一方通行に一方通行をぶつけてみよう
人は無意識のうちに自分のことを愛しており、結局は自分のことを話すのが大好きな生き物だと思うのだが、それでは会話のバランスがおかしくなる。では皆さまは、どのタイミングで「聞く」ことに重きをおくようになっただろうか?私は、恥ずかしながら遅かった。本物の一方通行に出会った時であった、、、。
私は「聞く」というのを勘違いしている人間であって、今でもその気は抜けきっていない。
「そういえば、これについてどう思う?」
「俺はこうだと思いますね~。ZEN吉さんは?」
「オレはね~~」
と言って嬉々として話しはじめる。話を振っておいて結局は自分の好きなことを話しているだけなのに、これで私50%、相手50%の会話が成立していると思っていたのだ。実際は私100%、相手0%なのに、、、。別にこれが悪いことだとは思わないが、これをしたいのであれば自分も定期的に100%聞く側にまわらなければフェアじゃない。だが、飽き性の私は会話をすぐに終わらせに行くクセがあった。よく使っていた手がこれだ。
「おい。ZEN吉ーちょっと聞いてくれよー」
「お!なんすか?」
「それがこの前よー」
「はっは。最高っすね!」
「、、、、、、。いや、オチまだだから」
まあズルい奴だと思う。
だって面倒くさいんだもん。笑顔なんだから許しくれよ。
このようなタイプは頭ごなしに「人の話聞けや!」と怒鳴っても絶対に変わらない。別に同調してんだからいいじゃん。と完全に開き直っている。人当たりが悪いわけではないので味方がゼロになることはなく、トラブルになっても必ず誰かがフォローしてくれる。男でもこういう人間は結構いるものだ。この人間が変わるきっかけはただ一つ、同じ属性のトップランカーと出会うことである。
私は以前から気になっている配送屋の男がいた。
私のいる建設業界で配送屋というのは本当に神様のような人種で、何百キロもある荷物を障害物をかきわけながら文句ひとつ言わないで指定された場所に置いていく。それが仕事だと言ってしまえばそれまでだが、心に神を宿していないと決して務まらない仕事だと思う。その男はいつも笑顔で、私たち現場の職人からも好かれていた。
「ちわー!この荷物どこ置きますかー?」
「おう!あそこに頼むわ」
「了解っす!ところで、ちょっと聞いて下さいよ~」
と、いつも楽しそうに自分のことを話していた。私たちが「オレらも、この前よ~」と返すと間髪入れずに
「ははっ。大変っすね!」
と言い、会話を終わらせてくる。
近い、、。近いぞコイツ。
完全にオレの上位互換だ。戦ってみたい、、。どっちがペラペラ話し続けられるか、一対一で勝負してみたい、、。
いつしか私はそう思うようになっており、運よく現場に私一人しかいなかった時、試合開始の笛は鳴った。
「ちわ~す!ん?今日ひとりっすか?」
「ちわっす!ひとりっす」
「へー。そうすか、、」
「はい。そうっす、、」
同タイプの会話の始まりというのはこういう風になる。どうやら相手も私のことを認めてくれたらしい。
配「大変すね~ひとりで~。オレなんかいっつも一人の仕事じゃないないすか?だから~」
Z「そうなんですよー。オレもプライベートいつも一人じゃないすか?だから~」
配、Z「、、、、、、」
先制点は絶対に与えない。先制点=決勝点になるからだ。長期戦に持ち込んでやる。待ちわびた試合なんだ。
Z「あ、とりあえず荷物あそこにお願いします」
配「わかりましたー。そういえば、さっきの現場で大変な目にあいましたよ~」
Z「オレもさっきケガしちゃって~」
配「いや、ジジイがね。オマエのかけてる眼鏡、それオレんだって訳わかんねーこと言ってきて~」
くっ。聞き返したい、、。
どんなジジイだ。ホントかそれ。
Z「いやー、さっきのケガ、めっちゃ痛かったな~」
配「ムカついてシカトしてたら、あっ!わりっ!そういえば眼鏡かけてたわって、バカみてーなこと言われて~」
確かにオレ達の世界にはそんなピント外れジジイはゴマンといる、、。
それを引き当てたか。とゆうか、もう3点くらい決められてないか?まあいい、とりあえずオレの得意な自虐ネタに持ち込もう。
Z「へー。災難だったすね。オレもこの前パチンコで10万負けちゃって~」
配「えっうそ!?オレ三日で100万!!」
どんな機種だよ。ウソつくなよ。
オマエそんな盛るキャラじゃなかっただろ。急に友達みてーな口調になりやがって。完全に意地になってやがる、、。絶対ツッコまないかんな。
私も意地になっていた。ツッコミとは聞く側の奥義であって、使用は負けを意味する。
Z「へー。100万すかー」
配「そうっす。100万」
Z、配「、、、、、、ははっ」
ちっ。泥試合で終わっちまった、、。
私たちのような飽き性はこういう終わり方をすることが多い。相手に聞く気がないとわかれば新しい聞き手を探せばいいだけで、世の中にはやさしい人間はたくさんいる。荷下ろし作業がおわり、配送屋があいさつをしてきた時、現場の空気は少し悪くなっていた。
配「ありがとうございました~」
Z「は~い。おつかれさまでしたー」
「、、、、じゃあなー。ZEN吉~」
えっ!?
終わったんじゃないの?
何て言おう、、、。
「、、、、。いや、友達かっ!!」
「やったー。勝ったー」
そう言い、彼は一方通行の道路を走り去っていった。
その姿を見ながら私は、「よし。人の話はしっかり聞こう」と決意するのであった、、、。