トンネルには車で入ろう
トンネルを恐れない人がこの世にいるだろうか?いるのなら会ってみたいものである。あの感覚、色、音、におい。六感全てで警報器が鳴っており、それを感じ取れないという人間はきっと何処かが破滅しているに違いない、、。兎にも角にも、あの場所に生身で入るのは止めておこう。
何も私は心霊スポットを紹介したい訳ではなく、いち旅人として感じたことを書いていきたい。「旅人」とは言ったものの、経験値が浅い私は
車 → 自転車 → 歩き
といった具合に、体力に逆行する形を取っていった「大人になってからの旅人」という奴なのだろう。よくいるこのタイプの旅人は野生より理性の比率が高く、突拍子のないことが得意ではなく、つまり車以外でトンネルに入ったことなど無い人間が多いのではないだろうか。
ここで持論を一つ。
光が射すトンネルをトンネルと認めない。そうだな、そのためには長さ500mは必要だろう。引き返そうという気持ちを与えてもいけない。それじゃあ、1㎞は必要だな。車という文明の利器に浸かったビギナーどもよ、トンネルの恐怖を思い知るがいい。
今回の私の旅は自転車だったのだが、この自転車という乗り物は一見便利そうに見えてそれがタチが悪い。用はどっちつかずの乗り物であり、幅の広い道路ではギリ車道を走っても許されるが、狭くなるに連れ「お前ら何様??」という怒りをドライバーから向けられることが多く、実際に私もそう思ううちの一人であった。いくら交通法では車道を走ることが許されていようが、現実世界では邪魔以外の何者でもなく、轢かれたくなかったらお前らが気を使え、というのが一般論であろう。
そしてこの「一般論」というもの非常に厄介な言葉なのだが、私はドライバー上がりのチャリダーということで、どちらの主張も解っており、戦争の火種を避けるべく万全の準備をしていたつもりである。
プッ!!
青天の中、小気味良いクラクション音を鳴らし、牧場主は私に手を振ってきた。
「ざぁ~す」
と、笑顔で会釈をし、それがお互いの一ページになる。
これを旅という。
私の格好はヘルメットに蛍光色の雨ガッパ、自転車の後ろに買い物カゴをぶら下げ、いかにも初心者といった装備であった。三十前半の頃だったと思うが、冒険心と美しい牧場の景色によって作られた私の表情と格好を見て、牧場主は「元気なあんちゃんだな」と思いクラクションを鳴らしたのであろう。
うん。いい旅だ。
全てが裏返っている。
牧場は苦手だったんだけどな、、。くさいし。おまけに遠足でフン踏んで以来、牛がマジで嫌いになったし。クラクションも大嫌いなんだけどな、、。こんなんただの感情爆破装置だろ。
秋は職業柄いい思い出がなかった。
建設現場の秋は忙しい。雪が降る前に工事を着工したく突貫工事が多くなり、ただでさえ短い秋が紅葉も見る間もなく散っていくのが十年近く続いていた。四季を楽しめない北国にいる意味はあるのか?と思い配置転換を希望していたのがやっと通り、今わたしは旅をしている。秋の空は高く、こんなにも澄んだ空気を吸うのも久しぶりである。だが、秋の空は変わりやすい。先程までの青天が曇天に変わってきている。
っち。来やがったか「女心と秋の空」。
うまいこと言うじゃねーか。ってかズルいよね。これでフラれた男どうすりゃいいんだよ。まあ、オレは季節関係ねーけどな!!でも安心しろ。失恋が人を成長させる。見ろこの装備。運転手からも見えやすいよう蛍光色だし、現場用のヘルメットにヘッドライトを着けておいた。くそダセーけどな。男は見た目じゃねーんだよ。気遣いなんだよ。わかったか二十代?わかったらさっさと女紹介しやがれ。
生身の状態ではいつも以上にメンタルが天候に左右される。ポツポツと雨が降ってきた。
あーもう最悪。
こうゆうのも旅の一環って言う奴いるけど、全然そんな事ないからな。マジでオール晴れでいいから。ソレ言ってる奴ただの偏屈野郎だから。
ザ、ザザァーー!!
ちょ、ちょっと待て!気変わるの早すぎだろ!どんな女だよ?脳噛ネウロの犯人並に情緒不安定だろ。助けて、殺せんせー。
そこは捨てる神あれば拾う神あり。数百メートル先にトンネルを発見したので急いで自転車を走らせた。私はここで大きなミスを犯している。トンネルの全長を確認しなかったのである。
よっしゃ、ナイストンネル。初めてオマエに感謝するわ。少しゆっくり目に走ってやるか。そうすれば出る頃には晴れてるだろ。
そう思っているのも束の間、さっそく一つの難題が突きつけられる。
えっ?歩道狭っ!
どこ走ろう、、、。
そのトンネルは車道と歩道が縁石によって別けられており、その段差を走行中にむりやり跨ごうとすれば、おそらく転倒して車に轢かれるであろう。
どうしようかな、、。
よし。車道にしよう。この狭い歩道だとかえって危険だ。ここは道路交通法に従おう。よっこらせと。と、その時
プァァーー!!!
と、クラクションを鳴らされた。
あ~??
うっせぇ~!!!
何だてめー!!ちゃんと乗る前に後ろ確認しただろーが!!対向車もいなかっただろーが!!落ち度ゼロだろーが!!今のクラクションどうゆう意味だコラ?歩道走ろってか?そんな事コッチはお前の百億倍考えた上で結論出してんだよ。殺すぞ。何だそのだせぇナンバー。何が6969だよ。マジ死ねよ。
「あー!マジで耳痛え~!ホント、むかつくわ~」
先程までの良い想い出がすべて塗り替えられている。休暇中というより仕事中の精神状態になっており、こうなると旅は台無しなのだが大人には大人の回復術がある。
落ち着け。ホントに落ち度は無かったか?
そもそも走るっていう選択が間違っているんじゃないのか?双方が納得できる答えはなんだ?わかった。自転車から降りよう。並列する形で自転車は車道に飛び出るが、オレは歩道を歩こう。これがベストだ。
トンネル内では先程のクラクションが木霊しており、それが私に冷静さを取り戻させた。トンネルを歩く経験など中々できず、これも旅の一興だろう。
が、長い、、。
まだ着かないのか、、。時速3㎞は出てるはずだぞ、、。感覚が狂う。車の走行音が反響して距離感が狂う。匂いもカビ臭いし、辺りも暗い。これなら外で雨に打たれていた方が良かった、、。
お次は後ろから大型トラック。
バシャーーン!!
ふっ、、。このクソトラック、、。
誰もてめーの水浴び喰らいたいなんて言ってねーんだよ。何で減速しねーんだよ?そんなにノルマきついのか?オレの真っ黄色のカッパが見えねーのか?逆にかけてやろうと思っただろ?真っ直ぐしか走れねー奴に限って根性が曲がってんだよ。
テクテクテク、、。
ま、まだか??
さ、寒い、、。さっきのトラック野郎に喰らった一撃で一気に体温を奪われた。あ、、。ションベンもしたくなってきた、、。別に黄色いカッパだから漏らしても大丈夫だけど流石に恥ずかしい、、。
すると、ようやく出口の光が見えてきた。
やった!!
