大谷翔平さまの格言

後出しはズルいのでさっそく言おう。世間の流れには乗りたくないひねくれ者の私だが、彼のプレーは「イチロー」を彷彿させ、単純に生物としての興味が尽きない。この生物を司るセリフは何なのだろうか?はい。わかりました、さっさと言います。「キレたら負けだと思っています」。

 

 

 

 

 

大谷翔平。最早、説明不要。
スーパースターの虜になったのはこの発言を聞いてからのような気がする。と、その前に私たち世代にとって翔平を語る前に素通り出来ない二人がいる。それはイチローと松井。後半まで駄文になるので飛んでもらっても構わない。

 

 

私はスポーツ選手の発言を聞くのが好きで、「この人はどれだけ視聴者の事を考えているんだろう?」と少し高みな見方をしている反面、「連戦の疲れは?インタビュアーの態度は?」といったフォロー側にまわることも忘れないようにしており、なるべく公平な目で選手を見るようにしている。私が特に好きなのはドキュメンタリーのような重いシーンではなく、ローカルな場面でのやり取りであって、それでも彼らは背景にいるファンのために気の抜けきった発言は控えているのだろう。この場面での発言は私たち一般人も参考にできるものが多く、微妙な距離の人間との会話などがそれに当てはまるだろう。イチロー信者であった私はローカル時の彼の発言を多く取り入れたのだが、上手く行くことは少なかった。クールな面白さというのは結果を出した者だけに許される特権であって、脆弱者が使っても反感を買うだけである。というかあれは反感だったのだろうか?反感というのは強者にだけ向けられるものであって、あれはスカシっ屁のような空気だった気がする。




「ZEN吉ってよー、尊敬っつーか好きな人とかいねーのか?」


年の離れた優しい先輩である。
だが、少し裏表が強い所があり、本人もその裏を楽しんでいる節がある。彼とは番記者のような信頼性を築くことは出来ず、そんな奴にはいつものイチロー節をかましてやることにした。


「えーと、、そうですね、、僕はあまりリスペクトってことはしないようにしているんですが、、。僕の力になっている。と、言う面では、、、。それは、イチローさんですね」


素直に「イチローっすね」って言えよ。
普通に寒いだろ。なにが僕だよ?マジで寒いわ。タバコの火消えんだろ。その変な間も止めろ。ってゆうか何でさん付け??お前直属の後輩なんか?


というツッコミを彼から頂ければ全て丸く収まったのだが、その時の私は第二次尖りブームという微妙な空気を放っている痛い時期であった。無視されるほどの敵はいないが笑いも起こらないといった「お前いる?」と思われる可哀そうなキャラである。そんな私に話題を振ってくれたこの先輩は本当に優しいお方なのだが私は彼の「裏」の部分を気にしてスカした態度のままである。自分だってメビウスの如き裏を持っているクセにあざとい奴である。


「あー、はいはいイチローねー!オレはイチローも好きだけど松井も好きだなー!やっぱり大人だなぁって思わされること多いもん!」


アンタも大人だよ。何故ならあなたは今ウソをついている。「松井好き=イチロー嫌い」だ。「イチロー好き=松井好き」は成り立っても逆は成り立たない。コレはもう理屈じゃなく我々日本人に流れている血がそう思わせるのだ。出る杭は叩かれる。別にコレは万国共通のことなのかも知れないが、、。


「僕ももちろん松井も好きですよ。でも我を忘れるくらい好きなのは、、イチローさんだけです。と、いうことになりますね」


「ふーん、、。たとえば?」


やべぇ、、。キレかけてる、、。
松井はそんなことじゃキレないよ、、。


「えーと、、。たとえば、、『イチロー262の言葉』。コレがもう僕、たまらなく好きで」


「へぇ、、。で?何かオマエが実践できてることってあんの?」


ねーよ。
んなもんできる訳ねーだろ。せいぜい2個だっつーの。オマエだって1個も実践できてねーじゃねーか。ダメだ。コイツ頭に血が上ってやがる。ゴジラ松井上陸だ。ここは笑いでも取って穏便に済ませよう。


「実践ですか?じゃあ今から名言しりとり始めましょうか?ふふっ。でもそれじゃあ僕が勝っちゃうし、一服も終わっちゃいますね。はい!これもイチロー流のギャグでした。ははっ」


、、、、、、、、、。


「よし。仕事始めるか」


寒い、、、。寒すぎる、、、。






このやり取りを見てわかるように聖人に成りたいなら万人が松井を目指せばいいだけで、私もそのことは分かっている。では何故、松井のようなグッドガイ賞になりたいと分かりつつもイチローに憧れるのか?それは彼のフォルムに他ならない。特に走っている姿はディープインパクト翔ぶが如く美しく、そして柔らかい。そして20年の時を経てそのフォルムを受け継いだのがお待たせしました「翔平」さまである。


プロのスポーツ選手とはただ立っているだけで美しい「花」だと思う。だがそれだけではスーパースターになることは出来ない。数々の受け答えで発せられた言葉が纏わりついて「華」に昇華するのであって、この種類はそんなに沢山あるわけではない。

 

まずは松井。動きとしては「固い」。そして重い。だが言葉は「柔らかい」。口を真一文字にしたウン!は他者の全てを受け入れられる度量の証明でもある。名は体を表す。「松」とはよく言ったものである。

 

続いてイチロー。動きは柔らかいというか「美しい」。柔らかいという表現では彼らに失礼であり、それにはもちろん翔平も含まれる。イチローの言葉は「鋭い」。何というか適切な表現が難しく、重いわけでも軽いわけでも、かと言って尖っているわけでもない。深く曲がった日本刀のように解析は困難であり、その過程で傷つく危険性がある。ざっくり言うとインタビュアーに安心感を与えるのが松井、危機感を持たせるのがイチローということになり、どちらの華も特別である。

 

