ミミズクのような髪型をしている男には気を付けろ
金にルーズな人間というのは髪型に表れると思う。一見するとストレートに整っているように見えるのだが、所々ピョンと立っただらしないクセ毛が存在しており、顔も生気があるのかないのかよく分からないミミズクのような男であった。
その男、会社内では有名だったようで「アイツには絶対、金貸すな」と囁かれていたのだが、交友関係の薄い私の耳には入っていなかった。彼との出会いは、私・同僚・彼の三人組体制で仕事を進めていく事がキッカケで、もしかしたら長い付き合いになるかもしれないので、最低限、仲良くしとく必要があった。
「ZEN吉です。これからよろしくお願いします」
「うん。コッチこそよろしく」
よかった。
人当たりがいい人でそうで。この人なら自由にできそうだ。
私たち三人の共通点は、何よりも自分の自由を優先させており、邪魔さえして来なければ相手の善悪など関係ないといったドライな思想を持っていることであった。そんな事を感じとってか、彼は会った初日に
「ちょっと3万貸して。引っ越しでお金なくなっちゃった」
と言ってきた。
「ああ、いっすよ。給料日には返してくださいね」
ここで貸す私もバカなのだが、私たちが最も嫌うことは自分の時間を奪われることであって、金を奪われることではない。それに、いくらドライな性格だからといって可哀そうだなぁと思う気持ちがゼロになったわけではなく、おそらく同僚も同じ気持ちだったのではないだろうか。
給料日が過ぎる頃になると、あちこちから被害者の声が聞こえてくるようになっていた。というのも、彼は最近この街に引っ越してきており、地方で起こした金銭トラブルが一部の人間にだけ知られていたのだが、そのモンスターが今まさにこの街で牙を剝き始めたのであった。
「アイツに金貸したけど返ってこねーんだよな~」
「あの人何なのさ!?あいさつもする前にいきなり10万貸してっておかしいでしょ!?」
これらの声を聞いて、私と同僚はやられたな、という感じでお互いの顔を見つめ合い、その表情はどちらも笑顔であった。3万円というのは確かに大金なのだが、私たち独身男性にとって絶望するほどの額ではなく、それにどうせこの金はもう返ってこない。ならば、さっさとバラエティーに変えてしまおう、というのが私たちの思想である。
「ZEN吉、金貸してるでしょ?」
「うん。そっちは?いくら貸した?」
「じゃあ、せーので言いあおうか?」
「オーケー。行くよ。せーの!!」
「3万!」「5万!」
「うわー!負けた!!」
「ははっ。オレの勝ち」
こんな会話を楽しみながら私たちは、彼の処分について検討していた。
アイツが捕まるのは時間の問題だ。これだけの被害者の数なのだから下手すりゃ暴力沙汰になるだろう。ならばどうする?オレたちの利点は毎日、仕事で顔を合わせることだ。よし。生殺しにしてやる。二人合わせて8万円。それくらいは楽しませてくれよ。
シンプルに体を痛めつけてやることにした。私たちは現場作業員であり、工事現場ほどイタズラに適した環境はないだろう。
気を付けろよ。大人が考えるイタズラはレベルが高いぞ。
「すいませーん!!ココ教えてもらっていいですか?」
「うん!今行くよ」
彼はわざわざ二階から降りてきてくれた。優しい男である。
「うわっ!あぶねっ!」
頭の付近にあった、釘の飛び出た角材をよけながら、階段の最終段を着地した。
そこには鉄パイプが置かれており、角材をよけた安心から注意力が散漫になっていた彼は、勢いよくソレを踏みつけた。
ぐるんと遠心力をつけた鉄パイプが見事に脛にヒットし、「あぅぅ」という悲鳴を上げながら、しばらくその場にうずくまっていた。
くくく。ごちそうさまでした。
骨が見えないのは不服だが今のでオレの分はチャラにしてやるよ。
同僚が行ったやつは少々タチが悪く、下手をすると労災になる。
まず地面にオイルを撒いておき、そこに重量物を運んだ彼を誘導するのだが、問題はその重さだろう。
「先輩~!コレ運ぶの手伝ってくださーい!」
「うん!いいよ!」
ホント優しいなこの人。
たぶん金銭感覚だけがおかしいんだろうな、、、。
「コレお願いします」
おいおい。さすがにソレはマズくないか?
150㎏はあるぞ、、。ホントに行くのか?
「行きますよ!せーの、よいしょっ!」
行きやがった、、。
オレもう知らねーかんな。
と、思いつつもワクワクしながら見ていた。オイル地点が近づく3.2.1.ツルン。
ドガッ!!!
「、、、、、、。ぅぅぅ、、、、」
うわぁ、、、絶対痛いよ今の。
転んだ後に150kgが降ってきたよ。赤甲羅ぶつけられた瞬間にドッスンに踏まれたよ。でも、ごめんなさい。マジでウケる。
「大丈夫っすか!?」と笑いをこらえながら問いかけると「うぅ、、、。ちょっと病院行ってくるわ」と言って、彼は去っていった。
さすがに少し心配していた私たちだったが、彼は普通の人間ではない。「おい!本当に病院行ったか、つけてみようぜ」。すぐさま車に乗って追いかけることにした。彼の車はありふれた車種で、探索は難しかったのだが、ただ一つの目印があった。
「ん?アレってそうじゃない?あの頭?」
「うん!絶対そうだよ!あの、もさっとしたミミズクみたい頭。しかも何か揺れてない?」
「ホントだ、、。めっちゃ合唱してんじゃん、、。絶対どこも痛くねーよアレ」
私たちの予想通り、ミミズクの車は数々の病院を素通りしたのち、パチンコ屋に入っていった。
ホント、クソだなコイツ、、、。
私たちがミミズクを見たのはこの時が最後であった。仮病を使ってパチンコ屋に通い続けているところを会社の上司に見つかったあげく、被害者たちの証言を突き付けられ、事実上の懲戒免職処分をくらったようだ。
皆さん、お金を貸すときは相手の髪型もチェックすることをお忘れなく、、、。