ようやく着いた!!走れ!!でも、決して乗るんじゃない。押しながら走るんだ。これが大人の全速力だ。
最後に本日の二発目。いや、二発目と三発目。
プァーー!!!
ププァーーー!!!
あーー!!!
うっせーなぁぁ!!!
何なんだお前ら!?二台そろってよー!!クラクション鳴らす暇あんなら減速しろよ!!絶対そっちの方が正面衝突さけられるから。世の中で起きてる事故の8割は「クラクション一択バカ」のせいだから!つーか、お前ら軽だろ?その車幅じゃ絶対にぶつかんないから。何で二台とも、オレが悪いみたいな顔してんだよ。ごく稀にトンネルに生息してる「はぐれメタル」もいるんだよ!!しかも金色のゴールデンはぐれメタルだぞ??良かったな会えて。経験値爆上がりだぞお前ら。
ふう、、。まぁいい。
無事にゴールできたんだ。トンネルライブのラストにふさわしい演出だったと捉えよう。
テクテクテク、、。
あれ??
何あれ??
「この先、第二○○トンネル。全長2118m」
、、、、、。
何でそうなるの??
無自覚系自称一人好き野郎
「オレって一人が好きなんですよね」「へぇー、たくましいですね」。まあ、嘘はついていないだろうし、事実、一人耐性も強いのだろう。コイツらの厄介な所は自分が寂しがり屋であることに気付いていない事である。えー、何そいつ?超めんどくさいじゃん。そうそう。いるよねそうゆう奴。‥‥‥。ってオレじゃん!!
負け惜しみで言うわけじゃないが、私は「照れ隠し系」ではなく「無自覚系」なのである。その証拠に人と会った時にはオートで笑顔になるし、その嬉しいという、時には不作な原料も第二倉庫から出荷できるよう、常に心のスペースを確保しているつもりである。そこまでしていて「一人が好き」というのだから真実なのだろう。
だが、「寂しくないの?」と問われ「寂しくない」と答えるのは流石に負け惜しみ成分が強くなってきており、とりあえず負け惜しみを聞いていただきたい。
寂しがり屋の定義は何だろうか?
それは日数である。人と接する日数が毎日が「超」寂しがり屋。3日あくと寂しがり屋。30日を超えると寂しがり屋じゃない。4~29日の人間は「普通」。と、こういうふうに数字を出してやれば曖昧なオマエ寂しがり屋??という質問に答えることができ、私は「じゃない方」になる自信も誇りも持っていた。私は大勢でキャッキャするのが得意ではなく又それが良いと思っていて、人間誰もが乳幼児の時はキャッキャしているのだから、これ以上のキャラの上積みは不要であり、現にいつでも引き出せる自信を持っていた。一見堅物と思われるこの考え方こそが柔和であり、その柔らかな世界では多少の孤独など感じる暇もなく時は過ぎ、30、いや300日だって平気だろうと思わせてくれるのが私の誇りでもあった。
ここで「何を持って人と接するって言ってるの??」と当たり前の質問には、ものすごく無責任に「そんなの本人がそう思ったらだよ」と返させてもらおう。人と接するなんてテーマは宇宙的すぎて、行き着く先など全てブラックホールのような返答にしかならないのだろう。
と、ここまでが私の意識しているモテる理想の男子像。これから紹介するのが、無意識の私のリアルな姿である。
ピコーン。
「今20連チャン中。見てこのプレミア演出!激熱カットインからの絶叫からのエアバイブからの、、、」
うっせーな。マジどうでもいい。
いいか?俺パチンコは好きだけど勝った話聞くのは死ぬほど嫌いなんだよ。マジで画像送って来んな。何で会うまで待てねーんだよ汁男優。絶叫からのバイブって完全にAVの演出だろ。んな下らねー画像送って来るくらいなら、オレ好みの女優の画像送って来いよ。
こういうのは人と接しているにカウントしない。
私たち現場作業員の間でギャンブルは、コミュニケーションの大半を占めており、「お疲れ様です」より「勝った?」の方が使われる回数が多い。それそれはそれで面白いのだが野郎共のするタンパク質な会話など咀嚼していくうちに無機質なものに変わっていき、必然的に堅物が出来上がる仕組みになっている。
コレじゃないんだよ。いや、オレもたまに送るよ。でも送られた方はムカつくってゆうか寂しくなるんだよ。パチンコの連チャン画像って「寂しさ加速装置」だからな?009もびっくりだよ。
ピコーン。
あ?しつけーな。
流石に連続自慢はパチンコカスにも嫌われるぞ。カスofカスのブロック案件だぞ。どれどれ、、、
「久しぶり!!何してた?コッチはやっとシーズン終わったよ!」
コレだよコレ。
彼女は私と周波数が近く、単に同調してくれているだけなのかもしれないが、何せ私は「無自覚」なのだからその思い込みも許される。「彼女」と書いているが彼女ではなく、仲間というより尊敬を込めて「彼女」と言っており、そこに恋があるのかは無自覚な者にはわからない。
彼女は現役のアスリートである。
出会った時間は短く、彼女は私に何を求めているかよく分からないが、たまに連絡を取る仲である。私も彼女に何を求めているかをよく分かっていなく、その曖昧さが心地良いのかもしれないが、その心地良さには尊敬と微量の共感が不可欠である。はぁ?アスリートと共感?と甚だおこがましいのだが、変に彼らを神格化するのは失礼な事であり、一般人とはただ表現方法が違うだけで、しかし彼の地に居続ける彼女を私は「尊敬」する。
何してたか、、。
ナニしようとしてたんだけどな、、。彼女にはコレを言ってもたぶん大丈夫だけど言いません。だって恥ずかしいじゃん。
「シーズンお疲れ様。コッチはいつも通りぐうたらしてるよ。ニートのぐうちゃん(笑)」
「やっぱり!!ニート認めんな!!」
「笑」
尊敬できるところは彼女が社会人アスリートであるところである。しかも個人競技。お金をもらっているプロでない彼女はスケジュール管理も自分でするのが常で、それが個人競技にもなると誰に頼るわけでもない、より一層のマネジメント力が必要であろう。つまりアスリートとは「プレーヤー」ではなく「マネージャー」が本当の姿であり、彼女はその肉体もさることながら、恐ろしく切れる頭脳を持っているのだろう。
対してこの私。肉体労働の職を都合よく捉えるならば、一応私もプレーニングマネージャーということになる。しかもニート気質な人間とは自分の時間を作ることに全てを捧げており、恐ろしくキレは悪いもののマネージャーと名乗っても支障は無いだろう。そしてマネージャー同士の会話とは、頭を使わない無機質なものになるのだが、そこには味はある。フーセンガムのような柔らかな味だ。
「つーか彼女できた??」
「まだ」
「出た!!101回目のプロポーズ」
「今102回目目指してる」
「笑」
こういうのを仲間というのだろう。仲間と知り合いとの線引きとは無意識でのキャッチボールであって、そこにはストレスはなく、もちろん寂しさもない。はずである。
「マジでそろそろ作りなよ。寂しくないの?」
「寂しくないよ。一人好きだし」
「出た!!変人の強がり!」
「強がらない変人いないでしょ」
「そりゃそうだ(笑)」
私たちのやり取りは、ツッコミを入れつつも最後は肯定的な終わり方をすることが多く、お互い認め合っているという解釈でいいだろう。その証拠に私たちの会話に「頑張れ」の文字はない。だが、報告はある。それも急に。
「あ、そうそう。アタシ結婚するから。現役は続けるけどね」
えっ!?急!!
