「はぁ?何キレてんの?」

シンプルかつ最強のセリフではないだろうか?これを言われたものは、ただ苦笑いを浮かべあきらめることしかできなくなる。使用年齢、対象年齢ともに幅広く対応しており非常に便利な言葉である。私の後輩にこのセリフを変化球のように使いこなす男がおり、シンディ・ローパーのような男であった。


同じカテゴリー内にいる人間に求めるものはなんだろうか?
私たちは善悪を求めない。そんなのものは曖昧過ぎてよく分からないからである。私と、このシンディ・ローパーが求めているものはただ一つ。ナメていい人間かどうかだ。「ナメていい人間」になるためにはいくつか条件がある。

やはり独身がいいだろう。軽くフワフワした空気は一緒にいて居心地が良く、既婚者でもいい雰囲気を放っている人はたくさんいるが、窮地に立たされると「オレは家族食わさなきゃなんねーんだよ!!」という殺し文句を言ってくる危険性がある。

次に、決して仕事もできるようになってはならない。デキる男は基本的にせっかちなオーラを放っており、自虐ネタなどを使って上手くバランスを取っているが、それだけではこのオーラを取ることはできない。左遷や離婚クラスの特上のネタに突っ込む必要がある。

あと、当たり前の事だが暴力的な男もNGだ。私のいる建設業界では昔はかなり存在していたらしいが今ではもう絶滅危惧種のようで、素直にこのまま絶滅の一途をたどってほしい。

話をまとめると、「ナメられる人間」というのは独身で仕事も中途半端な弱々しい奴だということで、私がこれに該当する。それを嗅ぎつけたシンディはいつしか私と一緒にいる事が多くなり、私もかわいい後輩ができたということで悪い気はしていなかった。補足をするとシンディは、私と全く違うタイプの人間で基本、モテ道を突っ走っており、古い言い方をするとリア充というやつだろう。



「ちょっと、今度女の子とお茶することになったんだけど、、、」

シンディに相談することがあった。恋愛に関してはあちらが大先輩である。

「え、どーせババアでしょ。てかそれホント?パチンコの演出じゃないの?」

恥を覚悟に聞いてんだからもうちょっとマジメに聞いてくれよ。だから、その演出が潜伏確変かどうかをオマエに見極めてもらおうとしてるんだって。

「いや、ホントだって!ほら、このメール見て!」

「あ~もう面倒くさい。後でね」

くっ、コイツ。完全にナメてやがんな。

だが、これは仕方がない。私が望んだ関係だ。私も舐めきっている先輩にこのような態度を取ったことがある。


数時間後、思い出したかのようにシンディが聞いてきた。ナメてる人間には、自分の話したい気分の時にだけ話せばいい、というルールがある。

「そういえば、そのおばあさんとどこ食べに行くの?」

「だから、女の子っつてんだろ。えーとね、ここのカフェ予約し、、、」

そこまで言ったところでこの男のブレイクダンスが始まった。

「えっ!!なんでカフェとか予約してんの!?バカじゃねーの!?アーハッハー!!ヒィーーッヒ!!」

えっ?そうなの?
カフェって予約するもんじゃないの?

私のきょとんとした顔がさらに踊りに拍車をかける。

「ヒィーーッヒッヒ!!カフェ予約する奴とか初めて聞いたわ!そーゆう場所じゃねーから!ハァーッハッハ!!」

ちなみに、この男が転がっている地面は雨上がりのヘドロ道である。どうやら人間、爆笑するときは自分の立っているグランドラインを忘れるらしい。

「ハァハァ。で、何て言って予約したの?」

「ええと、二名で予約したいんですけどって、、」

「アーハッハ!!ヒィーヒィ、、。その顔で??ヒィーヒィ、、。まじ死ぬ、、。ハラいてー、、」

顔は関係ねーだろ。

さすがにここまで笑われると恥ずかしさより怒りの方が強くなってくる。しかもシンディはスピーカー体質の人間だ。ここらで止めておいた方がいいだろう。

「もういいって。わかったって」

「ハァハァ。みなさ~ん!!聞いてくださ~い!!」

「いや、やめろって!」

「この男は~これから~」

「おいっ!」

「ババアと~」

「シンディ!」

「スタバでセックスしま~す!!!」

「ふざけんよコラッ!!!」

しまった、、、。
ほぼマジギレになってしまった、、。


、、、、、。


「はぁ~?何キレてんの?」

「、、、、。いや、ふつうキレるでしょ」

「そんなことでキレてたら彼女できないよ~」


、、、、、、。

無敵だな。
どう切り返しても勝てないだろこれ。ハメ技かよ。

ちなみに、シンディの言った通り彼女とはハメ技する関係になることはおろか、初デートの前にフラれるというハメ技を喰らうことになるのだったが、ここでは詳しくは触れない。



まだある。
現場で残業していた時、シンディが牛丼を奢るのを条件に手伝いに来てくれた。こういう可愛いところがあるからコイツとの付き合いはやめられない。

「ZENさ~ん。全然終わってないじゃ~ん」

「しょうがねーだろ。オレ仕事遅いんだから」

「うん。知ってる」

「いや、否定しろよ。とりあえず、ちょっとそっち持って」

「は~い」

だが、思うように作業が進まなかった。
基本的な段取りが悪い、という仕事ができない奴の典型的なパターンにハマっており、残業中ということも重なってかなりイライラしていた。

「もう~。全然ダメじゃん。もうやめて早く帰ろ?」

その通りである。
こういう時は傷口が大きくなる前にさっさと帰るのが一番なのだが頭に血が上って、正常な判断ができなくなっていた。

「いや、もう少しやる」

「え~、ホント意味ないって。早く焼肉食べたいんだけど~」

「いや、牛丼だから。早くそっち持って」

「え~。話がちが~う」

「早く!!」

ここでシンディのハメ技が発動する。

「意味ないって~。絶対また間違えてるって~」

「いや、今度は確認したから大丈夫」

「そうやって昨日も一昨日も何年間もミスってきてんじゃん」

「うっせーちょっと黙ってろ。ん?あれ?」

「ほらっ!またやった」

、、、、、、、、。

「ははっ!マジうける!」

、、、、、、、、。

「ね?だから言ったでしょ?」

「うるせぇー!!!」



来るぞ、、、、。



「はぁ~?何キレてんの?」

、、、、、、、、。

「せっかく手伝いに来たのに~。は~い焼肉に決定~!」

、、、、、、、、。


「うん、、、。わかった」



おわかりいただけただろうか?
結局はシンプルな言葉が一番強いのである。歳を重ねるごとに口が達者になり論破することに快感を得るようになる。
だがそんなものは、子どものセリフで簡単に消し飛ばすことができる。私は語彙力を鍛える時は、それと同じくらいシンプルな言葉を忘れないようにしている。

えっ?相変わらずつまんねーブログだなって??




はぁ?何キレてんの?


 

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