一日一食って一人一殺くらいの難易度じゃね?

最近流行りの「一日一食」。カロリー計算はどうなっているのだろう?男性なのか女性なのか?仕事は?一食で必要カロリーを摂取するのだろうか?だとしたらこう言いたい。「アンタら人質でも取られたの?」と。



この情報社会。有益な情報に飛びつかなければ損害を出すことは必死であり、そこに変なプライドは不要であろう。人生の大多数を占めている「食」のテーマは少々重く感じたが、モノは試しだなと思い実践を試みることにした。結論としては失敗に終わったのだが始めたタイミングはベストであって、「食」というものに疑問を感じていたし、ちょうど体力を使わない休職中ということもあり、余計な言い訳がない素直なデータが取れたと思う。


始めたキッカケとなった言葉は「空腹は最高の薬」や「食事は中毒」といった、いかにもミーハーが引っかかりそうなフレーズであったが、大切なのはそれが真実なのかであって、この情報社会において嘘がトップページに来るということは最早あり得ない事だろう。


ここで知りたくもない私の身体的データを公表すると、身長175cmに体重65kg、食べても太らない体質で割りと筋肉質。顔は昔はキモいとよく言われたが、年を取るに連れ普通??と言われることが多くなり、公平な判断をしても中の下から中の中の間に収まると思われる。


だけど圧倒的にモテない。


何で?何故なんだ?
少しは分かる。モテないと分かりつつも「モテたい」と思っているのが顔に出てるのだろう。でも、そんなの全員そうでしょ?普通の事だろ?
いや、ちょっと待て。
「普通」がよくないんじゃないか?健康的なこの体が「どう?モテそうだろ?」という鼻につく印象を与えているんじゃないのか?きっとそうだ。どちらにせよ何かを変えなければ活路はない。よし、やろう。


ならば後は調べるだけである。
全く便利な世の中になったものである。
俺に相手が居ないことを除いてな、、。


ふう、、。どれどれ、、。


「食事は一日一食で十分!!それ以外は、軽めのサラダやナッツ、コーヒーで済ませましょう!!」


ふーん。
つーかそれ一日一食って言わなくね??
何で野菜と豆類カウントしねーんだよ。ズルいだろ。コーヒーなんてただ固体砕いただけだかんな?固まる前のコンクリートと同じだかんな。つーか、カッコつけたいだけだろ?「節制しているアタシを見て」ってか?いーよ。見てやるよ。そのかわり服着るなよ。


おっと、まずいまずい。ひねくれた部分が出てしまった。コレじゃあ何時まで経っても行動に移せない、、。もっとオレ寄りに書いてある記事を読もう。おっ!コレなんかいいんじゃないか?


「オレ、冴えない現場作業員。生まれてから彼女なし。でも、、。一日一食にしてから人生が変わりました!!それは、、」


うん。もうわかったよ。
エロ本の裏に載ってるパターンね。すっごいグラマラスな彼女できたんでしょ?一億回転んでもそんなことあり得ないんだけど、それに期待してる自分が悔しい、、。だってトップページなんだもん、、。


「それは、、」


それは??
早く言え。くされ童貞。


「それは、近所のお爺さんやお婆さんにゴハンを呼ばれるようになったことです!!これによって私は食費が~~」


そっち??
ゴメンもう一回。
そっち??
ダメだってお前それは。これ以上腐ってどうすんの?何でそっち行った?いい味出しすぎだろ。何で?何でこんなのが検索エンジントップなの?どうゆうこと?「高齢者ハンター」が今のトレンドなの??


Google先生たちは、本人が何を目指しているか全てお見通しである。本人は自分の意思で動いているのかもしれないが、それは遥か上空から指された盤上の一手であって、私は先生の意思に逆らうことは出来ない。


くそっ。時間をムダにした、、。
出会い系サイトでだまされた気分だ。エロサイトでも見て気分転換しよう、、。ん?そういえばいつも熟女系がピックアップされるな、、。「高齢者ハンター」とまでは行かないまでもオレの本質はそれに近いものがある、、。それだ!!甘えよう!!年上に。現実でも。痩せよう。いつから?今でしょ!古っ!



