パチンカスのオカルトは宇宙の神秘

人をカス呼ばわりする時は自分もカスにならなければならない。人の更正とはそんな生易しいものではなく、無傷で成し遂げようなんて虫の良すぎる話だろう。身近にカスがいる皆々様。どうか奴らの叫びを聞いて頂きたい。





「ほんっっと、アンタってどうしようもないパチンカスよねっ!!」


「パチンコじゃねーし!!スロットだし!!」


名言で打線を組んだ場合、一番バッターとしては相応しいセリフではないだろうか?当事者たちは自分の打撃力にプライドを持っているが、差程違いはなく右バッターか左バッターか程度の話だろう。しかもムラがある。5打席連続三振なんてよくある話で、一度もバットを振らず、「くそっ!あのゴミ審判!」と言いながらバットを叩きつけている。私は低打率ながらもクリーンな選手でいることを心掛けているのだが、彼らの気持ちも分からなくもなく、ゴミ審判というのは確かに存在する。


それは店。
クセがある店に当たるとホントに勝てない。というより店のクセを掴まないとホントに勝てないと言った方が正しく、ギャンブル拒絶症の人は恋愛にでも置き換えて想像してほしい。


私はプロではないので全て素人の言い分になるのだがパチンコ屋にはサービスタイムというのが存在し、時間帯によっては全く出ない時というのがある。それは休日午後1時~3時の間。稼働域がマックスになる時に限って奴らは仕事をしなく、「アタシ何もしなくてもモテるもん」とあぐらをかいている。若い女はつまらない。私が好きな店は朝と夜にしっかりと働いてくれるキャストが在籍している店で、彼女らは日中働いてない分、しっかりとしたサービスを提供してくれる。いや、してくれる時もある。それを待つのが男である。




キュルル、ブオーン


休日の朝、10時30分には必ず車に乗り込む。
店に着いて台選びをして打ち始めるのが遅くても11時30分だとすると、この時間に出発するのがベストなのである。


今日はあのカド台か、、。
それともカド2辺りがそろそろ吹くか、、。


どのパチンカーに聞いても必ずこの答えが返ってくる。
「パチンコ屋に向かっている時が一番楽しい」と。
店に着いてしまえば言い訳の雨嵐が始まる。



キュイン!!ジャラジャラジャラ。


うわぁ、、。あの中台もう連チャンしてるよ、、。
だから朝イチに来とけば良かったんだって、、。そしたら今頃オレがこの島の王だったのに、、。


この島を立ち去るつもりは無い。今日はこの機種が吹く日だと天気予報で言っていた。ならば選ぶべき道は二つ。中から崩すか端から崩すかである。


よし。予定通りカドから攻めよう。連チャンしてるのはババアだ。おそらく真ん中付近の台は全てババアの養分になる。


台を女性に例えてしまったために紛らわしくなったが、打ち手には絶対的な序列があり、ダントツでトップなのが「ババア」なのである。根拠はないが、どのパチ屋に行っても島スターになっているのは年金暮らしのババア達である。そして二位は、、。


ヂャラヂャラヂャラ、、。


このカドで足組している「お姐さん」である。
年齢二、三十代の目の据わった彼女らも手強く、いくら万札を突っ込もうが絶対に出るまで帰らない。相当一途なんだろう。これを気にかけた店長が恋する乙女を傷付けまいと「遠隔ボタン」を押すのだが、まぁ、気持ちは分かる。むさい空間に咲く一輪の花に近づきたいのは誰でも同じで、案の定わたしも彼女の背中側の台を今日の指定席にすることに決めた。


よいしょと。チラッ。


やった!!目があった!!


台のアクリル越しに目が合うのはパチ屋ならではの光景で、大抵この手のお姐さんはブラ紐も透けていることが多く、こっちの心までスッケスケになるのである。


さて、ここで現状の報告だが時刻は11時15分。ここら辺から店は混みだし、午後1時になる頃には満席になるだろう。そうなってしまえば猫も杓子もなく当たりを引くのは己の運のみだろう。店的にはインパクトが大事であって、せっかく入った客を逃さないために入り口付近でパンダを配置しておく必要がある。つまり、、、。今からカド台が出るということさ。


ギュウイーン!!ガーッ!!


いいぞいいぞ。騒がしくなってきた。
この機種は中熱のリーチを繰り返したのち当たる仕組みになっている。ふふ。お姐さんも気になるでしょ??大丈夫。アナタもそろそろ当たるよ。一緒にランデブーと行こうじゃないか。


先程の序列の続きになるが三位以降はドンケツで、「ジジイ」「オヤジ」「あんちゃん」が互いの台を外せ外せと醜い争いを繰り広げている。若中年の私はパチ屋では「あんちゃん」に含まれており、仮にお姐さんと共に爆発するようなことが起これば「おい。昨日の端っこのカップルすげー出てたぞ」という話題で持ちきりだろう。これ程の優越感を得られた上に金までもらえるのだから、やはりこれは「中毒」なのだろう。



ガーガーガー。ギュオーン!!


よし来た激熱演出。


と、そこに邪魔が入る。


「おい!それ当たるぞ!!」


数分前に私の隣に「ジジイ」が座っている。
カド付近の台は人気がある。
黙って下心全快でお姐さんの隣に座ればいいものの、シカトされたことがトラウマとなって冴えない「あんちゃん」のそばに来ることが多く、上から目線で演出の説明をしてくる。そしてそれを聞かされたリーチは必ずハズレる。


ギュイーン!ギュイーン!ビイィーー!!


「おっ!!赤!金!!当たる!当たるぞ!!」


うっせー死ね。マジでどっか行け。邪魔すんな。三万置いてけ。


ビヨォォーン!ポコーン!!ボタンを、、。


押せぇぇぇーーー!!


ガンッ!スカッ。


「あ~」


マジ殺すぞ。
何だその「あ~」。どうゆう意味だコラ?寿命の心配してろ。テメーのせいでハズレた。マジで三万よこせ。


こう思えない者にパチンコを打つ資格はない。
だが、行動は人それぞれだろう。


「あ~」


ジジイと全く同じ表情を作り、同調してやった。
私は「世渡り系パチンカス」を貫くことによって運気が寄ると信じており、「ラオウ系」で勝負できるのはババアとお姐さんだけであって、弱者は笑顔を絶やしてはならない。このジジイもそこら辺は心得ているようだが、コイツは使い方を間違っている。


トントン。


「うしろの姐ちゃんすげーな」


既に時刻は12時をまわっている。
私達がつまらない争いをしている間に彼女はドル箱を積み重ねており、弱者どもは苦笑いを浮かべながら振り返っている。


私は振り返らない。
だが、受け答えには笑顔である。
パチ屋のような魑魅魍魎の世界では一笑顔=一万円の価値となっており、やたらとジャブを打つものではない。使うなら相手の笑顔を利用したカウンターの場面であって、これなら自分の運を使わずに長丁場の戦いが可能になる。




ポロン。


よし。激熱保留が入った。時刻は?


1時。


行ける。お姐さんの連チャンは?


あ、また目があった。
今の「ポロン」でオレの台が激熱待ちだと気づいたか。この爆音の中よく聞き取れたな。待っててくれ。すぐそこまで行くよ。邪魔者は居なくなった。


隣のジジイは居なくなった。
軍資金が尽きたのだろう。おそらく生活保護受給者だ。普段使わない笑顔を安売りしたあげく大した見せ場も作れず、脂汗をかきながら帰って行きやがった。何か託したかったのか「そいじゃ頑張ってよ」と言いながら『レインボーマウンテン』を置いていったが、コレを飲んだら最後。逆レインボー状態になるのはパチンカスの間では有名な話である。



ポロン。テッテッテ。リィィーチ!


くっ、、。弱い、、。
ホントに激熱かコレ?
お姐さんは?


目そらしてる、、。
優しい。優しいぞこの人。「店長ボタン」押される訳だ。


グィーーン。テッテレ~!!


大当たりぃ~!!


あれ??当たった!当たったぞ!!
お姐さんは??


驚いてる!!目が点だ!!
プレミア。プレミアだ!!こんな顔初めて見た!!


