ホーム成分100%の男

内弁慶という言葉があるように、人間はホームグラウンドでは強気になる習性がある。私もその気がある方なので、他者の行動には寛容にしていたのだが100%はやりすぎであろう、、、。地方へ出張に行ったとき、その男と出会った。


良い内弁慶とそうでない内弁慶の違いは、相手を「敵」と見るかどうかだと思う。良い内弁慶とはホームに帰ってきた安心感で、ただワガママになっているだけであって、外で社交性を発揮しているのであればまだ救いようはあるだろう。問題は、外部の人間=敵という思考に侵された悲しきモンスターたちであり、彼らは特に戦う必要のない場面でも容赦ない攻撃をしかけてくる。


「こんにちはー!今日からここで作業させてもらいます。何かあれば言ってください」

私たち現場作業員でも近隣への挨拶は基本であり、トラブルを未然に防ぐには大切な事である。

「あん?アンタらどこの人?ここらの人じゃねーだろ」

「ええと、、。○○市から来ました」

「○○市??そんな所から何しに来たのよ?いつまでいるんだ?」

なんだこのジジイ??
どんだけ攻撃的なんだよ。仕事しに来たに決まってんだろ。それ以外に誰がこんなド田舎に来んだよ。

「一カ月くらいかかる予定ですが、ゴミなどには十分に注意しながら作業しますんでよろしくお願いします」

「一カ月~!?何でそんなにかかるのよ?もっと早くすれ。邪魔だわ」

「、、、、、。なるべく早く終わらせます」

「ああ。早くだぞ」

ぶっ殺すぞジジイ。
そもそもココお前の土地じゃねーから。お前の家から100mは離れてるから。ゴミ屋敷みてーな家、住みやがって。完全にモンスターだろオマエ。あーあ、今回の出張マジでハズレだな、、。

この手のジジイはただ話し相手が欲しいだけで、用はただの寂しがり屋である。ずっとシカトを決め込んでもいいのだが、それだと現場の資材を盗むなどの犯罪行為に発展する恐れがあり、コイツは寂しさを紛らわすためには手段を選ばないだろう。

何個、家にカラーコーンあんだよ?
絶対どっかの工事現場から盗んできただろ。普通に犯罪だかんなソレ。中坊みたいことしやがって。めんどくせーけど一日15分だけ話してやるか。どうせ一カ月の付き合いだし、いいネタにはなるだろ。

と、前向きにこのモンスターと付き合うことにしたのだが、彼の全容がわかってくるにつれ、おぞましさを感じるようになっていった。



一週間も経つと私は彼の「内」に入っており、知りたくもない個人情報を聞いてくうちに分かったことは、

自称:雑品屋
独り身(昔は妻がいたらしい、、、。)
野球好き

というもので、典型的なモンスターオヤジのステータスであろう。

雑品屋ってなんだよ。ちゃんと商標登録してんのか?絶対してねーだろ。こんな山奥に誰が来んだよ。不法投棄する奴しか来ねーだろ。ソレ拾ってるだけだろお前。

あとオマエ結婚してたって言ってるけど、たぶんソレ付き合ってもいねーからな。何が「嫁の両親との挨拶が気に入らねーから別れた」だよ。甲斐性なすぎだろ。その顔でオレ様気取んなよ。彼岸島みてーな面しやがって。全部オマエ悪いからなソレ。

極めつけは高校野球の話である。
強豪校というのは他県から有能な生徒を集めており、その学校と地元校が試合をする時、必ずといっていいほど強豪校は地元民から冷ややかな目で見られる。

「そういえば今日、○○校と△△校、決勝戦っすね。どっちが甲子園行きますかね?」

「あん?そんなの絶対○○校だろ!!△△校??オレはあんなチーム絶対認めないかんな!!ほかの所から留学生ばっか呼びやがって、、、。あんな外国人ばっかりのチーム、、、。ふざけてる、、、」

いや、全員日本人だから。
ただ○○校応援してるから頑張れ!でいいんじゃない?
アンタ△△校の生徒の気持ち考えたことあんのか?高校生で親元離れて野球しに来てんのはスゲーだろ。普通に尊敬するわ。それに比べオマエはどんだけ狭い世界で生きてんだよ。しかもチョット都会に憧れている感じするのがダセーんだよ。どうせなら山奥の仙人極めろよ。


このような会話をするために彼は毎日のように現場に訪れ、本当に迷惑であった。私が「もう仕事始めないといけないんで、、、」と会話を打ち切ろうとすると、「何も気にすんな。オレも手伝うから。何すればいい?」とマジで迷惑な発言をしてくる。

オマエに出来ることなんてねーんだよ。仮に出来たとしてもケガでもされたら責任取れねーんだよ。

という旨を優しく伝えても、「そっか。わかった。それじゃ仕事終わったらオレんち来い。もっと話聞かせてやるから」と返してくる。


マジでわかってねーなコイツ。用はオマエに会いたくないの!
オマエ魅力0だから!逆にそれが魅力だから。家なんて行ったら何食わされるか分かったもんじゃねーからな。この前差し入れで持ってきた「ゴボウの酢の物」。何あれ?マジで吐きそうになったわ。ゴボウに謝れよ。どんな舌してんだよ。


その後も彼はしつこいほど私を誘ってきたのだが、何とか距離感を保ちながらついに出張最終日を迎えることができた。

よし。やっとこのジジイともおさらばできる。

何故か私はコッチ系のジジイにモテることが多く、5%でいいからそれが女子の方に行ってくれという生涯の悩みを持っている。

「何だ、、、。もう帰っちまうのか」

ジジイは寂しそうであり、その声は十年来の仲間に言うようなセリフであった。たまたま、その場には工事の引継ぎ業者が来ており、反対に彼らを見つめる目には敵意が込められていた。ジジイは、

「またいつでも来いよ」

と私に言った後、

「なんだお前ら、どっから来たんだ?」

と、すぐさま引継ぎ業者に突っかかっていた。

私はその様子を見ながら、

人間バランスが大事だな。100%には偏らないようにしよう。と思い、その場を過ぎ去るのであった、、、。