トラッシュ オンザ トラッシュ

実家を掃除した時の話である。訳すると「ゴミの上にゴミ」。かなり柔らかい表現にしたつもりである。本音を言うとあと100個くらい on the trash と in  the  trash を付け加えたいのだが、育ててもらった感謝の思いを込めてこのタイトルで勘弁してやろうと思う。


私の両親は人生で一回も引っ越しらしきしたものをしたことがなく、田舎暮らしで無限に物を置ける敷地を有しており、「物・最強説」に憑りつかれた悲しき信者たちである。私も二十代まではこのトラッシュ教の信者だったのだが、引っ越しを繰り返すうちに自分のおぞましさに気付き、なんとか脱退することができた。実家に帰省というのは本来心を休める目的でするのだが、脱退後の私の目には実家の風景がベルセルクの「蝕」にしか映らず、いつしか帰省するのをためらうようになっていた。

が、私も体力のある男である。
この惨状を最後は誰が始末するのだ?体力がある今のうちにやっといた方がいいんじゃないか?

奇跡的に一カ月の休暇を取ることができたのでガッツを振り絞り、ゴミの山に挑むことにした。


経験者の立場から言わしてもらうと、夏は止めた方がいい。
昆虫や爬虫類といった変温動物が絶好調なのである。奴らは気温が上がるほど動きが活発になり、ゴミという絶好の隠れ家から容赦ない死角攻撃を仕掛けてくる。私は急に出てきたヘビに驚いて飛びのいた拍子にクモの巣が絡まり、さらに転げ回っているうちにクモがTシャツの中で潰れるというマンガのような展開に陥ったことがある。こういう経験がしたいという者は忠告を無視して夏の大掃除に励めばいい。

次にゴミの必要性について両親との確認なのだがそんなものは無視である。
どうせ奴らは何処に何があるかなんて分かっていなく、仮に分かっていたとしてもゴミの山をかきわけて物に辿りつく体力などもう無い。捨てられたのが悔しくて「後で使うつもりだった」という幼児のような言い分も全部無視していい。本当に大切なものは身近に保管してあるだろうし、脳にも刻まれているはずだ。つまり、大掃除で大事なのは決して感傷的にならずにただ粛々とゴミを捨てて行くことである。

自己弁護をさせてもらうと、決して両親に自分の価値観を押し付けているわけではない。モノを大事にするのはいいことだし、思い出も大切にすればいい。
だが、やりすぎはもはや犯罪であろう。身内から出たパンデミックは身内に責任がある。

マジでモノ集め禁止の法律作ってくれねーかな。完全に負の元凶だろ。全会一致で可決するんじゃない?


それはさておき、「粛々に」とは言ったが、掃除を始めると開始一時間でイライラは頂点に達していた。

「あ~!!マジでバカじゃねーの?何で二階にこんなゴミ上げてんだよ。お前ら死んだらこのゴミ誰が捨てんだよ。何だよこの七福神。マジでいらねーんだよ」

モノ集めが好きな人間は空いている空間にピッタリと物を納めるのが気持ちいいらしく、床から天井まで段ボールを積み重ねる習性がある。

マジで死ねよ。

段ボールの中も隙間などなく、どういう思考回路をしたらそうなるのか隙間を埋めるために砂をつめこんでいた。

本当に死ね。
家、重みで壊れるわ。

最初は優しくしようと思っていたのだが私はそんな器の大きい人間ではない。当然、矛先は両親に向く。

「おい!何でこんなゴミ貯めてんだよ?毎年正月前に大掃除してんだろ?」

「し、してるよ。だから片付いてるだろ。居間のいらないモノ毎年二階に片付けてるぞ」

「それ片付けてるって言わねーんだよ!!ゴミ移動しているだけなんだよ!!」

これは私の意見に賛成してくれる人も多いのではないだろうか?
奴らがやっていることはただのゴミ移動である。それをわざわざ二階に上げるのだから殺意しか湧かない。子供たちが独立して空き部屋になった所に目を付けたのであろう。モノを捨てるのは勿体ないとかほざきながら、旅行ついでにキモい置物ばかり買ってきやがる。それをネットで売るならまだしもスマホも使えないアナログ人間でネットショッピング=詐欺だと思ってやがる。

だが、ここでオレがこれ以上正論をぶちまけても逆効果だろう。変にへそを曲げられて衝動買いでもされたらそれこそ本当に殺したくなる。

「まあ、モノ大切にするのはいいことだと思うけどさ、、、。チョットは捨てれば?一年で増えた分だけ捨てる。そうすればゴミなんて絶対出ないんだから。あと、家潰れるかもしれないから二階の段ボールも全部処分するわ」

「、、、、。ああ。わかった」

ホントわかってんのかコイツ?
渋柿みてーな面しやがって。もし次来たとき段ボール増えてたら火つけて家ごと燃やすかんな。古い家だから良く燃えるんじゃねーか。それが一番手っ取り早いわ。



一カ月の帰省中に処分したゴミは、段ボールにして400はあっただろう。
これだけ捨ててもスッキリした感じがしないのだからトラッシュ教の信者というのは恐ろしい。

次回以降、帰省するときはガスバーナーを持参すると決めている。この年で刑務所暮らしはしたくないのだが、日本の平和を考えると仕方がないことなのであろう、、、。