最後に翔平。彼はスラムダンクの天才、仙道が好きだと言っているらしく、コレが全ての答えのような気がする。表向きは飄々としていたいのだろう。百年に一人の肉体を持ち合わせた上、マグマのような闘争心を内に秘め、対外的には飄々と対応する。もうバランスが完璧なのである。彼の発言は「曖昧さを美」とすることが多く、曖昧さとはこの上ない優しさであり、日本人の心に深く突き刺さる。だが実際の彼の行動は曖昧さとは真逆であり、全てを遂行してきた結果があの肉体なのだろう。その肉体が国民全ての共感を吸い上げることによって特大の元気玉を生み出し、それを童顔で飄々とコントロールするのだからこの華が散ることは考えづらい。彼が日ハム時代のローカル番組で何気なく言った「キレたら負けだと思っています(笑)」を聞いた時、この青年は食卓にいるおじいちゃんみたいだな、、と私は思った。「○○ちゃんや、、。キレてもいいけど、キレたら負けやで」。これをこの歳で使いこなすこの男はいったい何処まで行くんだろう?と思ったのが数年前。今や全国民が翔平さまを食卓に飾っている。



結局、人間というものは言葉で出来ている。
ここで翔平の格言を全て紹介することはできないが、彼が走る土埃が言葉の羅列に見えた時、あなたも信者の仲間入りだろう、、。

野球部シンパシー

少し変わったヤツでも団体行動に身を置けば、最低限の社会マナーが身に付き、その最も分かりやすい例が「野球部」だと私は思う。こう言うとサッカー部の人からは怒られるかも知れないが、別に構わない。だって野球部以外知らないんだもん。





野球部ヤンキー説は甘んじて受け入れよう。
言い訳など一切通用しなく、ただ調子に乗ってるの一点に尽き、彼らに対する憎悪は私とて同じである。結論を言うと、この「ベジータタイプ」の人間に私は共感するに至っていない。なぜならNO.1時代を経験しなかったからである。NO.1とは学校内での序列関係であって、それも欲が出始める中学生以降の話である。私の中学は代々野球部がNO.1になるしきたりであり、その理由は小学校に野球部しかなく、体力に自信がある奴がそのまま登るだけの仕組みだったからである。ということは私たちの代もNO.1を経験できるはずなのだが、悲しいかなそれを許さないのが上と下の存在である。


「谷間の世代」というのは確かに存在する。しかもこれを若いうちに経験してしまうと「どうせオレたちなんて、、」と負け犬根性が植え付けられ、それがウイルスのように蔓延することで世代全体の成長を妨げることになる。田舎のようなエスカレーター方式だとその効果は如実に現れ、マズイことに周りの大人までそれを隠そうとしない。いや、隠しているのかもしれないが態度がもう全然違うのである。


監督「よし、三年生は明日の試合に向けてフリーバッティング!!」

三年「ウェイッッ!!」

監督「二年は守備」

二年「ハイ!」

監督「聞こえねぇー!!」

二年「ウェーイッ!!」

監督「ちっ。一年生は三年生のバッティングピッチャー!!」

一年「ウェーイッ!!」

監督「おーし!いい声だ!!よし行こう!!」

全員「ウェーーーイッッッ!!!」


ちょい監督、、。あんた大人だろ?
オレら二年の気持ち考えたことある?センスねーのはしょうがねーだろ。そんなん生まれつきでそれが三年と一年に多かっただけだろ。努力で補える部分もあると思うよ。それをさー「おい、二年」みたいに養豚場のブタ見るみたいにさー。けっこうオレら気にしてるかんね。

しかもさー。普通一年が守備じゃね?いや、確かにオレらストライク入んなくて三年に怒られてるよ。ストライク入っても怒られるかんね。リズムがちげーって。マジで知らんわ。それをなだめるのが監督の仕事じゃねーの?部活動で大切なのってそうゆう所じゃねーの?


少し大袈裟に書いているが、まぁ、これに近いものは確かにあった。三年たちはもれなくヤンキーに育っていき、子分である私たちに厳しくする反面、出来の良い孫にはふんだんに愛情を注ぎ込んでいた。こうまでされると脱落者が出てもよさそうなものだが、私たち二年は元々争いを好まない「カカロットタイプ」が多く、リーダーは勉学に励む学年NO.1の秀才とあって、仲間に恵まれたとは正にこのことだろう。どうせ人間どこかで折れる。私の認識だと才能がないと言われてきた人間は「耐える力」が強いと思われがちだが、それは間違いで「折るスピード」がむちゃくちゃ早いだけであり、あまりにキレイに折るものだから絶えず超回復を繰り返しているだけである。この能力は社会でしか身に付かない後天的なものであって、逆にこれさえ身に付けばどんな性格でも許されるというのが、良くも悪くも我が国の現実であろう。この「まあ、いっか」主義を使う者を探すのが大人になった私の趣味であり、その絶好の場所とは、みんな大好き居酒屋である。




私は一人呑みをするほどの猛者ではないが、多数で入った時は会話そっちのけで必ず店員のオーラをチェックするようにしている。居酒屋に来る客など山賊のようなもので、その目付きたるやグラウンドに現れる三年と全く同じである。コイツらが現れた時どういうリアクションをするかがシンパシーポイントであって、これを楽しむだけに飲み会に参加していると言っても過言ではない。




お客様入りまーす


バイト1「いらしゃいませ!」

バイト2「っらしゃぁ~い」

バイト3「っらしゃいませぇー」


はい。簡単。答えは2番。
良かった。一人も居なかったら来た意味ねーだろ。もしかしたら3番もそうかもな、、。


野球部出身者は「ア」と「オ」が伸び上がる。
「さぁーこぉーい」「ちわぁーす」を何千回と繰り返した声はノドではなくハラに刻まれており、腹から出る声というのは少し低くなる。二十代のバイト君たちにその歴史を覆す時間はなく、私の的中率は80%といったところだろう。さて、答え合わせをしてみるか。