、、、、。結婚式するのかな?気まずいな、、、。
「急!!式はするの?」
「するよ。めんどくさいけど。でもニート立ち入り禁止だから呼ばないよ(笑)。そのための報告だから」
「ニート言うな!!でもありがと。それとおめでとう」
「ありがと。それじゃ201回目のプロポーズ期待してるよ。またね!」
その後、彼女から連絡はない。
「じゃない方」である私は窓を見ながら心と向き合っている。
彼女からのメッセージ音は心地が良かった。アレはたまにだったから良かったのか?野郎からの着信でああなるか?つまりそれはどうゆうことだ?このままずっと受け身の人生で行くのか?
わからない。わからないけどコレはわかる。
「寂しい、、。」
見つめる山は雪融けが進み、シーズンの終わりを告げていた。
下りカーブはジブリへの入り口
ジブリ好きの人に訪ねたいのだが、あの世界に入り込むためのトリガーとなっている景色はないだろうか?少なくとも私にはそういう瞬間があり、さまざまな場面で引き込まれるのだが、最も多いのが下りカーブを曲がっている時である。
作品は問わない。
独特な表現になるが、現実という洗い物が乾燥機でフワフワ回っているような状態を「ジブリの世界」だと私は思っており、そこには一切の汚れはなく心の透明度も抜群である。この状態になると、自分は回っている洗濯物のはずなのに、それを眺めている鑑賞者のようでもあり、さらにそれを眺めている通行人のようでもある。まるで大地の成り立ちを見届けた妖精にでもなったような心持ちで、この開きは現実でモテていない奴ほど大きいと思われる。
乗り物も問わない。
が、一人がいいだろう。どうせ私たちはいつも独りなのだ。パートナーを作るのは夢の世界に入ってからでもいいだろう。
「ハァハァハァ」
中学生の私はマラソンをしており、私はそれが得意だった。
所詮中坊が走る、1~5㎞くらいの距離など才能でも何でもなく孤独力の問題で、一部のずば抜けた者を除いてマラソンという競技は弱者が強者に一泡吹かせるためのチャンスタイムなのである。
ハァ、ハァ、、。よし!このまま行けば1位でゴールできるぞ!
あのダブルゼータガンダムたちはおしゃべりに夢中でここからの巻き返しはないだろう、、。お前ら。ようやくオレに花を持たせてくれる気になったか。そもそもオマエら何で短距離も長距離も速いの??無敵かよ。マジで水陸両用だろ。
まぁいい。問題はノーマルタイプのガンダム達だ。コイツらに抜かれるのが一番ハラワタが煮えくり返る。
チラッ。
よし!この勝負もらった!!
後ろにいるのはザク、ドム、タンクの奴らだ!お前らもヒーローになりたかったんだろ??甘いな。ちゃんと努力したか?その青ざめた面を見るかぎりはどうせバカみたいに給食を平らげたんだろ?バカが。オレの顔をよく見ろ。シャア専用ザクみたく程よく赤ばんでるだろ。モテたかったら腹五分目に抑える習慣をつけとくんだな。
「ゼェ、ハァ、ゼェ、ハァ、、」
も、もう少しだ、、。あの坂を超えたら○○ちゃんが待ってくれている、、。あの体育教師。普段はクソのくせに粋な演出してくれるじゃねーかよ。○○ちゃんが腹痛で休みだからゴール付近で応援ってな。最高じゃん。つーか普通に保健室で休ませてあげれば??やっぱりクソだが今の○○ちゃんを救えるのはオレの勇姿だけだ。待っててくれ。
と、その時、段違いの馬力を搭載したエンジン音が聞こえる。
「シャーン、シャーン、シャーン」
き、来やがった、、。ゼェ、ゼェ、ゼェ、、。
ゼェェタァァァー!!てめえいい加減にしやがれ!
素朴な○○ちゃんはなー、てめえみてーな満点男じゃ不釣り合いなんだよ!興奮しすぎて生理悪化したらオマエ責任取れんのか??神に愛されたナチュラル鬼畜なオマエにその配慮があるのか?ねーだろ!!現にオレの心を踏みにじってるだろ!!
お、落ち着け、、。負け犬根性は良くない。
まだ抜かれた訳じゃない、、。しかも坂は登りきった。あとは下るだけだ。下りに体力なんて関係ない。重力に任せて足を回転させるだけだ。い、行けるぞ、、。ヒーローになれる。
場面は整った。
私の眼前に下り坂が広がる。
ここで良いのは曲がっていることである。直線はダメだ。結末が分かるからである。物語は曲線で出来ている。その曲線が円となって物語を紡いで行く。立ち位置は何処だっていい。役者か観客か作り手か。あるいは独占してもいいだろう。
勝った、、。やった、、。
ゼータ、いや、巨神兵を倒した。これでシータを救えるぞ、、。
実際は頂上付近で抜かれたのち、あっという間に視界から消え去るくらいの差をつけらている。だが、それがいい。ジブリの世界に入るためには現実世界である程度すり減っていることが絶対条件であって、その次に大事なのが視界に人間を映さないことであり、あとは観たことがあるシーンと景色を照らし合わせればいいだけである。私は下りカーブを走っている臨場感がその入り口となっている。
うおっ!!何だこの景色?
懐かしい、、。突き抜けてくるようだ、、。きっとオレの先祖が何処かで見た光景なんだろう。DNAがざわついてやがる、、。
デジャヴとも違う気がする。私の中ではデジャヴというのは一時停止であって、今は再生中である。過去、現在、未来がおよそ4:4:2の比率で上映されている。それが「ジブリの世界」。
キキーッ!
海岸線の下りカーブは海に落ちていくような感覚になる。ブレーキを踏んでいるはずなのにガードレールを突き抜けて行くような、、。そのまま落ちていけばキキが飛んで来てくれるような、、。
いいなぁ、トンボのやつ、、。
結局あの二人はどうなったんだっけ??結ばれたのか?まぁバッドエンドはないだろうな、、。そうだ。オレにも待ってくれている人がいるんだった。○○ちゃんが手を広げて呼んでいる。
タッ!!
今度はサツキのように走り出す。
景色は春の海風から田園へと移り変わっており、真夏の日差しが容赦なく私を襲う。
暑い。早く会いたい。今ならネコバスに乗れる気がする。そして病気の○○ちゃんにトウモロコシを届けてプロポーズしよう。子供は二人。家族四人で小さな村に住もう。
「ゼェ、ゼェ、ゼェ、、」
夢の世界が終わりかけている。
目が覚める時はいつも身体的な疲労か視覚的なものが原因であって、今回は同時に訪れた。
「お疲れ~!○○くん!すごい追い上げだったね!アタシずっとここから観てたんだよ!最後にアイツ抜き去った時なんてアタシ感動して腹痛治っちゃた。とにかくお疲れさま!パタパタ」
は?何それ??
