自動笑顔型のスタンド使い

常に笑顔の人間が必ずしも良い方向に行くとは限らない。もちろん、いつも仏頂面の人間よりは得をする機会は多いと思うが、この仏頂面や悲しんだ顔など様々な表情ができて初めて笑顔が武器になる。ということを自動笑顔型のスタンド使いであるわたくしことZEN吉が解説していきたい。


私は決して暗い性格ではなく、よく人から変わってるねと言われるが私自身は普通だと思っているし、したり顔で「俺って変わってるんだよね」と言って「えっ、普通だけど、、」と言い返されるパターンだけは絶対に避けたいと思っている。

さて、私が思っている「笑顔」。これについて少し解説していきたい。

まずは後天的なビジネス笑顔というやつがあるのだが、これについては深くは語らない。個人差はあると思うが女子は10歳頃、男子は15歳頃から身に付けはじめるものだと思う。

重要なのは先天的なやつで、これには二種類あると思う。

一つ目は、笑うことが好きで相手の笑顔も見るのも好きなバランスの取れた王道タイプで、このタイプの笑顔は万人を幸せにできる。育った環境がいいのか、前世で得を積んだのか知らないが彼らが持っている笑顔のこそが「優しい笑顔」というやつであろう。
二つ目は、笑うことは好きなのだか、どシンプルに自分が楽しいから笑うのである。このタイプは無人島で一人でも何かを実験し続けられるようなサイエンティスト型で私はこちら寄りである。この人たちの笑顔も他人を幸せにする力はあるのだか万人ではなく、内3割くらいの人からは宇宙人を見るような目で見られる。私は似顔絵でドラクエのスライムより口角が上がった顔を描かれたことがあり、そんな私が言うのだから間違いないだろう。

つまり「笑顔」とは、生まれ持った先天的なものに後天的なビジネス笑顔を付け加えることで完成すると私は思い込んでおり、この考え自体は間違っていないと思うのだが問題は人生経験の浅さであろう、、。

というのも私の家は自営業であり、訪問者が多く常に誰かが接客をしている。このような家庭で育つと接客中の笑顔というものが子供に勝手にコピーライティングされ、勘違いしたガキが自分の対人スキルは高いと思い上がるパターンがあり、そのパターンが当時10歳の私であった。

「ZENちゃん、子どもなのにちゃんとしてて偉いね~」

「へへっ。ありがと」

やったぁ!自動笑顔型のスタンド使いの誕生だ!!

スタンドの名前は何にしようかなー。エアロフィンガーズなんてどうかなー。

ジョジョ」を熟読していたことも拍車をかけ、無敵の能力を手に入れた気分になっていた。生まれ持ったサイエンティスト笑顔、それに手に入れたばかりの接客用笑顔。この近距離パワー型と遠隔操作型の能力を使いこなせば今後すべてのコミュニケーションをやりこなせると、このガキは本気で思い込んでしまったのである。


コミュニケーションの場で必要とされる笑顔とは、悲しみ、驚き、怒りといった表情と掛け合わせたスパイスの効いた笑顔であり、この笑顔を使いこなすには人生経験、共感力が絶対に必要なのだが、ただ自分の好きな事でニヤニヤすることと浅はかな接客しかできない私にとっては到底無理な事であった。基本的に私のようなサイエンティスト型は共感力が低い人間が多く、痛い思いを経験することで身につく共感力が痛い思いをする前に違う所に行ってしまうために身につかないのである。中学生くらいまでならこれでもなんとか乗り越えられるのだが、高校生くらいからはこれが許されなくなってくる。


「今日から入部させてもらいますZEN吉です!出身中学は○○でポジションはセンターをやってました!よろしくお願いします!」

野球部入部の時である。特別強い高校ではなかったが礼儀はしっかりしており、練習が始まると一人の先輩に怒られた。

「オイ!おまえ!さっきから何ニヤついでんだ。真剣にやれ!」

えっ?オレ?笑ってる??

「、、、、。はい!すいません」

とりあえず事なきを得たのだが練習終わりにまた、さっきの先輩がやってきた。

「結局おまえずっとニヤついてたな。もうちょっとメリハリつけてやれよ。ガキじゃねーんだからよ」

「、、、、、、すいません」。





「なんも気にすんな~」

帰りの際、同じ一年生が慰めてくれた。厳しいことを言われたのは私だけではなく、そうやって連帯感が生まれ絆が強くなるのだろう。ホッとした私の口から

「どうすりゃいいんだよ~もう~」

というセリフが発せられると、なぜか皆に戦慄が走る。

私の表情がデスピサロのような満面の笑みだったからである。

最早、化学兵器である。


これはただの一例であって話すときりがない。
私は笑顔以外の表情を軽視するあまり、中間の笑顔ができない人間になっていた。「いつも楽しそうでいいね」「敬語の使い方上手だね」という子供をあやすような褒め言葉を真に受け、このままでいいやと特に自分のコミュ力について深く考えなかったのである。

挨拶と爆笑の間の「中間の笑顔」。これは人の話を聞く時の驚きや悲しみなどの共感の表情が出来てはじめて使えるようになる。これを使えないものはほぼ100%変人として見られ、真人間ぶっていても15分後には、あれ?こいつ何か変じゃない?と確実にバレる。それも個性だし別にいいか、それにこういうものは社会生活をおくることで勝手に身についていくものだろう、と社会人になってまで楽観的に思っていた私だったが、なかなか使えるようにならなかった。


何で??
オレ、別に引きこもってるわけじゃねーんだけど、、。中間笑顔なんて中間発表みてーなもんだろ。でもコレができない限り一生モテないんじゃ、、、。


苛立っていた。
自動的にアップロードされていくのが人間というものだろうに、なぜコミュ力が上がらない?何か呪いでもかけられたか?


 

ある日、短い夢を見た。
昼休みに夢を見るのはめずらしく、子供になっていた。目の前に接客用笑顔と書かれた紙があり、そこには大きな注意書きが書かれてある。

「これをインストールすると全てのアップロード機能が損なわれる危険性があります」

いつもより不気味なアラーム音が鳴り、目が覚めた。

なるほど、、、。
夢というのはいつも潜在意識を通して答えを教えてくれる。あの接客用笑顔という武器は子供のオレにはまだ早い呪われた装備だったんだ、、。
結果、変な思い上がりのすえ、現在のコミュ障のオレができあがったというわけか、、。
素直に1からやりなおそう、、。まだ遅くない。

そう思っていると、ふと二人組の女性社員と目が合い、彼女らはなぜか小走りで去っていった。

視線を下腹部に向ける。寝起きにはよくあることだろう、、。まじんのかなづちになっていた。



、、、、。



「ザ・ワールド 時よ止まれ」