「ねえねえ、ちょっといい?」


「うぁーい!!」


もう確定じゃん。
マジでかわいいんだけどこの2番の子。
いや、オレそうゆう趣味ないよ。ないしオレより全然、経験豊富だけどマジで食べちゃいたい。どれ。少しカマをかけてみるか。


「君、もしかしてサッカー部?」


「すいません!自分ずっと野球部っす!!」


素直ぉぉ~~!!
ちょうだいちょうだい、もっとちょうだい。


と、そこに三年が茶々を入れてくる。
相変わらず面倒くさい奴らである。


「あっ、気にしなくていいぞ。こいつマジで友達いねーから。だからいつもこうやってバイトに絡んでんだ。なっ?マジうざいだろ?」


その言葉、180㎞で打ち返してやるよ。
友達いねーのお前も同じだろ。つーかマジで一人で飲みに来てくんない??何が「しゃーねーから付き合ってやるか」だよ。オレがいつ誘ったよ?てめーがバントのサイン出された時みてーな顔してるから「早く寝た方がいいんじゃないっすか?」って忠告してやったのに何で飲みに行く流れになんだよ?完全に裏でシバかれるやつだろコレ。ねぇバイト君、ちょっと助けてくんない?


「いえっ!全然ウザくないっす!大人の人の話聞くのってすごい勉強になります!」


大人ぁぁ~~!!
君一番大人だよ。スーパー一年生だよ。あるある。調子乗った三年が準決勝で負けて、そして二年の代は予選落ちで、一年の代で甲子園に行くパターンだよ。君たち一番偉いよね。オレらにも優しかったよね。まぁ、おかげで人気全部持ってかれたけどね。二年の女子まで君たちのこと好きだったからね。普通おんなって年下に興味ねーんじゃねーの?そんなこと学校で起こるもんなの??


「ちなみになんですけど、、。お兄さんたちにどうすればモテるかをご教授してもらいたいんですけど、、」


ホント優しいね君は、、。
でもゴメン。逆に教えて。君、絶対モテるでしょ。「お兄さん」なんて言葉キャバクラ以外で初めて言われたよ。「ご教授」なんて言葉使えるのは六大学リーグ以外あり得ねーだろ。ダメだ。優しさが逆に傷つく。これも野球部の悪いところだ。そこら辺はサッカー部を見習ったほうがいい。


パキッと折れる能力が備わっている私は、流れるように守備に移行できたが、未だにNO.1思考に取り憑かれている三年どもは気持ち良くフリーバッティングを開始し始めた。


「まず!女とは!」


「はいはい!女とは?」


いいって、そんなキラキラした目で聞かなくても、、。
どうせ大したこと言わねーから。君も無理して投げなくてもいいんだよ。


「乳首である!!」


「はい!乳房である!」


ホント終わってる、、。
何このやり取り??どこ打ってんの??隣のガラス割れてるって。それを一年に優しく直されてるんだから世話ねーよな。


「そして、、男とは!!」


やめてもう。
普通に恥ずかしいし声がでけー。
あれ??あの客カメラ撮ってんじゃない!?マジでやめて!撮ってもいいけどオレは写さないで!!


そこはスーパー一年生。
チンカス上級生の扱いなど馴れたものである。


「男とは!お兄さんたちのことである!!よおっ!皆さん拍手ぅ~~!!」


ワアーー!!パチパチパチ、、。


うん。
そりゃ甲子園行くわけだ、、。



と、まあこんな夜を繰り返しているわけだが、そろそろシメの一杯をいただくとするか。


お客様お帰りでーす


バイト1「ありがとうございましたー」

バイト2「ぁ~りがとぉうございまぁ~す!!」

バイト3「あーりがとうございましたぁー」


あれ??
もしかして3番。君、、、
野球部に憧れてたジーパン野球部かい??



しばらく趣味が尽きることはなさそうである、、、。

公人に笑われたら範馬勇次郎になってもいい

これは私が詐欺にあった時の話であって、「公人」とは警察官のことである。警察とは大変なところなのだろう。公務員特有の陰湿なイジメもあるだろうし市民から罵倒されることもあるだろう。でもね、、、笑うのはダメだと思うんだよね、、。





騙す人間ほど騙されやすい。
私は自分の事を詐欺師だと思ったことはないが、常に斜に構えながら「おっ、やるぞやるぞ、、、ほら、やった!」とバラエティーが好きな製作サイドの人間である。そのクセ、変にロマンチストな一面も持ち合わせ、終わった頃になって「あれ?間違った?」とキャスト側に回ることもあり、今回のストーリーがそれに当たるのだろう。




休日の昼下がり、コンビニから一人の男が出てきた。
郊外の駐車場の広いコンビニは家族連れで溢れ、子供たちは「あれも買って」と駄々をこねている。いつかは俺もこうなりたいものだ、と思いつつもそれが叶わぬ夢だとは自分が一番わかっているだろう。「ふう」と清々しい表情を作っているものの、パチンコで三万負けたという事実は拭えず、さらに三万を下ろしてリベンジを誓っているのだからそんな男の末路は知れている。ここで痛いほどパチンカスの心理を突かせてもらうと


やめてこの景色。何この一家団らん?この父親オレより若いんじゃない?いや、オレだってねヒマじゃないんだよ。青春謳歌してんるだって!さっきはたまたまフラれたけどね、これからまた告りに行くんだって!どう?うらやましくない?


