猫好きの女

猫というより人間以外が好きな女であった。あまり明るい話でもないし笑いになる話でもないのだが、彼女との出会いが確実に私の価値観を広げてくれたので、それを忘れないよう、ここに書き留めておきたい。

 

 

 

 

私も良くいるタイプの猫好きである。

基本、生き物は苦手なのだが、気まぐれに近寄ってくる猫にだけは「こいつ、、かわいい奴め、、」と生まれ変わるなら猫になりたいと憧れの存在なのである。私たちのような猫好きの性格は、割りと八方美人が多く、それを愉悦に感じている反面、それと同じくらいの「ちっ。めんどくせーな」を抱えている気分屋たちである。それをおもむろに出して許されるのだから「ああ、わたしは猫になりたい」。正確には猫好きの主人の元で暮らしたい。というのが私たちの切な願いである。

 

 

 

対して彼女。

彼女は猫たちに心底感謝を抱いていた。その証拠に猫たちを呼ぶときは「○○さん、○○くん」。彼らがいるから私は生きていける。私が世話をしているんじゃなくて彼らに助けられてる。というのが彼女の主張であった。なるほど、言ってることは分かるがここまで彼女が思う理由は人間関係が上手く行ってないのだろうと思った私は「素晴らしい考え方ですね。でも、猫好き過ぎて人間愛が減ってしまいそうで少し心配です笑」というメッセージを送った。彼女との出会いは出会い系アプリである。四十代、年相応の写真だったが猫と同化した笑顔に私は惹かれた。

 

 

「そこなんです、、。私もそこは気を付けているつもりなんですが、どうしても人間の汚い部分に目がいってしまって、、。今、お仕事も辞めてしまって、、」

 

 

やっぱりか、、。

まあ、人間関係なんて運みたいなもんだ、、。前向きに捉えよう。

 

 

「お仕事は全然休んじゃいましょう!僕も夏休み中ですし笑。お陰で今こうして楽しいメッセージ出来てるわけですし」

 

 

「ありがとう。コッチにはいつまでいるの?」

 

 

北海道の東。

「道東」は避暑地として人気がある。だが、そこで暮らしている人々の実態はどうなのだろう?そういう空気を肌で感じる旅が私は好きだった。

 

 

「二週間ほど」

 

 

これだけ居座れば得られるものはあるだろう。

 

 

「結構いるのね!」

 

 

「はい。絶対ゴハン行きましょうね!」

 

 

「うん。行こう」

 

 

こうして猫好き同士の邂逅が決定した。

お互いアプリでの出会いに抵抗はなく、次の日喫茶店で会うことになった。古い喫茶店でプカプカ煙草を吸う彼女が妙に魅力的に見えたのは、彼女の雰囲気がどこか現実的ではなかったからである。

 

 

小さく痩せ細っている。化粧はしていなく美容は諦めていると言うが、諦めてこの器量なのだから他の四十路の前でこの発言は控えた方がいいだろう。猫のエサ程の食の少なさが余計な老廃物を生まず、コーヒーと煙草が彼女の栄養源であった。彼女は拒食症を患っていた。

 

 

が、明るい。拒食症=根暗というのはただの偏見だが、何せ今まで出会ったことがないのだからこの勘違いも許されよう。彼女が拒食症になったのは思春期に体重が増えたのがキッカケで、そこからの付き合いらしい。自分で公言する人が少ないだけで拒食症というは案外身近な病だと彼女は言う。私もそう思う。目の前でケタケタ笑う女性が病気だとは思わない。実写の猫が大々とプリントされたパーカーを羽織る彼女に向けた「どんだけ猫好きやねん!」の挨拶ツコッミにも優しく応えてくれた。初デートにその服をチョイスする度胸は私にはない。まるで場末のスナックのママのような安心感である。

 

 

茶店での話は大いに盛り上がり、あっという間に三時間が経っていた。後ろ向きな内容ではなく、お互いの趣味、猫好き愛などを語った。喫茶店を出て、少し散歩に付き合ってくれた彼女がトコトコ着いてくる。視線を落とすと靴にはまたしても実写の猫のプリント。

 

 

「どこで売ってるのそんなの!?」

 

 

「ネット。男ものはないかもねー。一応見といてあげる」

 

 

「いや、いらんわ」

 

 

等身大を魅せる彼女のせいで素の私が釣られて行く。楽しい。こんなに楽しい夏休みがあっただろうか?次の日も、また次の日も会うことにした。

 

 

 

 

道東に来た理由の一つとして職人仲間に会いたかった。

製造業(建設業)は人手不足が追い風になり賃金が軒並み上がっており、高止まりが近づいていた。それは東京の職人から聞いたもので直接体感したものではなかったが、東京を中心に賃上げの余波は広がっており、地方都市の職人たちの財布も肥えていっていることは事実であった。プレカット化が進むほど現場作業員にとって喜ばしいことはなく、クソ重い資材を現場加工することなく組立に直行できるのである。「加工」を省くことで現代の職人たちの体力は余っており、プレカット料として賃金を大引くことも前時代的で好ましくない。結果、私を含め現在職人は「肥える」時代と言っていいだろう。では日本の端、北海道。そのさらに端の道東ではこの恩恵は受けられているのだろうか?それが夏休みの自由研究であった。

 

 

 

結果――受けられてない。

職人が足りているのである。仲間が言うには現金で貰うモグリの職人がこの土地にはまだまだいるらしい。表向きは無職として税金を払うことを毛嫌いしている五、六十代のここの人たちは「節税」とは無縁であり、情報収集を諦めている節がある。目の前の仕事を黙々とこなすだけでは機械化は進まない。建設業に限った話ではなく、レストランや銀行などでも似たような雰囲気が感じられた。地理的に企業誘致も難しく、霧深いこの街では先行きの不透明さだけが人々に蔓延しているようであった。旅行者たちは「わぁ、涼しい!良いところ」などと喜んでおり、地元民が「錆びれたところだよ」と邪推すると、これまた「じゃあ出ればいいじゃん」の邪推が返ってくる。大切なものがあると人は動けない。そう、彼女には猫たちがいた。

 

 

 

 

 

今、私たちは車の中で休んでいる。

彼女の車でドライブを楽しんでいる途中、雨が降ってきたので少し休むことにした。こういう時は真面目な話になることが多く、会話の主導権は車の所有者が握ることになる。

 

 

「本当、ありがとう。貴重な休みアタシなんかに使ってくれて」

 

 

彼女は自己肯定感が根っから低い。

暴言を吐く親の元で育ったらしく、それにこの街の雰囲気が拍車をかけていた。裏切りに会う確率も他所より高くなる。運が悪かった人間に自信を持て、と言っても無意味だろう。

 

 

「アタシなんかって言わないで。今、僕はアタシなんかと一緒にいるの?僕も僕なんかって一万回以上思ったことあるけど口に出さないようにしてるよ」

 

 

「そうだね、、、。ごめん。自信がもてなくて、、」

 

 

「○○さんはただ運が悪かっただけなんだよ。この街の地理的な環境がそうさせてるだけなんだよ。でも良いことも沢山あるよね。野良猫が多いよね。○○さんに拾ってもらって幸せだと思うよ」

 

 

「違うの逆なの。私が命を救ってもらってるの。せめてもの恩返しなの」

 

 

何故だ?

流石に誇張表現じゃないか?猫を見て癒されることはあっても命を救われたなんて普通思うか?過去に自殺未遂があったのか?踏み込んでいい所なのか?

