小屋で暮らそう

モテたいと思っている奴に限って蛇の道に突っ込む事がある。「一人になりたかった」などと格好付けてはいるが、内心は自分の作った家で大正ロマンを夢見る儚い奴らである。今回はその男の心の葛藤を描いていきたい。






DIYブームの昨今、自作の小屋で生活する男達の動画を見て、私は複雑な思いを抱いていた。同世代であろうこの中年男達は、おそらく趣味でこんなことをしている訳ではない。うだつの上がらない人生をタイムスリップさせることで何か好転させようと必死なのだろう。男の趣味と言えば箔が付くし、それを一人で作った暁には人生の伴侶が現れるだろうというクソ甘い幻想が彼らのエネルギー源である。


甘い。甘いんだよ。
そんなこと建設作業員のオレが既に一万回シミュレートしてんだよ。そして一万回フラれてんだよ。まずそんな物好きな女いねーから。別荘って訳じゃねーんだろ??その馬小屋がオマエの本丸なんだろ??それなら現実的に中古マンション買ってる男んとこ行くわ。だってアタシ普通の暮らししたいし、、。


と、小バカにする反面、そこを理解した上で行動に移せた彼等への羨ましさが私の心にはあった。


いや、わかってるよ。
格好いいよお前ら。でも変にテレビで特集するの止めた方がいいと思うよ。それでパートナー出来るの稀中の稀だから。ってかホント??ホントに彼女小屋暮らしに魅力感じてる??ヤラセじゃないの??今度遊びに行っていい?


結局、疑い癖がある私はいつまでたっても行動せず、何年間も同じ言い訳を繰り返していたのだが、実家の大掃除をしている時、大量の廃材が手に入った。というか無理やり廃材にしてやった。

私の実家は母屋の他に倉庫が幾つかあり、その二階はどれもゴミで溢れ返っていた。「蔵」に保存されているような文化財は一切なく、息子の私から見れば全てゴミである。次々と焼却していく様を見て、両親が歩み寄ってくる。


「あんまり全部捨てんるんでないって、、」


気の毒そうに言って来るのは私がキレているからである。半分演技であり、屋体を壊すとなれば親の許可が必要である。多少の怒気を含めなければコイツらの首が縦に振らないことは良くわかっている。


「オレが何十㎏のゴミ、何十回往復してるか分かるか?このゴミどうするつもりだったんだ?」


「そんなゴミって言い方しなくても、、、。中には必要な物だって、、」


ない。
オレにとっては。
コイツらは物に心が宿ってると思うクチの人間だ。嘘でもいいから合わせてやろう。オレが欲しいのはこの床材だ。


「ああ。使えそうな物は小屋で再利用するわ。今度趣味で6畳くらいの小屋作ろうかなーって思って。それで材料欲しいから二階の床半分くらい解体したいんだよね。いいだろ?もう大往生しただろこの小屋?」


「まあ、、新しく生まれ変わるなら、、」


よし。ディ・モールト
これで実家ゴミ問題は解決した。コイツらは空きスペースが有る限りそれを埋めに行く妖怪たちだ。マジでムカつき過ぎて、階段から落ちて死んでくんねーかなって思ったくらいだ。二階なんてもんは田舎じゃ必要ねーんだよ。


こうして男の小屋作りが始まったのであーる。





小屋作りとはDIYの着地点であって、まぁ面白い。建設業を生業にしている者は凝った作品を作る傾向にあるが私にそのつもりはなく、あくまでデータ収集が目的である。よく「十万円で小屋を作りました!!」とイチャついている動画を目にするが「絶対十万じゃ無理だよ、、」というのが私たちプロの見解であった。もちろん、どれだけタダで材料を手に入れたかによるが、雨風をしのぐ畳六枚の空間を作るには三十万円前後、それとは別に簡易トイレ、電気・水道、更地とは言え土地代が~~などと合わせていけば、いくら質素な大正ロマンでも最低二百万はかかるだろうというのが今回感じた所である。今回の小屋は試作品ということもあり、男一人最低限の生活が出来る6畳間のものを畑の近くに建てる事にした。実家の敷地内だったので電気は延長コードを通じて引っ張り、水はポリタンク、済ませた用は畑にでも捨てておけばいいだろう。生活ビジョンが見え、あとは黙々と作るだけなのだが、面白いと言っても結局は一人のテンションである。