こういうヌルッとした当たり方をした台は伸びる。
余計なことをしなければ、、。


やった!
絶対にこの子は伸びる!この子に集中しよう。でも気になる、、。お姐さんの顔が、、。スタイルが、、。


パチ屋にいる「お姐さん」と面と向かって目を合わせるのは至難の技である。彼女たちは台に集中しているのも最もだが、男どものスケベ光線を跳ね返すために絶対に目を合わせようとしない。だが今のオレなら行ける気がする、、。遠回りしてトイレに行こう。アッチだってこんな弱演出から大当りを引く男の顔が気になるはずだ。「化粧室」とはよく言ったものだ。髪をセットしてこよう。



結果は最悪。
十分な収穫に満足したお姐さんは、私が戻る頃には居なくなっており、ヘソを曲げた私の台は単発。しばらく粘って見たものの稼働率が100%近くなった店にとってサービスする必要などはなく、夕方まで打って三万負け。しかし私の心は前向きである。



「6時間で三万か、、。実質勝ちだな。アクリル越しにお姐さんと通じ合えたんだ。キャバクラよりは安いだろ。来週もまた来よう」。



また新しい宇宙が今も、カス達の間で生まれている、、。

スープカレーは食のインストラクター

食の始まりとは野菜にあると思う。これの美味しさに気付いた時から食事の世界が広がるのであって、野菜嫌いの人を敵に回すかも知れないが、野菜を食べれないというのは運動が出来ないことに等しい。でも安心しよう。手取り足取り教えてもらえばいいじゃない。それではスープカレー先生、お願いします。




例にも漏れず私もソレの一人だったのだが、その一番の理由は母親の料理の下手さである。「何言ってるのアンタ!?じゃあ、自分で作りなさいよ!!」という罵声が聞こえてきそうだが「うん。だから作ってるよ。それかコンビニで弁当買ってるよ」という反論が出来るくらいの行動を十歳くらいからしていたと思う。


何も私は家族に恨みがある訳ではなく、兄や姉が一足先にお小遣い制度を導入して手伝っていたことに羨ましさを感じていたし、世の中ギブアンドテイクだなという真実を子供ながらに知れたことは幸運だったと思う。それに自営している家族の苦労は直接伝わっており、「家事なんてするヒマないよね」という副キャプテン的な優しさがデフォルトされる事で争いを避ける能力が身に付くのだが、それはあくまで「外」での話である。





「おい、ババア今日のメシ何?」


「ウインナーとソーセージ」


「他には?」


「なます」


「マジくそだな」


「うるさい!!じゃあ食うな!!」


「わかった。コンビニ行ってくる」。


我ながらクソ生意気なガキだと思うが、5㎞離れたコンビニまで行った行動力は褒めてやりたい。私の家族関係は複雑なものではなく、普通の愛情を受けながら育ってきた自覚はあるが、このような反抗的な態度を取る理由は、メシが不味いの一点に尽きると思う。というのも不味いメシを作る人間というのは、そもそも味というものを分かっていなく、いや、味なら調味料で誤魔化せるのだが、食感が絶望的にズレており、それが野菜ともなると石や泥を食べているのと何ら変わりがない。「ガリッ」「ドロッ」っといった品物が並ぶのが我が家の食卓であり、反抗期に差し掛かる前の子供たちにとってそれはただの空腹を満たす時間であって、無抵抗なのをいいことに親たちは無理やりそれを口に突っ込んでくる。その反動と小遣いという宝物が相まって私の家の子供たちは自立するのが早く、皆「反論させない反抗期」というムカつく餓鬼に仕上がっていき、何故か私だけが未だにそれから脱却できずにいる。





時は200X年。
場所は札幌。巷の女どもは「あそこのスープカレーは~」などと髪をクルクルさせながら猫なで声で喚いており、その指を見つめながら私は興奮を隠せずにいた。何せ此処は200万人都市の札幌。普通にしていれば出会いなど幾らでもあるだろう。そう。野菜を食べられる普通の男なら、、、。




「ねぇー。美味しいスープカレーご馳走してよぉ~」


と、幼馴染みに近い女がそう言ってきた。
「っち。めんどくせーな」と思いつつも彼女との関係を絶とうという気持ちは当時二十歳前後の私には起こらず、それは彼女がいい奴だからではなく、私の未熟さにあると思う。


「遊びたい盛り」なんてものは人生どのタイミングで来るか分からないものである。一般的に若い時と言われているが、これは「遊ばなきゃ」に取り憑かれた者がネズミ算式に増えた結果であって、私はそんなネズミ講などよそに家でカレーライスを食っていれば十分幸せだったのだが最近耳にする「スープカレー」という言葉が気になっていた。


何だスープカレーって??
カレースープじゃダメなのか??そんな安易な名前で何でこんなに盛り上がってるんだ?カレーライスとカレーヌードルの立場はどうなる?十分うまいだろ。ふざけんなオレは浮気はしない。


「ちょっとぉ聞いてるー?せっかくいい店見つけたんだからぁ~」


うっせー。髪クルクルすんな。似合ってねーんだよ。安売りすんな。普段しない人がするからグッと来るんだよ。別にオマエのこと嫌いじゃないけど嫌いになりそう、、。


「うーん。別にいいけど、、。ってか普通のカレーじゃダメなの?CoCo壱でいいじゃん」


「はぁー!?いい訳ないじゃん!!アタシの立場考えてよ!いい?今はスープカレー入れ食い状態なの。そこで女子会を開きつつイケメンの彼氏をゲットするのが流行りなの。これに乗らなくてどうするの?わかった?アンタにも絶対ご利益あるわよ」


知らねーよ、そんな宗教。
オマエこの前まで旨そうにカレー食ってただろ。喋り方もエヴァミサトさんみたいになってるしよ。大好きだけどオマエがするとガッカリする、、。


「うーん。まぁ、そこまで言うなら、、」


「はい!決定~!じゃあ今度の木曜、夜9時ね。あんまり人に見られたくないからパッと食べてパッと出るわよ」


だったらCoCo壱でいいだろ。
マジで一人で行けよ。


そう思いながら次の木曜日まで待っていたのだが、何も悪い印象ばかりでもなかった。


アイツが言った「スープカレー入れ食い状態」。
確かにそれはわかる気がする、、。
最近ジャガイモ面の同僚どもに彼女ができるというパルプンテが多発している。聞きたくもねー自慢話の端々には「スープカレー」。さらに声をわざとらしく大きくしたジャガイモどもは「ゴロッとした野菜が超うめぇ」などと超勘に障る「超」の言い方し、こちらの神経を逆撫でしてくる。


まずい、、。追いて行かれる、、。
CR海物語を打ってる場合じゃない。何が「リィィーチ!」だ。何回魚群ハズレるんだよ。台パンすんぞコラ。現実を見ろ。目の前の魚群を逃してどうする。アイツも鬼じゃない。これだけメシを奢ってやってるんだ。オレに合った女の一人や二人紹介してくれるだろう。


そう思うと、楽しみな気持ちで食事を迎えられたのだが、やっぱりコイツは鬼なのかもしれない。一時間遅れの閉店ギリギリになって現れやがった。


「ごめーん!髪なかなか乾かなくてさー。さーて!あとは食べて寝るだけだー」


しかもジャージでノーメイク。
マジでなめてんな。オレにも失礼だけど、店にも失礼だかんな。ほら、店員もちょっとキレてんじゃん。よし。俺もキレよう。


「一時間遅れはないよね」


「ちょっ!そんな怒んないでよ!あっ!ブラしてくるの忘れた!そして財布も忘れた。テヘッ!」


オマエがやっても可愛くねーんだよ。オマエとはそうゆうんじゃないんだよ。もういいや。食事を楽しもう。


コイツの会話が聞こえたのか、さらに怒りの表情が増した店員がメニューの説明をしてきた。


「お客様。誠に申し訳ありませんが今がラストオーダーになります。あと、コチラとコチラの商品が本日は品切れとなっております」


「えー!!聞いてないよぉ~。せっかく楽しみに来たのに、、」


だから今説明してんだろ。
ちょっと店員さんオレまで睨まないでよ。100%オレのせいじゃないから。


「わかりました」と了承したものの、この品切れには私もショックを受けた。なぜなら野菜系がメインのスープカレーしか残っていなかったのである。


だからカレーライスがいいっつたんだよ、、。
何この写真??ホントこんなでかい野菜がそのまま出てくんの?マジで無理なんだけど、、。全部残してスープだけ飲もうかな、、。いや、それは流石に失礼か、、。


そうこう悩んでいるうちに彼女が勝手に注文した『ゴロッとした野菜のスープカレー』が私の前に運ばれてきた。


「きゃー!!美味しそうー!!やっぱアタシもそれにすれば良かったー」


などと『ネバッとしたオクラのスープカレー』を頬張りながら羨ましがっている彼女を尻目に、私は目の前のばくだん岩とにらめっこをしていた。


マジでゴロッとしてやがる、、。
まぁいい。所詮はジャガイモ。母親の唯一のマシな料理「イモの塩煮」もそうだったようにハズレる可能性は低い。一口で平らげてやる。パクっ。


すると突然コイツはマダンテを唱え、おもいっきり爆発しやがった。


!!!


「ハフッ、ハフッ、、、。あちちち、、」


「ちょっと。何やってんの?バカじゃないの。どう?味は?」


「う、うまい、、」


スパイスの効いた激熱な味だ。イモで感動したのは祭で食べたフライドポテト以来で、私の表情を見た彼女は得意気に次の野菜を薦めてきた。


「ね?だから美味しいって言ったでしょ?さあ次は、穴~の空いたニンジンさん!だよ」


ニンジンか、、、。
こいつ程ガードの固い食いもんもないだろう。形は大根と変わらんクセにオレンジ色の主張が強く、味が染み込むのを嫌ってやがる。よく、甘い!とか言っている奴がいるがオレんちでそんなニンジンは出たことはない。カッチカチのクレヨンみてーな生臭えニンジンを食わされてきた子供にとってニンジンとは悪の元凶でしかなく、気分よくスーパーで買い物している商品を全て投げつけたくなる衝動に駈られることさえある。


「早く食べなよ!アタシも欲しいんだから」


オマエどんだけ食うの??
マジで自分で払えよ。とりあえず食べてみよう。マズかったら吐き出したのをコイツに食ってもらえばいい。パクっ。


!!!