 

 

少し困惑している私に「前に保険の営業やってたって言ったでしょ?」と彼女から踏み込んで来てくれた。そこまでは知っている。独特な雰囲気を放ちながらも、綺麗な言葉と文章を使える彼女はつまはじき者ではなく大人の女性である。

 

 

「別に売りたくなかったの。最低限お金が貰えればそれで良かったの。女同士の陰口もめんどくさかったし早く猫さんたちの家に帰りたかったの」

 

 

それも知っている。

オレが彼女でもそうするだろう。だからウマが合っている。

 

 

「もう毎日色々疲れちゃった所にさぁ、、」

 

 

不幸が舞い降りたのだろう、、。

オレも疲れてる時に限っておつりを間違えられる。

 

 

「所にさあ、、」

 

 

「大丈夫だよ。続けても止めても」

 

 

「襲われたの」。

 

 

 

 

こういう話を聞くのは流石に初めてである。

未遂で済んだらしいが、本当か嘘かはわからない。犯人は単独なのか誰かの差し金なのか、それもわからない。分かるのは今に至るまで彼女の社会人生活は終わってしまったことで、その心の傷の大きさから障害者認定を受けていた。事件後、女性的な身体から決別するために過食嘔吐を繰り返したという。死のうと考え、うろうろしたが度胸が湧かず、再びうろうろしている所に近寄ってくれた猫たちや懸命に生きる虫たちの姿を見て思い止まったという。これ程の事件に遭遇した人に対し「運が悪かった」で済ませる訳には行かず、私は考え混んでいる。雨は降り続けているが彼女は車を走り出した。

 

 

 

「引いた?」

 

 

「うんん。引いてないよ。ただゴメン。運が悪かったで済ませて」

 

 

「うんん。仕方ないよ知らなかったんだから」

 

 

「ありがとう。すごい、、」

 

 

「ん?」

 

 

勉強になった。

と思ったが失礼だろう。かといって思ってもいないことを言うのもどうなのだろう。

 

 

「いや、、。明日も会おうね」

 

 

「うん。もう帰っちゃうしね」。

 

 

 

 

 

最終日は彼女の家で過ごすことにした。

文字通り一軒家の「家」。

両親から離れるため彼女は祖父母の家で暮らすことが多く、祖父母が亡くなった時、引き継いだという。築五十年にもなる家屋の造りは私の実家とそっくりで、そこでのびのびと暮らす猫たちを見ていると安心感が湧いてくる。

 

 

「ああ、わたしも猫になりたい」

 

 

と同時に人間の視点からの危機感も湧いてくる。

雨漏りは大丈夫か?維持費は?障害者年金だけで暮らしていけるのか?

 

 

そんな心配をよそに彼女はお気に入りの動画を見てケタケタ笑っていた。綺麗な別れにしたいのだろう。笑って暑くなったのか部屋着姿になり、彼女の痩せ細った腕が見えた。自傷行為の痕が見える。これも知っていた。生きている実感が欲しい時、そういう気持ちになるらしい。知らないのはこれを見た私がどういう気持ちになるかである。

 

 

彼女の手を取り、抱きしめた。

「そういう気持ち」ではなく愛おしいのである。自分に酔っているだけかも知れないが、ただただ愛おしい。彼女の歴史を知らなければ引いていたかもしれない。これで即引くバカから成長できた。酔ったバカが野暮な質問を投げ掛けた。

 

 

「○○さんは誰かに守ってもらいたいとかはあるの?」

 

 

あるに決まっている。

じゃなきゃ出会い系などやるかバカ。

 

 

「めっちゃあるよ」

 

 

抱きしめた背中から寂しさが伝わってくる。

「俺が守るよ」が言えないならこんな質問するなバカ。

 

 

「でもさ、、アタシなんがさ、、」

 

 

何も言えない。生きろとも、傷つけるなとも。全面的に私が悪い。

 

 

「ごめん。変なこと聞いて。ごめん」

 

 

「うんん。ありがとう」

 

 

反省と共に考えこんでいる。

これから言い訳のオンパレードをする。

酔った勢いで結ばれて幸せになれるのか?距離を置いてみて思ったことが真実なのではないか?この街に賃上げ余波が到達するまでは共倒れじゃないか?そもそもオレ以外に相応しい男がいるんじゃないのか?いや。今思っている真実だけを伝えよう。それが真実だ。

 

 

「○○さんに会えて良かった。○○さんがいなくなったら寂しいよ」

 

 

「アタシも。またね」

 

 

「うん。また」

 

 

と言って別れを告げた。

私たちは未だに真実をさ迷っている、、、。

小屋で暮らそう

モテたいと思っている奴に限って蛇の道に突っ込む事がある。「一人になりたかった」などと格好付けてはいるが、内心は自分の作った家で大正ロマンを夢見る儚い奴らである。今回はその男の心の葛藤を描いていきたい。






DIYブームの昨今、自作の小屋で生活する男達の動画を見て、私は複雑な思いを抱いていた。同世代であろうこの中年男達は、おそらく趣味でこんなことをしている訳ではない。うだつの上がらない人生をタイムスリップさせることで何か好転させようと必死なのだろう。男の趣味と言えば箔が付くし、それを一人で作った暁には人生の伴侶が現れるだろうというクソ甘い幻想が彼らのエネルギー源である。


甘い。甘いんだよ。
そんなこと建設作業員のオレが既に一万回シミュレートしてんだよ。そして一万回フラれてんだよ。まずそんな物好きな女いねーから。別荘って訳じゃねーんだろ??その馬小屋がオマエの本丸なんだろ??それなら現実的に中古マンション買ってる男んとこ行くわ。だってアタシ普通の暮らししたいし、、。


と、小バカにする反面、そこを理解した上で行動に移せた彼等への羨ましさが私の心にはあった。


いや、わかってるよ。
格好いいよお前ら。でも変にテレビで特集するの止めた方がいいと思うよ。稀中の稀だから。ってかホント??ホントに彼女小屋暮らしに魅力感じてる??ヤラセじゃないの??今度遊びに行っていい?


結局、疑い癖がある私はいつまでたっても行動せず、何年間も同じ言い訳を繰り返していたのだが、実家の大掃除をしている時、大量の廃材が手に入った。というか無理やり廃材にしてやった。

私の実家は母屋の他に倉庫が幾つかあり、その二階はどれもゴミで溢れ返っていた。「蔵」に保存されているような文化財は一切なく、息子の私から見れば全てゴミである。次々と焼却していく様を見て、両親が歩み寄ってくる。


「あんまり全部捨てんるんでないって、、」


気の毒そうに言って来るのは私がキレているからである。半分演技で、屋体を壊すとなれば建主の許可が必要であり、多少の怒気を含めなければコイツらの首が縦に振らないことは良くわかっている。


「オレが何十㎏のゴミ、何十回往復してるか分かるか?このゴミどうするつもりだったんだ?」


「そんなゴミって言い方しなくても、、、。中には必要な物だって、、」


ない。
オレにとっては。
コイツらは物に心が宿ってると思うクチの人間だ。嘘でもいいから合わせてやろう。オレが欲しいのは床材だ。


「ああ。使えそうな物は小屋で再利用するわ。今度趣味で6畳くらいの小屋作ろうかなーって。それで材料欲しいから二階の床半分くらい解体したいんだよね。いいだろ?もう大往生しただろ?」


「まあ、、新しく生まれ変わるなら、、」


よし。ディ・モールト
これで実家ゴミ問題は解決した。コイツらは空きスペースが有る限りそれを埋めに行く妖怪たちだ。マジでムカつき過ぎて、階段から落ちて死んでくんねーかなって思ったくらいだ。二階なんてもんは田舎じゃ必要ねーんだよ。


こうして男の小屋作りが始まったのであーる。





小屋作りとはDIYの着地点であって、まぁ面白い。建設業を生業にしている者は凝った作品を作る傾向にあるが私にそのつもりはなく、あくまで現実的なデータ収集が目的である。よく「十万円で小屋を作りました!!」とイチャついている動画を目にするが「絶対十万じゃ無理だよ、、」というのが私たちプロの見解であった。もちろん、どれだけタダで材料を手に入れたかによるが、雨風をしのぐ畳六枚の空間を作るには三十万円前後、それとは別に簡易トイレ、電気・水道、更地とは言え土地代が~~などと合わせていけば、いくら質素な大正ロマンでも最低二百万はかかるだろうというのが今回感じた所である。今回の小屋は試作品ということもあり、男一人最低限の生活が出来る6畳間のものを畑の近くに建てる事にした。実家の敷地内だったので電気は延長コードを通じて引っ張り、水はポリタンク、済ませた用は畑にでも捨てておけばいいだろう。生活ビジョンが見え、あとは黙々と作るだけなのだが、面白いと言っても結局は一人のテンションである。


くっ、、。上がらんわぁ、、。
これじゃあ仕事と一緒じゃん、、。古材を生かしてる感じとかは楽しいけどさぁ、、。「キャー!スゴーい!!」とかないとやってらんないよね、、。しかもタダ働き。けっこう金かかってるかんなこの小屋。塗料がバカ高なんだよ。絶対十万で作るのムリだよ。嘘情報流してんじゃねーよ。早くオレにも女紹介してくれよ。応援ないと力出ないよー。ちゃんと立派な家にするからさー。ちゃんと親と離れた所に建てるからさー。


という会話を一人で二週間程しているうちに小屋は完成していた。感動はあまりなかった。少し寂しかった。だが、本題はここからだ。コレを魅力に感じる物好き女が世間にどれ程いるかである。




「アタシ。劇的ビフォーアフターとか見るのメッチャ好きでして。そうゆうの作れる人ってホント素敵だと思う!」


うん知ってる。
そう。意外といるの。でもなぁ、、見る専が多いんだよなぁ、、。小屋暮らしを成り立たせるには、やるタイプであって欲しい。さぁ貴方はどっち??


