脆弱者で行こう

モテない中年のただの日記です

人間は歩き方で見極めよ

よく外見には内面が表れるというが、それには私も賛成である。ここでいう外見とはアップで写した時の表情や服装のことを言うのではなく、30mくらい離れた「引き」のアングルから映る姿のことを指し、その人の性格というか気分というか、、、。どちらにせよ曖昧な答えになってしまうのだが「歩き方」というのは人間を見るうえで大事なファクターである。


「歩き方」というのは職業病と言ってもいいだろう。営業職などイメージを優先してしまう仕事だと、ある程度標準的なクセのない歩き方に矯正されてしまうのではないだろうか?だが、私のいる建築業界の職人たちは違う。彼らの歩き方は十人十色であって、一見すると悪ぶっていた頃のガニ股歩きが抜けきらず皆同じように見えるのだが、よーく見ると一人ひとりの個性が表れた絵画のような作品に感じられるのである。

十人十色とは言ったものの、やはり7割以上はヤンキーのようなガニ股歩きをする者で溢れており、これは本人がこの歩き方がカッコいいと思っているのが第一の理由である他に、我々の制服がそうさせるのである。サラリーマンが着こなすスーツは「ブレーザー」のようにシュッとした真っすぐな感じがするのに対し、私たちの作業着は動きやすさを考慮したダボっとしたものが多く、イメージとしては「学ラン」といった感じを受けるだろう。この学ランチックな作業着は少しガニ股で歩かなければ、ももの部分がすれてしまって作業に影響が出てしまい、しかも一部の女子がカッコいいなんて言うもんだからいつまでたってもガニ股歩きが抜けない四十路ヤンキー・五十路ヤンキーが出来上がる仕組みになっている。

100%個人的な偏見になるのだが私服姿でもこの歩き方をする人間は多様性が薄いと判断してもいいだろう。彼らはこれまでに何十回も「パパその歩き方恥ずかしいからやめて」と言われているはずなのに変えることができず、私服姿になってまで現場感が漂ってしまうのは仕事時のキャラクターをそのままプライベートに引っ張ってくる切り替えが苦手なタイプであることが考察できるだろう。つまり、スポーツ選手のような太ももがぶつかるくらい筋骨隆々な人間以外がこのガニ股歩きをしていた場合、高確率で自分の意見を曲げない頑固者であることが多く、実際に話してみるとそんな感じは受けないのだが長い付き合いになればなるほど「ああ、やっぱりそうだったか、、」と納得せざるを得ないことが多々あった。私が思うに「人は第一印象がすべて」の第一印象とは、会った3mの距離で決まるのではなく、目に映った30mの距離で決まるのではないだろうか。

ホントそうじゃない??
大抵この歩き方してる奴ってキレたら勝ちだと思ってる奴ばっかじゃん。しかもいくらカッコよくても「ガニ股」って超ださいネーミングのせいでどう頑張ってもマイナスだからな。

ヤンキー歩きの批判はこれくらいでいいだろう。言ってしまえばただの好みである。私が興味のあるのは少数派である「内股歩き」もしくはそれよりレアな「片足体重」の者たちで、それに「猫背」を加えることで100m先からでも希少種であることが確認でき、彼らに対する憧れからか私は片っ端からマネをしてみることにした。

内股歩きの代表格といえば世界の「イチロー」であろう。
野球部出身の者からすれば本当に「神」と呼べる存在であり、神のことを「あいつカッコつけすぎ(笑)」などと言っているものがいるが、神なんだからカッコつけるのは当たり前だろ、と諭してあげるのが私の務めでもあった。

くぅ~!イチローまじでかっけぇー!!
そのクネクネした動きホント最高!!たまにするオカマみたい発言も最高!!

