が焼き鳥屋へ行く日だというのに、、。


店員の彼女からは「まずは友達だと思って飲んで下さいね~」と伺っていた。大分年上である私たちの腹積もりに突っ込んでくるほど彼女は世話好きではなく、この距離感は正解である。これから会う女性をもてなす以上に店員の彼女に失礼があってはならないというのが正直な気持ちであり、この心の余裕が紹介先にも好印象を与えたのだろう。


「ZEN~。コレも食べていいー?アレも食べていいー?」


友達の店員の前なのか私の雰囲気が良かったのか彼女はのっけからタメ口全開で接してきた。私も変にかしこまれるよりはこっちの方が楽なので通常運転の会話をすることができ、冷静に彼女を分析してしまっていた。


何でいちいちオーダー許可取ってくるの?もういい年なんだし好きなもの食べればいいんじゃない?いやさ、、、。奢るよ。奢るけどさ、、。この注文の仕方って奢るありきの頼み方だよね。


「あたし、スナックでも働いてるんだ~。だからお酒止められなくてさ~。だってお客さんに申し訳ないじゃん??」


ふーん、そうなんだ、、。
もう飲めませんって言えば良くない??
アナタが飲みたいだけでしょ?ちなみに今のオレは客じゃねーかんな。あとさ、少し差別発言になるけどアナタ太ってるよね?痩せてる人が言う「お酒好きなの~」は許されるけど、デブが言うと「少し控えれば?」ってなるから。そうゆう世の中だから。


「アタシよく人から相談されるの。この前もね~~」


よく人から相談される人は自分からそんなことは言わない。アナタは自己肯定感を満たしたいだけの人間だ。おそらく昔はモテたのだろう。パッチリお目目のパンダ顔が今となっては膨らんでしまっている。愛嬌は今でもあるが、それだけでは長い関係を築けないだろう。


「あっ!もうこんな時間だ!終電逃しちゃう!とりあえずトイレ行ってくるね」


あーはいはい。この間に払っておけってことね。いいパス出すねー。でもさ、ちょっと露骨すぎない??オレに言わせて。「お手洗い大丈夫ですか?」って。その間に奢るのが男子の自己肯定感だから。


そしてたっぷりと時間をかけた彼女が戻ってくる。


「お待たせ~!!間に合わなそうだから急ごっか!」


ありがとうくらい言わんのかいっ!!


このあと結局終電を逃し、最寄り駅までのタクシー代を渡すと満足そうな笑顔で彼女は帰って行った。一回の飲み会で何が分かるというわけでもないのだが、これだけは言えよう。


金のかかる女だな、、、。




生身の紹介で次々がっつけるほど私は軟派な男ではない。次に紹介を頂くまでには相応の時間が必要であり、それが店員への礼儀というものだろう。受け身の私にとっては店員からの「この前の方どうでしたか?もし続いていなかったら次に会わせたい人がいるんです」待ちであって、このメッセージが届くまでこの店での物語は小休止ということになる。これを防ぐためにアプリ内でのパートナーを確保しておいたのだが、彼女も私に不信感を抱いており、その発端とは今回の飲み会である。「ウチ飲みに行く人キライ」と今回の飲み会を牽制してきたのだが、その時の優先順位は生身の彼女であって、そんなツンデレに構っている暇などなかった。
が、今は違う。このアプリ内の彼女を生身に引っ張り出すことが今の目標であって、その頃にはお互いの距離感をゼロにしておきたい。そのためにはある程度デリカシーを取り除いたやり取りをせねばならない。


「昨日の飲み会どうだった?」


「うーん。あんま面白くなかったよ。やっぱり行かなきゃ良かったね」


「ほらね。だからウチの言った通り」


だから、そのウチってやめろ。
関西人じゃねーんだろ?イラッとするから。オレが自分のことワイって言ったらイラつくだろ?素直にワタシって言えよ。


「そうだね。○○ちゃん以外とは行く意味ないかもね(笑)」


「え~。ウチは他の男と行く~(笑)」


出たなデレ助。
この人の見た目がよく分からん。しゃがれ声のインパクトが強すぎる。予想だが良い気がする、、。あとはどれだけ同調性があるかだ。案外良い関係になれるかもしれんな、、。


