北日本目玉焼き選手権開催!!

レシピ通り作れば皆が同じ味になるほど料理は簡単なものではなく、それは目玉焼きにも当てはまる。えっ?目玉焼きなんて料理じゃないって?甘いな。火を通せばストーリーが始まる。野郎ども準備はいいか?モテない奴グランプリの始まりだあー!!




まずは出場資格。一人暮らし歴=彼女いない歴の30歳以上の男性。年齢差別も男女差別もしたくないのだが、今回は大会ということもあって絵面が大事になってくる。学生やOLの方でも目玉焼きを愛していることは重々承知の上で今回は観戦者に回ってほしい。あなた方だと被写体が眩しすぎて目玉焼きの渋みが出ないのである。


次に出場地域なのだがタイトルにある通り東北・北海道に限定させてもらおう。ハッキリ言うとコレは全日本選手権と言ってよく、その理由は北国の賃金の低さであろう。それを言うと南端の沖縄なども当てはまるのだが、寒い冬にジュワッと焼いた目玉焼き。それを古びたアパートでがっつく中年男性。一人鍋なんてドラマの見すぎである。そんな手間も金もかける気はなく、常温で保存できる卵をフライパンの近くに置いておき、殻も食器もそこら辺に捨てておく。腐ることなんて有り得なく、ティッシュペーパーで拭いておけば再利用できるだろう。どうだろうか?北国の方が目玉焼き映えするのではなかろうか。


さて、料理とは回数である。
不正は許さない。一つの卵に対し一つ。それをそうだな、、。千。いや、、。三千。三千個ものストーリーを作ってきた者にだけ権利を与えよう。さあ、お前の生き様を見せてみよ。




大会当日、私に緊張はなかった。
こんなローカル番組など誰も見ているはずもなく、会場も築50年の空き家とあって、普段通りの実力を出せれば難なく優勝できると思っていたからである。それもそのはず。運営費的に予選などはなく、いきなりの決勝からの舞台であって、どうせ客寄せパンダの集まりだろうと鷹をくくっていたからである。


恥ずかしがり屋のオレにはこうゆう企画がちょうどいい。超マニアックな大会だが、これで優勝できれば転職には困らないだろう。面接時の掴みは最高だ。その場で実演すれば面接官のハートは鷲掴みで後世まで語りつかれるだろう。とゆうか誰だ?オレ以外にも変質者はいるのか?ザコが。オレの道に立ち塞がるんじゃねーよ。


と、思いながら建て付けの狂ったドアを開けると三人の姿が見える。一人はスキンヘッドの老人。一人は長髪を後ろで束ねた男性。もう一人は茶髪の若い女性。なるほど。敵は二人。手強そうだな。瞳孔が目玉焼き色に染まってやがる、、。それを審査するのがこの女性か、、。女だとどうしても評価が世間寄りになる。そんな一般基準を当てはめないでくれよ。


「さぁ!始まりました!目玉焼き選手権北ブロック。この激戦区を制するのは誰か?選手発表です!!」


と、長髪の男性が勢い良く話始めた。
どうやら彼は司会者だったらしい。


っち。読みが外れた、、。
いきなりこのハゲとの一騎討ちか、、。負けるかもしれんな、、。


「それではエントリーNo.1番。御年八十八歳!!ベージュ色の頭は米寿祝いの賜物か?そんな卵にを焼いてくれ!スキン山次郎の登場だぁー!!」


くっ、、。ずるいぞ、、。
何だその紹介?テンション爆上がりだろう。見ろ。ジジイの顔が火照ってやがる。これ以上パラメーターを上げられるのは危険だ。頼む。オレにも特上のをかましてくれ。


「続いてはZEN吉!!何でお前が来れたんだ?ナレーション泣かせの中肉中年。出来るなら私が代わってやりたい!!エントリーNo.2番だぁー!!」


おい。てめぇボケコラ。
2番だぁー!じゃねーよ。拾えボケ。何かあんだろうが。なに本音言ってんだよ。よし分かった。お前も敵だな?やってやろうじゃねーかよ。


と、戦意に火がついた所に思わぬ伏兵が現れる。


「続いてはエントリーNo.3番!!その茶色い髪はフライパンで炒めたのか?氏名・年齢不詳だが美人は何をやっても許される!!目玉焼き界のジャンヌダルク!!えーと、名前はどうしよう。あーもう何でもいいや!!フライパン子の登場だぁー!!」


三人目だとぉ!?
ダメだ。そんなのは認められない。美人が許されるのはプライベートな場所だけだ。これは大会の沽券に関わる。よし。クレームを入れよう。パン子ちゃんよぉ。アンタこうゆう男が好きなんだろ?


