今の語彙力で戦いごっこをしてみたい

「うわああーん!!」としか泣き叫べなかった時代が誰にでもあるだろう。その時の叫びは大人になった今でも覚えているもので、ただ過去のものにしてしまうのは些かつまらなくはないだろうか?思い出に残る作品たちよ、現在の語彙力を経てよみがえれ。




私は男なので姉妹間の戦いというのはよく分からず、想像で語っても失礼なので今回の話は男ものになるのだが、「男子も意外と考えているのよ!」ということを読者の女性陣に分かって頂けると幸いである。


私が子供の頃は、男子がいるどの家庭にもファミコンが普及している時代で、最低でもゲームボーイもしくはミニテトリスがないと「○○んちビンボ~」とバカにされる時代であった。そんなデリケートな問題を知ってか知らずか私の両親は「目悪くなる!」などと何の説明もないこの6文字をオウムの様に繰り返すのだから、私たちが反面文系脳になるのは必然だったのかもしれない。私と兄は純粋に「何で目悪くなるの?」と聞いてるだけなのに「○○ちゃんゲームやりすぎてメガネかけた」と人様の事情など知らないくせに、宗教じみた会話でこちらを洗脳してくるのだが、子供と言えど人権はある。覚えたばかりのオウム返しを喰らわせてやる。


「ねえ何で?何で目悪くなるとメガネかけるの?メガネって高いの?目悪いって何?ねえ、何で?」


ある意味、子供のセリフというのは最強なのかも知れない。業を煮やした両親は「目悪くなるって言ってるでしょ!!」と、遠吠えに平手打ちを合わせてくるのだから、負け犬ここに極まるである。当然、そんなのを喰らった私たちも「うわあーん」と鳴き喚くしかなく、その時の犬の鳴き声はこうである。


てめえマジでゲームボーイくらい買えや。つーかファミコンで目悪くなんならテレビ見んなボケ。そうゆう理屈だろ??今から壊せよ。何が『劇空間プロ野球』だよ?てめえの頭にホームラン喰らってろ。

ほんとコッチの事情も考えてくんない??
「えっ!?ゲームボーイもないの?」って言われるのって同窓会で「えっ!?千円もないの?」って言われるのと同じだから。死ぬほど恥ずかしいんだよ。困ったあげく「電卓ならあるんだけど、、」っつったら死ぬほど笑われたじゃねーかよ。イジメ確定だよボケ。つーかこんな山奥で育って目なんか悪くならねーって。目の悪さなんてただの体質だろ。てめーらの貧乏時代勝手に反映してくんな。俺らはモルモットじゃねーんだよ。


と、まあ、まだまだ言いたいことはあるがこんな感じである。結局中学生になるまでゲームは買ってもらえず、コンプレックスを抱えた少年期を過ごすことになるのだが、男子の成長に遊びは不可欠であって「戦いごっこ」のレベルも段々と上がって行った。近所に子供はいたが、田舎ではそれを集めるには少々時間がかかり、手っ取り早い遊び相手はいつも二つ年の離れた兄であった。小学生にとってこの二歳差というのは絶妙なハンディであって、力任せにくる兄をどうにかして倒せないかと、日々考えるのが私の楽しみでもあった。「戦い」とは雪国特有の細い竹を使って、ひたすら打ち合うという単純なものだったが、一発入った時の感触はとても気持ちがよく、入れられた方も素直に敗けを認められる清々しいゲームであった。


うーん。今日はどうゆう作戦で行こうか、、。
兄ちゃんは二刀流を気取っているが実際動いているのは右手だけだ。これは大きな弱点になる。使っていい竹は二本で選別は自由。欲張りな兄ちゃんは多分この二本を取るだろう。よし!勝ち筋が見えた!今日で主従関係が変わるだろう。


「兄ちゃーん!戦いやろ」


「いいけど泣くなよ」


いつまでも弟だと思ってなめやがって、、。
泣くまで叩くか普通?お前ホントに兄上か?今に見てろ。てめーの時代は今日で終わる。


竹の選別が始まる。
直径2cmに満たない竹だが、しなりがあり、折れるというのは考えづらい。重量もないので長いものを選ぶというのは必然であって、そこに目をつけた私は爺ちゃんに頼んで切込みを入れてもらったのである。