「アタシですか??好きですよ!昔から手芸が趣味です。でもその分、外でする力仕事は苦手で、、あっ!でも家庭菜園とかは大好き!」


向いてる。
向いてるよ君。大丈夫。力仕事は全部オレに任せて。さぁ行こうか大正デモクラシー


「ZEN吉さんの趣味は?えっ!?ウソ!?この小屋ZEN吉さんが作ったの?えっ!ウソウソウソ!!めっちゃ可愛い~~!!住みた~い!」


言ったな?住みたいって?
二言はないよな?女ウケを狙って白を基調にしといたんだ。そろそろ詰めた話をして行こうか。


「ホント素敵ー!本当に一人で作ったんですか??えっ?ウンウン。せっかく出た廃材をそのまま捨てるのが可哀想だったから?優しい~~!優しすぎるよー」


だろ?
物にも命ってもんがあるんだよ。


「あっ!でもでも。いくら離れているって言っても敷地内でしょ?うーん、、。アタシ引っ込み思案だから相手の親と仲良く出来るかなー」


小屋暮らしの真の素晴らしい所は場所を選ばないところだ。あなたが僕の親が苦手というのなら僕があなたの御両親の近くに行こうじゃないか。お庭の一区画さえ貸していただければ立派な小屋を建てて見せよう。子育ては生易しいものじゃない。親の助けが必ず必要になる。


「えーっ!無理無理無理!!アタシ親大っ嫌いだもん!すっごい良く育てて貰った反動ですっごい嫌いになっちゃったの。そうゆうことって良くあるよね?」


ゲス女やん。
良くしてくれたんでしょ??そんな反動初めて聞いたわ。じゃあオマエこれからどうやって生きてくつもりなの?そんな強いバックボーン持ってるの?


「アタシはね。湖の畔でお城みたいな家に住みたいの。そうゆう絵本を見させて育てたくせに今頃になって反対してくるの。だったら早く王子様見つけて来いっつーの。オシャレな家なんて直ぐ建てられるってビフォーアフター見てたら分かるもん。ねっ!そうでしょZEN吉さん!そういえばZEN吉さんって今いくつ??」



え、、と、うん、、と、、。



ゴメン。
オレこう見えて大正生まれだからよく分かんないや、、。

自分の血液型わからない人ってたまにいるよね?

私である。そして私は子供時代に運よく出会った男のマネをしているだけである。運悪く自分の血液型を知ってしまった人も、嘘でもいいから「知らない体」を実践してみてほしい。そしてそんなのに興味を示す奴らの血液型とは、、、おそらくAB型だろう、、。





小学高学年にもなると人をグループ分けしたがる奴らで溢れかえっており、そのもっとも浅はかな手段が血液型である。当時というか社会人になるまで私は血液型診断というのが分かっていなく、「あの子絶対○○型よね」の質問には「へぇ」としか返せない不愛想な奴であった。敢えて知ろうとしなかったのは当時出会った一人の男性教諭の存在である。




「ね~先生。血液型ってそんなに大切なの?」


ムキになっていたところもあるのだろう。
本当に興味が無い者はこういう質問自体しないのだが「ZEN吉って絶対AB型~!」と断言されることに腹を立て、調べるか否か迷っている時でもあった。


「全然大事じゃないよ。だって先生、自分の血液型知らないもん。大人になっても困ることはないけどZEN吉くんが気になるなら調べればいいと思うよ」


「えっ?じゃあ大きいケガして輸血する時はどうするの?」


「その時は病院でしっかり調べてくれるから大丈夫だよ。そもそもそんな大きなケガなんてしたくても出来ないものなんだよ」


「あ、そっか、、、」


妙に腑に落ちた。
彼は教育実習生の身であって、わずかな時間で存在を示したいという思惑が合致したのかもしれないし、もしかしたら嘘だったのかもしれない。
が、道は示された。
知らないというほど魅力的な世界もないだろう。たびたび親から「そろそろ血液型くらい調べたら?」と言われるが「うっせー。マジで余計な事すんな」で通せるのは、反抗期後に道が示された幸運であって、まっさらな人間にインクを落とす行為とは、例え我が子であっても本人の同意が必要である。




さて、私の職業は建設作業員である。
ヘルメット着用は義務であり、そこに記載するのは名前と血液型。これは知らないで通す訳には行かず私は迷っていた。


どうする?どれで行く?
いつも通りABで行くか?危険じゃないか?この会社にいつまでいることになるんだ?ABレッテルは悪目立ちするんじゃないか?そもそも何で血液型書かないとダメなの?輸血するような事故なんて起こらねーし、起こったら血液型とか言ってる余裕ねーから。

A、B、Oで行くか?
それだと取り繕って生きてかないと行けないのか?それもめんどくせーな。マジで場所が悪すぎる。何で後頭部にデカデカと囚人番号みたいに書かなきゃならねーんだよ?だとしたらOがいいのか?きれいな○が書ければ敵が減るんじゃないか?つーか何でA、Bと来て、次Cじゃねーんだよ?一番風変わりなのコイツらじゃない?

う~ん悩むな、、。
敵は作りたくないけど合わせることもしたくない、、。それを表す字体は何だ?

よし、、。いつも通りABで行こう。それを限りなく丸まった字で書こう。まるでゆで卵のように柔らかく。ヘルメットの汗むれでハゲ散らかした人たちも味方に付けることができるだろう。


長い議論の末、こうして自称AB型作業員が完成した。

ヘルメット歴15年以上の者から言わせてもらうと性格と血液型は関係ない。関係ないのだが常に視覚に入ってくる位置にあると催眠術にかかったような状態になり、各自都合の良い捉え方をしている。Aはエースでええ奴だと思っているし、Bはbestでbetterなんだから邪魔するなと道を譲らない。ABはaboutにそんなんどっちでもいいよと我関せずを貫き、Oはおおらかに皆をまとめることに愉悦を感じている。普通は「何型?」という聴覚からの入るのに対し、視覚から入ってしまうとこの催眠術の効果は凄まじく、相手の顔までもがその字体に見えてくるのである。それが相手の良い所を拾うのなら世界平和の一助となるのだが人間はそういう風には出来てはいない。今回の対戦相手はOの人達となる。




「ふっ。オマエABなんだ」


言っとくが私から攻撃をしたわけではない。
いや、どうかな?「何の脈絡もないところから攻撃なんてしねーよ」というのがOの奴らの言い分でもある。被害妄想族の気に障ることを言ってしまったのかもしれない。


「そうなんですよ~。変人扱いされるのが大変で、、。AかOに生まれたかったっす」


「ふっ。いいんじゃないか?そんなん気にしなくても」


うん。全然気にしてないよ。
だって全部のフリしたことあるもん。AとBが合わないってよく言われるけど、それ以上にOってABのこと毛嫌いしてるよね。たぶんズルいと思ってるんだな。ちゃんと本心言えよって。でもね、、。そんなん全員そうじゃない?


「いやさ、AB型の奴ってホント何考えてるか分かんなくてよ、、。オマエは分かりやすいけどな」


は?
じゃあオレの好きなAV女優当ててみろよ。
いいか?人のこと分かるって言った時点で終わりなんだよ。自分の浅さ露呈してるだけなんだよ。しかもな、その手段が血液型の時点で浅すぎて見る気無くすんだよ。MCになりてーんなら他の血液型経験してから来いよ。


「大人になるとよ、色んな事が見えるようになって辛いよな、、。うん。そうだよな」


だから勝手に変な空気作るの止めて。
オレがいつ落ち込んだ雰囲気出したよ?こうゆう空気が一番辛いんだよ。全然見えてねーよアンタ。


「だからよ、、。オレの妹紹介してやるから前向きに生きろよ。オマエは特に血液型とかに抵抗はねーのか?妹にはオマエのことO寄りのABって言ってあるから安心しろよ」


抵抗なかったけど今持ったわ。
絶対アンタが義理兄さんになるのイヤだわ、、。つーかどうゆう一族?たぶん家族間でも血液型の話ばっかりしてんだろうな、、。全員丸顔なんだろうな、、。何て言って断ろうかな、、。


「えーと、、。めっちゃ嬉しいんですけど、、。オレの家族8人全員AB型っすけど、それでも平気っすか?」


「うわぁ、、、。マジか、、、。わりぃ!!今の話なかったことにしてくれ!」




さて、今度は自称O型で行ってみるとするか、、。




人は知らないことを嫌いになると言うが、知らないから嫌いなのか、嫌いだから知らないのか、それはどちらか分からない。
その実験のため血液型詐称くらい、いくらしても構わないだろう、、。

忖度なしでお願いしますって言って本当にズケズケ言ってくる奴には右ストレート

場所が悪かった。居酒屋。相手も悪かった。お局。内容も悪かった。結婚相談。そして言ったのが生粋の脆弱者ことZEN吉と来ればバツイチお局絶好調案件だろう、、。好感度ゼロの女版明石家さんまさんよぉ、、。マジでその前歯へし折ってやろうか?