こうなると私は計画的に利己的に動くタイプの人間である。
まずはメニュー。「玄米、納豆、ゆでたまご、サバ缶」。これを一日一食、約1200カロリー取れば、栄養失調になることはないだろう。これを毎年取り入れているニート期間にぶつける。食費は500円に収まるし、筋力が落ちても問題はないだろう。生活は家と図書館の往復でいい。ただひたすらに。ただひたすらに、あの人の家の前を通ればいい。


「あの人」の事を私はよく知らない。
わかっていることは、いつも読書しながら弁当を黙々と食べており、静かな人なのかな?と思っていたのだが、サッパリした会話の際にできる口角のシワが勝ち気な性格を想像させる。年は40~50で独身。あの色彩豊かな弁当は食への楽しみというより、「早くアタシに作らせてみなよ」という意味合いが強い気がする、、。そんな人に甘えてみたい、、。


私のニート期間は一月半。その間彼女は普通に働いている。遭遇できるチャンスは一回か二回、良くて三回だろう。一回目が大事だ。なるべく早く。こればかりは運だ。これ以上調べるとストーカーになる。





「ぜ、ZEN吉くん?おはよう。お休み?」


か、神よ、、。ありがとう。
アパートとそれに逆算した出社時間は調べたが、ここまで早く会えるとは、、。今はニート期間一週目。ここでのジャブが全てだ。命をかけろ。


「あ、おはようございます。家ここら辺なんですね?はい。しばらく休みなんで散歩がてら図書館に行こうかなって」


「あ、そっか職人さんたち今仕事ないって言ってたもんね。それじゃあ、ごゆっくり」


「はい。ありがとうございます」


よし。これでいい。
この人はサッパリ系だ。そうそうの事じゃ会話は広がらないだろう。図書館というワードを出せただけで十分だ。別れのあいさつも良かったんじゃないか?「頑張って下さい」なんて禁止ワードだ。そんな体力などもうない。ただ「ありがとう」。それがシンプルかつ最強だ。


仕込みは終った。
後は少食を貫き、読書をするだけである。


食べても太らない人間というのは代謝が良いというより燃費が悪いだけである。筋肉を使おうが使わないがエネルギーを摂取しなければ、みるみる痩せてドクロのようになっていき、そこから感じられる幸せはないだろう。贅沢な悩みかもしれないが、幸せそうという面では代謝が悪い人間の方が優れている気がする。

が、その不幸せが母性本能をくすぐるのだろう。
ニート期間は四週目に差し掛かっており、図書館帰りの私の足取りは普段とは比べものにならないほど弱々しくなっていた。


き、きつい、、。
なめてた、、。栄養なんて取れれば何でもいいと思ってた自分をぶっ殺したい。ピザが食いたい、、。野菜でもいい。色。カラフルなものが見たい。もう茶色の食い物はうんざりだ、、。


そこに彼女が現れる。
真っ赤なセーターが夕日を浴び、さらに赤くなっており、色白の彼女の美しさを引き出していた。これ程のシチュエーションでは当然わたしの顔も赤くなるはずだが、そんな血管などガイコツに通っている訳もなく呆然と彼女を見届ける。


「あ、こんにちは。また会いましたね」


「こんにちは。ZEN吉くん痩せたよね?大丈夫?」


「うん。大丈夫ですよ。働いてないから少食にしてるんです」


馬鹿な男である。素直にお腹減ってると言えば、飛び込む話もあるだろうにそれが出来ないために何百もの話を潰している。だがその気持ちは彼女もわかるのだろう。母性本能というより自己投影に我慢できなくなって彼女は私の前に立っている。


「うそ。絶対大丈夫じゃないよ。日に日に弱ってるよ。あなたの歩いてる姿、アタシの部屋から見えるの」


よし。計算通り。
彼女の部屋は西面だ。大事なのは夕日だ。朝日なんて眩しすぎる。夕日に照らされたダメ男。こんな哀愁漂う男もいないだろう。彼女がカーテンを閉める時間帯を狙ってただひたすらに歩く。これがオレの節制だ。言っておくがオレはストーカーじゃない。プランナーだ。計画通り。計画通りだけど喜ぶ気力がない。疲れた。


「はは。見られてたなんて恥ずかしい。もっとシャキッと歩けば良かったですね。あ、でもムリするのも良くないかな、、」


「そーだよ。強がってもいいことないよ。はいコレ。もう見てらんなくてさ、、」


「え?コレって?」


「何じゃないよ。リンゴだよ。食べやすいように切ってあるから皮ごと食べてよ。急いで切ったんだから、、」


「きれい、、」


「大げさ。そんなの誰でも切れるよ。とにかく若いんだからちゃんと食べなさい。それじゃあね」


「あ、ありがとうございます」


最高だ、、。生き返った。
でも、落ち着け。間違ってもスキップなんてするな。振り返ってもいけない。トボトボ歩き続けるんだ。これは三回目も確実にある。その時に決める。何を?男さ。


