男子が無敵になる時間
中学生男子が無敵になる授業。それは体育だろうか?まあ、異論はない。綺羅星のごとく輝くヒーロー達を実際に何人も見てきた。だが、そんな彼らをよそに無料案内所のような怪しい光を放つヒーロー達もいる。そのもの達が無敵になる授業。それは、、、、「英語」である。
我々日本人の第二言語それは間違いなく英語であろう。義務教育に組み込まれているのだから反論する理由は1ミリもない。この「英語」。なぜか女子の方が圧倒的に上手ではないだろうか?少なくとも私の時代ではそうであった。ではなぜ男子は上達しないのか?これにはちゃんとした理由がある。ここでいう英語が上手とは発音がネイティブ寄り、ということとする。
男子の英語が下手な理由、それは「エロ単語」つまり下ネタの存在である。男子のコミュニケーションツール「下ネタ」。これをいかに「スポーツ」や「ハンバーガー」のように日常的に使えこなせるかが、お笑い男子のヒエラルキーなのである。決してネイティブ音になってはならない。秀才感が出てしまうからである。わざとネイティブ音で笑いを取りに行く上級者もいるが、そんなもの中学生の時点では稀である。つまりこの頃の男子というのは、本能で英語の上達を抑えてまで、日常でエロ単語を使う機会に飢えているということである。
そんな下ネタ男子界で頂点に君臨するもの達がいる。変態のHと本物のH、二つの頭文字および能力を兼ね備えたH2ロケット達であり、一般人とは推進力が違う。ある時、一人の男性教員に向けてこのロケットが発射された。
「ねー。先生~。最近いつセックスした?」
「ば、ばかやろう!!」
ドカーン!!
笑いの大爆発が起こり、スーパーヒーローが生まれる。私もこの爆発に巻き込まれており、下ネタは好きな方である。
次の休み時間、さらに推進力が上がったロケットは上位の女子グループに狙いを定めており、私たちの間で意見は割れていた。
「さ、さすがにまずいんじゃない?」
「行け!いーから行け!」
「やばいって!」
「行け!」
すでに導火線に火はついている。トップの女子に向かってロケットが発射された。
「おまえらってさー。週何回オナニーしてんの?」
「、、、、、、、、、死ねよ」
不発におわったロケットがこちらに戻ってきて、ポシュッと屁のような不発音が鳴るとともに私たちは全ての女子に口を聞いてもらえなくなった。
このもの達の良いところは、とにかく純粋なのである。ただ下ネタでみんなを笑わせたい。それに命を懸けている。モテようなんて気持ちは一切なく、だからデリカシーというDも持ち合わせていない「逆Dの一族」ゆえの先程のようなことも起こるのだが、一時的に嫌われることはあっても基本的には好かれている。事実、総スカンをくらった時も一番先に口を聞いてもらえたのは彼らであった。そんな彼らが伝説になる時があり、それは英語の授業の時であった。
「きりーつ。れーい。ちゃくせーき」
「グッモーニン、エブリワン」
下ネタ系男子というのは基本的には勉強がきらいである。ネタ作りが忙しくて、そんなことをしている暇がないのである。理数系であればゲーム感覚で面白がってやることもあるが、文系の時は子守唄を聞くような態度で授業をうけている。
そう。ネタがない限りは、、、。
授業は進む。
「それでは、これから数字を読んでいきまーす。リピートアフターミー。皆さんご一緒に」
「ワーン」。「ワーン」。
「ツー」。「ツー」。
ここで逆Dの一族たちの目が覚める。
勘のいい方ならお気付きになられたと思うが「セックス」という言葉の一卵性双生児に「シックス」という単語がある。つまり、ひとつなぎの大秘宝はもうそこまで迫っている。カウントダウンが始まる。
「スリー」。「スリー」。
「フォー」。「フォー」。
D達は一般男子に指令を出している。中にはストレッチをしている者までいた。
「ファーイブ」。「ファーイブ」。
全てのDが立ち上がりタスクを振った。まるでオーケストラの指揮者である。
「シーックス」。「はい!せーーの!!!」
私たちは大きく息を吸い込んだ。女子も数人混ぎれこんでいた。
「セーーーーッッックス!!!!」
ドゴォーーン!!!!バリバリ、、、。
あまりの笑、、衝撃で校舎全体が震えた。
皆、裏返った虫のように手足をバタつかせたており、今でもあの光景は脳裏に焼き付いている。伝説の一員になれて本当に良かった。
が、次の瞬間なぜか私だけ地獄を味わうこととなる。
あまりの笑い声の大きさに他のクラスのDの奴らまで私のクラスの様子を見に来たのである。Dの本能というやつだろう。彼らに非はない。まずかったのは教師まで出てきたことで、これは本当にまずく、事が大きくなる前に私のクラスの英語教師は建前上、誰かを怒る必要がある。
「スタンダーップ!!ミスターZEN吉!」
えっ!!何でオレ??
「スタンダーップ!!」
「は、はい」
だから何でオレ?
怒るならDの奴らだろうが。とゆうか一番悪いのオマエだろ。こうなるのわかってただろ。
仕方なく立ち上がった。
「オーケー。リピートアフターミー」
「は、はい」
「シーックス」
「シ、シックス」
「オーケー。グレイト!」
何だコイツ。これで終わりか?
「ネクスト、ワード。リピートアフターミー」
「オ、オーケー」
ま、まさか。やめろよ、、、。
「セーックス」
やりやがった、、。
罰の限度ってもんがあるだろ、、。
つーかよくお前そんなにハッキリ言えるな。ふつうにキモイから。
もう私一人でどうにかできる問題ではなくDに助けを求める視線を送ったが、彼らはあくびをしていた。当然だろう。宝はすでに手に入れており、あれ以上の宝はこの世にない。他のものも同様に冷め切った目をしている。
「リピートアフターミー!ミスターZEN吉!」
ひっ、、。
「レ、レッド、、ソックス」
しーーーん。
照れ隠しの渾身のギャグが滑った。
し、死にたい、、、。
これ以上の類似語なんてもうないよ、、、。
「ノーノー。ワンモアタイム。レッツトライ!」
助けて、、、。
本気で泣きそうになっていた。
その時であった。
「セーックス!アーンザ!シティ~!!」
と、覚えたばかりであろう言葉をDが叫ぶと、どっと教室は笑いに包まれ、英語教師もオーケーオーケーと言って微笑んでいた。
安心と笑いからか、私の目には涙が浮かんでいた。
もう一度言おう。
男子が無敵になる時間、それは「英語」である。