「え~。じゃあ僕も他の子と行く~!いないけどね(笑)」


「もう知らない!」


「出た!ツンデレ!」


「は?今なんて言った?」


は?
逆に何でダメなの?完全にこうゆう流れだろーが。つーかメッセージで「なんて言った?」って打つヤツ初めて見たわ。どうゆう設定にしてんだよ。即時消去法にしてんのか?そもそも「ツンデレ」って失礼な言葉なのか?褒め言葉じゃないのか?まずい、、。とりあえず謝っておこう。


「ゴメン、、。怒った?」


「怒ったっつーか呆れたわ。今までそんなこと言ってくる奴いなかったから」


嘘つけ。
ホントか?ホントに言われなかったか?だとしたら周りに人間がいなかったんだろうな。機械的な奴らに囲まれて育った結果がアナタということさ。


「本当にゴメン。やり取りが楽しくて調子に乗ったんだよ」


「ウチは好きな人を傷つけることは絶対にしない」


説得力ゼロだよ。
好きな人のハードル低すぎない??チョロすぎない??そんなすぐに本気になれるもん?


「アンタが本気で悪いと思ってるんだったら、二度と飲みに行かないって約束して。全部オープンにして」


やだよ。
嫉妬の域超えてんだよ。それが許される器量がお前にあるのか?


返信に困っている間にラッシュは続く。


「ウチは好きな人のためなら全てを直せる」
「例え妻がいたとしてもウチは気にしない」
「刺し違えてでも取りに行く」


怖ぇ、、。怖ぇよこの女。
マジでアプリ内だけの関係で良かったよ。このままフェードアウトだ。いいでしょコレは?だってドタキャンしたわけでもないし、、。みんなだってこうするでしょ?


断末魔が続く。


「何?なんで返事がないの?」
「何で電話してきたの?」
ツンデレなんて言わなかったらこんな事にならなかったのに、、」
「また裏切られた、、」
「通報してやる」




このアプリは私にとっては大事なコミュニケーションツールであった。これがホーム画面にあるだけで彼女の断末魔が聞こえてくるようで仕方なくアンインストールすることにした。彼女が言ったように「ツンデレ」というのは呪いの言葉として私の中に残っており、コレも一種の失恋に含まれるのだろう。


皆さん。言葉のチョイスは慎重に、、。

酒蔵で働こう2

日本酒造り働き手不足の最大の原因は女性がいないことにあると思う。野郎どもが三、四カ月も缶詰め状態になれば吐き出したい欲もあるだろう。それを知ってか給仕を雇う酒蔵側も「蔵人さんとは距離を取ってください」と警鐘を鳴らしているのだが、どうも彼女はその垣根を越えたかったらしい、、。





彼女の取った作戦はまず杜氏さんと仲良くなることである。酒好きの彼女は杜氏が酒のスペシャリストであるという事は理解しており、多くは事務仕事だということも給仕をしていく過程で気付いたのだろう。この中世的な顔立ちをした杜氏さんは人よりモノが好きと言った性格で、酒造り道を極める科学者といった感じであった。晩酌の時「○○さんよく毎年120連勤も出来ますね~。キツくないんっすか?」と聞いた際「120連勤なんて普通やん。200連勤くらいしないと働いた気しないねん」という回答に蔵人全員の箸が止まったことを今でも良く覚えている。本物のサイエンティストじゃないと務まらない仕事なのだろう。酒造りが始まると人間関係をまとめるのは古参の仕事であって、杜氏は下らない腹の探り合いに構っている暇などない。それを見抜いた彼女は「杜氏さんからの許可は得たし、それにまだ蔵人さんには近づいてないもん」という十分な言い訳を作り終えた上でこちらを見つめていた。そんな事情など知らない素人三人衆は、向けられる美女の視線に耐えきれず自分から話しかけるのだから彼女の作戦は成功したと言っていいだろう。