その時、私は居酒屋なんて行きたくはなかった。
自己分析するにおそらく私は週単位で話す文字量が決まっているのだと思う。二日前に店員のお兄さんと打ち解けた会話も出来ていたし、旅人Aとの人生論も十分に堪能できていた。もちろん自己発進のマニュアル運転であって、この定数が決まっているだけであってオートマチックの文字数などいくらでも湧いてくるのが私という車である。
が、燃費は良くない。というより粘りがない。ランプ点灯からエンストまでが早すぎる。昔は所構わずエンストを繰り返していたのだが、それじゃあ犬や猫と変わらんだろうという事で、今は残りワンメーターになった所で行動を自重するようにしている。と、いうのが私の週間ルーティーンである。


対してこの旅人Aは月~年単位で会話量を調節しているようだった。その証拠に最初の飲み会の時「こんなに話したのは三年ぶりだよ」と純度100%の笑顔をしていた。マニュアル運転が三年ぶりだったという意味だろう。「旅好き」と言えば同じ穴のムジナに聞こえるが、こと会話に限って言えば真逆の性質になるのが旅の魔力でもある。「趣味=旅」に留まっている連中は一期一会を大事にしている真人間が多く、出会いの際は吸収率を重視した聞く側に回ることになる。それに対し「生活=旅」まで行ってしまった奴らは、ムジナが通った際「お嬢さんコッチおいでよ」と段ボールの家に招き入れ、溜まったものを吐き出す「責める奴ら」になる傾向が強く、私はコチラ側の人間になるつもりはない。企画モノには興味ナッシングである。




「ね~。また今日も飲み行こうよ~」



と、しつこくAが誘ってくる。
どうやら吐き出せる時に吐き出したいらしい。
言っておくがAとは一回り上の男性である。女性なら純度100%でGOに決まってる。


「ね~。結婚相手見つけるんでしょ~?行動しなきゃ見つかんないよ」


っち。この前、下手に回りすぎた、、。
この男、「バツイチトラベラー補正」でカッコ良く映っちゃいるが、ただの世捨て人でしょ?そんな演説は一回聞けば十分なんだよ。もう疲れたんだよ。


「もう明日帰るんでしょ?今日が最後だよ~」


オマエにとってはな。
人生なんて最後の繰り返しみてーなもんだろ。オレは自分のペースで一期一会を楽しんでんだよ。


「そういえば、あそこの店員さん超イケメンだったよね。おこぼれ貰えるかもよ~」


それもそうだな、、。
よし!行こう!!
と、その前に一つ言わせて、、。


そのオネエ言葉ハラ立つからやめろ。




何店舗かが入っている内の一つであるその居酒屋は、今日もカウンター席は女性で埋まっている。


「おっ!お兄さんたち、またいらしてくれたんですね?」


と声をかけてきたディーン・フジオカ似の男に会うために、わざわざホテルまで取って来る女性もいるらしい。彼に呼ばれた二人組の男がジャージ上下とあっては振り向いた女性もさぞかしガッカリしただろう。


おい。お前ら顔に出しすぎ。
「はぁ~?何この芋?ディーン様の時間奪ってんじゃねーよ。アタシの時間返せボケ」って書いてるから。わかったって。寄らねーよ。一気に萎えたわ。あそこのスナックのママに癒してもらうからいいもん。お前らなんて全員閉経しちまえ。


そう思い、足早に立ち去ろうとしたのにディーンとAが意味不明な結託をし始めた。


「お兄さんこの前パートナー欲しいって言ってましたよね?今いらっしゃるのは皆素敵な方々ですよ」


「うん。そうなの~。だから今日来ようって言ったのにホント照れちゃって困っちゃうよね~」


おいディーンこら。
何だオマエ?弱者の気持ちわかんねーのか??今そうゆうパスいらねーから。絶対ゴール決まんないから。ブッフォン100人いるから。

で、一番ムカつくのがAオマエな。
オレは照れてんじゃねーんだって。疲れてんだって!!二日前お前に宗教聞かされたせいでな!!何が「予定ってゆうのはね、入れちゃダメなの」だよ?言ったそばからぶっこんで来んじゃねーよ。むしろこうゆうのを防御するために予定って入れとくもんだろうが。あとオマエ隠れてティンダーやってんだろ?一番ゲスだろ。あわよくばヤル事しか考えてねーだろ。


「ささっ!ちょうどカウンター二席空いてますんでどうぞどうぞ」


「やった~!ありがとう~」


あー。残りの文字数が、、、。



私の隣には45、35、25歳の順に三人組の女性が並んでおり、若手二人とディーンでお局様を盛り上げているようだった。Aの隣にはティンダーをやってそうな女の子が一人で飲んでおり、Aはその子との会話に夢中である。つまり配置的に私は、浮かれ切ったお局としか話すことが出来ず、先程ディーンが余計なことを言ったもんだから会話のテーマも決まってしまっている。あっぱれさんま大先生である。


「ねぇねぇ?さっき言ってたパートナーってどうゆう意味?」


先制攻撃を仕掛けられた。
若手の表情を見る限り、お局様は離婚経験者だろう。しかもまだ傷が癒えていなくネタにできる状態ではない。ここの言葉選びは気をつけよう。


「もちろん結婚ってことになるんでしょうけど、何せしたことがないので、、。対等な関係でいたいって意味でパートナーって言うようしてるんです。それを含めて忖度なしで色々教えてもらっていいですか?僕年上の女性好きなんでスッと入って来そうな気がします」


「ふふっ。ありがと。嬉しい。ところであなたが言う年上って実年齢のこと?それとも精神年齢?」


そんなん知らんわ。いちいち深堀すんな。
もうオレには褒める一択の体力しか残ってねーんだよ。まずいな、、。こいつ褒められ過ぎてハイになってやがる。それが反転して説教モードに変わりつつある。


「うーん、、。どっちかとゆうと精神年齢の方ですかね。でもやっぱりどっちも当てはまる人だと嬉しいですね!」


「ふーん、、。イマイチはっきりしないなー。どんな人と結婚したいの?」


はっきりしてんだろ。じゃあ何て言えばいいんだよ?あなたです!って言えばいいのか?



「僕マイペースな性格してるんで、相手もマイペースな人がいいです。あっ!でも決してただの自己中ってわけじゃなくて、、、マイペース同士、尊重し合うみたいな、、」


「え~。あなたチョット自分本位じゃない??」


はい出た自己投影説教モード。
完全に別れた旦那に照らし合わせてんだろ。


「結婚ってね。そんなフワッとしたものじゃないんだよ?マイペースが悪いとは言わないけど、支え合うものなんだよ」


わかってないけど分かってるって!!
みんなマイペースに悪意持ちすぎじゃない??マイペースって良い意味だからな??


「趣味は何なの?どうゆう趣味の人が好きなの?」


「僕、旅が好きです。今も旅行中ですし。だからやっぱり似たような人に惹かれますね」


「やっぱりね」


やっぱりって何??


「だったら最初からそうゆう人と結婚したいって言えば良かったじゃない?あなたみたくお金の心配もせずプラプラしてる自由人が好きって人けっこういるわよ。あたしだってメキシコの海見に行きたいもん」


オレがいつ金の心配してないって言ったよ??海外も行ったことねーし、勝手に決めつけてくんじゃねーよ。一番自分本意なのアンタだろ?最初から言えもなにもアンタがズケズケ進めてっただけでしょ?一回サメに喰われて来たほうがいいんじゃない?


「決まったわね。あなたの結婚相手はマイペースなおてんば娘!!そしてお互いワガママを言い合って外国人と不倫する。って確率がえーと、、5%ってところかな~。そして残りの95%はこのままプラプラし続ける。ふふっ」


うっせー数字で言ってくんな。
聞きたくなくても頭に残るんだよ。その%そっくりそのまま返してやるよ。あーもうすげー疲れたよ、、。


「ねぇねぇ。けっこう言っちゃったけど勉強になった?なったなら私たちに一杯ご馳走してほしいな」


この期に及んでそれ言う??