「いいなぁお前は自由で」と既婚者が言う本音に混ぜられた皮肉に心底怯えており、「ここで明るい表情を出せないと全てで負ける」と無理をしてでも笑顔を取り繕うクセがある。誰もお前のことなど見ていないのに自意識だけは一人前である。


「あのー、すいませんちょっといいですかー?」


見ている人は見ているものである。
笑顔に引き付けられた見知らぬオッサンが私に向かって話しかけて来た。


あーはいはい。どうせまた道案内でしょ?マジでオレこうゆうオッサン引く確率高いんだよな、、。んな確率変動いらねーから。無駄使いだから。


「はい?どうしましたか?」


そう訪ねると「実はですね~」と言って、男は免許証を見せてきた。


何このオッサン??
どんな挨拶??どんな絵面??晴天の中での免許証交換とかカオスすぎんだろ。オレも出した方がいいの?つーか普通に恥ずかしいんだけど、、。みんな見てんだろ。


「実はですね、、。わたし出張でこちらの方に来てまして、、。こういう者なんですが、大変お恥ずかしいのですが財布をなくして困ってまして、、。何故か会社の方とも連絡が取れず、、」


一億個くらいツッコミ所はあるが、私は会話そっちのけで免許証の分析をしている。


まあ、偽造ではないな。シールを貼った痕跡もないし住所変更をした記録もある。たぶん本物だろう。


「なるほどー。つまりお金がないってことですね?貸しましょうか?」


「えっ!?ホントですか?ありがとうございます!!」


「まぁ、ちゃんと返してくれるんなら、、。ちなみに、おいくらですか?」


「大変言いづらいんですが、、。できれば三万円ほど」


オマエ見てたん??
絶妙すぎんだろ。うーんどうしよっかなー。たぶん次行っても勝てないしなー。徳積んどこうかなー。わらしべ長者になろっかなー。よし!なろう!


「いいですよ。でも念のため免許証のコピーと携帯繋がるかどうかの確認だけさせて下さい」


「はい!もちろん!ありがとうございます!」


お金を受け取ると男は颯爽に車に乗って去っていった。
こういう具合に見事三万を騙し取られ、何の恋愛要素もない話が終わった。

つーか普通に騙されないコレ??俺がバカなの??






「おい、昨日パチンコはダメだったんだけど面白いことあってよ」


男との出会いを同僚に話すと、いつもは爆笑になるはずのパチンコ談議が静まり返り、真顔での質問が返ってくる。


「えっ?まさか貸したの?」


「えっ?うん、、。だって免許証確認したし、、」


「そんなん何の保障にもならなくない?えっ?マジで?マジで貸したの?そうゆうネタ?」


あ、そっか、、。
えっ?チョット待って、、。コレめちゃくちゃ恥ずかしいヤツじゃない?ネタとかじゃないんだけど、、。普通に良いことしたと思ってんだけど、、。絶対広がるやつだろコレ。何で言っちゃったんだろ?まずいまずいまずい!!今すぐネタに切り替えろ!!


「ああ、、。そうなのよー!パチンコで負けた話ばっかりしてもつまんねーだろ。ほら、免許証のコピーも取ってんだぞ。面白そうだから名前検索してみるか、、」


「はは!全力だなー!んなもん出てくる訳ねーだろ」


「えっ、、。出てきた、、、」


「えっマジで?何て?」


「○○県の犯罪者、、。コソドロだって、、」


何で出てくんだよ。
どうゆう感情すればいいの?怒ればいいの?笑えばいいの?普通に金返ってくると思ってたんだけど、、。だって「二日後にこのコンビニで会いましょう!!」ってワンピースみたいな別れしたじゃん。あ、ダメだ。普通にイライラしてきた。


それをよそに「イーヒッヒッ」と爆笑する同僚の顔がさらにムカつきを増長させ、私は復讐を決心する。


「まあ、待てよ。落ち着けって。電話番号も控えてんだって。今からかけるから静かにしろって」


「出るわけねーだろ!!イーヒッヒッヒ!」


うっせー。マジで話す相手間違えた。


プルルル、プルルル、、ガチャ。


あ、出た、、。


「アーッハッハッ!ヒィヒィ、、。何で出んだよ!!さすが『コソドロ』!!」


マジで静かにしろ!!
失敗したらオマエから三万もらうかんな。


「こんにちわZEN吉さん。どうしましたか?」


どうしましたかってオマエがどうした?よくそんなセリフ吐けんな?


「えーと、、。お金足りてるかなって心配になって、、。三万なんて意外とすぐなくなっちゃうんで、、」


「あ、ありがとうございます!!そうなんですよ。色々、日用品とか買ってたらすぐなくなってしまって、、ええと、、もうチョットいいですか?」


なくなんねーわボケ。普通に一ヶ月持つわ。お前もパチンカスだろ?ギャンブルやる奴の「いい?」とか「いいですか?」って特徴あんだよ。クラッカーの歯クソみてーな臭いすんだよ。


「うーん、、。僕もそんなに余裕はないんですが、もう一万ならなんとか。困った時はお互い様ですし。それじゃあ約束通り、明日あのコンビニでいいですか?」


「はい!ありがとうございます!必ず耳そろえて返します!」


うっせー。何が耳そろえるだよ?何ちょっとウケ狙ってんだよ?マジでオマエ防御力低すぎない?満場一致でコソドロ認定だよ。




こんなにも面白いネタはないと、次の日、同僚もコンビニに着いてくることになった。余計なことはするなと断ったのだが、「凶器持ってたらどうすんのよ?ザコと言え犯罪者だぞ」という説得に負け同席を許すことになる。どうやら防御力が低いのはお互い様らしい。ここからの展開はつまらず、男はいつまで経っても現れなかった。おそらく面白半分に同僚が電話をかけまくったせいだ。C級犯罪者でもそれくらいは気付くだろう。


「あーあ。残念だったなZEN吉。もう少し面白くなるかなーって思ったんだけど十分楽しめたわ。えーと十万だっけ??まぁそんくらいの価値ある話だったんじゃね?」


と、少し物足りなそうな顔で帰って行ったのだが、私の落とし所は見つからない。


全然良くねーよ。お前のせいでストレスが消えねーじゃねーかよ。いいよねお前は。話盛るだけでヒーローになれるんだから。そのうち「三十万で掘られたww」とかなるんだろ?ふざけんな。経理の○○さんの耳にも入るじゃねーか。つーかマジで金返って来ないの??普通に三万って大金だからな?


