脆弱者で行こう

モテない中年のただの日記です

ジジイのボディーランゲージは人生の羅針盤

「オイ、ZEN吉!!オマエ何やってんだ?」。ちっ、うるせーな。私はこう思うタイプの人間であってキツイいい方をされると、たとえ自分が悪かったとしてもこう思う。そんな私が言う。年長者のやっていることは黙って従ったほうがいい。言っていることではない。やっていることだ。彼らの体は、まさに森羅万象であり、それを私は日常生活で教えてもらうことになる。


私はスローライフが好きで、ゆったりとした流れの中にいる時に幸せを感じる。つまり私は「待てる人間」ということなのだが、仕事では当然スピードを要求されることが多く、私も少しせっかちなモードになっている。このモードの切り替えをはっきりさせるために、私はプライベートでは「待つ」というのを大切にしている。ちなみに、

「おいZEN吉~、いつ彼女できんだ~?」

「あ、今待ってる途中っす」

「いや、もう終電行っちまったぞ」

というのが私の数少ない鉄板ネタであり、まあまあ気に入っているのだが、相手が何も返してくれないと私が罪人になる。



ある休日の昼下がり、私はスーパーまでの道を歩いていた。
緑がきれいな田舎道の30m先に老人が歩いており、すぐに追いついたのだが、待てる人間である私は抜かす気がせず、景色を見ながらゆっくり歩けばいいやと思っていた。後ろで歩いているうちに、ある考えが浮かぶ。

何でジジイってこんなに歩くの遅いんだろう?
ただ筋力が落ちたからってこんなにも遅くなるもんかな?
足の長さが短くなるわけでもないのに、、。腰も曲がってるわけじゃない。たぶんこの歩き方には何か理由がある、、、。よし。マネをしてみよう。

そう思い、さっそく2m先にいる老人と同じ体勢をとり、ゆっくりと歩きだした。
マニアックな表現になるが米軍基地に侵入した時の列海王のような感じで、完全に気配は消している。絶対にジジイに気づかれることはない。

ふーん。なるほど、、。わかってきたぞ。

列車は進む。超低速の二両編成だ。スーパーという名の終着駅を目指している。どうやらこの老人もスーパーに用があったらしい。


「駅」に着く頃には、私は完コピ目前まで迫っていた。

列車が駅のホームに入ると人々が異様な眼差しで私たちを見てくる。それはそうだろう。車両編成がキモすぎる。一両目が古びたSLなのに対して二両目が中年列車なのである。老馬の交尾に見えなくもない。誰が見ても確実に引く。そのうちの一人のババアが怒りの眼差しでこちらを見ている。

ちょっと待って!違うんだ。
何もオレはジジイを馬鹿にしてふざけている訳じゃないんだ。この人生の大先輩から学んでる最中なんだ。マジで邪魔するな。だまって卵でも買ってろババア。

ついに見かねたババアがこちらに歩み寄ろうとしてきた。

ちっ。限界だな。

私はここで車両を切り離す。いい大人になってまで公衆の面前で怒られたくはない。

まあいい、、。つかんだ、、。
この「ゼロG歩行」。


何もそんなに難しい歩き方ではない。
ゾンビのようにすり足でゆっくり歩くだけだ。ただ、ゆっくりだ。足は極力、上げないようする。足を上げると重力に引っ張られ、Gがかかるからだ。スピードも速くなってはならない。速く前に進むには筋力を使う必要があるのだが、ゆっくりと進むのに筋力は必要ない。ポンっとボールを転がすイメージだ。

老人から教えてもらったこの「ゼロG歩行」を習得すると、普通に歩くのがバカらしく思えてくる。温泉帰りなど一切、力を使いたくない時との相性は抜群なのだが、注意点は狭い道では使用できないことである。いつだったか、あまりの遅さに業を煮やした女子高生に「オマエさっきからマジでキモいんだよ!」と突き飛ばされ、結果、何倍もの筋力と精神力を使うはめになったことがある。

そう。この歩き方をしていると周りが見えなくなくなるのだ。いや、逆に見えすぎるというか何というか、まるで植物になったように喜怒哀楽の感情がなくなり、空間と同化したような感覚になる。これぞスローライフの極地ではないか?という自己満足に浸っていた私はあの女子高生が言うように普通にキモいと思うのだが、別にいいです。知ってます。



仕事帰りにコンビニに寄った時、新たな気づきを与えてくれる出来事があった。

「ふぅ、最近忙しすぎだろ。もう何も考えたくない、、」

枯れ果てた植物のようになっており、店内を歩く足取りは、もちろんあの歩行である。弁当を買い終え、温めているところに二人組の老人が入ってきた。

「おー!もう恵方巻の季節かー!」
「いいね~!食いてーな!」

恵方巻の飾りつけごときに、はしゃぐことができるやけにテンションの高い少年のような二人であった。その時の私の感情は無である。

「あ~もうねーじゃん!」
「ぐわ~!」

漫才のようなリアクションをとり、こちらを見てくる。
どうやら私に笑ってほしいらしい。私はまだ動じない。

「お!まだあるじゃん!」
「お!ホントだな!」

と、天井に貼られた恵方巻の飾りを指さしながら言っており、それを見た私の表情は少し緩み出す。

「う~!届け~!」
「ゲロゲロッ」

カエルのまねをして飛び跳ねていた彼らを見て、

「ははっ」

と、思わず笑い声が出てしまった。

私の笑顔を確認した二匹のカエルは満足そうにコンビニを出て行った、、、。



いや~、ジジイのカエルのまねは反則だろ。
あれで笑わない奴いないだろ。

達観した枯れる美しさもいいが、人間の活力はやはり笑いだろう。
そうだ。オレもああいう年のとり方をしよう。

そう思い、弁当が冷めないようにと、私は走りだすのであった、、、。