若手二人もキラキラさせちゃってさー。あーもう何も考えれないよ~。



「はい!もちろん!でもグラスに歯ぶつけないように気を付けて下さいね!!」



「うっさいわね!!ディーン!!グラスの赤とそれに合うお肉料理三つずつお願い!!」



「かしこまりました!お兄さん。それでよろしかったですか?」



、、、、、、、。



「うん。宛名さんま御殿で」

コンニャク王現る

彼はおそらく本物の金持ちだったのだろう。ソレを見たことがない私にとってソレの判断はつかなかったのだが出会った場所が良かった。「ゲストハウス」。目の肥えた客人に混ざることで今回のストーリーは生まれ、曲者ぞろいのクルーの船長は彼に相応しい。恥じらいもなくこういうセリフを吐ける者だけがなれるのだろう。それでは冒険を始めよう。コンニャク王にオレはなる!!






その時の私は「客人」というより「主人」といった立ち位置であった。ブログを書くようになってから旅というか過去作りのペースが加速している気がする。結果、性格にも若干の変化が見受けられ、社交性ONタイムの時間が確実に増えており、分かりやすく言えば「明るくなった」ということなのだろう。明るくなった私は、とにかく出会いに飢えており、知り合いから教えてもらったボランティアをする代わりにタダで泊めてもらえる「フリアコ」という仕組みを知った時、即座に応募し、ONタイムを発揮することで即採用を勝ち取ることが出来た。というより、賃金が発生しない相手からすれば私が害のある人間かどうかが全てであって面談の際、「ZEN吉さんは一発やりたいタイプじゃなから大丈夫ですね~」と言われた時は、そんなん初見で分かるんか?というのが素直な感想であって、もう少し違う言い方できないの?というのが二番目の感想である。どうやらゲストハウスにいる人間は全員風変りらしい、、。と、思ったのが先輩のボランティアといる時である。


このゲストハウスの規模的にボランティア一人、二人いれば十分業務をこなすことができ、空いた時間でバイトをすることも可能である。私は休職期間を利用してフリアコを使っていたのだが、この先輩は五年くらい前からこういう生活をしているらしく、当然一つの疑問が浮かぶ。


「えっ?それじゃあお金の方ってどうしてるんですか?」


話の流れ的にアリだと思ったタイミングでこの質問をぶつけてみると


「うん。ダメダメそんなの心配しちゃ。年金も健康保険も入らなくてもいいんだよ。生きていくだけあればいいの」


という回答が返ってきた。


えー、、。年金は免除になるだろうけど、、。
健康保険も??さすがに怖くない??アンタまだ四十代でしょ?達観しすぎじゃない?


彼はブラック企業、結婚、子育て、離婚など一通りのイベントを経て今の生活に落ち着いたようで、柔らかな口調だが自分の宗教を持っている人間であった。元々スローライフ好きな私は、彼に引っ張られる形で前半を過ごしていたのだが人が変われば話も変わる。彼が別のゲストハウスに旅立ったことによって私一人で業務をこなすことになり、それを見ていた長期滞在中の客が「私もボランティアやりたい」と仲間に加わったのである。ワタシ=女子。来た。やっぱり物語はこうじゃなくては。


やはり絵的にも実務的にも男女のペアが望ましい。
二階が男性専用、三階が女性専用のドミトリーとなっており、そこで生活する私たちは「主」に近い存在になっていた。今回フリアコを体験して思ったことは「主」だと抜群に話しかけやすいのである。「僕、ボランティアで働いているんです。何か困ったことあったら言って下さいね」と笑顔で言うだけで一段、二段と交流が生まれて行く。前任の達観者はこの発言をしなかったためにスローライフを楽しんでいたようだが、私たちは記事作りのためにフリアコに参加している。彼女の職業はライター。にわかブロガーである私とは比較できないほどの想像力を持っているだろう。


「ZEN吉さーん!昨日三階に泊まった人がめっちゃ変わった人でー。二階はどうでした?」


「えー、いーなー。二階は普通かな。おじさんズがパン一で歩いてるくらいかなー」


「履いてるならまだいいですよ~。だって昨日の子、下だけ履かない子だったもん」


「ははっ!いーなー見たかったなー」


という情報から人物を深堀していくのが私たちの楽しみであった。彼女は笑いのツボも押さえているボキャブラリーに富んだライターであって、彼女が仲間に加わってから出会う人々の色合いが明らかに強くなった。その締め括りがコンニャク王たちである。


「昨日変わったギャルと仲良くなってー。何か実業家の男性と一緒に旅してるんだって。全部お金はアッチ持ちで」


「えっ?それってただのパパ活じゃないの?」


「うん。アタシも絶対そうだと思ったんだけど、そうゆうのは一切ないんだって。それだとわざわざゲストハウスなんて泊まらないでしょ?」


「それもそうだね、、。面白そうなペアだね。話してみたいな」


「ね。アタシ、ギャルに駆け寄ってみますね」


情報を整理すると実業家とギャルは一ヶ月間のパートナー契約を結んでおり、ゲストハウス事業に興味があった彼と旅をしたい彼女の思惑が合致したようであった。旅の最中に撮影やブログも書いているようで、その出演料も頂戴したいという厚かましさが彼女を「ギャル」と呼ばさる理由でもある。ギャルと仲良くなったライターは一足先に実業家に会っており、焼肉・寿司・ラーメンという三大主食を食べきれない程ご馳走されたらしい。これを聞いた私は「美女二人に奢りたいだけの小金成金か?」という印象を持ったのだが、実際に会った彼女の意見は「うーん、、。よく分かんない、、」といったもので、どうやらただの金持ちではないらしい。こうなってくると私の人物眼の範疇を超えており、新たな目利きが欲しかった所に絶好の男が現れる。


「あれ?もしかして実業家の方ですか??」


「オレ??ちゃうちゃう。ただのノマドワーカー被れよ」


小綺麗な恰好をしていた彼を実業家だと勘違いした私は、ナンパの言い訳のように実業家について語ったのだが彼の反応は薄かった。


「あー、東京にはそんな連中いっぱいおるからねー」


彼は幅の広い交友関係があるようで、成金の類はもう見飽きたのだろう。なかなか姿を見せない実業家と会った際は同席して下さいね、というお願いにも「う~ん、、。気向いたらね」と、渋い反応であった。そもそもその時の出会いを楽しむのがゲストハウスであって、会えるか分からない人を待つくらいなら目の前の人と話すのが正解である。ノマドにとっては現場作業員である私がフリアコをやっている方が新鮮だったようで、何気ない話で笑ってくれる彼との会話は楽しく、リビングに居る時間が長くなっていった。そこにコンニャク王たちが現れる。美女が一人増えている。たまたま誕生日の子を見つけたらしい。3対3。場面は整った。さぁ、パーティーを始めよう。





「あーっと!!初めまして。私○○と申します。食べ物足りなそうなんで買いに行って来ますね!」


と、低姿勢であいさつしてきた彼は「大丈夫ですよ。お腹減ってないですから」という私たちを振り切って外に出て行ってしまった。その間は私たちの時間である。


「どう?ZEN吉さん?何か違う感じするでしょ?」


「確かに、、。雰囲気あるよね、、。ノマドさんから見てどう?」


「そうね、、。何か思ってたのとちゃうなぁ、、。おもろそうだからオレも同席するわ」


「やったー!アタシ一ヶ月も同じ会話で疲れちゃたぁ~」


(今日、あたしの誕生日なんだけどなぁ、、、)


私とライターとノマドの三人は実業家の素性を探りたく、ギャルは実業家のいない時間を楽しみたく、新人は自分を祝ってもらいたい。それぞれの思惑はあるだろうが主役はやはり彼だろう。放っているオーラが覇王色なのである。底なしの食欲を抱えた彼が戻ってきた。


「お待たせしましたー!お肉たくさん買ってきたんで食べましょう!あと、ピザも人数分注文してます!」


マジで買いすぎ、、。
もう夜九時だぞ、、。さっきまでお前たち外で食ってたんだろ?せめて残してもいいやつ買って来いよ。ギャルの意見聞けよ。この一か月で5㎏太ったって言ってるだろ。ギャルは正しいことしか言わないんだよ。


「僕はもう人が美味しそうに食べるの見るのがたまらなく好きでして、、。さっ!今日誕生日の方も食べて食べて!」


そりゃアンタは気持ちいいだろうけどさ、、。
もう目がガンギマってるんだよ。その目で見られたらどんだけ苦しくても食うしかねーだろうが。最悪の誕生日だよ。


何とか誕生日の新人を祝いたいと思った私たちは会話を分断することにした。配置的に私、ギャル、実業家の三人で話すこととなり、ライターとノマドは彼女を祝いつつコチラにも耳を傾けている。ギャルはあちらに混ざりたそうである。


「僕ね、様々な事業をやっていてその経験から成功するためにコレだけはってのが一つあるんですよ、、それはね、、」


「ほうほう、、。すごい気になりますね」


「もう彼女にもしつこいくらい言ってるんですけどね、、それが、、」


貯めるな、、。
ギャルの目死んでんだろ。よっぽど難しいことなんだろうな。


「それが、、早起きすることです!!」


普通~~!!
んなつまんねーことに尺取ってんじゃねーよ。アンタ全部目力で解決してるだけだろーが。


「何があっても朝五時に起きる!!もう僕、毎朝起きるのが楽しみでしょうがないんですよ!!本当にワクワクします。それをねパートナーの彼女にも味わってもらいたくて常に一緒にいるんです」


うん。マジ苦痛。
これならパパ活してるほうがいいんじゃない?拘束時間多すぎない?ってかギャルもちょっとは言い返せば良くない?