「甘っ!!辛っ!!柔らかっ!!」


「そう!そうなの!すーっごい味が染み込んでで相性バッチリなの!バーモンドなんて目じゃないでしょ?」


「うん。そうかも、、。ニンジンがバーモンドしてエドモンドしてる、、」


ニンジンとはこんなにも旨いもんだったのか、、。
過去の自分に百列張り手を喰らわせてやりたい気分だ、、。


「よし!それじゃ他のはアタシが食べてあげるから最後の行くよ。コレさえ食べれればアンタも普通の仲間入り。それは、、、『ピーマン』です」


出た。下手すりゃ下ネタ。好きな人には逆から言わせたい。それが、、、『ピーマン』です。


マジで嫌いだわこの食いもん。まずフォルムがキモいんだよ。喧嘩っ早いヤンキーのケツみたいな締まり方しやがって。高校ん時に喰らったローキック思い出すんだよ。売り切れてたんだからしょうがねーだろ。マジで死ねよアイツ。そうゆう奴に限って中身がスッカラカンなんだよ。なぁピーマン。お前もそう思うだろ?


ピーマンという食材はある意味、詐欺商材である。
安いと思って買ってみたところで切ってみるとほとんど空。しかも種が不規則にへばりついており、苦労して取り終わった頃には実は少ししか残っておらず、そしてその実は苦い。


こんなん誰が食うの??
そんなに栄養あるの??ただの色合わせだろ。でも、わかるよ。そうゆう奴も社会には必要なんだろうな、、。うん。パシリってつらいよな。パクっ。



すると、


「オレはパシリじゃねー!!!」


と、スープの中を泳いでいたピーマンは激しく私を罵倒してきた。
それもそのはず。料理人によって二枚下ろしに切られた彼は正に料理の主役であり、素揚げというコーティングを纏って奏でられる二重奏をリードするのは彼であって、スープの辛みが後からついてくる構図となっていた。それを味わった者のリアクションとは単純なものになるのだろう。


「ピーマンピーマンピーマンピーマン」


「ちょっ!?」


「ピーマンピーマンピーマン、、、」


「わかったって!!美味しいのわかったから!!恥ずかしいから止めてよ!!」


「あ、、。ごめん」。




その後、恥ずかしそうに会計を済ませ店を出た。
この件があってから彼女からの連絡は減った。おそらく女子会に使おうと思っていた店が私の奇行によって潰されたのに腹を立てたのであろう。当の私は、これをキッカケに野菜の美味しさに目覚め、今では調味料を付けることなく素材のまま食べるまでに至っている。あ、そういえばあの後アイツから連絡がきた気がする、、。


「そういえば~。この前いい忘れてたんだけどー。彼女探してる人いたらいつでも紹介してくれてOKだからね~。とりあえず今度マック奢ってね!」



全くもって現金な女である。
皆さん。心のインストラクトも忘れずに、、。

北日本目玉焼き選手権開催!!

レシピ通り作れば皆が同じ味になるほど料理は簡単なものではなく、それは目玉焼きにも当てはまる。えっ?目玉焼きなんて料理じゃないって?甘いな。火を通せばストーリーが始まる。野郎ども準備はいいか?モテない奴グランプリの始まりだあー!!




まずは出場資格。一人暮らし歴=彼女いない歴の30歳以上の男性。年齢差別も男女差別もしたくないのだが、今回は大会ということもあって絵面が大事になってくる。学生やOLの方でも目玉焼きを愛していることは重々承知の上で今回は観戦者に回ってほしい。あなた方だと被写体が眩しすぎて目玉焼きの渋みが出ないのである。


次に出場地域なのだがタイトルにある通り東北・北海道に限定させてもらおう。ハッキリ言うとコレは全日本選手権と言ってよく、その理由は北国の賃金の低さであろう。それを言うと南端の沖縄なども当てはまるのだが、寒い冬にジュワッと焼いた目玉焼き。それを古びたアパートでがっつく中年男性。一人鍋なんてドラマの見すぎである。そんな手間も金もかける気はなく、常温で保存できる卵をフライパンの近くに置いておき、殻も食器もそこら辺に捨てておく。腐ることなんて有り得なく、ティッシュペーパーで拭いておけば再利用できるだろう。どうだろうか?北国の方が目玉焼き映えするのではなかろうか。


さて、料理とは回数である。
不正は許さない。一つの卵に対し一つ。それをそうだな、、。千。いや、、。三千。三千個ものストーリーを作ってきた者にだけ権利を与えよう。さあ、お前の生き様を見せてみよ。




大会当日、私に緊張はなかった。
こんなローカル番組など誰も見ているはずもなく、会場も築50年の空き家とあって、普段通りの実力を出せれば難なく優勝できると思っていたからである。それもそのはず。運営費的に予選などはなく、いきなりの決勝からの舞台であって、どうせ客寄せパンダの集まりだろうと鷹をくくっていたからである。


恥ずかしがり屋のオレにはこうゆう企画がちょうどいい。超マニアックな大会だが、これで優勝できれば転職には困らないだろう。面接時の掴みは最高だ。その場で実演すれば面接官のハートは鷲掴みで後世まで語りつかれるだろう。とゆうか誰だ?オレ以外にも変質者はいるのか?ザコが。オレの道に立ち塞がるんじゃねーよ。


と、思いながら建て付けの狂ったドアを開けると三人の姿が見える。一人はスキンヘッドの老人。一人は長髪を後ろで束ねた男性。もう一人は茶髪の若い女性。なるほど。敵は二人。手強そうだな。瞳孔が目玉焼き色に染まってやがる、、。それを審査するのがこの女性か、、。女だとどうしても評価が世間寄りになる。そんな一般基準を当てはめないでくれよ。


「さぁ!始まりました!目玉焼き選手権北ブロック。この激戦区を制するのは誰か?選手発表です!!」


と、長髪の男性が勢い良く話始めた。
どうやら彼は司会者だったらしい。


っち。読みが外れた、、。
いきなりこのハゲとの一騎討ちか、、。負けるかもしれんな、、。


「それではエントリーNo.1番。御年八十八歳!!ベージュ色の頭は米寿祝いの賜物か?そんな卵にを焼いてくれ!スキン山次郎の登場だぁー!!」


くっ、、。ずるいぞ、、。
何だその紹介?テンション爆上がりだろう。見ろ。ジジイの顔が火照ってやがる。これ以上パラメーターを上げられるのは危険だ。頼む。オレにも特上のをかましてくれ。


「続いてはZEN吉!!何でお前が来れたんだ?ナレーション泣かせの中肉中年。出来るなら私が代わってやりたい!!エントリーNo.2番だぁー!!」


おい。てめぇボケコラ。
2番だぁー!じゃねーよ。拾えボケ。何かあんだろうが。なに本音言ってんだよ。よし分かった。お前も敵だな?やってやろうじゃねーかよ。


と、戦意に火がついた所に思わぬ伏兵が現れる。


「続いてはエントリーNo.3番!!その茶色い髪はフライパンで炒めたのか?氏名・年齢不詳だが美人は何をやっても許される!!目玉焼き界のジャンヌダルク!!えーと、名前はどうしよう。あーもう何でもいいや!!フライパン子の登場だぁー!!」


三人目だとぉ!?
ダメだ。そんなのは認められない。美人が許されるのはプライベートな場所だけだ。これは大会の沽券に関わる。よし。クレームを入れよう。パン子ちゃんよぉ。アンタこうゆう男が好きなんだろ?


「ちょっと待ってくださいよ!!この方どう見たって二十代じゃないですかぁ!?それに男を切らしたことないような見た目だし、下手したら一人暮らし自体したことないんじゃないですかぁ!?いや、別にパン子さんを悪く言ってる訳じゃないんですよ。大前提を忘れたら大会の価値が失くなるって言いたいすよ僕は。違いますか?長髪のお兄さんよぉ??」


どうだ??
先に喧嘩を仕掛けてきたのはお前だ。司会者としての立場に苦しみやがれ。


「2番さんアンタねぇ、、。言って良いことと悪いことの区別もつかないの?パン子さんはねぇ、、たぶん四十代よ。何でこんなに若く見えるかって言うとね、、。それはね、、。膜があるからなの」


膜だと!?
んなもんオレらにだってあるわ!なぁ?山次郎?
おいボケ。カッコつけた顔すんな。お前はもうムリ何だって。自分の勃起率を考えろ。いや、それよりも、、。いいねぇパン子ちゃん。その強気な顔。ますますオレ好みだぜ。ここは絶対に優勝してやる。


「まあ、そうゆうことなら僕も引きますわ。それだけの覚悟を持っている方なんですね。ただね、、。えこひいきは許しませんよ。純粋な実力勝負で行こうじゃないですか」


「はい!負け犬のフラグが立ったところでもう始めちゃいましょう!行くぞ!!よーい」


パカッ


と、司会者が額で卵を割ったのを合図に試合は始まった。司会者の顔は、割れた卵と殻が口元まで垂れてきており、それを美味しそうにペロリと舐めていた。なるほど。喧嘩を売るだけのことはある。どうやらコイツも本物らしい。


本物にはメダマーの気持ちが分かる。
この男のナレーションが私の心情と思ってもらってかまわない。


「さあっ!目玉焼きとは秒殺だ!大事なのは準備。準備が全て!あーっと1番、山次郎!!アンタ何やってんだ!?いくら古いからって床材を剥がしたらダメだろう!!」


バリッ!


