パチンカスのオカルトは宇宙の神秘

人をカス呼ばわりする時は自分もカスにならなければならない。人の更正とはそんな生易しいものではなく、無傷で成し遂げようなんて虫の良すぎる話だろう。身近にカスがいる皆々様。どうか奴らの叫びを聞いて頂きたい。





「ほんっっと、アンタってどうしようもないパチンカスよねっ!!」


「パチンコじゃねーし!!スロットだし!!」


名言で打線を組んだ場合、一番バッターとしては相応しいセリフではないだろうか?当事者たちは自分の打撃力にプライドを持っているが、差程違いはなく右バッターか左バッターか程度の話だろう。しかもムラがある。5打席連続三振なんてよくある話で、一度もバットを振らず、「くそっ!あのゴミ審判!」と言いながらバットを叩きつけている。私は低打率ながらもクリーンな選手でいることを心掛けているのだが、彼らの気持ちも分からなくもなく、ゴミ審判というのは確かに存在する。


それは店。
クセがある店に当たるとホントに勝てない。というより店のクセを掴まないとホントに勝てないと言った方が正しく、ギャンブル拒絶症の人は恋愛にでも置き換えて想像してほしい。


私はプロではないので全て素人の言い分になるのだがパチンコ屋にはサービスタイムというのが存在し、時間帯によっては全く出ない時というのがある。それは休日午後1時~3時の間。稼働域がマックスになる時に限って奴らは仕事をしなく、「アタシ何もしなくてもモテるもん」とあぐらをかいている。若い女はつまらない。私が好きな店は朝と夜にしっかりと働いてくれるキャストが在籍している店で、彼女らは日中働いてない分、しっかりとしたサービスを提供してくれる。いや、してくれる時もある。それを待つのが男である。




キュルル、ブオーン


休日の朝、10時30分には必ず車に乗り込む。
店に着いて台選びをして打ち始めるのが遅くても11時30分だとすると、この時間に出発するのがベストなのである。


今日はあのカド台か、、。
それともカド2辺りがそろそろ吹くか、、。


どのパチンカーに聞いても必ずこの答えが返ってくる。
「パチンコ屋に向かっている時が一番楽しい」と。
店に着いてしまえば言い訳の雨嵐が始まる。



キュイン!!ジャラジャラジャラ。


うわぁ、、。あの中台もう連チャンしてるよ、、。
だから朝イチに来とけば良かったんだって、、。そしたら今頃オレがこの島の王だったのに、、。


この島を立ち去るつもりは無い。今日はこの機種が吹く日だと天気予報で言っていた。ならば選ぶべき道は二つ。中から崩すか端から崩すかである。


よし。予定通りカドから攻めよう。連チャンしてるのはババアだ。おそらく真ん中付近の台は全てババアの養分になる。


台を女性に例えてしまったために紛らわしくなったが、打ち手には絶対的な序列があり、ダントツでトップなのが「ババア」なのである。根拠はないが、どのパチ屋に行っても島スターになっているのは年金暮らしのババア達である。そして二位は、、。


ヂャラヂャラヂャラ、、。


このカドで足組している「お姐さん」である。
年齢二、三十代の目の据わった彼女らも手強く、いくら万札を突っ込もうが絶対に出るまで帰らない。相当一途なんだろう。これを気にかけた店長が恋する乙女を傷付けまいと「遠隔ボタン」を押すのだが、まぁ、気持ちは分かる。むさい空間に咲く一輪の花に近づきたいのは誰でも同じで、案の定わたしも彼女の背中側の台を今日の指定席にすることに決めた。


よいしょと。チラッ。


やった!!目があった!!


台のアクリル越しに目が合うのはパチ屋ならではの光景で、大抵この手のお姐さんはブラ紐も透けていることが多く、こっちの心までスッケスケになるのである。


さて、ここで現状の報告だが時刻は11時15分。ここら辺から店は混みだし、午後1時になる頃には満席になるだろう。そうなってしまえば猫も杓子もなく当たりを引くのは己の運のみだろう。店的にはインパクトが大事であって、せっかく入った客を逃さないために入り口付近でパンダを配置しておく必要がある。つまり、、、。今からカド台が出るということさ。


ギュウイーン!!ガーッ!!


いいぞいいぞ。騒がしくなってきた。
この機種は中熱のリーチを繰り返したのち当たる仕組みになっている。ふふ。お姐さんも気になるでしょ??大丈夫。アナタもそろそろ当たるよ。一緒にランデブーと行こうじゃないか。


先程の序列の続きになるが三位以降はドンケツで、「ジジイ」「オヤジ」「あんちゃん」が互いの台を外せ外せと醜い争いを繰り広げている。若中年の私はパチ屋では「あんちゃん」に含まれており、仮にお姐さんと共に爆発するようなことが起これば「おい。昨日の端っこのカップルすげー出てたぞ」という話題で持ちきりだろう。これ程の優越感を得られた上に金までもらえるのだから、やはりこれは「中毒」なのだろう。



ガーガーガー。ギュオーン!!