「ちょっと待ってくださいよ!!この方どう見たって二十代じゃないですかぁ!?それに男を切らしたことないような見た目だし、下手したら一人暮らし自体したことないんじゃないですかぁ!?いや、別にパン子さんを悪く言ってる訳じゃないんですよ。大前提を忘れたら大会の価値が失くなるって言いたいすよ僕は。違いますか?長髪のお兄さんよぉ??」


どうだ??
先に喧嘩を仕掛けてきたのはお前だ。司会者としての立場に苦しみやがれ。


「2番さんアンタねぇ、、。言って良いことと悪いことの区別もつかないの?パン子さんはねぇ、、たぶん四十代よ。何でこんなに若く見えるかって言うとね、、。それはね、、。膜があるからなの」


膜だと!?
んなもんオレらにだってあるわ!なぁ?山次郎?
おいボケ。カッコつけた顔すんな。お前はもうムリ何だって。自分の勃起率を考えろ。いや、それよりも、、。いいねぇパン子ちゃん。その強気な顔。ますますオレ好みだぜ。ここは絶対に優勝してやる。


「まあ、そうゆうことなら僕も引きますわ。それだけの覚悟を持っている方なんですね。ただね、、。えこひいきは許しませんよ。純粋な実力勝負で行こうじゃないですか」


「はい!負け犬のフラグが立ったところでもう始めちゃいましょう!行くぞ!!よーい」


パカッ


と、司会者が額で卵を割ったのを合図に試合は始まった。司会者の顔は、割れた卵と殻が口元まで垂れてきており、それを美味しそうにペロリと舐めていた。なるほど。喧嘩を売るだけのことはある。どうやらコイツも本物らしい。


本物にはメダマーの気持ちが分かる。
この男のナレーションが私の心情と思ってもらってかまわない。


「さあっ!目玉焼きとは秒殺だ!大事なのは準備。準備が全て!あーっと1番、山次郎!!アンタ何やってんだ!?いくら古いからって床材を剥がしたらダメだろう!!」


バリッ!


バリバリッ!!


ガンッ!!!


「ほーら見たことか!!バールが額に当たって流血だぁー!!お前みたいな何でもできると思っているジジイが一番たちが悪い!!屋根から滑り落ちてニュースなるのは決まってお前らだぁー!!」


「続いては2番!!」


カチカチ、、、。


「カセットコンロ!!カセットコンロ持参!!それにサラダ油!!つまらん。つまらんぞぉー!!もういいから次行っちゃいましょう!!」


ふん。
お前だって分かってんだろ?
これが目玉焼きの王道だ。お前の言葉は全て嫉妬から来るものだ。パン子ちゃんをいただくのはオレなんだよ。


「さあ、気になるパン子の舞台は、、、」


「備え付けの流し台だぁー!!いいわねぇ、、。古びたキッチンに立つ淑女。いったい誰に作っているのかしら?まぁ!!ウインナーを焼いているわ!!絶対に男根を意識してるわねアナタ。もうっ!かわいいんだからっ!!」


なるほど。それがお前の作戦か。
オカマ言葉を使って安心感を与えたところで噛みつく。甘いな。こうゆう女に限って普通の恋愛がしたいのさ。好きな番号も2。奇数みたいな融通の利かない男はまっぴらゴメンなのさ。


「おおーっと!今度は何をしているんだ山じい!!庭で焚き火をし始めたぞぉー!!」


モクモクモク、、、。


「だが、湿気ってるぅぅー!!!何でトイレの床を剥がしたんだぁー!?肥料になると思ったのかぁー!?臭っせー燻製でも作るつもりなのかぁー!?」


バサバサバサッ


「ああーっと!新聞紙、トイレットペーパー、週刊ポストの投入だぁー!!意地になってる。意地になってるぞコイツ。マジでめんどくせージジイだなオイ」


ボァッ!!!


「付いたぁーー!!!付いたけど、、、。おえっ!!くっさ!!ションベンくっさっ!!頼むから周りの迷惑も考えてくれぇー!!」


ガンッ!!


「ここで一斗缶置いて、、、。そこに??」


ねちょ


「ラードをたっぷり塗って、、、。次は何を出す??」


ドンッ!!


「ダチョウの卵だぁー!!!しかも自家製!!動物好きもここまで来れば恐怖!!山じい劇場ここに極まる!!さあ、そしてその卵を、、」


ガン!!ベコッ


「ダメだぁぁーー!!!一斗缶の方が潰れてしまったぁーー!!」


「しかも滑った卵は、、、」


週刊ポストの灰の中!!哀れ山じい。もう臭いから閉めちゃいましょう!!エントリーNo.1番スキン山次郎失格!!狙いどおりの燻製が作れて良かったね!!」


きびしいな、、、。
尺が取れたところで容赦なく切り捨てる。卵を割るところが一番の見せ場だ。四回転半を狙いに行ったジジイの気持ちは分かるが、ここは大人しくトリプルサルコーで我慢しよう。失格になればストーリーもそこで終わってしまう。