イチロー信者の私としては全てを真似したかったのだが、私のメンタルとフィジカルで出来ることといえばあのセクシーな内股歩きくらいのもので、運よく体型だけはイチローと近かったこともあり日夜習得に励むことにした。

信者だから言うのではないが、この「イチロー歩き」はマジで全員が取り入れた方がいい。背筋をしっかり伸ばしながら内股で歩くことによって肩が勝手に揺れ、何というか無敵のテンションになることができるのである。しかもガニ股肩揺れのような「どけよてめー」みたいな野蛮な感じではなく、「アタシ今恋してます」的なスーパーヒロインモードに突入することができ、このメンタルを身に付けた者の大成する確率は低く見積もっても3割5分といったところであろう。なるほど、世界の安打製造機はこうやって生み出されたのか、と納得した毎日を送っている私に水を差したのはニューヨークヤンキースの腐れファンのような先輩であった。

「おいZEN吉!!オマエ最近何よその歩き方?気持ちわりーからマジでやめろ!!」。

はぁ?なんだコイツ?
お前らのヤンキー歩きのほうが百倍キモいんだよ!!つーかお前それイチローの前で言えんのかよ?たしかお前も野球部だったよな?

「いやぁ、、。これイチロー意識してるんですよね、、。へへっ」

「バカかお前?それイチローがやるからカッコイイんだよ!!お前みたいなブサイクがやってもメダパニ踊ってるようにしか見えねーんだよ!!一人だけピチっとしたズボン着やがって!動きづらくねーのか?とりあえずウケ狙いならもう分かったから明日から普通に仕事しろよ。目ざわりだからよ」。

言いすぎだろ、、。
容赦なしかよ。マジでヤンキースファン並だろ。死ねよ。ブーイングのしすぎで変形骨折しろ。ファックできなくなれ。マツイのホームランボールで想像妊娠しろ。

イチローの精神力をもっていない私にとってこの一言によるショックは大きく、しばらくイチロー歩きを封印することにしたのだが、職人には職人の正解がある。

熟練工が見せる片足に体重が乗った不規則な歩き方はその人が培った技術の歴史を表しており、現場でする「一服」というやすらぎの時間を経て完成された猫背はその人の人柄を表していた。

私たち現場作業員は現役生活50年のスポーツ選手のようなもので、長年重いものを持つなどの作業をし続けると体に偏りが生じ、歩き方が微妙にズレてくる。もちろん全員がそうというわけではなく、その歩き方を身に付けた者を本物の熟練工といっていいだろう。それでいてあの猫背。あの猫背は一服中のリラックスした姿勢によってできたもので、年中ピリついている切り替えができない輩では決して得ることができない「優しさの証明」でもある。私の目算だとそのような人物は100人に1人くらいの珍しさで、運よく私の会社に存在していた○○さんをよーく観察することにした。

ふむ。なるほどね、、。
○○さんは怖い人で有名だが、怖いというかコレは覇気だな。真剣さゆえの覇気だ。確かに目の前に居たらビビる。でも一服中のあのリラックスした顔はただの「怖い人間」では絶対に出せない表情だ。見ろあの猫背。猫背になりすぎてお辞儀になってやがる。みんなが緊張している理由はコレだろう。年長者にお辞儀されちゃたまらんからな。
そしてあの歩き方よ。
どうやったらそんな片足体重になるんだ?おそらく自分の得意とする右半身で全てを受け止めてきたんだろう。どこまで真っすぐな人なんだアンタは。そのウォーキングデッドみたいな歩き方もビビらせる要因になっているんだろうな、、。

そんなことを思い、遠目から大先輩を分析していた私はヤンキースがこちらに近づいてきていることには全く気付いていなかった。

「おいZEN吉!!なにボーっとして○○さん見てんだ?」

「えっ!!?いや、、。あの、、。別に、、、」

「別にじゃねーだろ!!オマエ仕事できねーんだから教えてもらって来いよ!!」。

ヤンキースに連れて行かれた私は、○○さんの真剣な表情にビビりまくったあげく凡ミスを繰り返し、帰る頃にはヘトヘトな片足歩きになっていた。その姿を見た○○さんは昔の自分を思い出したのか

「おつかれさん。明日も仕事頑張れよ」

と笑顔で言ってくれたのに対し、ヤンキース

「ったく。オレに恥かかせんなよ」

という大打撃を与えてきた。



死ね。大谷の160km顔面に喰らってろ。