公人に笑われたら範馬勇次郎になってもいい

これは私が詐欺にあった時の話であって、「公人」とは警察官のことである。警察とは大変なところなのだろう。公務員特有の陰湿なイジメもあるだろうし市民から罵倒されることもあるだろう。でもね、、、笑うのはダメだと思うんだよね、、。





騙す人間ほど騙されやすい。
私は自分の事を詐欺師だと思ったことはないが、常に斜に構えながら「おっ、やるぞやるぞ、、、ほら、やった!」とバラエティーが好きな製作サイドの人間である。そのクセ、変にロマンチストな一面も持ち合わせ、終わった頃になって「あれ?間違った?」とキャスト側に回ることもあり、今回のストーリーがそれに当たるのだろう。




休日の昼下がり、コンビニから一人の男が出てきた。
郊外の駐車場の広いコンビニは家族連れで溢れ、子供たちは「あれも買って」と駄々をこねている。いつかは俺もこうなりたいものだ、と思いつつもそれが叶わぬ夢だとは自分が一番わかっているだろう。「ふう」と清々しい表情を作っているものの、パチンコで三万負けたという事実は拭えず、さらに三万を下ろしてリベンジを誓っているのだからそんな男の末路は知れている。ここで痛いほどパチンカスの心理を突かせてもらうと


やめてこの景色。何この一家団らん?この父親オレより若いんじゃない?いや、オレだってねヒマじゃないんだよ。青春謳歌してんるだって!さっきはたまたまフラれたけどね、これからまた告りに行くんだって!どう?うらやましくない?


「いいなぁお前は自由で」と既婚者が言う本音に混ぜられた皮肉に心底怯えており、「ここで明るい表情を出せないと全てで負ける」と無理をしてでも笑顔を取り繕うクセがある。誰もお前のことなど見ていないのに自意識だけは一人前である。


「あのー、すいませんちょっといいですかー?」


見ている人は見ているものである。
笑顔に引き付けられた見知らぬオッサンが私に向かって話しかけて来た。


あーはいはい。どうせまた道案内でしょ?マジでオレこうゆうオッサン引く確率高いんだよな、、。んな確率変動いらねーから。無駄使いだから。


「はい?どうしましたか?」


そう訪ねると「実はですね~」と言って、男は免許証を見せてきた。


何このオッサン??
どんな挨拶??どんな絵面??晴天の中での免許証交換とかカオスすぎんだろ。オレも出した方がいいの?つーか普通に恥ずかしいんだけど、、。みんな見てんだろ。


「実はですね、、。わたし出張でこちらの方に来てまして、、。こういう者なんですが、大変お恥ずかしいのですが財布をなくして困ってまして、、。何故か会社の方とも連絡が取れず、、」


一億個くらいツッコミ所はあるが、私は会話そっちのけで免許証の分析をしている。


まあ、偽造ではないな。シールを貼った痕跡もないし住所変更をした記録もある。たぶん本物だろう。


「なるほどー。つまりお金がないってことですね?貸しましょうか?」


「えっ!?ホントですか?ありがとうございます!!」


「まぁ、ちゃんと返してくれるんなら、、。ちなみに、おいくらですか?」


「大変言いづらいんですが、、。できれば三万円ほど」


オマエ見てたん??
絶妙すぎんだろ。うーんどうしよっかなー。たぶん次行っても勝てないしなー。徳積んどこうかなー。わらしべ長者になろっかなー。よし!なろう!


「いいですよ。でも念のため免許証のコピーと携帯繋がるかどうかの確認だけさせて下さい」


「はい!もちろん!ありがとうございます!」


お金を受け取ると男は颯爽に車に乗って去っていった。
こういう具合に見事三万を騙し取られ、何の恋愛要素もない話が終わった。

つーか普通に騙されないコレ??俺がバカなの??