落とし所を求め、私は警察署に逃げ込んだ。市民の味方などと神々しい印象は持っていなかったが、優しい対応しかされたことがなく、警察官に対するイメージは悪くはなかった。この時までは。


「すいません。先日詐欺にあってしまって、、」


「えーそれは大変でしたね。どのような形の詐欺ですか?」


あれ?何かいつもと違わない?
署内だからかな?リラックスしすぎじゃない?お茶飲んでるよオイ。


警察官にとって市内巡回とは営業の外回りのようなものなのだろう。そのプレッシャーから解放された彼らはテレビを見るかのようにネタを探しており、そのほくそ笑んだ顔は先程の同僚と全くおなじである。


しまった、、。場所を間違えた。
現場に来てもらえば良かった。しかも何人いるのここ?ちゃんと仕事しろよお前ら。


「どのような形と言われても、、。現金を直接取られたというか、、。渡したというか、、」


「えーと、つまりそれは恐喝や暴行ではないんですか?」


「はい。そうゆうのではないんですが、、。免許証を見せられて、お金を貸してほしいと言われ、、」


「ふう、ふう、それで??そのまま渡したと?」


いや、もう出ちゃってるから。
全員の視線コッチに来てるから。


「はい」


「ふう、ふう、ふう、ちなみにおいくらですか?」


「三万円です」


「ふう、ふう、ふう、ふう、ふう、ふう」


いっそもう笑えよ。出てけよ他の奴ら。人の不幸そんなに楽しいか?


「えーとZEN吉さんでしたよね?今おいくつですか?」


「今年で三十になります」


「うぷっ!ZEN吉さんね、、」


うぷ言うなコラ。


「ZEN吉さんね。あなたが優しい人だってのはわかったけどね。ふう、ふう、今の時代ね。ふう、ふう、ただでお金貸してくれなんていう人はね、、」


「あっ。でも免許証をちゃんと確認したんです!コピーも取ってます!車の車種も確認しました。黄色のコンパクトカーでした!」


「うん。それはさておきね。三十になってまでね。人を疑わないっていうのは、うぷっ、それはチョット何てゆうか、、」


聞けよボケ。
十分な物的証拠だろ。素人のオレでも捕まえれるぞ。


「えーと、そもそも何でこちらの警察署に来たんですか?」


は?そこまで言う?
ホント何コイツら?人の心ないんか?


「えっ?それはそもそもそんな案件じゃないってことですか?」


「あっ。違うの違うの。今回の場所は○○区の管轄なんです。こちらの方から話は通しておきますが、、。うぷっ、そちらの方にもう一度同じ説明を、、」


うぷっ。マジで吐きそう。
また?また公開処刑されんの?そんなニアミスくらいそっちで何とかしてくれよ。んじゃ最初からそっちに誘導しろよ。マジでぶん殴るぞ。


「わかりました、、。ちなみに取られた三万円というのは、、」


「うーん。たぶん無理じゃないかなぁー」


何で嬉しそうなんだよ!!






およそ十日後、警察から犯人逮捕の電話がかかってきた。絶対に私の渡した証拠が手がかりになったはずである。


「あ、ZEN吉さんですか。犯人捕まりました。コイツはね盗んだお金は全部パチンコで溶かしちゃってZEN吉さんの取られたお金は残念ながら返って来ません。コイツのように『チョロそうな人を狙って声をかけた』ってのを繰り返す犯罪者はたくさんいるから次は気を付けて下さいね。ははっ。それじゃあ失礼しまーす」


ははっ。マジでムカつく。
これからは全て拳で解決するわ。それじゃあ失礼しまーす。

今の語彙力で戦いごっこをしてみたい

「うわああーん!!」としか泣き叫べなかった時代が誰にでもあるだろう。その時の叫びは大人になった今でも覚えているもので、ただ過去のものにしてしまうのは些かつまらなくはないだろうか?思い出に残る作品たちよ、現在の語彙力を経てよみがえれ。




私は男なので姉妹間の戦いというのはよく分からず、想像で語っても失礼なので今回の話は男ものになるのだが、「男子も意外と考えているのよ!」ということを読者の女性陣に分かって頂けると幸いである。


私が子供の頃は、男子がいるどの家庭にもファミコンが普及している時代で、最低でもゲームボーイもしくはミニテトリスがないと「○○んちビンボ~」とバカにされる時代であった。そんなデリケートな問題を知ってか知らずか私の両親は「目悪くなる!」などと何の説明もないこの6文字をオウムの様に繰り返すのだから、私たちが反面文系脳になるのは必然だったのかもしれない。私と兄は純粋に「何で目悪くなるの?」と聞いてるだけなのに「○○ちゃんゲームやりすぎてメガネかけた」と人様の事情など知らないくせに、宗教じみた会話でこちらを洗脳してくるのだが、子供と言えど人権はある。覚えたばかりのオウム返しを喰らわせてやる。


「ねえ何で?何で目悪くなるとメガネかけるの?メガネって高いの?目悪いって何?ねえ、何で?」


ある意味、子供のセリフというのは最強なのかも知れない。業を煮やした両親は「目悪くなるって言ってるでしょ!!」と、遠吠えに平手打ちを合わせてくるのだから、負け犬ここに極まるである。当然、そんなのを喰らった私たちも「うわあーん」と鳴き喚くしかなく、その時の犬の鳴き声はこうである。


てめえマジでゲームボーイくらい買えや。つーかファミコンで目悪くなんならテレビ見んなボケ。そうゆう理屈だろ??今から壊せよ。何が『劇空間プロ野球』だよ?てめえの頭にホームラン喰らってろ。

