アイスバーンは大魔王バーンに変名した方がいい

よくスタッドレスタイヤのCMで、タイヤの勝利を演出するためにアイスバーンを敗者として見せているが、奴らの強さはあんなものではない。本当の強さを表すのであれば事故時、ドライブレコーダーに記録された運転手のうめき声をそのままCMにするのが一番であろう。生まれも育ちも北国の私が、奴らの強さを解説していきたい。


まず最初に謝っておきたいのが、私は運送業をしているわけではなく、彼らが知っている「大魔王」の恐怖を1/10も理解していないことをどうかご容赦してほしい。雪国のドライバーで常識となっているのが、冬の路面状況は雪が降り始めた頃が一番危なく、積もりきってしまえば何とでもなるというものであって、中には夏タイヤでシーズンを乗り切る強者まで存在する。路面状況の見極めとは、言ってしまえばただの勘であり、各々が何か滑りそうだな、と思った感覚を信じながら運転をしているのだが、経験不足の者が判断を誤り犠牲になるのがブラックアイスバーンの存在である。


「うら~!!死ね死ね死ね~!!」

12月初頭、友達の家で「ボンバーマン」を楽しんでいた。確か二十歳くらいだったと思うが彼女がいない男共の遊びなんて小学生から進歩しないものである。

「あ、もうこんな時間か、、。もう帰ろうぜZEN吉」

運が良かったことは私の車ではなかったことである。二十歳そこそこの金がない時の事故というのは人生の歯車を狂わせる。

「いや~。もうP爆、禁止にしないとダメだよな~。あれとスピード組み合わされたら手に負えねーだろ~」

吞気にゲームの戦況について話している。
数メートル先に黒い大魔王が仕掛けたP爆が置いてあることに気付いておらず楽しそうである。仕掛けられた場所は高架橋の下。カウントダウンが始まる。3、2、1、ドッカーン。

!!!!

「グルグルグル、、、バーン!!!、、、、プシュー、、、、」

しばらく沈黙した後、イテテテと言いながら二人は無事を確認しあった。単独事故というのは運動エネルギーが×1にしかならず意外と無事になるケースが多い。が、友達のサイフにとっては大損害だったようで多額の修理費を払うために彼の主食は納豆となり、その経験がトラウマとなって一生納豆が食べられない体になってしまった。

今考えてもあの時の事故は仕方なかったと思う。
あの日の天気は晴れで気温も高く、雪も溶けきっていたのだが、夜というのが悪かった。橋の下など日の当たらない場所では雪が溶けきらずにピカピカと凍っており、明るい日中なら気付くのだが夜だと闇と同化し「ブラックアイスバーン」という名の大魔王状態になっている。コイツを倒すにはしっかりと減速してハンドルを真っ直ぐにする必要があるのだが、それでも最適解とは言い切れずその時の路面状況に合わせた判断をしなければならない。つまり経験が必要だということであり、あの時の私たちにはそれが足りていなく、対向車がいなかったのが何よりの救いだろう。


厳冬期にはそれよりも恐ろしい大魔王が現れる。
急なしばれ、除雪車、強風。これらの条件がそろった場合のみ、雪国には「100%滑る路面」というのが完成する。スケートリンク完成の流れはこうだ。

湿った雪が積もる → 除雪車が整える → しばれて固まる → 強風で表面が磨かれる。

大げさではなく100%滑る。
えっ?じゃあ、なんで事故らないの?と思われるかもしれないが、その時は皆、滑る分も計算して運転しており、ハンドルに全神経を集中させている。もちろん全員が低速運転中なのだが、稀にリスクとスピードのせめぎ合いに興奮を感じる者がいるらしく私の後輩もそのうちの一人であった。


「あ~あ。やっぱりこうなったか。マジで仕事行きたくねーな」

私は性格上、天気予報はチェックする人間なので今日が100%滑る日だというのは予想しており、いつもより早く出勤していた。

「ホントこういう日、仕事休みにしろよ。なんで命がけで出社しなきゃなんねーんだよ。いっそ冬の雪国なんて都市封鎖しちまった方が効率いいんじゃねーの?」

こういう日は独り言も多くなる。
たぶん周りのドライバーも同じ気持ちだったのではないだろうか。だが、そこは我々日本人。自我を抑えてカメのように会社に向かうだけである。その時、バックミラーに写ったのは見覚えのある軽自動車であった。

「あれ?後ろから来てるの○○じゃねーの?おいおい!飛ばしすぎだろ!!焦んなって!!マジで事故るぞアイツ、、、」

皆が自分の運転に必死な状況下でのコイツの存在はただの無差別兵器であり、こんなのに巻き込まれて死ぬくらいなら靴下を履き間違えて死ぬ方が百倍マシである。

「来た来た来た!!お前マジでぶつかってきたら殺すかんな。、、、、、、、うわっ!!!あぶねぇ、、、」

コイツは運良く、ギリギリ私の車をかわしていったのだが私の怒りは収まることはなかった。

「あいつマジで死ねよ。社会のために死ね。ホント死ね。今すぐ死ね。お願いします大魔王さま。コイツを会社に着く前に殺して下さい。こんなのと同類に見られたくありません」

最後に「死ねーー!!!」と心から願った瞬間、

強風に煽られたコイツの軽自動車はコテッと路肩に落ちていった。

あっ。ホントに死にやがった、、、、、。



痛い目に合わせたい奴はいるが、自分の手は汚したくないというそこのアナタ。
ぜひ一度、雪国に来てみるといいでしょう。大魔王さまが、その願いを叶えてくれるはずですよ、、、。