君そんなメスネコみたいなキャラじゃなかったよね??あなたは素朴を突き通せって。○○くんは無理だって。後で女子から総シカト喰らうぞ。あんたにはオレがいるじゃない。いや、チョット待て。お前さっきオレのこと何て言った??「アイツ」って言わなかったか??言ったよな。そりゃねーだろ。○○くんに惚れるのはいいけどさ、オレを蹴落とすのはナシだよ~!だって本人に聞こえてんだもん。せめて居ない所で言うのがヒロインの務めだろーがよ。
こんなに悪い寝覚めも中々ないだろう。しかもそういう日は悪いリズムが定着しており、何をやっても上手くいかない。
「おう!ありがとよ!おうっ!ZEN吉もお疲れ!お前マラソンこんなに速かったんだな。やる気引き出してくれてありがとなっ」
「ぜ、ZEN吉くん!?い、居たんだ?お、お疲れさま」
どっちもやめてくれ。
これ以上デキスギくんにならないでくれ。せめて敗者に唾を吐くようなクソ野郎であってくれ。○○ちゃんもせめてオレの存在に気付いてくれよ。恋は盲目どころの騒ぎじゃねーだろ。マラソン終わりの息切れに気付かないってオマエ、、。眼球落としたレベルだろ。
「やっぱりスポーツはライバルいた方が面白れーな。あ、そうそう。応援してくれるのはありがたいんだけどよ、頑張って走ったやつをアイツって呼ぶのはどうかと思うぞ。ふうっ!Tシャツ変えてこよっと」
タッ!
しーん、、。
「ふう、、、。ZEN吉くん。アタシがどうゆう想いで今日を迎えていたか分かる?分かるわけないわよね。ニヤニヤしながらキモい顔で走っているあんたにはアタシの気持ちは絶対にわからないわ。ちょうど上位の女子がいなくなるタイミングに合わせて仮病を使ったのよ。それだけアタシの心は純情なの。ただ○○くんを思いっ切り応援したかっただけなのに、、。それなのにオマエの現実離れしたあの面のせいで、、。どうやったらあんな顔ができるの??何を思っているの?ふう、、、。とにかくアタシの恋は終わったわ。それだけは心に刻んどいて。じゃあね」
しーん、、、。
時は経ち、私は大人になっている。
下り坂は未だに直線のまま。緩やかでいいので弧を描いてほしいものである、、、。
缶コーヒーは最後まで飲もう
私は缶コーヒーをワインのように飲むのが好きで、あの考え尽くされた適量190mlを造った生産者に感動しながらいつも味わっている。と、言いつつ味音痴な私が言えることなど何もないのだが、これだけは言えよう。何で最後まで飲まないの??
全ての人のパートナーとなってきた「缶コーヒー」。
全てのストーリーに参加しており、彼らの役割はいつも
優しい奴 → クソ野郎
といった最後を迎えることが多く、ウダウダ説明してもしょうがないので片っ端から実例を紹介していこうと思う。
リーダー「おーい!缶蹴りしようぜ~」
モブ「イエーイ!!」
リーダー「じゃあ、みんなで丁度いい空き缶探そうぜ~」
モブ「イエーイ!!」
10分後、、、。
モブA「これでいいだろ?」
リーダー「アルミ缶かぁ、、。もう少し固いのがいいな、、」
モブB「それじゃあ、コレだろ!」
リーダー「ってお前これビンだろ!固すぎだろ!ったくお前らはよ~」
モブC「ハァハァ、、。いいのあったよ!!コレはどうかな?」
リーダー「おー!コレコレ!最高じゃん。じゃあオレ鬼やるからオマエはご褒美として5秒前から逃げていいぞ」
やった!
やったぞ、、。これで僕もAやBの奴らみたくリーダーと対等に話せるぞ。いや、蹴落としてやる、、。そのためにさっき自販機でコーヒーを買ったんだ。まさに「渡りに船」。いや、「モブにコカ・コーラ」。ありがとうジョージア。僕変われるよ。
リーダー「行っくぞー!!おりゃあ~~!!」
ガン!!
走れ。走るんだ。
やっと巡ってきたチャンスなんだ、、。
ヒュルルー。
行け。行くん、、
ガン!!
リーダー「あっ!!わりぃ!!大丈夫か!?つーかこれ中身入ってるじゃん。誰だよ飲んだ奴」
モブC「え~ん!!ジョージアのばかぁ~!!ぶっ殺してやるぅ~」
次。
「ったくこの家は朝のコーヒーも出て来ねぇのかよ、、」
「はぁ?何言ってんの?缶コーヒー出てるじゃん。朝から喧嘩ふっかけてこないでよ」
「へっ。これがコーヒーねぇ、、。コーヒーってのはシュゴゴって沸いたのを入れて一日が始まるんじゃねーのかなぁ、、」
「何、妄想にふけてんの?じゃあ自分でやりなよ。つーかアタシだって淹れたてのコーヒー飲みたいわよ。でも、あんたのイビキがフラッシュバックして飲めない体になっちゃったじゃない。文句言いたいのはコッチだっつーの」
「ああっ?んじゃコッチも言わせてもらうけどなー。何だよUCCって!?俺、缶コーヒーならファイヤーがいいっていつも言ってるよな?どうせパック買いの安物しか飲ませる気ねーんだろ?」
「はいはい。アタシはUCCが好きなの。ブラックならUCCなの。味覚も精神もガキなアンタには分からないと思うけど」
ガン!!!
「ふざけんなよ!!オレがファイヤー好きなのはな、、」
「ちょっと何やってるの!?ソファーにシミ付いちゃうじゃない!!」
オギャー!!オギャー!!
「あー。ホント最悪、、。缶太起きちゃったじゃない」
「それだよそれ。俺たちの出会いは公園で缶コーヒー飲んでた時だったよな。それでよ、その時オマエ、俺のこと桐谷健太を薄めた堤真一って言ってくれてよ、、。それで調子乗ったオレがよ、『お~ファイヤ~、ファイヤ~』ってよ」
「ホントやめて。全然似てないから。アタシあの時どうかしてたの。これ以上、桐谷健太を汚さないで」
「その時のオマエはCCガールズみたく輝いて見えてよ、、。あっ!オマエもしかして、、だからUCCが好きなのか?」
バン!!
「ホントいい加減にしてよ!!何その想像力??気持ち悪すぎて帯状疱疹が出るの!!缶太に移ったらどうするの!!」
「おい!!オマエこそいい加減にしろよ。俺たちの二人で決めた大事な子供を物みたいな言い方するなよ」
「そんなクソダサい名前にしたくなかったわよ!!アタシが出産で倒れてる時に缶コーヒー片手に勝手に名前つけやがって!呪ってやるわ!この子はアタシ一人でも育ててくわ」
「おい?それどうゆう意味だよ?」
「そうゆう意味よ。アタシもう限界なの。今、それがハッキリ分かったわ」
「おい、、。冷静になれよ、、」
「ちょっと、、。あなたが落ち着いて、、。手に持っているそれをまず離して」
「オレは別れるくらいなら、こうなってもいいぞ、、」
「やめて、これ以上近づかないで」
オギャー!オギャー!
「うらぁぁぁーーー!!」
「キャァァァーーー!!」
ガン!!!
オギャー、オギャー、、、。
「えー、ただいま速報が入りました。○○市で殺人事件が起こったもようです。犯人の自称桐谷健太が使った凶器と思われる缶コーヒーには妻と乳児の血痕が付着しており、犯人とみられる男は終始『お~ファイヤ~』と繰り返し叫んでいたそうです。現場からお伝え致しました」
最後に自称建設作業員のオレ。
「おい。何そんなチビチビ飲んでんだ?もう一服終わっちまうぞ。トロくせーな」
「ちょ、ちょっと待ってください!すぐ飲みますんで!」
何この気まぐれ休み時間??
