不純な純な男
「仕事、何してるんですか?」と質問するとその男は自信満々に「ヒモっす!!」と答えた。清々しいほど晴れやかな男である。成果なしの合コンの帰り道にこの男と出会い、心が洗われたのを今でも覚えている。
私はこの合コンというのがホントに苦手で、じゃあ参加すんなよ、と言われればそれまでなのだが、それでも行くと答えるのがモテない男子の特徴であろう。
まずこの合コンってネーミングが嫌いなんだよ。
合体するためにコンドーム仕込ませてる男みたいだろ。
オレは違いますからね。合同でコンドームの使い方習っている男子ですから安心して下さい。そして使い方を教えて下さいお姉さま達。
今回、参加した合コンは全然接点のない知り合いから誘われたもので、本当にただの人数合わせで呼ばれたのだが、そっちの方が逆にモテるんじゃない?という意味不明な期待をもって臨んでおり、当然、そんな逆など起こるはずはなく、いつも通り私にとっては寂しい試合になってしまった。
いや、わかるよ。
チーム戦だもんね。全員活躍する必要ないよね。でもさ、、、。
オレ野球部で、ずーっとベンチで大声出してたけどみんな評価してくれたよ。代打でバント決めた時なんてホームラン打ったくらい盛り上がったかんね。
でも合コンってなんもないじゃん!!
ずっと笑っているベンチウォーマーも絶対必要だからね。だから今日オレ呼ばれたんでしょ?でもこれじゃ個人競技じゃん!!「合同」でも「コンパ」でもないじゃん。そう思わないですか?そこのお姉さま。
そんな事を思いながら、代行タクシーを使ってトボトボと家に帰ることにした。
「ちわっす!!どちらまで行きますか?」
「○○まで」
「○○??ちょっと分からないんで道案内おねがいします!」
代行で地名わからなかったら務まらねーだろ。
と普通なら思うのだが、この男の雰囲気は怒りを中和する効果があり、二十代前半のいかにも好青年といった容姿であった。
「いや~道わかんなくてすいません。この街来たのも三日前なんですよ」
「へー、そうなんですか。すぐ始められる仕事って代行くらいしかないですもんね。何か他の仕事と掛け持ちしてるんですか?」
「はい!普段はヒモしてます!」
いや、ヒモって仕事ないから。
しかも堂々と言う事じゃねーから。
もしオレが熱血系の男だったら普通に説教されてるからな。コイツ相手見てやがんな。本当にヒモかもな。
「ははっ。自分でヒモって言う人初めて見たかも、、。じゃあこの街にはぶら下がってる女の子と一緒に来たんですか?」
「いや、思い切って一人で来ました。だから金もないっす」
スゲーなこいつ。絶対ただ逃げてきただけだろ。刺されるようなことしたんだろ。
「へー。随分と冒険しましたね。それじゃ今どこに住んでるんですか?」
そこからプロのヒモ談議が始まった。
「ええと、まずはナンパっすね。相手いないと始まんないんで。駅でひたすらウロウロするんですよ。えーと八時間くらいかな~。誰でもいいから声かけまくるんですよ」
「八時間!?」
「そう!これがキツイんすよ~!しかも○○駅って小さいからあんまり人もいないんですよね~。でも、生きるためにはやるしかないじゃないですか」
私はコイツの話に夢中になっている。
この男の3%の行動力があれば私の人生も変わるだろう。
「それでオレが得意にしてる技がコレなんですよね。
『お姉さん!なにか肩についてますよ!あれ~?すいません。オーラでした!』
コレでだいたいの女は行けますね。試しに今度使ってみて下さいよ。でもね、ただホテル行くだけじゃダメなんすよ。オレ金ないじゃないですか?だから全部払ってくれる女じゃないと。これはホントにむずいっすね。でもね、意外と行けるもんすよ。あとはパラサイトできる女が来るまで、ひたすらこの繰り返しっすね。」
コイツまじでプロだな、、、。いくつだよ?
「マジで凄いねお兄さん。今何歳?ずっとヒモで生きてきてたの?」
「今三十っす!前はホストやってましたね」
三十かよ!
オレとたいして変わんねーじゃん!どんだけノンストレスで生きたらその容姿になるんだよ。
「ホストはちょっとオレには合わなかったすね~。ホストってめっちゃ上下関係厳しくて競争社会なんすよね。オレってすげぇ純だから、人を蹴落とすのとかホント無理なんですよね」
純ねぇ、、、。
まぁ確かに純かもな。オマエは自分のやりたい事をやってるよ。
でもな、、、。やっていることは間違いなく不純だからな、、、。そうだ。ついでに合コンの必勝法も教えてもらおう。
「ところで、今日合コンだったんだけど、上手くいったことないんだよね、、、。何かアドバイスあります?」
「合コン?オレ、行ったことないですよ。行きたいとも思いませんね。オレ純なんで」
そっか、、。それが正解なのかもな、、。
何でわざわざ苦手な事をしなきゃならないんだ、、、。
別れ際、男はこんなことを言ってきた。
「そんなことより、たぶんお客さんヒモの才能ありますよ!オレ、こんなに男に自分のこと話したことないっすもん!ソレって近いってことじゃないっすか?本当に今日は楽しかったっす。ありがとうございました!!」
いや、違う。オレはオマエとは違う。
だが何故だ?心が軽い。すげースッキリした。とりあえず礼は言おう。
ありがとう、不純な純な男よ。