それは無理な話だろう。この手の人間と初めて会った印象を簡潔に述べると「クスリやってる??」という狂気が感じられる。柔らかな物腰からほとばしる覇気は情熱というクスリが溶けている証拠なのだろう。そして次なる情熱の一つに「コンニャク」があるらしい。


「僕ね、何十年も風邪ひいたことがないんですよ。それっておそらくコンニャクのおかげなんじゃないかなって」


「へぇ、、何十年もは凄いですね、、。そんなに頻繁に食べているんですか?」


「はい。週一では必ず摂取しているんですよ」


オレでもそんくらい食うわ。
違うから。アナタが成功したのって単純に体力あるだけだから。精神論じゃねーんだよ。神に選ばれた体なんだよ。普通そんなにメシも食えねーし、早くも起きられねーんだよ。


「それでね、今はグルテンが凄い良いって注目されてるでしょ?次に来るのは絶対にコンニャクなんですよ!!絶対にコンニャク!」


そうなの??
グルテンって体に悪いんじゃないの?どこ情報?そもそもコンニャクって栄養あるのか?喜ぶの砂かけババアぐらいじゃねーのか?


「もう先行投資はしてあるんです。あとは熱意のある人だけなんです。僕はね、僕のような頑丈な人間がもっと生まれて欲しいんです。そのためには『コンニャク王』ってラベルが貼られた商品が市場に出回るべきなんです!!」


そんな『マカ王』みたいに言われてもねぇ、、。
コンニャクってそもそもイメージが良くないよね。下ネタ色が強いよね。


「どうですか皆さん!!僕と一緒にコンニャク王目指さないですか?」


、、、、、、、、、、。


ほらね。やっぱりこうなるよね。
結局、最後は全部アンタが持ってくわけだ。


「アタシはZEN吉さんが右腕になるに一票~!」
「オレも」
「アタシも~」
「私も」


ずるいよ~。
オレだって誕生日会に混ざりたかったんだよー。


「さぁ!どうしますZEN吉さん!?右腕と言わず頭になってもらっても構いませんよ!男子虎穴に入らずんば虎子を得ずですよ」


「うっ、、。じゃあオレは、、。麦わらのルフィに一票」


「決まりましたね!!それでは宴を再開しましょう!!」


ワァァー。パチパチパチパチ、、、。


と、いった感じに日付が跨ぐまでパーティーは続けられた。
コンニャク王とギャルは始発で飛び立ったようで、キレイに畳まれたシーツを見てノマドがこう呟いた。




「本物やね、、、」

建設作業員独立あるある

別に建設業に限った話ではないが、会社を辞めた人間は弾ける確率が高いと思う。声高々と辞めた理由について語っているが、一歩離れた距離から聞いていると「えーと、、つまり、、弾けたかったんすね!」という感想しか出てこなく、その詳細を同じく辞めた人間である私が解説していきたい。




形式的には辞めたのだが、私は離れているだけである。私が会社を辞めた理由は、確定申告などを自分で行うことで今まで圧倒的に足りていなかった金融リテラシーを高めたいという知識の上積みが第一であって、自分の腕に自信があった訳ではない。とはいえ、いち職人である以上、仕事をせねば食いっぱぐれるのが現実であって、先駆者の方々から仕事を繋いでもらわなければならない。ここで上手に太鼓を鳴らせる者だけが独立記念日を勝ち取れるのである。


「ZEN吉~。久しぶりだなー!会社辞めるんだってな。何でも聞いてくれよ」


私が訪ねたのは、少し舐めた態度も許される人当たりが良い先輩である。であるはずなのだが風貌が変わってしまっている。知っていたら会わなかったかもしれない、、。


「久しぶりっす!わざわざ時間取ってくれてありがとうございます。髪型変えたんすね?」


何そのチョンマゲ?そして金髪?それはどうゆうメッセージ性?東京卍リベンジャーズなのか?バカにしていいのか?


「これか?そうだな。もう会社員じゃねーから好きな髪型にしようかなって。気に入ってんだ」


会社員ではねーけどアーティストでもねーかんな。普通に客にも会うし営業マンにも会うかんな。そもそも似合ってねーし、似合わな過ぎて全然話が入って来ねーんだよ。


「うん。好きなことするってのは大事なことですよね。色々聞きたい事はありますけどー、、取りあえず仕事のこと、、」


「ちょっと待って!まず月いくら欲しい?それによって変わってくるぞ」


早いなぁ、、。早いって。
確かに大事だよ。大事だしそれによって全てが決まるのも確かだけど、食い気味すぎ。そんなせっかちな人じゃなかったよね?


「月ですか、、。取りあえず最低これくらいかな。ペラっ。目標年収とか税金のこととか紙に分かりやすく書いてきたんで、これ見ながら話し付き合って下さい」


「お~。どれどれ~」


出来ればこのようなことはしたくなかったのだが、相手は時間を売っている個人事業主である。本来聞き役に徹するのが私の役目なのだが、私とてキャバ嬢ではない。今回の会合は私から持ち掛けたもので、ここでアピールできなければ一年生にすらなれないだろう。独立した人が会社員との飲み会にて「コレは経費で~、控除が~、税率が~」などと話している姿を見ていつも思うことは「何故もっと分かりやすく言わないのだろう?」ということである。一年生ながら勉強して思ったことは用語のややこしさであって、大して学のない者は変に難しく捉えるよりも売上(+)経費(-)税率(÷)所得(=)のように記号で覚えるのが一番わかりやすい気がする。そもそも彼らがしている金勘定はどこか肌感覚的であり、難しいことは税理士に任せ、自分は稼ぐことに集中しようといったもので、職人のあり方としてはコレが正解である。知らないというのは攻撃力であって、知っているというのは防御力である。一線級の職人さんは「俺ぁ、仕事以外の事は何も知らねぇ」という人が多く、より多くの売上を上げることにエネルギーを費やしている。売上高や知識をひけらかすことが彼らのエネルギー補給の場であって、今わたしが紙を広げて教えを乞うという行為は反感を買う危険もあるのだがそこは自分を下げることでバランスを取っていきたい。


「えっ!?オマエこんな少なくていいの?これじゃ独立した意味ねーだろ~」


「まぁ、オレの能力じゃこんなもんじゃないすかね。最初は上手く行かないことも多いでしょうし、、」


これは自分の能力二割減くらいに言っておいた方がいい。これ以上下げるのは危険だ。最初の売上なんて情で決まることが多い。実際ミスすることがあってもこう言っとけば二割減で留まることができるだろう。


「まぁな、、。オレもこう見えて最初はけっこう苦労したんだぞ」


今も十分苦労してるように見えるけどな、、。
不摂生しすぎなんだよ。女とメシに金かけすぎなんだよ。完全に「若い時に遊ばなかった奴」のパターンだろ。


「でもな、その苦労があって今こうして自由な時間を謳歌しているって訳だ。オマエも早くコッチに来たいだろ?」


いや、別に、、、。
だって今どこの企業もホワイト化が進んでるもん。作業員にも残業代が出る時代だもん。今なら多分アンタも辞めなかったと思うよ。


独立組はやたらと「自由な時間」を強調してくるが、週休二日・有給消化が強制された現代において社員組と差ほど変わらないだろう。むしろ自由な時間などと言えるのは追い風に乗っている時だけであって、「心の安らぐ休日」という面では社員組に旗が上がるだろうし、副業や週休三日制が導入されることによってこの旗色はさらに強まるだろう。私が思うに突き抜けた攻撃力を持っている人以外は、社員と個人事業主による二刀流が望ましい形だと思うのだが、元社員を経て独立した者は催眠術にかかる傾向がある。



「もう会社員なんてやってらんねーよな~。ちなみにZEN吉は誰がイヤで辞めたんだ?」


何もイヤじゃなかったし、いい会社だったと思うよ。
その勝手にストーリー作んの止めてくんない?そして間違っても広げないでね。また戻るかもしんないんだから。アンタも戻る気はなくても社員の情報は入れといた方がいいよ。自慢話ばかりじゃいつか弾けちゃうよ。


辞める理由なんて運みたいなものなのだろう。後になってそれが吉か凶かが分かるのであって、他人の引いたおみくじに口を出すなんて言語道断である。成功者に限って「運が良かった」と言うのはこの発言自体が運を引き寄せるのだと理解した上であって、今わたしが聞きたいのはこの言葉である。この人は付いていくべき人なのだろうか?