バリバリッ!!


ガンッ!!!


「ほーら見たことか!!バールが額に当たって流血だぁー!!お前みたいな何でもできると思っているジジイが一番たちが悪い!!屋根から滑り落ちてニュースなるのは決まってお前らだぁー!!」


「続いては2番!!」


カチカチ、、、。


「カセットコンロ!!カセットコンロ持参!!それにサラダ油!!つまらん。つまらんぞぉー!!もういいから次行っちゃいましょう!!」


ふん。
お前だって分かってんだろ?
これが目玉焼きの王道だ。お前の言葉は全て嫉妬から来るものだ。パン子ちゃんをいただくのはオレなんだよ。


「さあ、気になるパン子の舞台は、、、」


「備え付けの流し台だぁー!!いいわねぇ、、。古びたキッチンに立つ淑女。いったい誰に作っているのかしら?まぁ!!ウインナーを焼いているわ!!絶対に男根を意識してるわねアナタ。もうっ!かわいいんだからっ!!」


なるほど。それがお前の作戦か。
オカマ言葉を使って安心感を与えたところで噛みつく。甘いな。こうゆう女に限って普通の恋愛がしたいのさ。好きな番号も2。奇数みたいな融通の利かない男はまっぴらゴメンなのさ。


「おおーっと!今度は何をしているんだ山じい!!庭で焚き火をし始めたぞぉー!!」


モクモクモク、、、。


「だが、湿気ってるぅぅー!!!何でトイレの床を剥がしたんだぁー!?肥料になると思ったのかぁー!?臭っせー燻製でも作るつもりなのかぁー!?」


バサバサバサッ


「ああーっと!新聞紙、トイレットペーパー、週刊ポストの投入だぁー!!意地になってる。意地になってるぞコイツ。マジでめんどくせージジイだなオイ」


ボァッ!!!


「付いたぁーー!!!付いたけど、、、。おえっ!!くっさ!!ションベンくっさっ!!頼むから周りの迷惑も考えてくれぇー!!」


ガンッ!!


「ここで一斗缶置いて、、、。そこに??」


ねちょ


「ラードをたっぷり塗って、、、。次は何を出す??」


ドンッ!!


「ダチョウの卵だぁー!!!しかも自家製!!動物好きもここまで来れば恐怖!!山じい劇場ここに極まる!!さあ、そしてその卵を、、」


ガン!!ベコッ


「ダメだぁぁーー!!!一斗缶の方が潰れてしまったぁーー!!」


「しかも滑った卵は、、、」


週刊ポストの灰の中!!哀れ山じい。もう臭いから閉めちゃいましょう!!エントリーNo.1番スキン山次郎失格!!狙いどおりの燻製が作れて良かったね!!」


きびしいな、、、。
尺が取れたところで容赦なく切り捨てる。卵を割るところが一番の見せ場だ。四回転半を狙いに行ったジジイの気持ちは分かるが、ここは大人しくトリプルサルコーで我慢しよう。失格になればストーリーもそこで終わってしまう。


「さぁ、2番オマエはどうする??」


カンッ。パリッ。ポチャ。


「つまんねー!!マジつまんねーよオマエ。せめて片手だろ。チンコ付いてんのか?男で両手で割ってるヤツ初めて見たわ」


言ってろボケ。
片手で割る意味なんてねーんだよ。養鶏業者に失礼なんだよ。


「さあ、3番のパン子ちゃん。あなたならどうする?」


カンッ。


「あら、可愛らしい。手のかたちが3になってるわ。まるでアナタのお尻みたい、、。」


パリッ。


「出てきたわ!!卵が!!アナタの卵が!!ホントに美味しそうだわ!!」


おい。
やりすぎだ。生々しすぎる。癖を出しすぎだ。変態がすぎるぞ。


ポチャ。


「そして着床ぉぉー!!それを迎え撃つのは??」


シュワ~。


「あったけぇ~!!超気持ちいいよ。俺フライパンの気持ち分かるよ。なぁ、パン子?お前もわかるだろ?」


やめろ。
ソレお前の願望だろ?そしてお前がうらやましい。オレも公然わいせつをしてみたい、、。


ぐつぐつぐつ、、。


「ここで落し蓋ぁー!!固い!!固いぞパン子!!煮てどうする?その膜、誰が破るんだ??俺か?よし。任せとけ。今からスティックを研いでおこう!」


違う。オレだ。
さっきニンニク卵黄を二粒飲んどいた。


「さあっ!!そうこうしてる間に2番の料理が出来上がった模様です!!しょうがねーから食ってやるか」


「ほーう。コレは中々、、。外周を程よく焦がしたうえに、底面にはツルッとしたサラダ油。それを熱々のゴハンの上に乗っけて、黄身を一差しした所に醤油を流し込む。まさに目玉焼きキングスといった所だろう。さて。実食!!」


モグモグモグ、、。


「うん!サラダ記念日!以上!」


だから拾えって。
てめえパン子ちゃんとイチャつくことしか考えてねーだろ。せめてオレのをパン子ちゃんに食わせろよ。閉経レベルの仕上がり具合だぞ。


「おーっと!!ついにチャンピオンの目玉焼きが茹で上がったぞぉー!!さぁ!負け犬ども。一緒に喰おうぜ!俺も付き合ってやるからよぉ!」


ふん。いいさ。ベルトはくれてやるよ。
だが、亭主の座は絶対に譲らない。これを上手に食ったヤツがパートナーになる権利がある。それは、、。このオレだ!!


「それでは食べて行きましょう。あら、パン子ちゃん。あなた本当に気遣いね、、。わざわざ三つも作ってくれるなんて。将来子供は三人欲しいのね」


ここから男たちのプライドをかけた実食が始まる。
いくら料理に魂を注ごうが、女を幸せにするのは食事の作法に尽きる。さあ、まずは長男から行ってみよう。


メリメリメリ、、、。


「ちょ!?何をやってるんだ山じい!?ウインナーで膜を破ってどうする!?んな喰い方があるかバカヤロウ!!」


くくく。やっぱりこうなったか。
この年代のジジイは食料不足が祟って「がっつく・ぶっ込む・ぶっかける」の呪いにかかっている奴が多い。パン子はそんなドMな女じゃない。今日のお前はとことん引き立て役なのさ。


「もう~!これ以上の失態は許されないぞ!!次男ZEN吉。お前はどうする??」


ペラッ。サラサラ、、。


「木製スプーン!!木製スプーンだ!!どこに隠し持っていやがった!?優しい!!優しいぞチクショウ!!俺のアソコも疼いて来やがった!!」


ふはは。喚け喚け。
膜ありの目玉焼きはこうやって撫でるように潰すのが正解なのさ。見てろよ。そろそろ臨界点だ。


ナデナデナデ、、、。


「やめて!!もうわたし耐えられない!!イキそう!!」


やめろ。お前がアフレコするな。
マジで気持ち悪い。おい。山じい。何でテメーまで赤くなってんだよ。


ナデナデ。ぶちゅ。


「ギャアァァーー!!」
「ヴァァァァーー!!」


何でお前らがイッてんの??
主旨間違ってんだろ。肝心のパン子ちゃんのリアクションはどうだ??


ヤバい。
引いてる。
そりゃそうだろ。これじゃあ、ただの性癖発表会だ。彼女は純粋にパートナーを求めてこの大会に参加している。こんな変質者どもと一緒にされてたまるか。断ち切れ。欲望を。ウインナーを断ち切って誠意を見せるんだ。


ググッ、、。


切れねー!!
何だこのウインナー!?どんだけ固く作ったの!?めんどくせー女だなオイ!!スプーンも悪い。脆弱すぎる。だまって鉄製のにすれば良かった、、。


グググッ、、。


よし!もう少し!!
パン子の顔は??


やった!!
半開きだ!!惚れかけてる。惚れかけてるよオイ。


グググッ。ツルンッ!!


あっ!!!


ヒュルル~~、パクっ!!


「あーーっと!!それゃねーだろZEN吉!!無理やりウインナーをパン子の口に突っ込みやがったぁーー!!どうだ??こんな事されてどうなる膜あり48??」


ダッ!!!


「逃げたぁぁーーー!!それゃそうだ。しかも涙ながら!!エントリーNo.2番ZEN吉、公然わいせつ罪で失格!!よってこの大会は、、、」


「該当者0につき終了!!私はこれからパン子さんのフォローに向かいます。ちなみに前代未聞の強姦罪を犯したZEN吉さんは永久追放処分となる模様です。それでは北日本目玉焼き選手権、次回開催をお楽しみに」。





二度と来ねーよボケ。

一日一食って一人一殺くらいの難易度じゃね?