その夜、男は迷っていた。
見つめる先は銀杏風に切られたリンゴの酸化が進んでいる。


どうするこのリンゴ?
食うのか?いや、捨てるという選択肢はない。それは人間道に反する。かといってルールも貫けないような男もどうしたものか、、。メニューにない食事だぞ。どうする?リンゴが茶ばんで来てやがる、、。台無しだ。赤い。彼女のテーマカラーが、、。オレの心はどうだ?


赤い!!
食え!!


ムシャムシャムシャ、、。




ニート生活最終週。
そこには擬態をしている男がわざとらしい猫背で歩いている。


ぐへへ。メニューにリンゴを加えてからすこぶる調子がいい。いや、相変わらず腹は減ってるよ。でも潤うんだよ。心がな。そろそろだ。今日あたり彼女は現れるはずだ。今日は夕日がきれいだ。オレはその輪郭に合わせて背中を丸めていればいい。


すると、目の前に白のロングスカートが現れ、男は視線を上げる。ダメな男の視野は恐ろしく狭い。あっ、今日も赤いセーターだ。上へ。あれ?今日は体のラインが分かる。スタイルに自信があるんだな。上へ。そろそろ髪なんだけどな、、。あっ!ショートカットになってる!きっと何かを決心したんだろう。


「遅い!すぐ挨拶する!」


「こんにちは。今日は元気なんですね」


「今日はって何よ?ZEN吉くん」


「はは。すいません」


ぐへ。ぐへへ。
もうすっかり主従関係が出来上がっている。主人はオレだ。しっかり支えて下さいよ。


「ホントすっかりガオっちゃって、、。そんなんで現場復帰できるの?」


はい。ガオってますよ。心身共にね。今日はオオカミだ。


「うーん。たぶん大丈夫。うっ、、」


よろめいてみせた。あながち嘘でもなく、一月半もカロリー不足が続くと貧血気味になる。


「ちょっと!?いい男がよろめかない!そもそも何でここの図書館に来てるの?君の家遠くなかったっけ?」


もうお互いの家まで調べる仲か、、、。
そろそろ決めゼリフをかましてもいいだろう。


沈まぬ太陽


「えっ!?」


「それが読みたかったんですよ。豊子さん」


原作:山崎豊子。そしてあなたの名前も豊子。それを隠すためにわざわざカバーをしてまで読んでいることも調査済みだ。アンタ恥ずかしがり屋のロマンチストなんだろ?わかるよ。オレも一緒だ。


「それで?全部読んだ?」


「それが、読めなくて、、。他にも面白いのが沢山あったんで、、」


「続き気になるでしょ?ウチ、、、。来る?」


うぉぉぉぉ!!


「はい!ぜひ」


そこからBGMが止まらない。
『太陽に吠えろ』


「今日、ピザ作ったの。何かさーZEN吉くんのゲッソリした姿見てたらコッチまでお腹すいてきちゃって、、。もうっ!食べるの手伝ってよ!」


「はい!ぜひ」


BGMが止まらない。
昔のドラマも悪くない。


「ところでさ、山崎豊子の作品なんて何処でも置いてるでしょ?他に理由があるんじゃないの?」


それをね、ゆっくり語り合おうじゃないか。朝日が昇る時までね。


クライマックスが近い、、。


「あれぇ?言いたくないのかな?まぁ、いいや。はい。着きました」


「やったぁ。おじゃましまーす。ん??」


なんじゃあ、こりゃあぁぁ??
男物の靴だとぉぉ??


ガチャ。


「おー!君がZEN吉くんかー!豊子から聞いてるよー。余りにかわいそうだからご馳走したいって。コイツ恥ずかしがり屋だから家に誰も呼びたくないんだけど今回は特別だってな」


、、、、、、。


「そうゆうこと。会社のみんなには知られたくないから内緒だよ。さっ!ピザ食べよ?」


、、、、、、。


「ん??どうしたの??」


、、、、、、。


「いや。僕チーズ食えないんで帰ります」。





現在、わたくしポテトチップスを食いながら執筆中。
舌打ちしながら過去の自分をブッ殺しています。