ほんとコッチの事情も考えてくんない??
「えっ!?ゲームボーイもないの?」って言われるのって同窓会で「えっ!?千円もないの?」って言われるのと同じだから。死ぬほど恥ずかしいんだよ。困ったあげく「電卓ならあるんだけど、、」っつったら死ぬほど笑われたじゃねーかよ。イジメ確定だよボケ。つーかこんな山奥で育って目なんか悪くならねーって。目の悪さなんてただの体質だろ。てめーらの貧乏時代勝手に反映してくんな。俺らはモルモットじゃねーんだよ。


と、まあ、まだまだ言いたいことはあるがこんな感じである。結局中学生になるまでゲームは買ってもらえず、コンプレックスを抱えた少年期を過ごすことになるのだが、男子の成長に遊びは不可欠であって「戦いごっこ」のレベルも段々と上がって行った。近所に子供はいたが、田舎ではそれを集めるには少々時間がかかり、手っ取り早い遊び相手はいつも二つ年の離れた兄であった。小学生にとってこの二歳差というのは絶妙なハンディであって、力任せにくる兄をどうにかして倒せないかと、日々考えるのが私の楽しみでもあった。「戦い」とは雪国特有の細い竹を使って、ひたすら打ち合うという単純なものだったが、一発入った時の感触はとても気持ちがよく、入れられた方も素直に敗けを認められる清々しいゲームであった。


うーん。今日はどうゆう作戦で行こうか、、。
兄ちゃんは二刀流を気取っているが実際動いているのは右手だけだ。これは大きな弱点になる。使っていい竹は二本で選別は自由。欲張りな兄ちゃんは多分この二本を取るだろう。よし!勝ち筋が見えた!今日で主従関係が変わるだろう。


「兄ちゃーん!戦いやろ」


「いいけど泣くなよ」


いつまでも弟だと思ってなめやがって、、。
泣くまで叩くか普通?お前ホントに兄上か?今に見てろ。てめーの時代は今日で終わる。


竹の選別が始まる。
直径2cmに満たない竹だが、しなりがあり、折れるというのは考えづらい。重量もないので長いものを選ぶというのは必然であって、そこに目をつけた私は爺ちゃんに頼んで切込みを入れてもらったのである。


「じゃあ、いつものでいいや」


くくく。やっぱり長いのを選びやがった。てめーには遠慮ってもんがねーのか?コッチはいっつもお前のお下がりばっかり着せられてんのによ。その服ビリビリになるまで叩いてやんよ。


私は全く同じサイズのものを二本、時間をかけてじっくり選んだ。もちろんコレにも理由がある。


「おい。向き反対だぞ」


「いーのこれで。行くよ。よーいドン!」


北国の竹は先端に行くほど細くなっていき、そこで叩かれても痛みは少なく子供のチャンバラにはうってつけなのだが、もちろん根元は固い。そこで叩くというのは本来反則であり、そこで兄も語気を強めたのだが、止めきれなかった理由は私の持ち方である。片方だけ反対に持ち、双方とも短かったということで大したダメージは負わんだろうと警戒を解いたのだろう。


「うりゃうりゃうりゃー!!」


試合が始まると一刀流の私が攻勢をかける。
上下ぴったりと合わさった二本の竹は、鋼の強度となって兄を圧倒していた。


「ちょ、ちょっと待って!!」


待つわけねーだろボケ。お前オレがそれ言ったとき待ったか?青タンできるまで叩きやがって。今日で全部精算してやるよ。


とは言え、これで五分である。
二歳分の体力差など策一つでは心細く、そろそろ二発目が発動するはずである。


ミシミシ、、。


「待って!!この竹壊れてる!!タンマ!!」


人生にタンマなんてねーんだよ。つーかタンマって共通語なの?まだ使える言葉なの?


うりゃーーー!!


バキっ!!


「あー!!折れた!折れたぁぁーー!タンマ!タンマだって!!」


だったら左手に持ってるの使えよ。
テンパると人間ここまで我を失うものか、、。
もうお前から学ぶことは何もない。これからはオレが兄として面倒を見てやるよ。


憐れみからか、僅かな隙を作ってやった。
いや、憐れみなどではない。ぐうの音も出ないくらい叩き潰したかった。手負いの獣を仕留めてこその復讐劇だろう。獣は獲物を右手に持ち替え、殺す気でわたしに向かってきた。


コイツどんだけ負けず嫌いなの??
普通に殺す気だろ。兄とか姉ってそうゆう所あるよね。外では社交的なぶん、家ではシリアスキラー的な。全然バランス取れてねーかんな。それ喰らってるコッチの身にもなれっつーの。よし。世のためにコイツはここで始末しておこう。


ブオーン


と、兄の一撃が私の額に迫る。
それを刀で受け止めると、真っ二つに兄の竹が割れた。細工をしておかなければ、おそらく私の額が割れただろう。何せよ獲物は捕獲した。さて、どうしてくれようか。


「う、うあ、、。やめろ。コッチ来るな」


沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理。だったら敗けを認めろ。じゃなきゃこのまま叩き潰す。


これがまずかった。
感傷に浸らず、すぐに始末すれば良かったのだ。私は継國緑壱などではない。手負いの鬼は折れた獲物を容赦なく私に突き付けてきた。しかも顔めがけて。


ザクッ!!