よし来た激熱演出。


と、そこに邪魔が入る。


「おい!それ当たるぞ!!」


数分前に私の隣に「ジジイ」が座っている。
カド付近の台は人気がある。
黙って下心全快でお姐さんの隣に座ればいいものの、シカトされたことがトラウマとなって冴えない「あんちゃん」のそばに来ることが多く、上から目線で演出の説明をしてくる。そしてそれを聞かされたリーチは必ずハズレる。


ギュイーン!ギュイーン!ビイィーー!!


「おっ!!赤!金!!当たる!当たるぞ!!」


うっせー死ね。マジでどっか行け。邪魔すんな。三万置いてけ。


ビヨォォーン!ポコーン!!ボタンを、、。


押せぇぇぇーーー!!


ガンッ!スカッ。


「あ~」


マジ殺すぞ。
何だその「あ~」。どうゆう意味だコラ?寿命の心配してろ。テメーのせいでハズレた。マジで三万よこせ。


こう思えない者にパチンコを打つ資格はない。
だが、行動は人それぞれだろう。


「あ~」


ジジイと全く同じ表情を作り、同調してやった。
私は「世渡り系パチンカス」を貫くことによって運気が寄ると信じており、「ラオウ系」で勝負できるのはババアとお姐さんだけであって、弱者は笑顔を絶やしてはならない。このジジイもそこら辺は心得ているようだが、コイツは使い方を間違っている。


トントン。


「うしろの姐ちゃんすげーな」


既に時刻は12時をまわっている。
私達がつまらない争いをしている間に彼女はドル箱を積み重ねており、弱者どもは苦笑いを浮かべながら振り返っている。


私は振り返らない。
だが、受け答えには笑顔である。
パチ屋のような魑魅魍魎の世界では一笑顔=一万円の価値となっており、やたらとジャブを打つものではない。使うなら相手の笑顔を利用したカウンターの場面であって、これなら自分の運を使わずに長丁場の戦いが可能になる。




ポロン。


よし。激熱保留が入った。時刻は?


1時。


行ける。お姐さんの連チャンは?


あ、また目があった。
今の「ポロン」でオレの台が激熱待ちだと気づいたか。この爆音の中よく聞き取れたな。待っててくれ。すぐそこまで行くよ。邪魔者は居なくなった。


隣のジジイは居なくなった。
軍資金が尽きたのだろう。おそらく生活保護受給者だ。普段使わない笑顔を安売りしたあげく大した見せ場も作れず、脂汗をかきながら帰って行きやがった。何か託したかったのか「そいじゃ頑張ってよ」と言いながら『レインボーマウンテン』を置いていったが、コレを飲んだら最後。逆レインボー状態になるのはパチンカスの間では有名な話である。



ポロン。テッテッテ。リィィーチ!


くっ、、。弱い、、。
ホントに激熱かコレ?
お姐さんは?


目そらしてる、、。
優しい。優しいぞこの人。「店長ボタン」押される訳だ。


グィーーン。テッテレ~!!


大当たりぃ~!!


あれ??当たった!当たったぞ!!
お姐さんは??


驚いてる!!目が点だ!!
プレミア。プレミアだ!!こんな顔初めて見た!!


こういうヌルッとした当たり方をした台は伸びる。
余計なことをしなければ、、。


やった!
絶対にこの子は伸びる!この子に集中しよう。でも気になる、、。お姐さんの顔が、、。スタイルが、、。


パチ屋にいる「お姐さん」と面と向かって目を合わせるのは至難の技である。彼女たちは台に集中しているのも最もだが、男どものスケベ光線を跳ね返すために絶対に目を合わせようとしない。だが今のオレなら行ける気がする、、。遠回りしてトイレに行こう。アッチだってこんな弱演出から大当りを引く男の顔が気になるはずだ。「化粧室」とはよく言ったものだ。髪をセットしてこよう。



結果は最悪。
十分な収穫に満足したお姐さんは、私が戻る頃には居なくなっており、ヘソを曲げた私の台は単発。しばらく粘って見たものの稼働率が100%近くなった店にとってサービスする必要などはなく、夕方まで打って三万負け。しかし私の心は前向きである。



「6時間で三万か、、。実質勝ちだな。アクリル越しにお姐さんと通じ合えたんだ。キャバクラよりは安いだろ。来週もまた来よう」。



また新しい宇宙が今も、カス達の間で生まれている、、。