最近流行りの「一日一食」。カロリー計算はどうなっているのだろう?男性なのか女性なのか?仕事は?一食で必要カロリーを摂取するのだろうか?だとしたらこう言いたい。「アンタら人質でも取られたの?」と。



この情報社会。有益な情報に飛びつかなければ損害を出すことは必死であり、そこに変なプライドは不要であろう。人生の大多数を占めている「食」のテーマは少々重く感じたが、モノは試しだなと思い実践を試みることにした。結論としては失敗に終わったのだが始めたタイミングはベストであって、「食」というものに疑問を感じていたし、ちょうど体力を使わない休職中ということもあり、余計な言い訳がない素直なデータが取れたと思う。


始めたキッカケとなった言葉は「空腹は最高の薬」や「食事は中毒」といった、いかにもミーハーが引っかかりそうなフレーズであったが、大切なのはそれが真実なのかであって、この情報社会において嘘がトップページに来るということは最早あり得ない事だろう。


ここで知りたくもない私の身体的データを公表すると、身長175cmに体重65kg、食べても太らない体質で割りと筋肉質。顔は昔はキモいとよく言われたが、年を取るに連れ普通??と言われることが多くなり、公平な判断をしても中の下から中の中の間に収まると思われる。


だけど圧倒的にモテない。


何で?何故なんだ?
少しは分かる。モテないと分かりつつも「モテたい」と思っているのが顔に出てるのだろう。でも、そんなの全員そうでしょ?普通の事だろ?
いや、ちょっと待て。
「普通」がよくないんじゃないか?健康的なこの体が「どう?モテそうだろ?」という鼻につく印象を与えているんじゃないのか?きっとそうだ。どちらにせよ何かを変えなければ活路はない。よし、やろう。


ならば後は調べるだけである。
全く便利な世の中になったものである。
俺に相手が居ないことを除いてな、、。


ふう、、。どれどれ、、。


「食事は一日一食で十分!!それ以外は、軽めのサラダやナッツ、コーヒーで済ませましょう!!」


ふーん。
つーかそれ一日一食って言わなくね??
何で野菜と豆類カウントしねーんだよ。ズルいだろ。コーヒーなんてただ固体砕いただけだかんな?固まる前のコンクリートと同じだかんな。つーか、カッコつけたいだけだろ?「節制しているアタシを見て」ってか?いーよ。見てやるよ。そのかわり服着るなよ。


おっと、まずいまずい。ひねくれた部分が出てしまった。コレじゃあ何時まで経っても行動に移せない、、。もっとオレ寄りに書いてある記事を読もう。おっ!コレなんかいいんじゃないか?


「オレ、冴えない現場作業員。生まれてから彼女なし。でも、、。一日一食にしてから人生が変わりました!!それは、、」


うん。もうわかったよ。
エロ本の裏に載ってるパターンね。すっごいグラマラスな彼女できたんでしょ?一億回転んでもそんなことあり得ないんだけど、それに期待してる自分が悔しい、、。だってトップページなんだもん、、。


「それは、、」


それは??
早く言え。くされ童貞。


「それは、近所のお爺さんやお婆さんにゴハンを呼ばれるようになったことです!!これによって私は食費が~~」


そっち??
ゴメンもう一回。
そっち??
ダメだってお前それは。これ以上腐ってどうすんの?何でそっち行った?いい味出しすぎだろ。何で?何でこんなのが検索エンジントップなの?どうゆうこと?「高齢者ハンター」が今のトレンドなの??


Google先生たちは、本人が何を目指しているか全てお見通しである。本人は自分の意思で動いているのかもしれないが、それは遥か上空から指された盤上の一手であって、私は先生の意思に逆らうことは出来ない。


くそっ。時間をムダにした、、。
出会い系サイトでだまされた気分だ。エロサイトでも見て気分転換しよう、、。ん?そういえばいつも熟女系がピックアップされるな、、。「高齢者ハンター」とまでは行かないまでもオレの本質はそれに近いものがある、、。それだ!!甘えよう!!年上に。現実でも。痩せよう。いつから?今でしょ!古っ!



こうなると私は計画的に利己的に動くタイプの人間である。
まずはメニュー。「玄米、納豆、ゆでたまご、サバ缶」。これを一日一食、約1200カロリー取れば、栄養失調になることはないだろう。これを毎年取り入れているニート期間にぶつける。食費は500円に収まるし、筋力が落ちても問題はないだろう。生活は家と図書館の往復でいい。ただひたすらに。ただひたすらに、あの人の家の前を通ればいい。


「あの人」の事を私はよく知らない。
わかっていることは、いつも読書しながら弁当を黙々と食べており、静かな人なのかな?と思っていたのだが、サッパリした会話の際にできる口角のシワが勝ち気な性格を想像させる。年は40~50で独身。あの色彩豊かな弁当は食への楽しみというより、「早くアタシに作らせてみなよ」という意味合いが強い気がする、、。そんな人に甘えてみたい、、。


私のニート期間は一月半。その間彼女は普通に働いている。遭遇できるチャンスは一回か二回、良くて三回だろう。一回目が大事だ。なるべく早く。こればかりは運だ。これ以上調べるとストーカーになる。





「ぜ、ZEN吉くん?おはよう。お休み?」


か、神よ、、。ありがとう。
アパートとそれに逆算した出社時間は調べたが、ここまで早く会えるとは、、。今はニート期間一週目。ここでのジャブが全てだ。命をかけろ。


「あ、おはようございます。家ここら辺なんですね?はい。しばらく休みなんで散歩がてら図書館に行こうかなって」


「あ、そっか職人さんたち今仕事ないって言ってたもんね。それじゃあ、ごゆっくり」


「はい。ありがとうございます」


よし。これでいい。
この人はサッパリ系だ。そうそうの事じゃ会話は広がらないだろう。図書館というワードを出せただけで十分だ。別れのあいさつも良かったんじゃないか?「頑張って下さい」なんて禁止ワードだ。そんな体力などもうない。ただ「ありがとう」。それがシンプルかつ最強だ。


仕込みは終った。
後は少食を貫き、読書をするだけである。


食べても太らない人間というのは代謝が良いというより燃費が悪いだけである。筋肉を使おうが使わないがエネルギーを摂取しなければ、みるみる痩せてドクロのようになっていき、そこから感じられる幸せはないだろう。贅沢な悩みかもしれないが、幸せそうという面では代謝が悪い人間の方が優れている気がする。

が、その不幸せが母性本能をくすぐるのだろう。
ニート期間は四週目に差し掛かっており、図書館帰りの私の足取りは普段とは比べものにならないほど弱々しくなっていた。


き、きつい、、。
なめてた、、。栄養なんて取れれば何でもいいと思ってた自分をぶっ殺したい。ピザが食いたい、、。野菜でもいい。色。カラフルなものが見たい。もう茶色の食い物はうんざりだ、、。


そこに彼女が現れる。
真っ赤なセーターが夕日を浴び、さらに赤くなっており、色白の彼女の美しさを引き出していた。これ程のシチュエーションでは当然わたしの顔も赤くなるはずだが、そんな血管などガイコツに通っている訳もなく呆然と彼女を見届ける。


「あ、こんにちは。また会いましたね」


「こんにちは。ZEN吉くん痩せたよね?大丈夫?」


「うん。大丈夫ですよ。働いてないから少食にしてるんです」


馬鹿な男である。素直にお腹減ってると言えば、飛び込む話もあるだろうにそれが出来ないために何百もの話を潰している。だがその気持ちは彼女もわかるのだろう。母性本能というより自己投影に我慢できなくなって彼女は私の前に立っている。


「うそ。絶対大丈夫じゃないよ。日に日に弱ってるよ。あなたの歩いてる姿、アタシの部屋から見えるの」


よし。計算通り。
彼女の部屋は西面だ。大事なのは夕日だ。朝日なんて眩しすぎる。夕日に照らされたダメ男。こんな哀愁漂う男もいないだろう。彼女がカーテンを閉める時間帯を狙ってただひたすらに歩く。これがオレの節制だ。言っておくがオレはストーカーじゃない。プランナーだ。計画通り。計画通りだけど喜ぶ気力がない。疲れた。


「はは。見られてたなんて恥ずかしい。もっとシャキッと歩けば良かったですね。あ、でもムリするのも良くないかな、、」


「そーだよ。強がってもいいことないよ。はいコレ。もう見てらんなくてさ、、」


「え?コレって?」


「何じゃないよ。リンゴだよ。食べやすいように切ってあるから皮ごと食べてよ。急いで切ったんだから、、」


「きれい、、」


「大げさ。そんなの誰でも切れるよ。とにかく若いんだからちゃんと食べなさい。それじゃあね」


「あ、ありがとうございます」


最高だ、、。生き返った。
でも、落ち着け。間違ってもスキップなんてするな。振り返ってもいけない。トボトボ歩き続けるんだ。これは三回目も確実にある。その時に決める。何を?男さ。


その夜、男は迷っていた。
見つめる先は銀杏風に切られたリンゴの酸化が進んでいる。


どうするこのリンゴ?
食うのか?いや、捨てるという選択肢はない。それは人間道に反する。かといってルールも貫けないような男もどうしたものか、、。メニューにない食事だぞ。どうする?リンゴが茶ばんで来てやがる、、。台無しだ。赤い。彼女のテーマカラーが、、。オレの心はどうだ?


赤い!!
食え!!