10分だったり1時間だったりよ。完全にオマエの気分だろーがよ。コーヒー飲むの急かされるほどイラつくことねーんだよ。職人だからって何でも早ければいいって訳じゃねーかんな?
ンゴクゴク、、。
「あー!チョット待て!!タバコ消してーから少し残しとけって言ってるだろ!気きかねーな」
はぁ?
チョット待って、、。もう一回言わせて。
はぁ??
知らねーよそんなルール!!何そのクソみたいなルール??タバコ吸わねーコッチからしたら便所のタンカス案件なんだよ。つーか何でオマエそんなワガママなの?範馬勇次郎にでも憧れてんの?だったら一息でタバコ吸い尽くしてみろよ。
「あ、すいません。○○さんが奢ってくれたこのコーヒーおいしかったんで、ついつい飲んじゃいました」
「ふん」
あ、やっぱりこいつ勇次郎に憧れてる。本部以蔵みたいな面してるクセに、、。
「そうだろ?オマエの好みは分かってるからな」
ゲロ不味だよ。
甘すぎんだよ。微糖でギリ飲めんのに普通の買って来やがって、、。「糖」って面の皮剥げば「毒」だかんな。それを強面で渡されてるコッチの身にもなれよ。何が「好み分かってる」だよ?分かってねー奴が使うランキング一位のセリフだろ。
「おら!さっさと始めるぞ。まずはこの材料、全部上げとけよ」
「えっ?コレ全部っすか?」
「あたりめーだろーが。そのためにコーヒー奢ったんだろーが」
どんな交換条件だよ?
ガキの使いじゃねーんだぞ。マジで笑えねーよ。工事現場にたまにいる上下運動一人でやらせる奴ってマジで何なの??クソ効率悪いんだけど、、。少しならまだしも総量300㎏超えてくると殺意しか沸かねーよ。
30分後、、。
「ハァ、ハァ、ハァ、、」
「おーい!もう息上がったかー?オレが若いときなんてな、、」
うっせー死ね。マジ殺すぞ。てめえ何してんだよ?話してんじゃねーよ。その打ち合わせ今しないとダメなのか??その「打ち合わせしてる俺めっちゃ仕事できます」感が最高に腹立つし、そうゆう奴に限って最高に仕事できねーんだよ。
「ハァ、ハァ、ハァ」
「はーい。お疲れ~。35分47秒!まぁまぁかな。どうすっか監督?コイツ見込みありますかね?」
あ~~ん?
まじでゴキブリダッシュ喰らわせるぞコラ。内臓溶かしてやろうか?つーかお前オレの何なんだよ。オレが言いたいわ。「どうすか監督?見込み0のコイツに踏み込んだ一言お願いします!」って。
「ダメだよ相方は大事にしないと~。そんなことしてるとね、、」
よし!いいぞ!もっと言え!
トドメ刺してやれ。言え!「だからウンコなんだよ」って。
「へへっ。誤解しないで下さいよ監督。今だけっすよ、、。」
「ん?そうだった?それじゃ良かったね」
はぁ~~??
何だこの世界一くだらねぇ茶番は?クソみてーなゴマすりからのクソみてーな節穴。今まで千回以上見てきたけど、くだらなすぎてヘソでコーヒーが沸くんだよ!深みゼロの水下痢みてーなヤツがな!
「あ、そうそう。コレお客さんから差し入れね」
ふう、、。やっぱりお客さんは神様だな、、。常に我々の味方はあなたたちだけですよ。
「はい。MAXコーヒー」
甘ぁ~~!!!
どんなチョイス??疲れた時に甘いもの欲しくなるっつっても限度あんだろうが、、。成分500%砂糖の毒の固まりだろ、、。
「おー!ありがとうございますぅ~。コイツ甘いもん好きなんでオレの分も渡しときますね。ほら!せっかくだから今飲んじまえ」
いま~~??
今はマジで死ぬって!干からびた状態でのMAXコーヒーってMAX鈴木でも飲めねーよ。ってか何なのこの「差し入れすぐ食わないヤツ悪」文化。さっさと無くせよマジで。その「アタシの事好き?」みたいな顔で見られんのが最高にめんどくせーんだよ。
「ほら、一気!一気!」
「一気!一気!」
てめーら覚えとけよ、、。
末代まで呪ってやるからな。
ンゴクゴク、、。
「はい!1本目~!次いってみよう!」
「一気!一気!」
ンゴクゴク、、。
うっ!!
ギュルルル、、、。
ほらね。やっぱそうなるよね、、。
でも安心しろ。ここは工事現場だ。必ずトイレがある。急げ!!
ダッ!!
「はいダメ~。どこ行くの~?まだ残ってるじゃない~」
「ちょっ!!マジでどいて下さい!!オレのMAXがもうMAXなんです!!」
「ダメダメ~。お客さんに失礼じゃない」
「漏らした方が失礼だろうが!!マジでどけよゴミ!!サル!ゴリラ!!」
ガン!!!
「テメーー!!先輩に向かって何だその口の聞き方はー!?」
「わかった!!わかったから!!!」
あっ!!!
MAX、、、。
汚ない話ですいませんでした。
缶コーヒーには敬意を払いましょう。
山よ、オレの恋路を邪魔するな
根が甘えん坊の私は年上の女性に恋に落ちることが多いのだが、私もいい年である。当然、相手の年齢も高くなるのだが、彼女たちには絶対に太刀打ちできないパートナーがおり、いつも煮え湯を飲まされる。おい山。いいからお前は座ってろ。
何も私は山が嫌いなわけではない。
何て素敵な奴なんだ!ゆえの嫉妬だと思ってもらって構わなく、素敵な奴というかズルい奴だろう。シンプルに「山」と魅せといて、小山・大山・雪山・恐山などジャンルを絞ればキリがなく、迂闊に「僕、山が好きなんですよね~」と言おうものなら全ての女性から泉ピン子の如きバッシングを食らうだろう。
いや、そもそもね、このネーミングに問題があるんだよ。何だよ「山」って。こんなアホな字ねーだろ。平仮名にしちまえよ。のクセに中身は福山+ブラピ+大谷+、、、と来たもんだ。もうギャップ萌えどころの騒ぎじゃねーんだよ。金魚がフンに食われてんだよ。
何だよ「~山」って。その最後に付く山っている??富士山じゃなくて富士でよくない??いい加減一人立ちさせてやれよ。イケメンの優しさも時には罪になるんだよ。
こういうどんな服装も似合うモデルは、雑誌で眺めている程度がちょうど良いと思うのだが彼女たちの見解は違うらしい。
「山登りって結構色んな所行くんですか?」
禁断の質問だと分かりつつも、コレ以外の切り口を知らない私の初デートはいつもこの手のスタートになる。
いや、オレだってさ、こんな元カレを探るような質問したくないよ。でもさ、趣味の欄に書いてるんだもん。でっかく。「ハイキング・山登り・トレイルラン」って、、。何がどう違うの??ディーンフジオカと藤岡弘くらい違うの?分かりやすく教えて下さいお姉さま。
「アタシはあんまり色んな所行くわけじゃなくてー、そうだなぁ、、一つの山を大事にするってゆうかー、春はお散歩、夏は登山、秋はトレラン、冬はスノボみたいな感じで(恋)」
つまり??