では何故彼女はこちらに近づきたかったのだろう?
同性からの意見だが私たちの中にそんな魅力的な男がいたとは思えない。古参は窓際感が強く、私たちのアウトロー感も抜けきってはいない。杜氏さんは外見もカッコいいのだが研究に忙しく女に興味なしといった感じである。私が思うに彼女はストーリーに参加したいの一心だったのだろう。仕事中よく古参が口にしていた言葉が「こんなのは全国で初めてだよ。ホント一本のドキュメンタリー作れるよ」であった。「いやいやいや。酔いすぎだろ」とその時は酒の肴にしていたが、振り返ってみると3/5が素人というのは確かに全国でも初なのかもしれない、、。それを杜氏自ら津々浦々集めたキャストがSAKEを造るのだから日本酒好きには堪らない話であって、それがわが町で撮影されるとあっては是が非でも映りたくなるのだろう。おそらく私が彼女の立場でも同じことをしたと思う。とはいえ彼女も大人である。酒造りも終わりが見え、蔵人たちの気持ちが緩みだした頃を見計らって好き光線を放ってきた。


「あの人いくつなんだろうな?」
「マスクしてるからわかんないよね?」
「相手いるのかな?」
「愛想いいよね?」


男たちの探り合いが始まる。
興味のないフリをして強がっている者もいたが彼女の料理と愛嬌がなければ今回の酒造りは成り立っていない。既に立派なキャストの一員であり、そしてそれは主役に変わりつつある。私たち三人のキャラクターは、チャラい狼が一人、寡黙な猫が一人、どっちつかずの人間が一人といった感じであり、彼らに比べ社会人経験が長いわたしは普通の人間に分類されることになる。彼女と一番良く話すのは狼であり、ムードメーカーの彼は周りをよく巻き込むのだが中々いい仕事をするものである。


「あのオバちゃんにZEN吉さんのこと伝えといたよ!全国各地に女いるってね」


「はあ~?何してくれてんの?いるわけないじゃん!ちょっと、、。マジで訂正してきてよ」


「いっていって。気にしてないって。いいじゃんもうすぐ終わるんだし」


「いや、無理無理。来年も来るかもしれないし。終わり方って大事じゃん。あと、オバちゃんって年じゃないからあの人」


「え~。どーでもいいじゃん~」


と、言っていた気まぐれな彼は数日後、いい手土産を持ってきた。


「ZEN吉さんZEN吉さん!あのオバちゃんZEN吉さんがお姉さんって言ってたよって言ったらスゲー喜んでた!!コレ行けんじゃない??あと、オレら全員と仲良くなりたいみたいで連絡先渡してきたんだけど、、。いる??」


「ナイス!!そりゃいるでしょ~。ちなみに○○さんには渡したの?」


「あー、一応ねー。ニヤリって笑ってたよ」


連絡先ゲットで一番喜んでいるのは猫だろう。この猫はプライドが高く仕事はできるが、怒られるやフラれるといった事に耐性がなく、その結果自由な旅人という生き方をしているのだろう。古参との相性も悪い。この手の上司にトラウマでもあるようで、その時やさしくされたのが彼女のような女性社員だったのではないだろうか?
狼にとって彼女はストライクゾーンから外れており、やるやらないの基準ではやらないと言っているが本心はどうか分からない。所詮三、四か月程度の付き合いである。
そして私は?
そりゃやりたい。四か月監禁など人生で初である。


蔵仕事の終盤とはほぼ後片付けである。機器の扱いは皆お手のもので、とやかく言われるまでもなく効率よく掃除したいのだが、ここで黙って居られないのが古参というものである。


「皆さん。私の言う事を最後まで聞いて下さい!!」


ちょうど虫の居所が悪かった狼がそれに食いつく。


「あ~!うっせーなー!!あとキレイに片付けるだけでしょ?ぜってー来た時よりキレイになってから!!」


それは誰の目から見ても明らかである。蔵に来た時、ここで仕事するの?というくらい散らかっていた。去年までは私たち以上に言う事を聞いてくれない連中だったのだろう。過去の話を掘り出すのはウザいだろうと控えていたのだが最後になってそれが弾けた。猫も論理的な口調で乗っかってくる。コレはあまり良くない。


