野球部シンパシー

少し変わったヤツでも団体行動に身を置けば、最低限の社会マナーが身に付き、その最も分かりやすい例が「野球部」だと私は思う。こう言うとサッカー部の人からは怒られるかも知れないが、別に構わない。だって野球部以外知らないんだもん。





野球部ヤンキー説は甘んじて受け入れよう。
言い訳など一切通用しなく、ただ調子に乗ってるの一点に尽き、彼らに対する憎悪は私とて同じである。結論を言うと、この「ベジータタイプ」の人間に私は共感するに至っていない。なぜならNO.1時代を経験しなかったからである。NO.1とは学校内での序列関係であって、それも欲が出始める中学生以降の話である。私の中学は代々野球部がNO.1になるしきたりであり、その理由は小学校に野球部しかなく、体力に自信がある奴がそのまま登るだけの仕組みだったからである。ということは私たちの代もNO.1を経験できるはずなのだが、悲しいかなそれを許さないのが上と下の存在である。


「谷間の世代」というのは確かに存在する。しかもこれを若いうちに経験してしまうと「どうせオレたちなんて、、」と負け犬根性が植え付けられ、それがウイルスのように蔓延することで世代全体の成長を妨げることになる。田舎のようなエスカレーター方式だとその効果は如実に現れ、マズイことに周りの大人までそれを隠そうとしない。いや、隠しているのかもしれないが態度がもう全然違うのである。


監督「よし、三年生は明日の試合に向けてフリーバッティング!!」

三年「ウェイッッ!!」

監督「二年は守備」

二年「ハイ!」

監督「聞こえねぇー!!」

二年「ウェーイッ!!」

監督「ちっ。一年生は三年生のバッティングピッチャー!!」

一年「ウェーイッ!!」

監督「おーし!いい声だ!!よし行こう!!」

全員「ウェーーーイッッッ!!!」


ちょい監督、、。あんた大人だろ?
オレら二年の気持ち考えたことある?センスねーのはしょうがねーだろ。そんなん生まれつきでそれが三年と一年に多かっただけだろ。努力で補える部分もあると思うよ。それをさー「おい、二年」みたいに養豚場のブタ見るみたいにさー。けっこうオレら気にしてるかんね。

しかもさー。普通一年が守備じゃね?いや、確かにオレらストライク入んなくて三年に怒られてるよ。ストライク入っても怒られるかんね。リズムがちげーって。マジで知らんわ。それをなだめるのが監督の仕事じゃねーの?部活動で大切なのってそうゆう所じゃねーの?


少し大袈裟に書いているが、まぁ、これに近いものは確かにあった。三年たちはもれなくヤンキーに育っていき、子分である私たちに厳しくする反面、出来の良い孫にはふんだんに愛情を注ぎ込んでいた。こうまでされると脱落者が出てもよさそうなものだが、私たち二年は元々争いを好まない「カカロットタイプ」が多く、リーダーは勉学に励む学年NO.1の秀才とあって、仲間に恵まれたとは正にこのことだろう。どうせ人間どこかで折れる。私の認識だと才能がないと言われてきた人間は「耐える力」が強いと思われがちだが、それは間違いで「折るスピード」がむちゃくちゃ早いだけであり、あまりにキレイに折るものだから絶えず超回復を繰り返しているだけである。この能力は社会でしか身に付かない後天的なものであって、逆にこれさえ身に付けばどんな性格でも許されるというのが、良くも悪くも我が国の現実であろう。この「まあ、いっか」主義を使う者を探すのが大人になった私の趣味であり、その絶好の場所とは、みんな大好き居酒屋である。




私は一人呑みをするほどの猛者ではないが、多数で入った時は会話そっちのけで必ず店員のオーラをチェックするようにしている。居酒屋に来る客など山賊のようなもので、その目付きたるやグラウンドに現れる三年と全く同じである。コイツらが現れた時どういうリアクションをするかがシンパシーポイントであって、これを楽しむだけに飲み会に参加していると言っても過言ではない。