アナタのその恋に落ちてる相手はディーンなの??弘なの??オレにもチャンスはあるの??
「あっ!ごめんね。ついつい夢中になっちゃったね。それでZEN吉さんも景色を眺めるのが好きなんでしょ?例えばどんな景色?」
ふぅ、、。これはセンスが問われるな。
景色は好きだ。これは本当だ。だが目的は魂をどこかに飛ばすためであって生き物が視界に映らなければ何だっていい。山だって海だって工場だって、、。しかし、コレをそのまま伝えるのはナンセンスだろう。自分の色を出しつつ本音を言おう。
「もちろん山が好きですよ。でも最近は、、うーん、何だろう、、季節が感じられるカラフルっていうよりかは、、」
「うんうん!よりかは??」
よし。いいぞ、、。
やっとオレの方を向いてくれたか。
「枯れた同系色に惹かれるんですよね。灰色とゆうか焦げ茶色ってゆうか、、。何かあーいう景色も落ち着くなぁって」
「わかる!!わかるよ~!!アタシも若い頃はカラフルな色合いが好きだったんだけど、今は枯れた岩肌も好きなの。すごい落ち着くの。ZEN吉くんって趣が深いんだね(恋)」
グッバイふじおか。ここからはオレの時間だ。
でも、ごめんなさい。僕は若い頃もカラフルな山に興味がないんです。なぜなら見に行く相手がいなかったから(泣)
現在進行形で悲しい奴である私に同調してくれたのか、彼女は聞くモードになっており、こういうパターンになるとモテない奴は必ず調子に乗りそして失敗する。
「ははっ。趣が深いなんてそんな。僕、灰色が好きなんですよね。石とかコンクリートとか」
「アタシも好き。ステンレスの食器とかカーテンとか」
来たぞ来たぞ。
これ最後に「アナタ」で終わるしりとりだろ。
「爪とか銀歯とか」
「えー!変わってるねー。アタシは服装もグレーのパンツスタイルが多いかも、、。それくらいかなー」
へー。いつもグレーのパンティ履いてるんだ。コットン素材かな。奥の銀歯もキレイだな。触ってみたいな。
「ちょっと何言ってるんですか!食事中だよ!」
げっ!!
声に出てた、、。
つーか紛らわしいこと言うなよ。ズボンって言えよ。
「そこまで行ったら趣が深いって言わないよ。倫理観の問題だよ」
「はい、、。すいません、、」
こうなってしまうとモテない奴の顔面はみるみる土色になっていき、モグラとなって逃げたしたくなる。当然そんな奴との会話はつまらない。
どうすんだよこの空気、、。
だって、好きなこと言うタイムを仕掛けてきたのソッチでしょ?つーか「山」オマエ責任取れよ。お前がハッキリしないから彼女もオレも落とし所がわからなくなるんだよ。
「あ、あの、、」
「何ですか?」
うわ、まだ怒ってるよ、、。めんどくせー女だな。
山よ、オレを助けろ。
「さっきはすいませんでした。僕少しドライな一面もあってこうゆうこと言っちゃう時もあるんです。だから、もう少しエネルギッシュなことしたいなって、、。良かったら○○さんと山登りしたいです。連れてって下さい」
「うーん、そうゆうことなら、、」
そうゆうことなら??
一人で行け?アタシと山Pの邪魔しないで?
「いいよ!一緒に行こう!案内してあげる」
イエス!!
ナイス山P!そろそろ彼女を解放してやれ。
彼女の機嫌はすっかり元通りになり、すんなり二回目のデートに持ち込むことが出来た。しかもプランは全て彼女任せで、こんなに楽しみな次回予告もないだろう。
プラン決定のメールが届いたのは二ヶ月後。それだけで彼女の本気度が伝わって来るだろう。
「久しぶりです。連絡遅れてごめんなさい。ZEN吉くんと行く登山道の下見してたんだ。何個か候補があるから教えるよ」
う、嬉しい、、。
めっちゃ調べてくれてますやん。正直もうフラれたと思ったよ。コレは嬉しい、、。
のか??ちょっと本気度が強くないか?オレ的にはその下見に同行するくらいが丁度いいのだが、、。まあ、いい。デートコースを聞こう。
「ありがとうございます!楽しみですね!何処ですか?」
「ZEN吉くん、絶壁の岩肌が好きって言ってたよね?だから必然的にコースも上級者向けになるんだよ。それじゃ言うよ。○○山~コース(親不知)、○○山~コース(白骨林)、○○山~コース(森林限界)。どうかな??」
いや、死ぬだろ。
名前からしてやべーだろ。調べる気すらなくすわ、、。とゆうか絶壁登りたいなんて一言も言ってないから、、。完全に世界入ってるだろ。
「え、、と。すごい楽しそうなんですけど、、。もう少し軽いのはありますか?ついて行けなくなっても迷惑かけるので、、」
「えー!やっぱりキツかったかぁ、、。あとの岩壁はねー、、。○○岳と○○岳くらいかなー」
おいタケシふざけんな。
お前は出しゃばんな。それ死人出てる山だろ。だから岩壁から頭離しなさいって。あんたイカれてるよ。そもそも浮気しまくってるじゃん。一つの山を大事にするとか言ってなかったっけ??
「すいません。○○岳はちょっと、、。もっとハイキング的なのじゃダメですか??○○さんとの会話も楽しみながら登りたいので、、」
「う~ん。そう言ってもらえるのはありがたいんだけど、、。ふう、、。アタシ今回の登山で知ったことがあるの」
「へぇ、、。まだ知ることあるんですね?何ですか?」
「アタシって山が好きなんだなぁって、、。つまりね、、」
つまり??
もう分かったけどやさしく言ってね。
「アナタじゃ全っ然!!物足りないのっ!!」
うん。倫理観。
あなたのソレは何色だ??
山に罪はない。
山は山であるべきである。
でもね、、。
もう少し低くてもいいんじゃない??
サウナでぴちゃぴちゃ音を立てる奴って何なの?
「ふう~。ぴちゃぴちゃぴちゃ、、」。ふう~じゃないだろう。本当に何なんだろう?温泉ほど無防備になる場所もなく、だからこそルールは大切にするべきであり、大きく注意書きをしてほしいのものである。「ぴちゃぴちゃ音を立てないでください!!」と、、。
「黙浴」。
最近よく目にする言葉であり、久しぶりに「いい言葉だなぁ」と入る前からフレッシュな気持ちになることができる。温泉に来る動機はさまざまあるだろうが、本来の目的は心身の不純物を落とすことであって、それ以外の動作・音は全て不純物であり、黙浴とは「いいから黙って入浴してなさい」というメッセージなのだろう。そんな母親の厳しい教えを受けた子供たちも父親と二人きりになると解放された気分になるようで脱衣所の段階でコサックダンスを踊っていた。
ちっ。何だこのガキは?オレのエリアに入ってくんじゃねーよ。
父親は何やってんだよ?何でオマエまで踊ってんだよ。しかもチョット上手いのがムカつくんだよ。
私は子供は嫌いではないのだが、それはあくまで家や公園で遊んでいる時であって、こういう場合は親子共々プロレス技を喰らわせたくなる。
「んっ、んんっ。ごめんね~。ちょっと避けてくれるかな~」
いいか?最終警告だぞ。
これでこれ以上続けようものならジャイアントスイングで女風呂一直線だぞ。正当防衛で女風呂を覗いてやる、、。
私の怒気を感じ取ったのか父親が注意をし始めた。
「おい!○○!!そんな狭い場所で踊るのはやめろ!ママに言いつけるぞ!」
広さの問題じゃねーんだよ!!お前ら以外にも人がいるんだよ!家じゃねーんだよ。
「はーい。ねぇパパ。コレなんて書いてるの?」
よし。いいのに気付いたな。
その言葉はな、お前らの教典になるべき言葉なんだよ。
「ん?何だろうな?ちんよく?ぜんよく?まぁ気にするな。海水浴みたいなもんだろ」
ばか!全然ちげーよ。調べろよ!今すぐ!Google先生に教えてもらえよ!
