一声目にはニヤケ面を憑依させよ

ここでいう一声目(いっせいめ)とは結果発表の一声目である。緊張するであろう。勝者に伝えるのならまだいい。勝者は心に余裕がある。問題は「敗者」に結果を伝える時であって、そんな敗者側の気持ちを「婚活予選落ちヒットメーカー」である私ことZEN吉が、心理描写を含め書いていきたい。


「ZEN吉って。女に興味ねーの?」

「いや、普通にありますよ。常に彼女ほしいと思ってますよ」

「じゃあ、何で一人なの?寂しくねーの?」

「別に寂しくないです」

「??ふーん。変な奴」

今まで100回以上はしてきた会話であり、断言していいが100%本心から言っている。何と説明していいかわからないが、この会話に私のすべてが表れていると思うので、察していただきたい。とにかく私は最低限、出会いの場には参加するようにしており、ここで女性の皆様に忠告なのだが、モテない男子が前向きな行動をしようとしている時にイジるのは非常に危険である。いつかこんなやり取りがあった。

「え~。どーせ意味ないじゃ~ん。絶対フラれるよ~」

「ふっ。それを今から証明してやるよ」

「はは!楽しみ~」

少年ジャンプのようなセリフで強がっていたが心は谷底まで落ち、這い上がるまで3年かかったことがある。

つまり私は、行きはそっとしておいて帰り道でイジってほしいタイプの人間であって、私のようなタイプに合った出会いの場は一対一の対面方式である。パーティー方式だと女性に行くまでに疲れてミイラ男になってしまい、ああいう場はホント苦手である。地面の石の数を数えている方がずっと楽しい。私が申し込んだのは料金も3000円と安いフランクな感じなやつで小心者の私にはこれくらいがちょうどいい。



当日になり、会場に向かっている私の脳内は、

いや~どんな人と付き合えるのかな~。姉御タイプがいいな~

と、すでに勝った気になっており、後ろ向きな気持ちは一切ない。パチンコ屋に向かうパチンカスと全く同じで、この表現が一番ピッタリくる。

会場は狭いオフィスの一室が、簡易的な仕切りによってさらに狭くなったコールセンターのような感じであった。

やった。完全に一対一だ。
余計なものが視界に入らない。10分程度の会話なのだ。視界のものに頼らなくても会話はもつだろう。狭さも最高で、オレの器の小ささに最高にマッチしている。

テンションがさらに上がりニヤケ面になっており、とりあえず、さっさと受付を済ませることにした。

「こんにちわー!今日3時から申し込みしてたZEN吉です」

「、、、、はーいZEN吉さんですねー。確認しますねー。少々お待ちくださーい」

??随分とオフな感じだな。
さすがに笑顔がキモかったか?
まあいい。今まで何百回とされてきた対応だ。

「あー、ありましたー。それでは3000円になりまーす」

「はいコレです」

「それでは、1番になりまーす。全員揃うまでお待ちくださーい」

1か、、、。
いい数字だ。嫌うものはいないだろう。オレも大好きだ。だって一番になったことないんだもん。

完全に勝負モードへと切り替わっており、金を払ったことでスイッチが入ったのだろう。
この心理もパチンカスと全く同じである。
10分後、男女6人ずつ計12人が集まり婚活という戦いがはじまった。

「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。本日、司会を務めさせていただきます○○でございます」

先程の受付の女性が、あいさつをしている。

なるほど、この人は受付と司会、一人二役だったのか。さっきとキャラ変わりすぎだろ。

そう思いながら私は、男性陣の戦力を分析していた。

20%だな、、。

私の今回の勝率である。
何回かこのような会に参加しているうちに解かってきたことがある。

本当に見るべきなのは異性ではなく、同性だ。自分より魅力的な同性が何人いるか。結局はそれだ。それが全てだ。10分程度の会話内容などみんな同じで、笑顔でプロフィールに載っていることについて話すだけだ。服装だってみんな整った格好できている。パンツ一丁の奴などいない。会場にいる上位の異性に〇をつける。ただそれだけの非常にシンプルな構造だ。オレはそういうのが好きだ。「戦い」などと大げさな表現をしたがすでに戦いは終わっている。あとは結果発表を待つ。強いて言えばその時が戦いだ。



「戦い」の時がきた。

この瞬間が私は大好きだ。
いろんな思考が混じりあい、赤ちゃんとジジイが合体したような生物が生まれる。別にフラれたとしても命を奪われるわけでもない。まあ、普通にショックだけどね、、。

さて、今回の私の番号1なのだが、こんな美しい数字はないだろう。
無意識に人々に好感度を植え付け、確実に10%はアップする。
ちなみに先程の戦力分析の際、これは織り込み済みであり、もし今回の番号が1じゃなかったら勝率はわずか10%しかないということになる。悲しすぎるだろう、、、。


「はい!それでは結果を発表いたします」

!!きた!

「今回カップリングした人数は、、」

どうだ?

「三組です!!」

よっしゃあ!計算通り!!
安いなりにも金、払ってんだ。ストライクゾーンも広くなるってもんだろ。
つーか、一個も〇つけねーで帰る女ってマジ何なの?自分のデコに〇書いとけや。

「それでは、発表していきます」

きた。いきなりクライマックス、、。

そう。このカップリングの発表は若い番号順に発表していき、決して戻ることはなく、仮に「一組目は男性3番と女性1番です」と言われた時点で二組目以降に男性の1と2が選ばれることは絶対にない。私がカップリングを成立するさせるためには、一声目で「1番です」と言われる以外に道はない。これが1という数字の恐ろしいところだ、、。まさに核兵器

「一組目は、、、」

きた、、。周りがスローモーションに見える。
司会者の顔のしわの数、心理までもがわかる。アンタ、最近ご無沙汰だろ?セカンドバージンか?マジでこの瞬間大好きだ、、。

「男性番号、、、」

来いっ!!
6人中3人選ばれんだ。もう50%だ!

ん??
なんだこの司会の顔?何だそのニヤケ面は??どこかで見たことが、、


「2番です!!」

、、、、、。



私は帰りのバスに揺られながら考えている。
フラれたショックがあまりなかったのは直前に絶対フラれると分かったからだ。

あのニヤケ面だ。何回も見たことがある。
そう。人に罰ゲームを伝える時のような「小悪魔的な顔」だ。あの司会者はおそらく気付いていた。あの受付の時だ。私がどこか、確率論でゲームをするように婚活に来ていることを私のニヤケ面をみて感じとったのであろう、、、。



つまり何が言いたいかというと「戦いを挑むもの」にも色んなもの達がおり、発表者はそこまで重く感じ取る必要はないということである。
人生で大きな重大発表をしたことのない私が言っても説得力ゼロなのだが、私は常に「一声目にはニヤケ面を憑依させよ」の気持ちを忘れないようにしている。