お客様入りまーす


バイト1「いらしゃいませ!」

バイト2「っらしゃぁ~い」

バイト3「っらしゃいませぇー」


はい。簡単。答えは2番。
良かった。一人も居なかったら来た意味ねーだろ。もしかしたら3番もそうかもな、、。


野球部出身者は「ア」と「オ」が伸び上がる。
「さぁーこぉーい」「ちわぁーす」を何千回と繰り返した声はノドではなくハラに刻まれており、腹から出る声というのは少し低くなる。二十代のバイト君たちにその歴史を覆す時間はなく、私の的中率は80%といったところだろう。さて、答え合わせをしてみるか。


「ねえねえ、ちょっといい?」


「うぁーい!!」


もう確定じゃん。
マジでかわいいんだけどこの2番の子。
いや、オレそうゆう趣味ないよ。ないしオレより全然、経験豊富だけどマジで食べちゃいたい。どれ。少しカマをかけてみるか。


「君、もしかしてサッカー部?」


「すいません!自分ずっと野球部っす!!」


素直ぉぉ~~!!
ちょうだいちょうだい、もっとちょうだい。


と、そこに三年が茶々を入れてくる。
相変わらず面倒くさい奴らである。


「あっ、気にしなくていいぞ。こいつマジで友達いねーから。だからいつもこうやってバイトに絡んでんだ。なっ?マジうざいだろ?」


その言葉、180㎞で打ち返してやるよ。
友達いねーのお前も同じだろ。つーかマジで一人で飲みに来てくんない??何が「しゃーねーから付き合ってやるか」だよ。オレがいつ誘ったよ?てめーがバントのサイン出された時みてーな顔してるから「早く寝た方がいいんじゃないっすか?」って忠告してやったのに何で飲みに行く流れになんだよ?完全に裏でシバかれるやつだろコレ。ねぇバイト君、ちょっと助けてくんない?


「いえっ!全然ウザくないっす!大人の人の話聞くのってすごい勉強になります!」


大人ぁぁ~~!!
君一番大人だよ。スーパー一年生だよ。あるある。調子乗った三年が準決勝で負けて、そして二年の代は予選落ちで、一年の代で甲子園に行くパターンだよ。君たち一番偉いよね。オレらにも優しかったよね。まぁ、おかげで人気全部持ってかれたけどね。二年の女子まで君たちのこと好きだったからね。普通おんなって年下に興味ねーんじゃねーの?そんなこと学校で起こるもんなの??


「ちなみになんですけど、、。お兄さんたちにどうすればモテるかをご教授してもらいたいんですけど、、」


ホント優しいね君は、、。
でもゴメン。逆に教えて。君、絶対モテるでしょ。「お兄さん」なんて言葉キャバクラ以外で初めて言われたよ。「ご教授」なんて言葉使えるのは六大学リーグ以外あり得ねーだろ。ダメだ。優しさが逆に傷つく。これも野球部の悪いところだ。そこら辺はサッカー部を見習ったほうがいい。


パキッと折れる能力が備わっている私は、流れるように守備に移行できたが、未だにNO.1思考に取り憑かれている三年どもは気持ち良くフリーバッティングを開始し始めた。


「まず!女とは!」


「はいはい!女とは?」


いいって、そんなキラキラした目で聞かなくても、、。
どうせ大したこと言わねーから。君も無理して投げなくてもいいんだよ。


「乳首である!!」


「はい!乳房である!」


ホント終わってる、、。
何このやり取り??どこ打ってんの??隣のガラス割れてるって。それを一年に優しく直されてるんだから世話ねーよな。


「そして、、男とは!!」


やめてもう。
普通に恥ずかしいし声がでけー。
あれ??あの客カメラ撮ってんじゃない!?マジでやめて!撮ってもいいけどオレは写さないで!!


そこはスーパー一年生。
チンカス上級生の扱いなど馴れたものである。


「男とは!お兄さんたちのことである!!よおっ!皆さん拍手ぅ~~!!」


ワアーー!!パチパチパチ、、。


うん。
そりゃ甲子園行くわけだ、、。



と、まあこんな夜を繰り返しているわけだが、そろそろシメの一杯をいただくとするか。


お客様お帰りでーす


バイト1「ありがとうございましたー」

バイト2「ぁ~りがとぉうございまぁ~す!!」

バイト3「あーりがとうございましたぁー」


あれ??
もしかして3番。君、、、
野球部に憧れてたジーパン野球部かい??



しばらく趣味が尽きることはなさそうである、、、。