「じゃあ、いつものでいいや」


くくく。やっぱり長いのを選びやがった。てめーには遠慮ってもんがねーのか?コッチはいっつもお前のお下がりばっかり着せられてんのによ。その服ビリビリになるまで叩いてやんよ。


私は全く同じサイズのものを二本、時間をかけてじっくり選んだ。もちろんコレにも理由がある。


「おい。向き反対だぞ」


「いーのこれで。行くよ。よーいドン!」


北国の竹は先端に行くほど細くなっていき、そこで叩かれても痛みは少なく子供のチャンバラにはうってつけなのだが、もちろん根元は固い。そこで叩くというのは本来反則であり、そこで兄も語気を強めたのだが、止めきれなかった理由は私の持ち方である。片方だけ反対に持ち、双方とも短かったということで大したダメージは負わんだろうと警戒を解いたのだろう。


「うりゃうりゃうりゃー!!」


試合が始まると一刀流の私が攻勢をかける。
上下ぴったりと合わさった二本の竹は、鋼の強度となって兄を圧倒していた。


「ちょ、ちょっと待って!!」


待つわけねーだろボケ。お前オレがそれ言ったとき待ったか?青タンできるまで叩きやがって。今日で全部精算してやるよ。


とは言え、これで五分である。
二歳分の体力差など策一つでは心細く、そろそろ二発目が発動するはずである。


ミシミシ、、。


「待って!!この竹壊れてる!!タンマ!!」


人生にタンマなんてねーんだよ。つーかタンマって共通語なの?まだ使える言葉なの?


うりゃーーー!!


バキっ!!


「あー!!折れた!折れたぁぁーー!タンマ!タンマだって!!」


だったら左手に持ってるの使えよ。
テンパると人間ここまで我を失うものか、、。
もうお前から学ぶことは何もない。これからはオレが兄として面倒を見てやるよ。


憐れみからか、僅かな隙を作ってやった。
いや、憐れみなどではない。ぐうの音も出ないくらい叩き潰したかった。手負いの獣を仕留めてこその復讐劇だろう。獣は獲物を右手に持ち替え、殺す気でわたしに向かってきた。


コイツどんだけ負けず嫌いなの??
普通に殺す気だろ。兄とか姉ってそうゆう所あるよね。外では社交的なぶん、家ではシリアスキラー的な。全然バランス取れてねーかんな。それ喰らってるコッチの身にもなれっつーの。よし。世のためにコイツはここで始末しておこう。


ブオーン


と、兄の一撃が私の額に迫る。
それを刀で受け止めると、真っ二つに兄の竹が割れた。細工をしておかなければ、おそらく私の額が割れただろう。何せよ獲物は捕獲した。さて、どうしてくれようか。


「う、うあ、、。やめろ。コッチ来るな」


沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理。だったら敗けを認めろ。じゃなきゃこのまま叩き潰す。


これがまずかった。
感傷に浸らず、すぐに始末すれば良かったのだ。私は継國緑壱などではない。手負いの鬼は折れた獲物を容赦なく私に突き付けてきた。しかも顔めがけて。


ザクッ!!


ささくれた凶器が額に突き刺さり、当然「うわあーん」と泣き叫ぶ。本日最後の回想シーンである。


お前マジで死ねよ。
遊びにも暗黙の了解ってもんがあんだろ?牙突とか一番やっちゃダメだろ。しかもゼロ式。下手すりゃ失明してるかんなコレ。現に流血してるし。せめて親いる所でやれよボケ。現行犯だろ。お前ごときのために親に泣きつくのシャクに障るんだよ。弟にだってプライドがあんだよ。

ホントお前ら何なの?
この件だけじゃねーかんな?つらら刺してきたり、石投げてきたりよぉ。普通に危ないってわかんない?だからファミコン買えって言ってんだって。失明するよりマシだろ。なんでオレより生きてるくせにそんなことも分からないの?よし。わかった。他人てそうゆうもんだよね。人間って難しいよね。チャンチャン。




と、このような物語が各自、山のように眠っているはずである。
無限に娯楽が供給されるようになった現代。自己満足でいいので内なる娯楽を掘り起こすのも悪くないだろう、、。