「今回の酒造りで○○さんの指示でやった所って、ほとんど二度手間でしたよね?放っておいてくれた方が全部上手く行くんじゃないんですか?」


まぁ、結果から言えばそうなのだろう。では古参の指示でやらなかった場合はどうなったのだろう?上手く行ったのかもしれないし行かないのかもしれない、、。結果だけ見て文句を言うほど楽なことはない。責任を取るのは古参、杜氏、酒蔵である。口論の場所が良くない。いや、良かったと言うべきか台所の近くなのである。彼女は聞き耳を立てている。それを計算に入れつつ人間らしいことをオレは言おう。


「まぁまぁ。あと少しなんだし穏便に終わろうよ。いい思い出にしたいじゃん。○○さんの指示がなかったらオレら出来なかったのも事実なんだしさ、、。ほら、今日も美味しいご飯あるんだしそれでチャラにしようよ」


「美味しいご飯」という言葉が効いたのか場はゆっくり収まった。
我ながら完璧だと思う。もう酒造りは終わったのだ。あと欲しいのは桃色の思い出だけである。さて、彼女の胸中はいかに?




最後の蔵仕事が終わると、杜氏、古参、狼は一斉に帰っていった。
ワンチームを謳っているが蔵人とは案外ドライな関係なのだろう。観光という名目で私と猫の二名が残っており、それを真に受けた彼女と三人で一日を過ごすことになった。彼女の車でのドライブは厳選されたコースであって、譲れないエンドロールがあったのだろう。締め括り役になれた彼女は常に上機嫌で、一つ不満があるとすればあの時の口論だったらしい。


「ねぇ、最後けっこう怒鳴り合ってたけどああゆうシーンは他にもあったの?」


「うーん、、。どうだろ?あったっけZEN吉さん?」


「なかったかもね、、。今回杜氏さんかなり慎重に人集めたって言ってたし」


「でも、最後のはZEN吉さん居なかったらヤバかったかもね。みんな最後でピリピリしてたしね」


「ね。良かったよ穏便に終われて」


「えー!そうなんだー!残念、、。わたし的にはもっと激しいのが見たかったなぁ、、」


、、、、、、、、。


「何かすいません、、」。





酒蔵では全てが体験できる。
ハードボイルドもラブストーリーも。そして文化も。酒蔵の社長さん、杜氏さんにも良くしてもらった私が二回目に行きたいと思わない理由がお腹一杯なのである。一話完結のこのドキュメンタリーに参加してみたいと思った方はZEN吉までお声頂ければ、すぐ杜氏さんに取りあってみせますよ、、。


 

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酒蔵で働こう1

日本酒とは日本の文化である。昔はライスワインと言われていたが今ではSAKEが我が国のブランドである。それに対して働き手は圧倒的に足りていなく、文化を守るというのはそれだけ難しいことなのだろう。1シーズンしか働かなかった私がその感想を物語風に書いていきたい。






「ZEN吉さん、良かったら今年酒蔵に来ない?」


旅先でのバイト仲間が唐突にそう言ってきた。


「えーと、、オレ酒はあんま興味ないんですけど、、。ちなみに場所は?」


「静岡。冬は雪ないし、ええ所よ」


「静岡!!行きます行きます!!」


建設作業員として働いていた私は冬の現場に嫌気がさしており、噓みたいな話だが厳冬期でも工事は止まることはなく四六時中雪かきをしながら作業を進めている。酒造りの大変さも想像したが、このまま雪国にいるのと差ほど変わらんだろうと思い、答えを即決したのだった。11月~2月の四か月間を休みなしのぶっ通しで働くと聞いた時は正直ゾッとしたが、これも若いうちにしかできない良い経験だろうという事と静岡県に対する良いイメージが背中を押した。おそらく他のメンバーも似たような理由だったのだろう。私に声をかけてきた優しい男は酒造りの最高責任者である杜氏(とうじ)さんであり、酒に興味がなかった私は友達感覚で接していたのだが、メンバー集合の際、一人の古参が話す素振りを見て、杜氏とは神の依り代に近い存在なのだろうという印象を持った。


「みんな、遠い所から集まってくれてありがとう。長い戦いになるけど力を合わせて頑張って行きましょう」
「みなさん初めまして。僕、素人だけどよろしくお願いしまーす」
「初めまして、オレも初心者だけどよろしく」
「何だ、みんな初めてか。良かった~」
杜氏!!今年も至らない点があるかと思いますが、どうか宜しくお願い致します」