ムシャムシャムシャ、、。




ニート生活最終週。
そこには擬態をしている男がわざとらしい猫背で歩いている。


ぐへへ。メニューにリンゴを加えてからすこぶる調子がいい。いや、相変わらず腹は減ってるよ。でも潤うんだよ。心がな。そろそろだ。今日あたり彼女は現れるはずだ。今日は夕日がきれいだ。オレはその輪郭に合わせて背中を丸めていればいい。


すると、目の前に白のロングスカートが現れ、男は視線を上げる。ダメな男の視野は恐ろしく狭い。あっ、今日も赤いセーターだ。上へ。あれ?今日は体のラインが分かる。スタイルに自信があるんだな。上へ。そろそろ髪なんだけどな、、。あっ!ショートカットになってる!きっと何かを決心したんだろう。


「遅い!すぐ挨拶する!」


「こんにちは。今日は元気なんですね」


「今日はって何よ?ZEN吉くん」


「はは。すいません」


ぐへ。ぐへへ。
もうすっかり主従関係が出来上がっている。主人はオレだ。しっかり支えて下さいよ。


「ホントすっかりガオっちゃって、、。そんなんで現場復帰できるの?」


はい。ガオってますよ。心身共にね。今日はオオカミだ。


「うーん。たぶん大丈夫。うっ、、」


よろめいてみせた。あながち嘘でもなく、一月半もカロリー不足が続くと貧血気味になる。


「ちょっと!?いい男がよろめかない!そもそも何でここの図書館に来てるの?君の家遠くなかったっけ?」


もうお互いの家まで調べる仲か、、、。
そろそろ決めゼリフをかましてもいいだろう。


沈まぬ太陽


「えっ!?」


「それが読みたかったんですよ。豊子さん」


原作:山崎豊子。そしてあなたの名前も豊子。それを隠すためにわざわざカバーをしてまで読んでいることも調査済みだ。アンタ恥ずかしがり屋のロマンチストなんだろ?わかるよ。オレも一緒だ。


「それで?全部読んだ?」


「それが、読めなくて、、。他にも面白いのが沢山あったんで、、」


「続き気になるでしょ?ウチ、、、。来る?」


うぉぉぉぉ!!


「はい!ぜひ」


そこからBGMが止まらない。
『太陽に吠えろ』


「今日、ピザ作ったの。何かさーZEN吉くんのゲッソリした姿見てたらコッチまでお腹すいてきちゃって、、。もうっ!食べるの手伝ってよ!」


「はい!ぜひ」


BGMが止まらない。
昔のドラマも悪くない。


「ところでさ、山崎豊子の作品なんて何処でも置いてるでしょ?他に理由があるんじゃないの?」


それをね、ゆっくり語り合おうじゃないか。朝日が昇る時までね。


クライマックスが近い、、。


「あれぇ?言いたくないのかな?まぁ、いいや。はい。着きました」


「やったぁ。おじゃましまーす。ん??」


なんじゃあ、こりゃあぁぁ??
男物の靴だとぉぉ??


ガチャ。


「おー!君がZEN吉くんかー!豊子から聞いてるよー。余りにかわいそうだからご馳走したいって。コイツ恥ずかしがり屋だから家に誰も呼びたくないんだけど今回は特別だってな」


、、、、、、。


「そうゆうこと。会社のみんなには知られたくないから内緒だよ。さっ!ピザ食べよ?」


、、、、、、。


「ん??どうしたの??」


、、、、、、。


「いや。僕チーズ食えないんで帰ります」。





現在、わたくしポテトチップスを食いながら執筆中。
舌打ちしながら過去の自分をブッ殺しています。

最近のマイクは心の声も拾う

私は電話というものがあまり好きではない。もっと言えばインカムやトランシーバーといった音だけで人を判断する機器が好きではない。何故なら奴らは心の声も拾うからである。




私は声というものを流動物ではなく固形物として見るタイプの人間であり、もっと分かりやすく言うならば、「音」ではなく「写真」のような捉え方をしていると言っていいだろう。少しおかしな表現になるが、人の口から流れ出ている言葉というのはドロッとしたキャットフードと見るかコロッとしたドックフードと見るかで別けられており、前者が音楽家、後者が文芸家といった脳の作りになっているのであろう。あくまで私のイメージである、、。

私たち文芸家は会話の際、ジッとその人の口元を見ていることが多く、その時している事とはポロポロとこぼれている固形物の撮影会である。連続写真を張り合わせることで会話が成立しており、それを「会話」と言えば相手は怒るかもしれないが、本人たちはそのアルバム編集作業は共同作業だと思っており、とても愉しそうである。そもそも会話なんてものは、きれいごとを述べたところで結局は本人主体で行うもので、各々がアーティスティックに相手を巻き込んで行ければ本望だろう。




「つーかオマエ話聞いてる??」


「あ、はい。聞いてますよ。こうゆうことっすよね」


「ああ、そうだけど、、。人の話最後まで聞けよ。ホントせっかちだな、、」


と、相手に不快な思いをさせる事が千回以上ある。
その時の私の精神はこうである。


違う。オレは「せっかち」じゃない。
せっかちって落ち着きねー奴のことだろ??オレは落ち着いている。よく「落ち着けやコラァァ!!」って怒鳴られるけど「お前が落ち着けボケ」って一万回以上思ってる。
いいか?
オレが仕事でミスするのはスピード不足から来る焦りが原因であって、お前らの話を聞いていないからじゃない。それを何だお前ら?「アタシの歌を最後まで聞いてよぉ」と駄々こねやがって。コッチはもう歌詞の分析は終わってんだよ。聞いたら聞いたで「アンコールしてよぉ」ってエンドレス状態になるだろ。コッチは客だ。帰る権利もある。


「あとよー、、、」


何??まだあんの?
さっさと作業開始したいんだけど、、。


「人と会話する時は目を見て話せって教わらなかったか?」


教わったよ。教わったけどさ、、。
だってあんた、ギョロつき系なんだもん。ギョロつき系って言うか血走り系??そんな奴の目みたくないじゃん。一番厄介なのが「オレの澄んだ瞳を見ろ」的な純愛感を押し付けてくんのが最高に面倒くさいしマジで帰りたい。


「人の話聞かない問題」の一番の原因はコレだろう。
しっかりと相手の目さえ見ていれば内容がインプットされようがされてなかろうが関係ないのだが、何せコッチは客である。色合いの悪いギャラリー展にずっと居座るつもりなどはなく、全てこちらの気分次第ということになる。


いや、オレだってね。女子なら見るよ。
いや、どうかな、、。
いつだか「なに?」って言われたのがショックでそれ以降見れていない気がする。とゆうかどんどん視線が下がっている気がする。いつだったか口元見てただけなのに「なに?胸見ないでよ」って言われた。じゃあどこ見りゃいいんだよ。股関か?足か?舐めるように見てやるかんな。


私たち変態文芸家の成り立ちは大体こうである。
気弱なメンタルにトラウマになる台詞が重なることで真っ当な音楽家としての道を踏み外し、またその道の居心地が良くなってしまっている。ならば後は道を極めるだけである。最初は読唇術のように口元を見ないと言葉が読み取れなかったのだが、イメージを重ねるうちに音だけでも読み取れるようになってきており、作詩作曲家への道は近い。


が、私はそんな才能溢れる男ではない。
自分に酔っている凡夫ほど痛々しい奴はなく、そういう奴には痛い思いをさせてやらなければならない。




ブオーーン。
オーライ。オーライ。


建設現場での荷揚げ作業中、私はインカム(クレーン運転手との無線機)を付けた合図者の役をやっていた。この荷揚げ作業というのは工程上、非常に重要な作業であり、何せ、いち作業員ではなく大型クレーンを使った仕事なのだ。一つの合図の遅れが作業員1日分の遅れになると言っても過言ではなく、本来私のような出来ない奴がやることではないのだが、珍しく適正がある方であり、その背景には作詩作曲家を目指している所があるのであろう。


ふっ、、。オーライね、、。
「all right」。全て右に置けっていう意味じゃないぞ。問題ないって意味だ。紛らわしいから校正をしてやるか。


「オーライ!このまま真っ直ぐ真下に降ろして下さい!」


「はいよ。真下ね。降ろすよ」


わはは。どうだこの誘導?完璧だろ。こうゆう作業に一番向かない奴は歌うだけしか能がない叫び屋たちだ。


「ZEN吉~!もうチョットそれコッチ来るようにやってくれ!」


出たな、、。言ってるそばから、、。
もう言葉じゃないよ。叫び。シャウトだよ。こっちそっちどっち??こんな歌なかったっけ??かわいい子供が歌ってるならまだしも、こんなんオッサンの断末魔だろ。これは大幅な校正が必要だな。


「すみません運転手さん。今置いた材料、あと2m程、奥の道路側までお願いします」


「あいよ。行けるかなー?まぁやってみるよ」


ブオーン、、。


「もう少しコッチ!!せーの!せーの!ZEN吉ぃ~!!」


と、叫び屋たちが神輿を担いでいる。
私と運転手は冷静にその様子を見ている。


ムリなんだって、、。
クレーンで吊るような積載量だぞ??人力でどうにかなる問題じゃねーだろ。いや、わかるよ。そのチョットの移動が後々の作業を楽にするんだろ??わかるけどもう諦めろ。だって積載オーバーの警報が鳴り響いてるんだもん。お前らには聞こえねーけどな。


工事現場あるあるで作業員はどうしても奥に奥にと材料を送りたがるのだが、クレーン車にも限界というものがある。材の重さに負けてクレーンがひっくり返えってしまえば死人が出るくらいのニュースになり、もちろんそれ防止のための警報器が装備されているのだが、悲しいかなその悲鳴が届くのは運転手とそれとインカムで繋がっている私だけである。


「ZEN吉~!早くお前も来てコッチ押すの手伝え!あと運転手にもコレこっちに送るように言え!」


ムリだって、、。
お前らにこの悲鳴が聞こえねーのか?


