小泣きジジイ風ドライバーに取り憑かれた
ジジイが絶好調になる時というのは結構ある。若者が質問してくれた時、自分の自慢話をしている時、周りの愚痴を言う時。皆さんも経験があるだろう。聞いてくれる相手がモテない人間だともっと最高だ。自分の立場を忘れ、世界の中心にいると思えるらしく、私はその何とも塩辛っぽい世界に巻き込まれることになる。平べったい顔をしたタクシードライバーであった。
その日は街コンへ行く日であった。女性と話す免疫が少ない私は余計な体力を使わないよう、こういう時はタクシーを使うようにしている。疲れて油ぎっているスライムとは誰も話したくはないだろう。戦いには万全で望みたい。さっそくタクシーに乗り込み、戦いの場へと向かう。
「行き先はどこ?」
「○○駅までのお願いします」
っち。ジジイか。
女性のドライバーだったらよかったのに。会話のウォーミングアップにもなるし、いい人見つかるといいですね、と優しい一言をもらうだけで付き合った気分にもなれる。まあいい。ここで運を使ってもしょうがない。
「お兄さん、今日なんかあるの?」
まあ、口を湿らす程度には話してくか。
「はい。ちょっと街コンでも参加してみようかなって」
「あ~!!あの最近流行りのアレかい!?」
と、ジジイ特有のしゃがれ声で言ってきた。
ダメだ、、。コイツの声のトーンはエネルギーを消費するやつだ。
こんな所で無駄な体力を使ってたまるか。ちなみにもう街コンなんて流行ってないから。終わりかけてるから。
「わたしの娘もね、その街コンの中の合コンってやつで知り合った男とね、、」
いや、間違ってるから。
何でハンバーグの中にハンバーグ入れてんだよ。もういいから適当に流そう。
戦地に向かう気を汲んでくれたのか、その後はドライバーに徹してくれた。
「はーい。それじゃ1260円ね」
「はい。ありがとうございました」
「頑張っていい嫁さんもらいなよ!お袋さんも心配してるぞ」
そんな重たい集まりじゃねーんだよ。
余計なプレッシャーかけてくんなよ。あと、もうオレの家族だれも心配してないから。あきらめてるから。
この脳内のようにスラスラ会話できたらどんなに楽だろう。そんな事を思いながら私の街コンがスタートした。
結論から言うと私はこの「街コン」というものでいい思いをしたことがない。
二人で参加すると相方が私よりハイスペックなため完全にただの引き立て役になり、だからといって一人で参加すると実力不足で女性まで辿り着けない。今回のパターンは後者にあたるのだが負けた言い訳を聞いていただきたい。
「実力不足」といってもそんなものは度胸と場数の問題であってスペックは関係ないだろう。と謎の自信があるモテない系男子の私は、思い切って一人参加したのだったが、勝算はあった。女性陣にも一人で来ている強者がいることをリサーチ済みであったし、こういう女は男の度胸を見ている。徒党を組まずに向かってくる今回の私のような男がまさにピッタリだろう。あとは相手の周波数に合わせるだけで、余計な会話はいらない。さっそく一人のツンデレっぽい女性を見つけたので作戦を決行したのだが、勝負は10秒で決まった。
「一人ですか?僕も一人なんですよね」
「、、、、、、、、」
あれ?聞こえなかったか?
まあいい。大切なのは度胸だ。殻を破るんだ。
「ここ居心地いいので、しばらく居させてもらいますね」
「、、、、、、、。マジ、キモいからどっか行って」。
この一言で全てが終わった。
今後、全ての街コンを不参加になることはおろか、ツンツンしてそうな女性とも話すことができなくなった。
ソレ言っていいの?大人でしょ?
この傷はなかなか癒えずに今でも残っている。
良くないことというのは立て続けに起こるもので、帰りのタクシーの運転手も行きと同じであった。
「お~兄ちゃん!どうだった?」
最悪だ、、。今はそっとしておいてほしい。
でも、優しい言葉で傷の回復をはかるのもいいかもしれないな。
「ダメでした。ちょっとショックっす」
「ダメだよ~あんちゃん、それじゃあ」
何だコイツ。
だからダメだったつってんだろ。ぶっ殺すぞ。何があんちゃんだよ。オレ客だぞ。マジ殺すぞ。
怒りの感情がフラれたショックを押し上げ、ちょうどいい精神状態に戻してくれた。ショック療法というやつだろう。
「若いんだからもっと自分から行かないと~」
「はは。行ったつもりだったんすけどね」
「いや、オレが若い頃なんてね、、」
出た。ジジイの自慢話。しかも下ネタと合わさる最悪のコンボ。
「毎日女とっかえひっかえ、ずっこんばっこん」
キモいんだよマジで。
若い時のオマエなんて知らねーんだよ。聞いてるこっちは今のオマエがヤッてる姿しか想像できねーんだよ。キワモノAⅤコーナー下段中の下段なんだよ。
「いや~ホント昔の姿に戻ってそのなんだかコンってのに参加してみたいわ」
その猿みたいな考え方じゃオレ以上に無理だから。
あとオマエ若い時もブサイクだから。小泣きジジイみたいな顔しやがって。ぜってーモテないだろ。捏造してんじゃねーよ。
「あ、そこ曲がんなくてよかったすか?」
興奮してハンドルがフラフラしている。プロ失格と言っていいだろう。
「おっ、いけね。兄ちゃんがいろいろ聞いてくるから~」
いや、一回も質問してねーから。
コイツやばいな。どんな世界にいるんだよ。なんだか逆に楽しくなってきたな。
「最近の若いのって全然聞いてこないでしょ?うちの娘なんてもう10年近くまともな会話してなくてさ」
だろうな。誰だってそうする。オレだってそうする。
ほんと悲しい奴だな、、。
「おっ、家着いちゃったね。はい。3360円ね」
高い。
会話料を差し引いてタダになってもいいくらいだ。
「えっ?高くないですか??遠回りした分は、、?」
「それは講習料と紹介料!!今度、オレの娘紹介するかもしれないからね」
「、、、、、、、。」
「毎度さん!これ名刺ね。次もお願いね!」
「、、、、、、、。どうも」。
いや!!メーター戻せよ!!!