「おい、昨日パチンコはダメだったんだけど面白いことあってよ」


男との出会いを同僚に話すと、いつもは爆笑になるはずのパチンコ談議が静まり返り、真顔での質問が返ってくる。


「えっ?まさか貸したの?」


「えっ?うん、、。だって免許証確認したし、、」


「そんなん何の保障にもならなくない?えっ?マジで?マジで貸したの?そうゆうネタ?」


あ、そっか、、。
えっ?チョット待って、、。コレめちゃくちゃ恥ずかしいヤツじゃない?ネタとかじゃないんだけど、、。普通に良いことしたと思ってんだけど、、。絶対広がるやつだろコレ。何で言っちゃったんだろ?まずいまずいまずい!!今すぐネタに切り替えろ!!


「ああ、、。そうなのよー!パチンコで負けた話ばっかりしてもつまんねーだろ。ほら、免許証のコピーも取ってんだぞ。面白そうだから名前検索してみるか、、」


「はは!全力だなー!んなもん出てくる訳ねーだろ」


「えっ、、。出てきた、、、」


「えっマジで?何て?」


「○○県の犯罪者、、。コソドロだって、、」


何で出てくんだよ。
どうゆう感情すればいいの?怒ればいいの?笑えばいいの?普通に金返ってくると思ってたんだけど、、。だって「二日後にこのコンビニで会いましょう!!」ってワンピースみたいな別れしたじゃん。あ、ダメだ。普通にイライラしてきた。


それをよそに「イーヒッヒッ」と爆笑する同僚の顔がさらにムカつきを増長させ、私は復讐を決心する。


「まあ、待てよ。落ち着けって。電話番号も控えてんだって。今からかけるから静かにしろって」


「出るわけねーだろ!!イーヒッヒッヒ!」


うっせー。マジで話す相手間違えた。


プルルル、プルルル、、ガチャ。


あ、出た、、。


「アーッハッハッ!ヒィヒィ、、。何で出んだよ!!さすが『コソドロ』!!」


マジで静かにしろ!!
失敗したらオマエから三万もらうかんな。


「こんにちわZEN吉さん。どうしましたか?」


どうしましたかってオマエがどうした?よくそんなセリフ吐けんな?


「えーと、、。お金足りてるかなって心配になって、、。三万なんて意外とすぐなくなっちゃうんで、、」


「あ、ありがとうございます!!そうなんですよ。色々、日用品とか買ってたらすぐなくなってしまって、、ええと、、もうチョットいいですか?」


なくなんねーわボケ。普通に一ヶ月持つわ。お前もパチンカスだろ?ギャンブルやる奴の「いい?」とか「いいですか?」って特徴あんだよ。クラッカーの歯クソみてーな臭いすんだよ。


「うーん、、。僕もそんなに余裕はないんですが、もう一万ならなんとか。困った時はお互い様ですし。それじゃあ約束通り、明日あのコンビニでいいですか?」


「はい!ありがとうございます!必ず耳そろえて返します!」


うっせー。何が耳そろえるだよ?何ちょっとウケ狙ってんだよ?マジでオマエ防御力低すぎない?満場一致でコソドロ認定だよ。




こんなにも面白いネタはないと、次の日、同僚もコンビニに着いてくることになった。余計なことはするなと断ったのだが、「凶器持ってたらどうすんのよ?ザコと言え犯罪者だぞ」という説得に負け同席を許すことになる。どうやら防御力が低いのはお互い様らしい。ここからの展開はつまらず、男はいつまで経っても現れなかった。おそらく面白半分に同僚が電話をかけまくったせいだ。C級犯罪者でもそれくらいは気付くだろう。


「あーあ。残念だったなZEN吉。もう少し面白くなるかなーって思ったんだけど十分楽しめたわ。えーと十万だっけ??まぁそんくらいの価値ある話だったんじゃね?」


と、少し物足りなそうな顔で帰って行ったのだが、私の落とし所は見つからない。


全然良くねーよ。お前のせいでストレスが消えねーじゃねーかよ。いいよねお前は。話盛るだけでヒーローになれるんだから。そのうち「三十万で掘られたww」とかなるんだろ?ふざけんな。経理の○○さんの耳にも入るじゃねーか。つーかマジで金返って来ないの??普通に三万って大金だからな?