酒造りとは毎年ワンチームで動くのが理想だが、そんな理想論が続けられるのは稀らしい。今回のメンバーは私を含めた素人衆三人に古参一人、この四人で酒造りを行っていくことになり、杜氏というのは現場監督のようなもので事務仕事が多く、基本的に作業には参加しない。しないのだが、十分な酒造り経験が認められた蔵人が任命されてなるのが杜氏であって、正に文武両道といった所だろう。この明らかな年下に向かってヘコヘコするのはそれだけ杜氏が偉大ということなのだが私たち三人にとって彼は「友達」の域は出ておらず、変にかしこまる必要はないだろうといった空気であった。そしてこの空気のしわ寄せがすべて古参に向かうことになるのだが、彼にも問題はある。少し頭が固すぎるということである。


「○○さ~ん!早く指示くださーい」


「はいはい。もう少し待ってください」


「○○さ~ん。ここ、こうすればいいんですね?」


「今、わたしコッチやってるんであと30分待って下さい」


仕事が始まるとこのようなタイムロスが日常茶飯事で私たちのフラストレーションも溜まっていった。もちろん、この古参も素人三人衆を相手にするのは楽ではないと思うが、素人と言っても仕事歴は十年近くあるのだから省いていい説明もあるだろう。変に知ったかぶりはしないで下さいと念は押されていたが、ここまで作業が進まないとこの後の工程で地獄を見るのは明らかで、食品を作る上で焦りが禁物になることぐらいは誰でも分かると思うのだが、、。ここでプッツンしないおおらかな人間をわざわざ季節バイトをしてまで杜氏さんは集めていたのだが、できる派遣とできない社員の相性は最悪である。短いながらも季節アルバイトを経験して思ったことは、みな仕事ができるということである。というよりできる人間しか残らないといった感じで、彼らは効率よく血肉に変える術に長けているのだろう。対して私はどちらかいうとデキない社員寄りであり、古参の気持ちも分からなくもない。杜氏から酒造りを一任された上、それが文化遺産とあっては狭い視野がさらに狭くなるのだろう。古参のメンタルはかなり強そうだったが衝突は時間の問題だなと思った私はせめてもの償いとして衝突した時は古参側につくことに決めていた。私と古参との衝突もあったのだが、、。


酒造りとは分業制であり、自分の担当する部署をやり遂げることが第一であって杜氏さんが素人を呼び寄せた理由の一つがこれだろう。精密な指示は自分が出すのであなた達は素直に言うことを聞いて下さいというのが本音であって、誘われた際「えっ?おれマジで何もわかんないっすよ」の返答には「ええねん。ホンマそれがええねん」と、今までの苦労が滲み出た表情をしていた。おそらく若くして杜氏になった彼は、年配の蔵人との間で相当な苦労をしてきたのだろう。今回の徴集は彼にとっても大きなチャレンジであって、上手く行けば十数年継続できるワンチームが作れるだろうという思惑もあってか私たちに雷が落ちることはなかった。当然その落雷は古参にむかって光る。そしてその灯りの中、私たちの酒は進む。楽しい事づくしである。


楽しいことは日本酒の味を覚えたことである。
安い焼酎も日本酒の一種だと思っていた私にとっては初めての「水のように飲める」であって、これが毎晩タダで出てくるのだから仕事の疲れも吹き飛ぶだろう。そして肴には上司のグチ。古参は地元民ということもあって毎晩家に帰っていた。泊まることもできたのに頑なに家に帰っていたのは私たちを気遣っての政治手法だったのかもしれない。静岡産の料理も抜群にうまい。朝五時から夜五時まで何十キロもある機器を扱うのは男にしかできない体力仕事とあって、その筋繊維の回復のためにと大量の賄が振舞われた。日本酒に合う濃い目の味付けである。ではこの賄、いったい誰が作っているのだろう?答えは三十後半から四十前半と思われる熟れた女性。人当たりが良く、男の扱いなど慣れたものだろう。素人三人衆の出勤日数は九十日を超えており、その瞳は獣の如くギラついていた、、。


 

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