ささくれた凶器が額に突き刺さり、当然「うわあーん」と泣き叫ぶ。本日最後の回想シーンである。


お前マジで死ねよ。
遊びにも暗黙の了解ってもんがあんだろ?牙突とか一番やっちゃダメだろ。しかもゼロ式。下手すりゃ失明してるかんなコレ。現に流血してるし。せめて親いる所でやれよボケ。現行犯だろ。お前ごときのために親に泣きつくのシャクに障るんだよ。弟にだってプライドがあんだよ。

ホントお前ら何なの?
この件だけじゃねーかんな?つらら刺してきたり、石投げてきたりよぉ。普通に危ないってわかんない?だからファミコン買えって言ってんだって。失明するよりマシだろ。なんでオレより生きてるくせにそんなことも分からないの?よし。わかった。他人てそうゆうもんだよね。人間って難しいよね。チャンチャン。




と、このような物語が各自、山のように眠っているはずである。
無限に娯楽が供給されるようになった現代。自己満足でいいので内なる娯楽を掘り起こすのも悪くないだろう、、。

下田港で愛を叫べ!!

伊豆半島南端の地「下田」。言わずと知れた黒船来航の地であり、外国人に別れを告げるには相応しい場所であろう。これは前記事『モテない奴が外人にモテるってホント?』の続きになるのだが、ウジウジ男の本音を聞いて頂きたい。



彼女「キャシー」は、少し褐色がかった肌に真っ白な歯。目鼻立ちが整っており、ストレートな感情表現がその美しさを際立たせていた。「つーかオマエ外人なら誰でも良かったんじゃね?」という芯を食った質問には「ん?え、、いや、、」と困るしかないだろう。なぜなら図星なのだから。


「初めて」の人というのは恐ろしい。
相手にその気があろうがなかろうが本人がそう感じ取った時点で一節が始まるのであって、その厚さときたら他のページを破り捨てる勢いである。わたしは人間というものを平等に見ることを心掛けており、「何かクールでカッコいい」という中学生のような動機だが、これまでの人生に置いて役立つ局面が幾つもあったので「俺はコレが性に合う」と平等主義を貫いていた。例えば家族。一般的な嫁・姑問題や兄弟間の派閥争いなど、一つの家庭で起こっている事は社会の縮図なのだろう。コレに一喜一憂するのは止めよう、本筋の性格はコレで行こう、と大家族の中で育ってきた私の性格はある意味頑固であり、それが出会いの場の障壁になっていたのかもしれない。何にせよ私は遅ればせながら「初めて」に出会いそしてフラれた。アメリカ人の彼女に。


そもそも付き合ってすらいないが、私たち非モテ共は「大切な人」とアプローチされた時点で「付き合う」もしくは「婚約」に発展できる非常に便利なハートを持っており、その蒸発を押さえるために頭は常に冷やしておかなければならない。


「大切な人だから言いたかった。人生どうなるか分からないけど、その人と進みます」


と、言われ私はフラれた。
ここで彼女と私の見ている文節が違っている。彼女はメッセージが重くならないように「どうなるか分からない」と付け加えただけで、「進みます」というのは婚約への決意なのだろう。なのに私ときたら、


終わったぁ、、。ぐすん、、、。
うーん、、。ヤバい。立ち直れない、、。どうしよう、、。
あれ?ちょっと待って、、。「どうなるか分からない」って何??つまり??オレとキャシーも、、どうなるか分からないってこと?何これ?スゲーいい言葉、、。


と、終わった思い出を掘り返すつもりでいる。
こうなってしまうのは仕方がなく、飛びすぎているのである。せめて一段、いや、二段階格上人種である「関西人」の女性と付き合えていればこんな愚かな思考には至らなかったであろう。「ほんまアンタのこと好きやけど、アタシ行かなきゃ。またな」くらいの一言を食らっていれば耐性も付いただろうに、そもそも異人キャシーと知り合えたことが私にとって奇跡であって、良い夢は目覚めても中々抜けないものである。


いや、オレだってね。分かってるよノーチャンスだって。色々やったよ。仕事に没頭とか新しい出会いとか。でも消えないんだって!いつもは消える言葉がハートに巻き付いてるんだって!ブーメランだ。今までオレが逃げるために使ってきた「わかんない」が鎖付きで戻って来やがった、、。


ダメだ。このままだと不整脈になる。旅に出よう。静岡だ。緩やかな景色を見て心を落ち着かせよう。


とにかく暖かい所に逃げたかった。彼女もわたし同様に北国の冬を過ごしており、ここでひとり旅を選択している時点で勝負がついているのだが、負け姿くらいはカッコつけてもいいだろう。初めての静岡県は何故か富士山より伊豆半島に惹かれた。雄大な富士は決別には相応しくなく、下田の古い町並みを眺めている時、勝手に右手が動いた。


「キャシー久しぶり。今年はどうするの?同じ仕事?」


女々しいやり方だが、別れから半年以上経っており、いち「友達」としてなら自然な内容だろう。


「Waaa!!ZEN久しぶり!同じ仕事だよー。ZENは元気だった?」


返信が早く、やけにテンションが高い。
アメリカに戻っていなかったのが救いだが、何かいいことがあったのだろう。当然、私が「友達」として見ていないことは彼女も分かっており、長い在日期間で日本人はそっちにシフトチェンジしづらい民族だということも体験済みなのだろう。その事を折り込んだ上で、私は彼女からの報告を待っている。本当に女々しい奴である。


「僕はいつも元気だよ。キャシー何してるか気になっただけだよ」


「ワタシも元気ですよ!ZENは聞きたくないかもだけど、嬉しいことありました」


こちらの返信まで早くなった。鎖がほどけていくのがわかった。


「わかった!!やっぱり!!」


「Oh~!早いですよ!当たりね。ワタシ結婚しちゃったよ!ZENにも応援してくれると嬉しいです」


今さら涙など出ない。
これを待っていた。涙が出るとしたらそれは嬉し泣きだ。シチュエーションに酔いたいだけの泣き上戸だ。その後いくつかのやり取りを重ね、最後に「バーイ」と送った。おそらくコレが最後になるだろう。いや、最後にしなくてはならない。そのための死に場所探しだろう。