落とし所を求め、私は警察署に逃げ込んだ。市民の味方などと神々しい印象は持っていなかったが、優しい対応しかされたことがなく、警察官に対するイメージは悪くはなかった。この時までは。


「すいません。先日詐欺にあってしまって、、」


「えーそれは大変でしたね。どのような形の詐欺ですか?」


あれ?何かいつもと違わない?
署内だからかな?リラックスしすぎじゃない?お茶飲んでるよオイ。


警察官にとって市内巡回とは営業の外回りのようなものなのだろう。そのプレッシャーから解放された彼らはテレビを見るかのようにネタを探しており、そのほくそ笑んだ顔は先程の同僚と全くおなじである。


しまった、、。場所を間違えた。
現場に来てもらえば良かった。しかも何人いるのここ?ちゃんと仕事しろよお前ら。


「どのような形と言われても、、。現金を直接取られたというか、、。渡したというか、、」


「えーと、つまりそれは恐喝や暴行ではないんですか?」


「はい。そうゆうのではないんですが、、。免許証を見せられて、お金を貸してほしいと言われ、、」


「ふう、ふう、それで??そのまま渡したと?」


いや、もう出ちゃってるから。
全員の視線コッチに来てるから。


「はい」


「ふう、ふう、ふう、ちなみにおいくらですか?」


「三万円です」


「ふう、ふう、ふう、ふう、ふう、ふう」


いっそもう笑えよ。出てけよ他の奴ら。人の不幸そんなに楽しいか?


「えーとZEN吉さんでしたよね?今おいくつですか?」


「今年で三十になります」


「うぷっ!ZEN吉さんね、、」


うぷ言うなコラ。


「ZEN吉さんね。あなたが優しい人だってのはわかったけどね。ふう、ふう、今の時代ね。ふう、ふう、ただでお金貸してくれなんていう人はね、、」


「あっ。でも免許証をちゃんと確認したんです!コピーも取ってます!車の車種も確認しました。黄色のコンパクトカーでした!」


「うん。それはさておきね。三十になってまでね。人を疑わないっていうのは、うぷっ、それはチョット何てゆうか、、」


聞けよボケ。
十分な物的証拠だろ。素人のオレでも捕まえれるぞ。


「えーと、そもそも何でこちらの警察署に来たんですか?」


は?そこまで言う?
ホント何コイツら?人の心ないんか?


「えっ?それはそもそもそんな案件じゃないってことですか?」


「あっ。違うの違うの。今回の場所は○○区の管轄なんです。こちらの方から話は通しておきますが、、。うぷっ、そちらの方にもう一度同じ説明を、、」


うぷっ。マジで吐きそう。
また?また公開処刑されんの?そんなニアミスくらいそっちで何とかしてくれよ。んじゃ最初からそっちに誘導しろよ。マジでぶん殴るぞ。


「わかりました、、。ちなみに取られた三万円というのは、、」


「うーん。たぶん無理じゃないかなぁー」


何で嬉しそうなんだよ!!






およそ十日後、警察から犯人逮捕の電話がかかってきた。絶対に私の渡した証拠が手がかりになったはずである。


「あ、ZEN吉さんですか。犯人捕まりました。コイツはね盗んだお金は全部パチンコで溶かしちゃってZEN吉さんの取られたお金は残念ながら返って来ません。コイツのように『チョロそうな人を狙って声をかけた』ってのを繰り返す犯罪者はたくさんいるから次は気を付けて下さいね。ははっ。それじゃあ失礼しまーす」


ははっ。マジでムカつく。
これからは全て拳で解決するわ。それじゃあ失礼しまーす。