脆弱者で行こう

モテない中年のただの日記です

108重人格の男

人間には喜怒哀楽の4つの感情があり、私は他人のそれが切り替わる時、「あっ、人格切り替わった」と思うようにしている。そう思うことで他人と上手く付き合ってくのが私なりの処世術なのだが、どうもこの術では扱いきれない人間が世の中には一定数いるらしい、、。108重人格の男であった。


この計算式を当てはめると基本的に人間は4の倍数で増えていくことになる。コイツすげぇ単純と思われている人物でも最低4重人格を持ち合わせており、私の感覚値では少し複雑な人だなぁと思われている人間でもだいたい48重人格ぐらいに収まることになる。この方程式、オマエは人を何だと思っているんだ、という反感を買うかもしれないが、自分の幸せを考えるとこの方法が一番良く、それが他人の幸せにもつながるという誠に自分勝手な思想の持ち主が私である。

というのも私のいる建設会社ではコンビ芸人のように二人一組で仕事を行っていく体制をとっており、その相方も一、二年周期で変わっていくのだがワガママなものは一ヶ月も立たぬうちに「あの人やだぁ~」と言ってコンビ解消を求めてくる。一応言っておくが、このワガママな人間が悪いとは全く思わない。自分の人生なのだからムリせず好きに生きていけばいい。だが、それでは人事が回るわけがなく組織には、他人との関係をあきらめている私のような人間も必要であろう。

会社にはあの人やだぁ~と呼ばれる「魔王」が存在しており、そういう人間は超単純か超複雑、だいたいこの二つうちのどちらかで、今回私がコンビを組むことになったのは超複雑タイプの魔王であった。まあ、どの世界でもこういう魔王はいるであろう、、。



「おはようございます!今日からお世話になるZEN吉です。よろしくお願いします」

「お~!オマエがZEN吉か~!こっちこそよろしくなー」

出たな満面の笑み、、。逆に怖えんだよ。この笑顔で今まで何人殺してきたんだよ。


今までの屍たちから情報収集している時に思ったことは、皆、この無邪気な笑顔の裏を変に勘ぐってしまって自らのストレスに圧し潰されたことである。今コイツは幼児に戻っている。ならばこちらも幼児に戻るのが正解だ。

「はい!いろいろ学ばせてもらいます」

「おっ!オレもだぞ」

よし!第一段階はクリアーしたぞ、、。

私はノータイムで幼児退行化できる特異体質で、それがみんなから、特に女子から気持ち悪がれていたのだが今回はプラスに働いた。

これがスタンド使いは引かれ合うってやつか、、。



「ところでZEN吉よ、オマエ最近の世界情勢についてどう思う?」

ちくしょう、本気出してきやがったな。
わかるわけねーだろそんなの。自分のサイフの情勢すらわかんねーのによ。アンタわかんのかよ?ただの現場作業員だろ。

「すいません。ちょっとバカなんでわかんないっすね。教えてもらっていいすか?」

「おう!」

と言って楽しそうに話し始めた。

この魔王は知能が非常に高く、教え方も大学教授のように上手なのだが、生徒が真剣に受講していないとキレる癖を持っていた。しかも190㎝近くもあるドンキーコング体型で一度暴れ始めるとマリオカートでスピンしたごとき状態になり手が付けられない。

ちっ。地獄の授業が始まっちまったか、、。
まぁいい。話はつまらんわけではない。また子供に戻ればいいだけだ。長くても一時間だろ。

が、三時間続いた。
私は中学生までは好んで勉強していた人間で、勉強に対しての耐性はある方なのだが流石に三時間ぶっ通しは無理である。

うっぷ。もうムリ、、。
でも、どうする?このドンキーは理性と野生を兼ね備えたハイブリット型だ。下手なうそはバレるだろう、、。よし。これでいこう。

「すいません!話面白すぎてもうこれ以上入りません!」

どうだ?うそは言ってないぞ、、。複雑な奴ほど原点回帰が必要だ。

「おっ!そうか。悪いなぁ~。あまりに楽しそうに聞いてくれるからよ~」


よし!第二段階クリアー!
確かに強敵だがこのまま行けるんじゃないか?
意外と楽勝かもな。用はママレードゴリラだろ。

だが、そんな甘い考えは別れ際の一言で吹っ飛ばされることになる。


「そういえばZEN吉よ~。オレ、自分の事バカって言う人間大嫌いだから二度と使うなよ」

えっ!?
でもあんた自信満々のヤツ見たらどうせキレるでしょ?器はディディーコングじゃん。

「あとよ、、、」

まだあんの!?
もう今のひと言でキャパ超えてんだけど、、。

「今日話した内容ちゃんと復習しとけよ。面白いって言ってたよな?じゃあな!!」

そう言い放ち、彼は満足そうに帰っていった。

なるほど、、。
さすが魔王の称号を得るだけのことはある。恐るおそる人格計測メーターの数値を見てみると、、

「72重人格」

初日にして新記録をたたき出していた。



そんな奴ガツンと怒っちゃえばいいじゃん!
と誰もが思うかもしれないが、それはできない。私が優しい人間だからではなく、私はアリ地獄の中にアリを落とすことを楽しむような人間である。気弱なところは認めるが、仮に強気な人間であっても彼を怒鳴ることはできないであろう。彼は攻撃力も高いのだが、それ以上に防御力が超一流なのである。


「あんのドンキーの野郎。マジでめんどくせーな」

コンビ結成から三か月も過ぎると私の心もかなり蝕まれ、何より自分の処世術が全く通用しなく、方程式の遥か上を行かれたことが悔しかった。

どうする?
やられっぱなしでいいのか?かと言ってオレは怒鳴るタイプではないしな、、。
よし決めた。
シカトで行こう。笑顔でシカトし続けてやる。マジでバナナの皮にしてやるよ。


「おはようさん!」

「あ、おはようございます」

あいさつと仕事の会話だけはしてやるよ。

「ZEN吉~!昨日のニュースなんだけどよ、、、。」

「、、、、、、、。」

喰らえ。ミイラにしてやる。

「、、、、、ZEN吉??」

まだだ。干上がりやがれ。

「、、、、。聞いてる?」

聞くわけねーだろ。ピンクニュースなら聞いてやるよ。



「ZEN吉ぃぃ~」

ここで男の防御技が発動する。

この男は喜怒哀楽の「哀」の人格を50人以上飼っており、その中には可愛らしい幼女や妖艶な淑女も含まれていて、その時々で最も適した人格を呼び出すことができる。

なっ!何この雰囲気!?
今オレがハマってるAV女優そっくり、、、。
こんなのシカトできるわけねーだろ、、、。

結局、雰囲気にのまれた私はいつも通り生徒の立場にまわることになり、男は楽しそうに教鞭を振るっていた。ついさっきまでいた女優の面影は一切なくなっており、憑依していた時間はわずか5秒足らずであった。


こんなの反則だろ、、、。



私が行ってきた処世術が間違っていたとは思わない。
事実、この魔王と呼ばれる男とのコンビを一年間やりきったのだから、、。
私が思うに「めんどくせー奴」というのは攻撃力に注目されがちだが、本当に厄介なのは防御力にあるような気がする、、、。


最後に誤解のないように言っておくが、最終的に出た108重人格という数値は「哀」だけでの数値である。