「うーん、、。特にイヤなことはなかったんですけどね、、。強いて言うならコッチの方が面白そうだったからかな」


「そうか!悪いな独立記念日がこんなファミレスで。これから楽しい事たくさんあるぞ~」


大丈夫ですこんなファミレスで。オレ三千円で満足できる人間なんで。アナタたちは三万円じゃないと満足できなそうだけどね、、。厳しいかな、この人は、、。


「あっ!もうこんな時間だ。わりぃ!この後予定あるんだ」


「いえいえ、ありがとうございました。また付き合って下さい。ちなみに何するんすか?」


「オマエ、そりゃ、、。嫁にゃ言えないことだよ、、。ん??」


「あー!!やったー!急きょ出勤中になってる~!!サンキューZEN吉!!お前と会ったおかげで運が向いてきた!ラッキー!!またな~」


と言ってテーブルに三千円を置いて男は去っていった。




うん。まぁ、良しとしよう、、。

「ツンデレ」って地雷の言葉なん?

「メンヘラ」と言ったわけではない。「ツンデレ」である。くだいたメッセージのやり取りの際、調子に乗った私がこの言葉を使っただけで彼女は豹変し、精神が崩壊した。極わずかな時間でしたが良い経験をさせて頂きました。えーと、、それでは何てお呼びすればいいでしょう?デレデレさんでよろしかったでしょうか?





私的第四次婚活ブームの時に彼女と出会った。
といってもアプリ内だけでの関係で、メッセージのやり取りと少しの会話をしただけの仲である。私が出会いに積極的になるタイミングは自分でもよく分かっていないのだが、諦めるタイミングというものはしっかり分かっている。それはフラれメーターが振り切った時である。

私はアプリと生身による二次元・三次元の両面方式で出会いを切り開いていくようにしており、その理由とは自分に余裕を持たせるためである。何かしらのパートナーがいることで「別にフラれてもいっか」的な余裕が生まれ、それがさらなるパートナーを生むキッカケになる。変にハードルを上げる必要はなくメッセージや挨拶ができる相手のことをパートナーと思っていれば良い。私の能力的にアプリ3人に対し、生身2人が限界値であり、最も心地良いのが勝ち筋のあるパートナー1人:1人である。

が、そもそも「勝ち筋」をわかっていない奴にとってこの方程式は無意味であり、地雷女によって婚活開始以前のパートナーさえも失う危険性すらある。これを「フラれメーターの逆張り」と呼んでおり、この現象が起きた場合は必ず婚活に終止符を打つようにしている。それだけ傷の回復には時間を要するという事なのだろう。


今回はいつもと手法を変え、生身から攻めることにした。以前ならばアプリ内に誰かいなければ不安だったのだが、少し経験値も上がっただろうと根拠のない自信が近くの居酒屋に向かわせた。いや、違うな。あれは居酒屋の名に引っ張られただけだな。『出会い横丁』。コレは物語が始まるだろう。


カランコロン。へい、らっしゃ~い!!


店に入ると早速看板を燃やしたくなった。一人で来ている奴などオッサン以外誰もいなかったのである。


おいおいおい。店名変えろよコラ。
オッサンとの出会いなんてただの事故なんだよ。どいつもこいつもビールに枝豆ばっかり食いやがってよぉ。それをな、指でチュパチュパしてる奴の性行為話なんて誰も聞きたくねーんだよ。まずは歯を磨けボケ。

いや待て、落ち着け。もう一つの名前を信じよう。横丁。歩けば出会いがあるはずだ、、。


テクテクテク、、、。


うん。ハゲ山にデブ岡、それにヌケ作、、、。

何だこの店!!帝愛地下労働施設なのか!?ペリカ払いなのか!?ウシウシ。とりあえず焼き鳥持って来いコノヤロウ!!


「タレと塩どちらにしましょうか?」


と、若い店員が話しかけてくる。
誠に不思議なのがオヤジくさい居酒屋に限って気前のいい女店員がいることである。男のわたしには理解できないが社交性を鍛える狙いでもあるのだろう。コレ以上鍛えてどうするつもりなのだろう?それはさておき美女の前で酒は進み、どんどん私の鎧は剥がれてしまっている。


「お兄さんビールのおかわりはいかがですか?」


あ~ん??
ウシウシ。もちろん頂くよ。君の前で飲むビールは最高だよ。でもね、、。これじゃあオヤジ街道まっしぐらなんだよ。えーん。こんなつもりじゃなかったんだよ、、。ちょっと聞いて下さいよぉ~。


「お姉さん、ちょっと聞いてよー。僕、今婚活中なの。でもシャイだから中々話しかけれないのー。だからここに来たのに誰もいないの~」


「えー-!!モテそうなのにもったいない!!アタシが誰か紹介してあげるから連絡先教えて下さいよー!」


え、、、。マジで?
いいの??こんな簡単なもん??


結局、自分の弱みを見せるのが一番いいのである。
ここで良かったのは「モテない」ではなく「シャイだ」と言ったことである。モテないと断言してしまえばソイツといる時間は無駄なだけであって紹介先にも失礼であろう。運よく言葉選びに成功した私は、社交性を飛び越して婚活アドバイザーと化した彼女のアンテナに引っかかったようで、すんなり紹介を頂くことができた。段取りも凄まじく、一週間後にまたこの店で飲めばいいだけである。もはや居酒屋のバイトに収まる器ではないだろう。





生身の出会いは確保した。次にやることはアプリ内でのパートナーの確保である。コレも不思議なもので生身の状態で乗っている時というのはメッセージにもそれが乗り移り、引きが格段に良くなる。いつもと同じく誠実な文章を打っているだけなのに、見る人によってフォントが自動変換されているのだろう。当然、そんなまやかしに引っかかる女などロクなものではない。


「メッセージありがとうございます(笑)こちらこそよろしくお願いします(笑)」


うん。返信してくれて嬉しいよ。嬉しいけどさ、、
(笑)の使い方間違ってない??何かおもろいこと言ったか?普通に、プロフ拝見して気になりましたって言っただけだぞ。失礼じゃない??その(笑)って「っぷ。こいつの顔超ウケんだけど」って言ってるのと同じだかんな。オマエの顔はどうなんだ?クッキーの画像にしてるけどホントにオマエが作ったやつなのか?


疑念を抱きつつ、重ねたやり取りの三通目に「直接やり取りしない?」の返事が返ってきた。本来喜ばしいことなのだが、何故か男のわたしが押されてしまっている。この女は何かおかしい。


業者ではない。アダルトでもない。それくらいの事はもう分かる。スピード感が変だ。うーん、、どうしよう??行くのか?最初に誘ったのはコッチだぞ。失礼じゃあないか?そうだ!!確かアプリ内で通話をできるサービスがあったはずだ。それで行こう。声を聞けば印象も変わるかもしれない、、。お互いにな。


「そう言ってくれてありがとう!でも、直接やり取りする前に電話できないかな?緊張するかもだけど、初めて使うサービスだから是非付き合ってほしいな」


「いいよ」


まずい、、、。気を悪くさせたか?
通話機能を使うタイミングとは本来50通目以降だと思うが今回は仕方がない。だってアンタ怖いんだもん。分かったって。下手に出るから。それで許してよ。


プルルルル。プルルルル、、


やべぇ、、。緊張する、、。
申し訳ないと思ってるからだな、、。やっぱり素直に連絡先を教えれば良かったな、、。


プルルルル。プルルルル。プルルルル、、


早く出ろアバズレ!!
3コール以内に出ろって教わらなかったのか?


ガチャ。


よし!出た!100点の声で振舞おう。


「こんばんはー!聞こえてますか?付き合ってくれてありがとうね!」


「、、、、、、、、」


「もしもし?聞こえてますか?」


「、、、、、、、、」


「あれ?もしもし?もしもーし!!」


「あ゛あ゛。聞こえてるって」


おい何だ「あ゛あ゛」って?
そんな言葉、文字でもなかなか出てこねーよ。打ち方調べちゃったよオイ。そもそも何でそんな声しゃがれてんの?ホントにそれが地声なのか?ジャイ子でもまだマシな声出すぞ。女子ってこうゆうとき120点の声出すんじゃねーの??つーか聞こえてんなら早く出ろボケ。女にここまでイラついたの母さんの運転以来だわ。


「で、何でわざわざ電話しようと思ったの?」


「うん、それはね。話した方が色々分かると思ったからだよ。現在進行形でありがとうね」


「ふーん、、。で、どう?印象は?」


最悪だよ。
よくこんな短時間で植え付けられんな?逆にスゲーよ。人間から嫌われるタイプだよお前。つーか何かテレてない?絶対テレてるよね?