「ピィー!!危険です。危険です。ピィー!!危険です。危険です」


ヤバいって!!
クレーン倒れるって!!機械が言うセリフがこの世で一番信用できるんだって!!お前らただ熱くなって叫んでるだけだろ!?冷静になれよ!ここは岸和田だんじり祭じゃねーんだよ!!


「ZEN吉ぃ~!!」


「む、ムリです、、って、、」


ここで冷静に戦場を見定めていた運転手が口を開く。


「おい。この警報聞こえてるんだろ?コレ以上奥はムリだって。アンタ素人じゃねーんだろ。しっかり指示しろよ」


ごもっともである。
この時の私の精神はこうである。


そんなんオレに言われても、、。
「素人」ではない。でもそれを言うなら叫び屋たちの方がずっとキャリアは上だ。今みんなは「素」を出している。なるほど。素人という言葉は思ったより深い意味なのかもしれない、、。


すぐに返事をしなかった私の心をインカムが拾う。


「そんなんオレに言われてもってか?もういいわ」


と、言い運転手が拡声器を使って指示を出す。本来運転手がする仕事ではないのだが、現場での事故は運転手の責任にもなる。拡声器を通した野太い声は皆をピシャリと締め付け、これを指揮者というのであろう。私はまだ自分の世界から帰ってこれない。


「いいかい?あんたのする指示は確かにわかりやすくて助かるよ。でもね、それだけじゃ現場は回らないんだよ。自己満足に浸ってる会話なんてものは、せいぜい二人か三人が関の山だよ」


これを拡声器ではなくインカムで話してくれたのが何よりの優しさであろう。こんなのを拡声器で言われた日には、即日退職願いを出したくなるだろう。私は撮ったばかりの写真の分析に忙しい。


回らない、、。自己満足、、。関の山、、。
関の山=これ以上何も期待できない。
それは、、。イヤだ、、。


「だろ?」


全くもって最近のマイクは恐ろしい。
その恐ろしさが現実世界まで引き戻す。


「まあ、あんたにはあんたの良さがあるから徐々にでいいんじゃないか?」


徐々に。ゆっくり。ジョジョ。オレの好きな漫画。スタンド使いになりたい、、。


「OK?そんじゃ作業開始するよ?」


「オッケーっす!行きましょう!」





私と同じ文芸家諸君。
最新の音楽機器は舐めない方がいい。

トンネルには車で入ろう

トンネルを恐れない人がこの世にいるだろうか?いるのなら会ってみたいものである。あの感覚、色、音、におい。六感全てで警報器が鳴っており、それを感じ取れないという人間はきっと何処かが破滅しているに違いない、、。兎にも角にも、あの場所に生身で入るのは止めておこう。



何も私は心霊スポットを紹介したい訳ではなく、いち旅人として感じたことを書いていきたい。「旅人」とは言ったものの、経験値が浅い私は


車 → 自転車 → 歩き


といった具合に、体力に逆行する形を取っていった「大人になってからの旅人」という奴なのだろう。よくいるこのタイプの旅人は野生より理性の比率が高く、突拍子のないことが得意ではなく、つまり車以外でトンネルに入ったことなど無い人間が多いのではないだろうか。


ここで持論を一つ。
光が射すトンネルをトンネルと認めない。そうだな、そのためには長さ500mは必要だろう。引き返そうという気持ちを与えてもいけない。それじゃあ、1㎞は必要だな。車という文明の利器に浸かったビギナーどもよ、トンネルの恐怖を思い知るがいい。




今回の私の旅は自転車だったのだが、この自転車という乗り物は一見便利そうに見えてそれがタチが悪い。用はどっちつかずの乗り物であり、幅の広い道路ではギリ車道を走っても許されるが、狭くなるに連れ「お前ら何様??」という怒りをドライバーから向けられることが多く、実際に私もそう思ううちの一人であった。いくら交通法では車道を走ることが許されていようが、現実世界では邪魔以外の何者でもなく、轢かれたくなかったらお前らが気を使え、というのが一般論であろう。

そしてこの「一般論」というもの非常に厄介な言葉なのだが、私はドライバー上がりのチャリダーということで、どちらの主張も解っており、戦争の火種を避けるべく万全の準備をしていたつもりである。




プッ!!


青天の中、小気味良いクラクション音を鳴らし、牧場主は私に手を振ってきた。


「ざぁ~す」


と、笑顔で会釈をし、それがお互いの一ページになる。
これを旅という。


私の格好はヘルメットに蛍光色の雨ガッパ、自転車の後ろに買い物カゴをぶら下げ、いかにも初心者といった装備であった。三十前半の頃だったと思うが、冒険心と美しい牧場の景色によって作られた私の表情と格好を見て、牧場主は「元気なあんちゃんだな」と思いクラクションを鳴らしたのであろう。


うん。いい旅だ。
全てが裏返っている。
牧場は苦手だったんだけどな、、。くさいし。おまけに遠足でフン踏んで以来、牛がマジで嫌いになったし。クラクションも大嫌いなんだけどな、、。こんなんただの感情爆破装置だろ。


秋は職業柄いい思い出がなかった。
建設現場の秋は忙しい。雪が降る前に工事を着工したく突貫工事が多くなり、ただでさえ短い秋が紅葉も見る間もなく散っていくのが十年近く続いていた。四季を楽しめない北国にいる意味はあるのか?と思い配置転換を希望していたのがやっと通り、今わたしは旅をしている。秋の空は高く、こんなにも澄んだ空気を吸うのも久しぶりである。だが、秋の空は変わりやすい。先程までの青天が曇天に変わってきている。


っち。来やがったか「女心と秋の空」。
うまいこと言うじゃねーか。ってかズルいよね。これでフラれた男どうすりゃいいんだよ。まあ、オレは季節関係ねーけどな!!でも安心しろ。失恋が人を成長させる。見ろこの装備。運転手からも見えやすいよう蛍光色だし、現場用のヘルメットにヘッドライトを着けておいた。くそダセーけどな。男は見た目じゃねーんだよ。気遣いなんだよ。わかったか二十代?わかったらさっさと女紹介しやがれ。


生身の状態ではいつも以上にメンタルが天候に左右される。ポツポツと雨が降ってきた。


あーもう最悪。
こうゆうのも旅の一環って言う奴いるけど、全然そんな事ないからな。マジでオール晴れでいいから。ソレ言ってる奴ただの偏屈野郎だから。


ザ、ザザァーー!!


ちょ、ちょっと待て!気変わるの早すぎだろ!どんな女だよ?脳噛ネウロの犯人並に情緒不安定だろ。助けて、殺せんせー。


そこは捨てる神あれば拾う神あり。数百メートル先にトンネルを発見したので急いで自転車を走らせた。私はここで大きなミスを犯している。トンネルの全長を確認しなかったのである。


よっしゃ、ナイストンネル。初めてオマエに感謝するわ。少しゆっくり目に走ってやるか。そうすれば出る頃には晴れてるだろ。


そう思っているのも束の間、さっそく一つの難題が突きつけられる。


えっ?歩道狭っ!
どこ走ろう、、、。


そのトンネルは車道と歩道が縁石によって別けられており、その段差を走行中にむりやり跨ごうとすれば、おそらく転倒して車に轢かれるであろう。


どうしようかな、、。
よし。車道にしよう。この狭い歩道だとかえって危険だ。ここは道路交通法に従おう。よっこらせと。と、その時


プァァーー!!!


と、クラクションを鳴らされた。


あ~??
うっせぇ~!!!
何だてめー!!ちゃんと乗る前に後ろ確認しただろーが!!対向車もいなかっただろーが!!落ち度ゼロだろーが!!今のクラクションどうゆう意味だコラ?歩道走ろってか?そんな事コッチはお前の百億倍考えた上で結論出してんだよ。殺すぞ。何だそのだせぇナンバー。何が6969だよ。マジ死ねよ。


「あー!マジで耳痛え~!ホント、むかつくわ~」


先程までの良い想い出がすべて塗り替えられている。休暇中というより仕事中の精神状態になっており、こうなると旅は台無しなのだが大人には大人の回復術がある。


落ち着け。ホントに落ち度は無かったか?
そもそも走るっていう選択が間違っているんじゃないのか?双方が納得できる答えはなんだ?わかった。自転車から降りよう。並列する形で自転車は車道に飛び出るが、オレは歩道を歩こう。これがベストだ。


トンネル内では先程のクラクションが木霊しており、それが私に冷静さを取り戻させた。トンネルを歩く経験など中々できず、これも旅の一興だろう。


が、長い、、。

まだ着かないのか、、。時速3㎞は出てるはずだぞ、、。感覚が狂う。車の走行音が反響して距離感が狂う。匂いもカビ臭いし、辺りも暗い。これなら外で雨に打たれていた方が良かった、、。


お次は後ろから大型トラック。


バシャーーン!!