「キャホー!!ドボーン!!」
私の願いは通じず、南の島に来たかのようにこの父子は湯ぶねの中を泳ぎまわっていた。
まぁ、たまにはこういう光景も良いだろう。私も子供の頃は所狭しと駆け回り、すっころんで頭を打ち付けながら大人になっていったものである。この父親も責めることはできない。限られた親子の時間は多少の迷惑をかけてでも味わうべきである。私が物申したいのは、温泉を日常的なものにしてしまったボス的な奴らであって、奴らは掛湯の段階からボスのBGMを流し込んでくる。
「バシャバシャ、バッシャッーン!!」
はい出た。海坊主1号。
マジで何なのコイツらの掛湯??汚物まき散らしてるだけだろ。扉開けた時の絶望感がハンパねーんだけど、、。
「ふう~。コンコン。バッシャッーン!!」
わかったって。リズムに乗んなよ。さっさとどけよ。
「パシャパシャ。タッタッタ、ザブン」
つーかオマエ体洗った??
おそらく洗っていない。コイツらはシャワーというものを嫌っており嫌っているというよりその威力を信じておらず、手桶のバッシャッーンが何より最強で、それが全ての汚れを落としてくれると信じ込んでいる。しかも何故かタオルすら持っていないことが多く、「オレは清廉なのだから拭く必要などないだろう」という自信の表れなのだろう。こういう奴は現場を仕切りたがるクセがある。
「お~い!坊ちゃん!!体に泡付いたままだよ!」
「はい。ごめんなさい」
「お父さんもちゃんと注意しないと!あと話し声もうるさいよ」
「はい。気をつけます」
いや、お前の声の方がうるさいから。
お前のバッシャッーンの方が汚いから。
ダメだ、このフロアは。さっさと逃げよう。
本質を解かっていないリーダーがいる現場ほど息苦しい場所もないだろう。私は運が悪かったとあきらめ、今回はサウナだけで済ますことにした。運よくそこには誰もおらず、リラックスした空間を過ごしていたのだが、そこにヒョコっと海坊主が顔を出す。
き、来やがった、、。
ゆでだこが、、。何で来んだよ、、。もう十分だろうがよ。
ジジイはすでに赤くなっており、入り口付近でさっさと出ていくだろうと思っていた私の思惑とは逆に足音が近づいてくる。
ザッザッザ。
おいおい。コレ以上近づいてくんなよ、、。パーソナルスペースってもんがあるだろうがよ。
「よっこらせ」
えぇー!!
隣ィィーー!!
ホント何コイツ??マジで気持ち悪いわ、、。
が、そこは「黙浴」。リアクションを出すことはルール違反であって、体の不純物も出し切れていなかった私はじっと耐えることにした。
「ふう~~。ぶふう~~」
黙ってろジジイ。ぶっ殺すぞ。
温泉を私物化しているテメーが誰よりもルールを守っていない。絶対、係員に報告してやる。
てめーの魂胆はわかっている。オレの今座っている場所がオマエの指定席だったんだろ?
くくく。だったらどかしてみろよ。その前に「タコから」ができあがるだろうよ。
「ハァ~ン、ハァ~ン」
っち。さすがにコレはきついな、、。
この距離で聞くジジイの喘ぎ声は、、。置き換えろ。目を閉じよう。新しい熟女物だコレは。
「ぴちゃ、、」
ぴちゃ??
何だ?空耳か??想像力がバグったか??
「ぴちゃぴちゃぴちゃ」
キモいキモいキモい!!
どっから音出してんの!?男にそんな機能あったっけ!?
さすがにコレには怖いもの見たさに薄っすらと目を開ける。すると
おえっ!!
コイツ自分の腹でギターフリークスやってやがる!!
しかも緩みきった千段腹だから、どこ触っても音が鳴りやがる。何て張りのないキモい音なんだ、、。おえっ。ダメだ。まじで死ぬ、、。
これだけの不協和音を聞いたのは人生で初めてである。だが、ジジイも命懸けだろう。これだけの音を出すには相当の水分を使うはずだ。あと一分もすれば唐揚げが焼きあがるだろう。
「ピッピッ!ぴちゃちゃ、ふぅーふぅー」
やめろぉぉー!!
リズム変えてんじゃねー!!そんなAVは見たことねぇー!!
「ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃ」
うおぉぉぉーー!!
死ぬぅぅーー!!
「ぴちゃっ!!バタンっ!」
バタン??
もしかして、、。
そこには力尽きたジジイが横たわっていた。
やった、、。勝った、、。
早く係員を呼んでこよう、、。
ボコッ!あっ!
限界だった私は拡散したジジイの体液を踏んでしまい、転ぶと同時にジジイにエルボーを喰らわせてしまった。
「あっ!すいませんっ!!違うんです。今のはわざとじゃないんです!!とゆうか全部オマエが悪いんです!!すぐ助けを呼んでくるからお願い、、。死なないで!!」
するとジジイがむくっと起き上がる。
げっ!!
コイツ不死身か、、。
「あんちゃん、、。黙浴だよ、、。バタンっ」
ヒィっ、、。
私は錯乱したまま係員のもとへと走り出す。
「係員さん!!係員さん!!」
「落ち着いてください!!どうしましたか!?」
「サウナで!!サウナで!!」
「サウナで??」
「ぴちゃぴちゃ音を立てないで下さい!!」
真冬のヒッチハイクは聖人の誕生日
私はヒッチハイクなどする度胸はなく、かと言って乗せる度胸もない。が、氷点下でのあの行動は凡人をイエス様に押し上げる効果があるらしい、、。下心は一切ない。なぜならソイツは豚小屋で生まれたようなオッサンだったからである。
ヒッチハイクを行う奴を尊敬する。ただし一人、それも荒野でだ。
どうゆう心境なのだろうか?