「うーん、、。優しい感じがするかなぁ、、」


「そう。よく言われるの、、。でも気をつけてね。ウチのお父さんスゲー怖いから」


誰に言われんだよ?機械にしか言われたことねーだろ。ちなみに今のオレの発言も機械と一緒だからな?いつお前のオヤジに挨拶行くんだよ?何歩話飛んでんの??マジでコイツこんなにおかしい奴だったの?プロフ作成だけ外注したんじゃねーの?


「えー。怖いんだ。僕、怖い人苦手だから大丈夫かなー。じゃあさ、○○ちゃんがアプリをやってる理由ってやっぱり結婚相手なの?」


「いや全然。ウチね。最近アプリ内の彼氏に裏切られたの。それでもう絶対利用しないって決めたの」


だったらさっさと退会しろ。アプリ内の彼氏って何だソレ?サプリ内のチラシ並に実態ねーだろ。


「だからね。アンタは絶対そうじゃないって言いきれる?」


言い切れねーよ。そもそもそんな段階じゃねーんだよ。全部オマエの被害妄想なんだよ。


「うん。そうじゃない関係になれればいいよね、、。あっ!もう時間だね。短い時間だけど色々知れて楽しかったよ。またね!」


色々。色々な、、、、。


と、いった具合に彼女との関係は終わりに近づいた。
ここで煮え切れないのが私はこのような女性と関わったことがなかったことである。つまり免疫がない。もしかしたらが消せない。好奇心に勝てないということである。しかも、どんな相手にせよ生身のデート時に安心感を与えてくれるというのは事実であり、また向けられる照れ隠しの好意というのも案外悪くなく、ズルズルとやり取りを続けることになった。もう今日が焼き鳥屋へ行く日だというのに、、。


店員の彼女からは「まずは友達だと思って飲んで下さいね~」と伺っていた。大分年上である私たちの腹積もりに突っ込んでくるほど彼女は世話好きではなく、この距離感は正解である。これから会う女性をもてなす以上に店員の彼女に失礼があってはならないというのが正直な気持ちであり、この心の余裕が紹介先にも好印象を与えたのだろう。


「ZEN~。コレも食べていいー?アレも食べていいー?」


友達の店員の前なのか私の雰囲気が良かったのか彼女はのっけからタメ口全開で接してきた。私も変にかしこまれるよりはこっちの方が楽なので通常運転の会話をすることができ、冷静に彼女を分析してしまっていた。


何でいちいちオーダー許可取ってくるの?もういい年なんだし好きなもの食べればいいんじゃない?いやさ、、、。奢るよ。奢るけどさ、、。この注文の仕方って奢るありきの頼み方だよね。


「あたし、スナックでも働いてるんだ~。だからお酒止められなくてさ~。だってお客さんに申し訳ないじゃん??」


ふーん、そうなんだ、、。
もう飲めませんって言えば良くない??
アナタが飲みたいだけでしょ?ちなみに今のオレは客じゃねーかんな。あとさ、少し差別発言になるけどアナタ太ってるよね?痩せてる人が言う「お酒好きなの~」は許されるけど、デブが言うと「少し控えれば?」ってなるから。そうゆう世の中だから。


「アタシよく人から相談されるの。この前もね~~」


よく人から相談される人は自分からそんなことは言わない。アナタは自己肯定感を満たしたいだけの人間だ。おそらく昔はモテたのだろう。パッチリお目目のパンダ顔が今となっては膨らんでしまっている。愛嬌は今でもあるが、それだけでは長い関係を築けないだろう。


「あっ!もうこんな時間だ!終電逃しちゃう!とりあえずトイレ行ってくるね」


あーはいはい。この間に払っておけってことね。いいパス出すねー。でもさ、ちょっと露骨すぎない??オレに言わせて。「お手洗い大丈夫ですか?」って。その間に奢るのが男子の自己肯定感だから。


そしてたっぷりと時間をかけた彼女が戻ってくる。


「お待たせ~!!間に合わなそうだから急ごっか!」


ありがとうくらい言わんのかいっ!!


このあと結局終電を逃し、最寄り駅までのタクシー代を渡すと満足そうな笑顔で彼女は帰って行った。一回の飲み会で何が分かるというわけでもないのだが、これだけは言えよう。


金のかかる女だな、、、。




生身の紹介で次々がっつけるほど私は軟派な男ではない。次に紹介を頂くまでには相応の時間が必要であり、それが店員への礼儀というものだろう。受け身の私にとっては店員からの「この前の方どうでしたか?もし続いていなかったら次に会わせたい人がいるんです」待ちであって、このメッセージが届くまでこの店での物語は小休止ということになる。これを防ぐためにアプリ内でのパートナーを確保しておいたのだが、彼女も私に不信感を抱いており、その発端とは今回の飲み会である。「ウチ飲みに行く人キライ」と今回の飲み会を牽制してきたのだが、その時の優先順位は生身の彼女であって、そんなツンデレに構っている暇などなかった。
が、今は違う。このアプリ内の彼女を生身に引っ張り出すことが今の目標であって、その頃にはお互いの距離感をゼロにしておきたい。そのためにはある程度デリカシーを取り除いたやり取りをせねばならない。


「昨日の飲み会どうだった?」


「うーん。あんま面白くなかったよ。やっぱり行かなきゃ良かったね」


「ほらね。だからウチの言った通り」


だから、そのウチってやめろ。
関西人じゃねーんだろ?イラッとするから。オレが自分のことワイって言ったらイラつくだろ?素直にワタシって言えよ。


「そうだね。○○ちゃん以外とは行く意味ないかもね(笑)」


「え~。ウチは他の男と行く~(笑)」


出たなデレ助。
この人の見た目がよく分からん。しゃがれ声のインパクトが強すぎる。予想だが良い気がする、、。あとはどれだけ同調性があるかだ。案外良い関係になれるかもしれんな、、。


「え~。じゃあ僕も他の子と行く~!いないけどね(笑)」


「もう知らない!」


「出た!ツンデレ!」


「は?今なんて言った?」


は?
逆に何でダメなの?完全にこうゆう流れだろーが。つーかメッセージで「なんて言った?」って打つヤツ初めて見たわ。どうゆう設定にしてんだよ。即時消去法にしてんのか?そもそも「ツンデレ」って失礼な言葉なのか?褒め言葉じゃないのか?まずい、、。とりあえず謝っておこう。


「ゴメン、、。怒った?」


「怒ったっつーか呆れたわ。今までそんなこと言ってくる奴いなかったから」


嘘つけ。
ホントか?ホントに言われなかったか?だとしたら周りに人間がいなかったんだろうな。機械的な奴らに囲まれて育った結果がアナタということさ。


「本当にゴメン。やり取りが楽しくて調子に乗ったんだよ」


「ウチは好きな人を傷つけることは絶対にしない」


説得力ゼロだよ。
好きな人のハードル低すぎない??チョロすぎない??そんなすぐに本気になれるもん?


「アンタが本気で悪いと思ってるんだったら、二度と飲みに行かないって約束して。全部オープンにして」


やだよ。
嫉妬の域超えてんだよ。それが許される器量がお前にあるのか?


返信に困っている間にラッシュは続く。


「ウチは好きな人のためなら全てを直せる」
「例え妻がいたとしてもウチは気にしない」
「刺し違えてでも取りに行く」


怖ぇ、、。怖ぇよこの女。
マジでアプリ内だけの関係で良かったよ。このままフェードアウトだ。いいでしょコレは?だってドタキャンしたわけでもないし、、。みんなだってこうするでしょ?


断末魔が続く。


「何?なんで返事がないの?」
「何で電話してきたの?」
ツンデレなんて言わなかったらこんな事にならなかったのに、、」
「また裏切られた、、」
「通報してやる」




このアプリは私にとっては大事なコミュニケーションツールであった。これがホーム画面にあるだけで彼女の断末魔が聞こえてくるようで仕方なくアンインストールすることにした。彼女が言ったように「ツンデレ」というのは呪いの言葉として私の中に残っており、コレも一種の失恋に含まれるのだろう。


皆さん。言葉のチョイスは慎重に、、。