ふっ、、。このクソトラック、、。
誰もてめーの水浴び喰らいたいなんて言ってねーんだよ。何で減速しねーんだよ?そんなにノルマきついのか?オレの真っ黄色のカッパが見えねーのか?逆にかけてやろうと思っただろ?真っ直ぐしか走れねー奴に限って根性が曲がってんだよ。


テクテクテク、、。


ま、まだか??
さ、寒い、、。さっきのトラック野郎に喰らった一撃で一気に体温を奪われた。あ、、。ションベンもしたくなってきた、、。別に黄色いカッパだから漏らしても大丈夫だけど流石に恥ずかしい、、。


すると、ようやく出口の光が見えてきた。


やった!!
ようやく着いた!!走れ!!でも、決して乗るんじゃない。押しながら走るんだ。これが大人の全速力だ。


最後に本日の二発目。いや、二発目と三発目。


プァーー!!!
ププァーーー!!!


あーー!!!
うっせーなぁぁ!!!
何なんだお前ら!?二台そろってよー!!クラクション鳴らす暇あんなら減速しろよ!!絶対そっちの方が正面衝突さけられるから。世の中で起きてる事故の8割は「クラクション一択バカ」のせいだから!つーか、お前ら軽だろ?その車幅じゃ絶対にぶつかんないから。何で二台とも、オレが悪いみたいな顔してんだよ。ごく稀にトンネルに生息してる「はぐれメタル」もいるんだよ!!しかも金色のゴールデンはぐれメタルだぞ??良かったな会えて。経験値爆上がりだぞお前ら。


ふう、、。まぁいい。
無事にゴールできたんだ。トンネルライブのラストにふさわしい演出だったと捉えよう。


テクテクテク、、。


あれ??
何あれ??


「この先、第二○○トンネル。全長2118m」


、、、、、。


何でそうなるの??

無自覚系自称一人好き野郎

「オレって一人が好きなんですよね」「へぇー、たくましいですね」。まあ、嘘はついていないだろうし、事実、一人耐性も強いのだろう。コイツらの厄介な所は自分が寂しがり屋であることに気付いていない事である。えー、何そいつ?超めんどくさいじゃん。そうそう。いるよねそうゆう奴。‥‥‥。ってオレじゃん!!




負け惜しみで言うわけじゃないが、私は「照れ隠し系」ではなく「無自覚系」なのである。その証拠に人と会った時にはオートで笑顔になるし、その嬉しいという、時には不作な原料も第二倉庫から出荷できるよう、常に心のスペースを確保しているつもりである。そこまでしていて「一人が好き」というのだから真実なのだろう。
だが、「寂しくないの?」と問われ「寂しくない」と答えるのは流石に負け惜しみ成分が強くなってきており、とりあえず負け惜しみを聞いていただきたい。



寂しがり屋の定義は何だろうか?
それは日数である。人と接する日数が毎日が「超」寂しがり屋。3日あくと寂しがり屋。30日を超えると寂しがり屋じゃない。4~29日の人間は「普通」。と、こういうふうに数字を出してやれば曖昧なオマエ寂しがり屋??という質問に答えることができ、私は「じゃない方」になる自信も誇りも持っていた。私は大勢でキャッキャするのが得意ではなく又それが良いと思っていて、人間誰もが乳幼児の時はキャッキャしているのだから、これ以上のキャラの上積みは不要であり、現にいつでも引き出せる自信を持っていた。一見堅物と思われるこの考え方こそが柔和であり、その柔らかな世界では多少の孤独など感じる暇もなく時は過ぎ、30、いや300日だって平気だろうと思わせてくれるのが私の誇りでもあった。

ここで「何を持って人と接するって言ってるの??」と当たり前の質問には、ものすごく無責任に「そんなの本人がそう思ったらだよ」と返させてもらおう。人と接するなんてテーマは宇宙的すぎて、行き着く先など全てブラックホールのような返答にしかならないのだろう。

と、ここまでが私の意識しているモテる理想の男子像。これから紹介するのが、無意識の私のリアルな姿である。




ピコーン。


「今20連チャン中。見てこのプレミア演出!激熱カットインからの絶叫からのエアバイブからの、、、」


うっせーな。マジどうでもいい。
いいか?俺パチンコは好きだけど勝った話聞くのは死ぬほど嫌いなんだよ。マジで画像送って来んな。何で会うまで待てねーんだよ汁男優。絶叫からのバイブって完全にAVの演出だろ。んな下らねー画像送って来るくらいなら、オレ好みの女優の画像送って来いよ。


こういうのは人と接しているにカウントしない。
私たち現場作業員の間でギャンブルは、コミュニケーションの大半を占めており、「お疲れ様です」より「勝った?」の方が使われる回数が多い。それそれはそれで面白いのだが野郎共のするタンパク質な会話など咀嚼していくうちに無機質なものに変わっていき、必然的に堅物が出来上がる仕組みになっている。


コレじゃないんだよ。いや、オレもたまに送るよ。でも送られた方はムカつくってゆうか寂しくなるんだよ。パチンコの連チャン画像って「寂しさ加速装置」だからな?009もびっくりだよ。


ピコーン。


あ?しつけーな。
流石に連続自慢はパチンコカスにも嫌われるぞ。カスofカスのブロック案件だぞ。どれどれ、、、


「久しぶり!!何してた?コッチはやっとシーズン終わったよ!」


コレだよコレ。


彼女は私と周波数が近く、単に同調してくれているだけなのかもしれないが、何せ私は「無自覚」なのだからその思い込みも許される。「彼女」と書いているが彼女ではなく、仲間というより尊敬を込めて「彼女」と言っており、そこに恋があるのかは無自覚な者にはわからない。


彼女は現役のアスリートである。
出会った時間は短く、彼女は私に何を求めているかよく分からないが、たまに連絡を取る仲である。私も彼女に何を求めているかをよく分かっていなく、その曖昧さが心地良いのかもしれないが、その心地良さには尊敬と微量の共感が不可欠である。はぁ?アスリートと共感?と甚だおこがましいのだが、変に彼らを神格化するのは失礼な事であり、一般人とはただ表現方法が違うだけで、しかし彼の地に居続ける彼女を私は「尊敬」する。


何してたか、、。
ナニしようとしてたんだけどな、、。彼女にはコレを言ってもたぶん大丈夫だけど言いません。だって恥ずかしいじゃん。


「シーズンお疲れ様。コッチはいつも通りぐうたらしてるよ。ニートのぐうちゃん(笑)」


「やっぱり!!ニート認めんな!!」


「笑」


尊敬できるところは彼女が社会人アスリートであるところである。しかも個人競技。お金をもらっているプロでない彼女はスケジュール管理も自分でするのが常で、それが個人競技にもなると誰に頼るわけでもない、より一層のマネジメント力が必要であろう。つまりアスリートとは「プレーヤー」ではなく「マネージャー」が本当の姿であり、彼女はその肉体もさることながら、恐ろしく切れる頭脳を持っているのだろう。

対してこの私。肉体労働の職を都合よく捉えるならば、一応私もプレーニングマネージャーということになる。しかもニート気質な人間とは自分の時間を作ることに全てを捧げており、恐ろしくキレは悪いもののマネージャーと名乗っても支障は無いだろう。そしてマネージャー同士の会話とは、頭を使わない無機質なものになるのだが、そこには味はある。フーセンガムのような柔らかな味だ。


「つーか彼女できた??」


「まだ」


「出た!!101回目のプロポーズ」


「今102回目目指してる」


「笑」


こういうのを仲間というのだろう。仲間と知り合いとの線引きとは無意識でのキャッチボールであって、そこにはストレスはなく、もちろん寂しさもない。はずである。


「マジでそろそろ作りなよ。寂しくないの?」


「寂しくないよ。一人好きだし」


「出た!!変人の強がり!」


「強がらない変人いないでしょ」


「そりゃそうだ(笑)」


私たちのやり取りは、ツッコミを入れつつも最後は肯定的な終わり方をすることが多く、お互い認め合っているという解釈でいいだろう。その証拠に私たちの会話に「頑張れ」の文字はない。だが、報告はある。それも急に。


「あ、そうそう。アタシ結婚するから。現役は続けるけどね」


えっ!?急!!
、、、、。結婚式するのかな?気まずいな、、、。


「急!!式はするの?」


「するよ。めんどくさいけど。でもニート立ち入り禁止だから呼ばないよ(笑)。そのための報告だから」


ニート言うな!!でもありがと。それとおめでとう」


「ありがと。それじゃ201回目のプロポーズ期待してるよ。またね!」





その後、彼女から連絡はない。
「じゃない方」である私は窓を見ながら心と向き合っている。


彼女からのメッセージ音は心地が良かった。アレはたまにだったから良かったのか?野郎からの着信でああなるか?つまりそれはどうゆうことだ?このままずっと受け身の人生で行くのか?
わからない。わからないけどコレはわかる。



「寂しい、、。」



見つめる山は雪融けが進み、シーズンの終わりを告げていた。