文明を切り捨てることに酔っている登山家のような澄んだ瞳をしているわけでなく、不自由を楽しんでいるパーティーピーポーなわけでもない彼らが受ける評価とは「何だこの不審者は??」といったところであろう。その評価は至極まっとうなもので、彼らは自らが望んだわけでない何らかのトラブルに見舞われ、その悲壮感が全身に纏わりついたトラブルメーカーとなって人々を遠ざける。それはそうだろう。スマホは普及していなかったがケータイはある時代なのだ。そんな自己管理ができない奴など馬のクソでも食っていればいい。と、当時、冷凍黎明期に差しかかっていた私の心も、あの男の姿によって動かされることになる。
「ん?何だアイツ!?何やってんだ!?」
その男は峠道を歩いていた。
普段なら「へぇ、、。こんな真冬に物好きもいるものだなぁ」と感心するのだが、彼の掲げているダンボールが私に恐怖を植え付ける。書かれている文字は「→」のみ。いや、書かれているというよりは貼られている??染み込んでいる??とにかく、得体の知れないアート文字を掲げるくたびれたオッサンなど恐怖の対象でしかなく当たり前のようにスルーした。
スルーせざるを得なかった。
彼の立っている場所は対向車側であり、こんなアイスバーンで急にUターンしようものなら後続車から追突されるだろう。時間も悪い。日が落ちかけている。こんな寒い日は愛する人と鍋でも囲みたくなるだろう。おまけに顔も悪い。まるで敗戦国の兵士である。だが、これだけインパクトのある映像もないだろう。私の頭はこの男のことでいっぱいになっていった。
マジで何なんだアイツ?
あの表情。必死すぎるだろ。そっちに何があるんだ?今日じゃないとダメなのか?ホントに歩いていくつもりなのか?マジで死ぬぞ。ケータイはどうした??落としたのか?近くに交番くらいあっただろうがよ、、。ダメだ。我慢ならない、、。戻ろう。
今考えると恐ろしいことなのだが、何か新しいものが生まれる気がして引き返すことにした。正義感というより好奇心の方が強く、これだけのリスクを冒したのだからすでに新しいものが生まれているのかもしれない。なんせ相手は刃物を持っている可能性もあるのだから本来の小心者からすれば信じられない行動力だろう。
キキィーー。バンッ
私の車が男の前に止まると、ギョロっとした眼が私を睨みつけ、私は正気に戻る。
や、ヤバい、、。
コイツたぶん人を殺ってる、、。
なんて馬鹿なことをしたんだオレは、、。酔っちまった。勝手にストーリーを作っちまった。モテないあまりに都合の良いストーリーを、、。
いや待て!!こんな所で死んでたまるか!!
武器を探せ、、。たしかこの前使った、、。
あった!!ドライバーだ。コレで頭のネジを正してやる。話くらいは通じるだろう。
「えーと、、。もしよかったらアッチの方まで乗せて行きましょうか?」
そう話しかけると、緊張の糸が切れたのか腰をくだいた彼は
「え、、。ホントですか、、。助かります助かります」
と、よろめいていた。おそらく限界だったのだろう。
まだ私は警戒を解かない。演技ではないと思うが、人間が怖いのは力が戻った時だ。目一杯前に出した助手席に彼を座らせて、少しでも不審な動きがあれば脳天にドライバーを突き刺してやるつもりである。
「あの、、。何で乗せてくれたんですか?ちょっと前にすれ違った人ですよね?わざわざ戻って来てくれたんですか?」
そう。
この男とは先程ばっちりと目が合っている。必死すぎるほど必死な目だった。その目で見つめられたらストーリーが始まるのは必然だろうよ。なんでオッサンなんだよちくしょう。
「いや、、。えーと、、。ホントに大変そうだったので、、。こんな寒い中、冗談でこんなことはしないだろうなって、、」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
なんでオッサンなんだよバカヤロー。
「止まってくれる人は他にもいたんですが、、。面白がって写真だけ撮られました」
「え、、、。ホントですか??日本の民度も落ちたものですね、、。取りあえずコンビニでも寄りましょう。温かいものでも飲みましょうよ」
「あ、でも私お金ないんです、、」
「はい。落としたか、無くしたんですよね。おごりますよ」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
なんでオッサンなんだよバカヤロー。
温かいおにぎりとお茶を数秒で平らげた彼は、みるみる元気を取り戻し口数が多くなっていった。このままだと運転中に負ける可能性が出てきたのでコンビニの駐車場で事のてん末を聞き出すことにした。これまでの彼の印象は一定の知識人であるということと、本当に困っているということで彼の放つ臭気は5日間はまともな生活が出来てないことを推測させた。
「さて、どうしてこんな日にヒッチハイクなんてしているんですか?」
「え、、と。私日本人じゃないんです」
おっと、、。いきなりスゲーの来たな、、。
「えっ?生まれが日本じゃないってことですか?」
「生まれは日本なんですが、20年前に東南アジアの方に帰化したんです。ちょうど身寄りが一人もいなくなって、あちらは物価が安いので、、」
ふーん。そうなんだ、、。
なんで身寄りが居なくなったんだろう?もしかして殺、、。
いや、やめておこう。コイツは明らかに人と違う人生を送っている。見てみろこのダンボール。ある意味芸術だろ。
「あ、これですか?ははっ。恥ずかしいですね、、。なんせ必死だったので、、。地名なんて覚えていないですし。とにかく目立つようにってゴミの中から色んなものくっつけて作ったんですよ」
いや、すげーよアンタ。すごい生への執念だよ。そりゃ写真撮られるよ。だってカラスの羽くっつけてるんだもん。ホントすごい感性だよ。でもさー、、。車の中にまで持ってこないでくんない?
「あ、そうそう。ヒッチハイクしている理由でしたね。察しの通り、財布を盗まれて一円もお金が無いんです。私一回も雪見たことが無かったので今度日本に来たときは絶対北の方に行くって決めてたんです。20年ぶりの日本で舞い上がってたんでしょうね、、。少し目を離した隙にやられました、、」
「もちろん交番には行ったんですが、なんせパスポートも無くしてしまったもので、、。日本というのは一度帰化した者にはとても冷たいものなんですよ。当然なんですが日本人を名乗ることもできませんし、証明書がなければお金を貸してくれることもしてくれません。仕方がないので紛失した場所で張っていたんですが体力が尽きてしまいました。東京の大使館まで行けば何とかなるんですが、、」。
ふーん。なるほどね、、。
妙に説得力があるな。多少の誤差はあるだろうが嘘は言ってないだろう。例え嘘だとしてもそれが許されるだけの行動力がコイツにはある。良かったな犯人。見つかっていたらマジで一家皆殺しになっていただろうよ。
「それでは東京の大使館へはどうやって??まさかまた歩いていくつもりですか?」
「はい。もたもたしていても何にもならないので」。
マジかコイツ、、。いや、このお方、、。ぶっ飛んでいらっしゃる。
「いやいや。ホント大丈夫ですか?冬ですよ。食べ物は?」
「大丈夫ですよ。私、今感動しているんです。日本も捨てたもんじゃないなって。あなたを見ていると昔の良い日本を思い出すんですよ。多分、あなたのような方はまだいるはずですよ」。
なんでオッサンなんだよバカヤロォォー!!
この人は何かを超越してやがる。ダメだ。他の奴にこの感動を味わわせたくない。神はオレ一人でいい。
「あの!!一万円。いや、五千円でいいので受け取ってください!それで少し暖かいところまでは行けると思うので、、」
そう言うと彼は少し戸惑ったのち
「ありがとうございます。代わりに何か私にもお礼をさせてください」
と言うと、私はすぐさま
「それ下さい。あと僕のコレもあげます」
と言って、男たちのプレゼント交換が始まり、別れを告げた。
その後、彼がどうなったかはわからない。
わからないが、あの日の駅は混んでいた。そう。たしかあの日は、、、
メリークリスマス!!
二人の手にはドライバーとカラスの羽が握られている。