「さぁ、2番オマエはどうする??」


カンッ。パリッ。ポチャ。


「つまんねー!!マジつまんねーよオマエ。せめて片手だろ。チンコ付いてんのか?男で両手で割ってるヤツ初めて見たわ」


言ってろボケ。
片手で割る意味なんてねーんだよ。養鶏業者に失礼なんだよ。


「さあ、3番のパン子ちゃん。あなたならどうする?」


カンッ。


「あら、可愛らしい。手のかたちが3になってるわ。まるでアナタのお尻みたい、、。」


パリッ。


「出てきたわ!!卵が!!アナタの卵が!!ホントに美味しそうだわ!!」


おい。
やりすぎだ。生々しすぎる。癖を出しすぎだ。変態がすぎるぞ。


ポチャ。


「そして着床ぉぉー!!それを迎え撃つのは??」


シュワ~。


「あったけぇ~!!超気持ちいいよ。俺フライパンの気持ち分かるよ。なぁ、パン子?お前もわかるだろ?」


やめろ。
ソレお前の願望だろ?そしてお前がうらやましい。オレも公然わいせつをしてみたい、、。


ぐつぐつぐつ、、。


「ここで落し蓋ぁー!!固い!!固いぞパン子!!煮てどうする?その膜、誰が破るんだ??俺か?よし。任せとけ。今からスティックを研いでおこう!」


違う。オレだ。
さっきニンニク卵黄を二粒飲んどいた。


「さあっ!!そうこうしてる間に2番の料理が出来上がった模様です!!しょうがねーから食ってやるか」


「ほーう。コレは中々、、。外周を程よく焦がしたうえに、底面にはツルッとしたサラダ油。それを熱々のゴハンの上に乗っけて、黄身を一差しした所に醤油を流し込む。まさに目玉焼きキングスといった所だろう。さて。実食!!」


モグモグモグ、、。


「うん!サラダ記念日!以上!」


だから拾えって。
てめえパン子ちゃんとイチャつくことしか考えてねーだろ。せめてオレのをパン子ちゃんに食わせろよ。閉経レベルの仕上がり具合だぞ。


「おーっと!!ついにチャンピオンの目玉焼きが茹で上がったぞぉー!!さぁ!負け犬ども。一緒に喰おうぜ!俺も付き合ってやるからよぉ!」


ふん。いいさ。ベルトはくれてやるよ。
だが、亭主の座は絶対に譲らない。これを上手に食ったヤツがパートナーになる権利がある。それは、、。このオレだ!!


「それでは食べて行きましょう。あら、パン子ちゃん。あなた本当に気遣いね、、。わざわざ三つも作ってくれるなんて。将来子供は三人欲しいのね」


ここから男たちのプライドをかけた実食が始まる。
いくら料理に魂を注ごうが、女を幸せにするのは食事の作法に尽きる。さあ、まずは長男から行ってみよう。


メリメリメリ、、、。


「ちょ!?何をやってるんだ山じい!?ウインナーで膜を破ってどうする!?んな喰い方があるかバカヤロウ!!」


くくく。やっぱりこうなったか。
この年代のジジイは食料不足が祟って「がっつく・ぶっ込む・ぶっかける」の呪いにかかっている奴が多い。パン子はそんなドMな女じゃない。今日のお前はとことん引き立て役なのさ。


「もう~!これ以上の失態は許されないぞ!!次男ZEN吉。お前はどうする??」


ペラッ。サラサラ、、。


「木製スプーン!!木製スプーンだ!!どこに隠し持っていやがった!?優しい!!優しいぞチクショウ!!俺のアソコも疼いて来やがった!!」


ふはは。喚け喚け。
膜ありの目玉焼きはこうやって撫でるように潰すのが正解なのさ。見てろよ。そろそろ臨界点だ。


ナデナデナデ、、、。


「やめて!!もうわたし耐えられない!!イキそう!!」


やめろ。お前がアフレコするな。
マジで気持ち悪い。おい。山じい。何でテメーまで赤くなってんだよ。


ナデナデ。ぶちゅ。


「ギャアァァーー!!」
「ヴァァァァーー!!」


何でお前らがイッてんの??
主旨間違ってんだろ。肝心のパン子ちゃんのリアクションはどうだ??


ヤバい。
引いてる。
そりゃそうだろ。これじゃあ、ただの性癖発表会だ。彼女は純粋にパートナーを求めてこの大会に参加している。こんな変質者どもと一緒にされてたまるか。断ち切れ。欲望を。ウインナーを断ち切って誠意を見せるんだ。


ググッ、、。


切れねー!!
何だこのウインナー!?どんだけ固く作ったの!?めんどくせー女だなオイ!!スプーンも悪い。脆弱すぎる。だまって鉄製のにすれば良かった、、。


グググッ、、。


よし!もう少し!!
パン子の顔は??


やった!!
半開きだ!!惚れかけてる。惚れかけてるよオイ。


グググッ。ツルンッ!!


あっ!!!


ヒュルル~~、パクっ!!


「あーーっと!!それゃねーだろZEN吉!!無理やりウインナーをパン子の口に突っ込みやがったぁーー!!どうだ??こんな事されてどうなる膜あり48??」


ダッ!!!


「逃げたぁぁーーー!!それゃそうだ。しかも涙ながら!!エントリーNo.2番ZEN吉、公然わいせつ罪で失格!!よってこの大会は、、、」


「該当者0につき終了!!私はこれからパン子さんのフォローに向かいます。ちなみに前代未聞の強姦罪を犯したZEN吉さんは永久追放処分となる模様です。それでは北日本目玉焼き選手権、次回開催をお楽しみに」。





二度と来ねーよボケ。