脆弱者で行こう

モテない中年のただの日記です

人生の8割は自己紹介で決まる

「自己紹介」。これは軽く見ない方がいい。ちょっと躓いたくらいならすぐ挽回できるのだが、そのちょっとの遅れがまるで人生の縮図のように感じられる。今回は私が初めて自己紹介を行った中学校入学の時の話をしていきたい。



自己紹介が上手いというのはただの慣れであろう。インタビューと同じで場数を踏めば誰でも家族と話すようスムーズにできるようになるのだが、狭いコミュニティの中で生きているうちは決定的にこの場数が足りなく、まさに井の中の蛙のようなもので、この蛙が大海に飛び出す時どういうアクションを取れるかがその後の人生の指標となってくる。私の住んでいた地域は三つ小学校から一つの中学校に合流する仕組みとなっており、その中でも私の小学校は一学年の人数がわずか10人足らずという弱小チームであった。過疎地域ではこういうケースはよくあることだろう。

田舎あるあるで、上位の小学校の民は自分たちのことをイケてるニューヨーカーだと思っていて、下位の者たちを「山の民」呼ばわりして蔑んでいる。自分たちも山の民だというのに何と哀れな奴らだろう、、、。コイツらを黙らす方法は大きくわけて三つあり、容姿力、喧嘩力、知力、このどれかで圧倒的なパフォーマンスを見せつけてやるのが一番で、私が選択したのは知力であった。


「お~い!みんな春休み何してた~?」

ちっ。うるせーな上位の猿共が。
こっちは入学式で緊張してんのに、ちらちら見てくんじゃねーよ。なに場を支配した気になってんだ。

「キャー!!同じクラスだよー!!」

うるせーよパンダ野郎が。すでにマドンナ気分かよ。
残念ながらオマエ今が絶頂だからな。最終的にはキツネ顔のさっぱりしたのが一番美人になんだよ。早めに気付いた方がいいぞ。

肩身の狭い思いをしてイライラはしていたが決して事を荒げるつもりはなかった。どうせすぐに仲間になる奴らだ。子供でも本能的にそれぐらいはわかる。


「はーい!みなさん入学式おつかれさまでした!それではさっそく自己紹介をしていきましょう!」

よかった。女の担任か。男の担任だと恐怖政治に発展してクソつまらん空気になりかねんからな。

「出席番号順に名前、好きな食べ物、趣味、兄弟、入りたい部活などを発表していって下さい」

よし。普通の先生でよかった。
これだけ道筋を作ってくれるとスムーズに発表できる。たまに何も言わずに「はいど~ぞ」とかいう奴いるけどマジで何なのあれ?できるわけねーだろ。イジメの温床作ってるだけだろ。

私の出席番号は10番目という、データを取ることも新たなムーヴメントを起こすこともできる最高の位置であり、さっそく全速力でデータを解析した。

ふむふむ、だいたいわかったぞ。
一人称は黙って僕にしよう。さっきカッコつけて俺とか言っているヤツがいたが恥ずかしくなって汗だくになっていやがった。あれじゃ本末転倒だろう。好きな食べ物もラーメンでいい。ここまでは普通に行こう。オレの知力を見せつけるのは次からだ。

まずは趣味。「1次方程式を解くことです」。これで行く。進研ゼミでさわりは掴んでいる。仮に何か突っ込まれたとしても「あーそれ5次方程式だからわかんない」とシラを切ればいいだけだ。兄弟の呼び名はアニキで行こう。兄とお兄ちゃんの中間の「アニキ」。こんなイケてる呼び名を使いこなしている人間がいるか?こんな田舎にはいないだろう。最後に仕上げだ。ここでムーヴメントを起こしてやる。

「部活はベースボール部に入ろうと思っています」。どうだ?最高だろう。何が野球部だ。つまらん。今は野茂英雄のメジャー人気の真っ只中だ。全員が「の~も!ひで~ぇ~お!!」の歌を口ずさんでいる。ちなみにオレは最後まで歌えるぞ。この自己紹介で「ベースボール部」という流行語を生みだし、オレはこのクラスの王になる。

おそらく、この通りに発表できたのなら本当に王になれたであろう、、。だが現実は残酷なもので、もちろん「たられば」も通用しない。



「はい。次の人。前へどうぞ」

来たな。見せつけてやる。オレの知力。

ここまではこれで良かった。
いいパフォーマンスを発揮するには「緊張感」と「自信」をブレンドする必要がある。だが、登壇者に突き刺さる視線は容赦なく自信だけを取り除くことになる。

あれ?何だコレ?
何でみんな怒ってんの?

すでにテンパりまくって何を言おうとしていたか全て忘れている。まぁ初めての自己紹介なんてこんなものだろう。問題なのは、意気込んでいたセリフの断片だけが一人歩きしてしまったことである。


「ふぅ、ふぅ。ぼ、ぼくの、あにぃちゃんはZEN吉です、、、あとはラーメンが好きです、、、。あとボ、ボールが好きなので、、、野球部に入ろうと思っています、、、、、。以上です」


「はい!ちょっと緊張したかな?次の人どうぞ」。


この最低レベルの自己紹介は結果として皆を安心させることになり、ある意味私はクラスのヒーローになることができた。「あにぃちゃん」という流行語は仲間づくりに大いに貢献するとともに、私が変な奴であることを確定させた。


私は中年になった今でも、スマートなモテる人間でいたいと常々思っているのだが一度もなれたことがない。その理由の8割はこの自己紹介に表れていると思う、、、。