くっ、、。上がらんわぁ、、。
これじゃあ仕事と一緒じゃん、、。古材を生かしてる感じとかは楽しいけどさぁ、、。「キャー!スゴーい!!」とかないとやってらんないよね、、。しかもタダ働き。けっこう金かかってるかんなこの小屋。塗料がバカ高なんだよ。絶対十万で作るのムリだよ。嘘情報流してんじゃねーよ。早くオレにも女紹介してくれよ。応援ないと力出ないよー。ちゃんと立派な家にするからさー。ちゃんと親と離れた所に建てるからさー。


という会話を一人で二週間程しているうちに小屋は完成していた。感動はあまりなかった。少し寂しかった。だが、本題はここからだ。コレを魅力に感じる物好き女が世間にどれ程いるかである。




「アタシ。劇的ビフォーアフターとか見るのメッチャ好きでして。そうゆうの作れる人ってホント素敵だと思う!」


うん知ってる。
そう。意外といるの。でもなぁ、、見る専が多いんだよなぁ、、。小屋暮らしを成り立たせるには、やるタイプであって欲しい。さぁ貴方はどっち??


「アタシですか??好きですよ!昔から手芸が趣味です。でもその分、外でする力仕事は苦手で、、あっ!でも家庭菜園とかは大好き!」


向いてる。
向いてるよ君。大丈夫。力仕事は全部オレに任せて。さぁ行こうか大正デモクラシー


「ZEN吉さんの趣味は?えっ!?ウソ!?この小屋ZEN吉さんが作ったの?えっ!ウソウソウソ!!めっちゃ可愛い~~!!住みた~い!」


言ったな?住みたいって?
二言はないよな?女ウケを狙って白を基調にして良かったぜ。そろそろ詰めた話をして行こうか。


「ホント素敵ー!本当に一人で作ったんですか??えっ?ウンウン。せっかく出た廃材をそのまま捨てるのが可哀想だったから?優しい~~!優しすぎるよー」


だろ?
物にも命ってもんがあるんだよ。


「あっ!でもでも。いくら離れているって言っても親の敷地内でしょ?うーん、、。アタシ引っ込み思案だから相手の親と仲良く出来るかなー」


小屋暮らしの真の素晴らしい所は場所を選ばないところだ。あなたが僕の親が苦手というのなら僕があなたの御両親の近くに行こうじゃないか。お庭の一区画さえ貸していただければ立派な小屋を建てて見せよう。子育ては生易しいものじゃない。親の助けが必ず必要になる。


「えーっ!無理無理無理!!アタシ自分の親大っ嫌いだもん!すっごい良く育てて貰った反動ですっごい嫌いになっちゃったの。そうゆうことって良くあるよね?」


ゲス女やん。
良くしてくれたんでしょ??そんな反動初めて聞いたわ。じゃあオマエこれからどうやって生きてくつもりなの?そんな強いバックボーン持ってるの?


「アタシはね。湖の畔でお城みたいな家に住みたいの。そうゆう絵本を見させて育てたくせに今頃になって反対してくるの。だったら早く王子様見つけて来いっつーの。オシャレな家なんて直ぐ建てられるってビフォーアフター見てたら分かるもん。ねっ!そうでしょZEN吉さん!そういえばZEN吉さんって今歳いくつ??」



え、、と、うん、、と、、。



ゴメン。
オレこう見えて大正生まれだからよく分かんないや、、。