「こんにちわー」


早咲きの河津桜が咲く遊歩道を歩いていると、すれ違う人々が挨拶をしてくる。老夫婦に道も訪ねられた。持前の笑顔が戻っているのだろう。が、まだ何か胸につっかかっている気がした。


うーん。何か違う。
まだ春の訪れって気分じゃあない。キレイだよ。キレイだけど入って来ない。空にしよう。思いっきり叫んで全部空にしよう。


古典的だがコレが一番良いと、展望台のある小山に登った。太平洋が一望できる素晴らしい眺めで、おそらくこの景色は江戸時代から変わっていないだろう。周りには誰も居なく、叫ぶならこのタイミングだが何かまだ腑に落ちない。


うーん。コレも違う。
見届けてどうする。結局この距離をつめようとしないから、結果が出ないんじゃあないのか?距離とゆうか高さだ。もう俯瞰するのは止めにしないか?最後までコレは卑怯じゃあないか?足並みくらいは揃えよう。


そう思い、海抜ゼロ地点まで戻ってくると、絶好の島を発見した。その島は陸から細い一本道で繋がっており、転落の危険のため立入禁止のゲートがあったのだが、そんなのはお構い無しである。


来た。オレためのアイランド。
邪魔するなこのゲート。跨げる程度の立入禁止なんてたかが知れている。よいしょと、、。


すると


「あんちゃん、危ないよ」


と声をかけられた。おそらく釣人だろう。


あーもう。今のオレは立入禁止なの。
大丈夫、自殺とかしないから。そんな度胸ないから。でも、海保じゃなくて良かった。浮世離れした釣人なら通じる話もあるだろう。


「ちょっと大事な用があって、、。大事なことなんです」


「おっそうか。邪魔したね」


おそらく、この男も私に近い人種なのだろう。
男の表情に感化されたのか、島までの道のりに「思い出」が「想い出」となって戻って来る。


新天地まで追いかければ良かったのかな。
英語を習えば良かったのかな。
家族に紹介すれば良かったのかな。


未練はある。もうコレは物理的に解決するしかないのである。今まで出したことのない声で枯れるまで叫ぼう。目的地に着き、水平線が広がる。やっと平等になれた気がした。


アメリカの方向はどっちだ?彼女は中部生まれだ。中途半端な声じゃ届かないだろう。名前だけでいい。それで全て終わりにしよう。
大きく息を吸い込むと、蒸気の匂いがする気がした。この場所を選んで良かった。よし、行こう。


キャシィィーーー!!!


と、三回叫んだ。
こんなのはドラマの中だけでの解決法だと思ったが、声というのは素晴らしい。ヘトヘトになるまで練られた砲弾は、太平洋に向かって二人の門出を祝う「祝砲」となって消えていった。帰路につく私の足取りは軽く、それを見た釣人が話かけてきた。


「用、済んだかい?」


「はい。全部終わりました」。




終わりがあるから始まりがある。
割りと好きな言葉である。


zen8.hatenablog.jp

合コンを20倍速したら猿がシンバル叩いてる奴がいる

今の若い子に合コンと言っても通用するのだろうか?男社会で育ってきた私にとって合コンのハードルは高く「やばい、何かしなきゃ」という焦りからか、首の上下動と手拍子を繰り返すようになる。そう。まるで子供の頃に買ってもらった猿のぬいぐるみのように、、。




私が二十代の頃は「合コン」が出会いの主戦場であった。出会いがない奴に限って選択肢の幅が狭く、彼女が欲しいのであれば手当たり次第出会い系サイトでもやればいいのだが、こいつらは「生身の女性」以外は出会える気がしないと戦う前から逃げ腰である。いや、戦ったのだが空振ったのである。そこには実態がなかった。


「はじめまして。プロフ拝見しました。良ければメッセージを通じて仲良くなりたいです」


このようなメッセージをいくら送っても返信など来ない。
この男は自分の顔をプロフィールに載せていないからである。


だって恥ずかしいじゃん。
いや、分かるよ。あった方がいいに決まってる。でも自撮りじゃ100回撮っても決まんねーんだよ。いや、あるんだって!!自然体の時は決まる顔があるんだって!!何で自撮りの時ってこんな「タマネギ畑」みてーな顔にしかならねーの?


これじゃフェアじゃないと、顔写真を載せていない女性を中心にアタックをするのだが、運良くやりとりが出来た二、三通目には「すいません。顔写真いただけないでしょうか?」が返ってくる。そして自慢のタマネギを見繕って出したところで皮も剥かずに捨てられる。こんな不公平な戦いはあるだろうか?


もうイヤだ。
これならエロサイト見てた方が100倍マシだ。何が「出会い系」だ。これならAV女優の握手会に行く方がよっぽど現実的なんだよバカヤロウ。


こうして勝者と敗者が別けられていく。
二次元から三次元へと逃避する彼らを弁護するわけじゃないが、彼らは決してつまらない人間ではなく、用は周りの人間次第だろう。彼らもその事は自覚済みで、「チャンスはまだか」と目の奥をギラつかせており、そのチャンスとは即ち「合コン」である。



「おいZEN吉。来週合コンやるからお前来るか?」


「はい!行きます」


私はこういう時は素直になれる人間である。
が、この時点からつまらない展開が始まっていたのかもしれない。ここで偏屈な部分を出せていれば「こいつモテないクセに超イキってたんだよね~」というフォローを貰えただろう。なのにコイツは「普通」で勝負しようとしており、勝ち筋というものが全くわかっていない。テンパり用員としての職務を全うすれば、懐の深いパートナーの気を引けるかもしれなかったのに、、。




かんぱーい!!


皆にビールが行き渡り、幹事が音頭を取りはじめた。私の表情は、他人行儀の貼り付いた笑顔である。


平常心、平常心、、。
みんな場馴れしているな。高校生の昼休みかよ。ヤバい、、。うつ伏せになりたい、、。


黙って汗でもかいていれば話しかけてくれる女子もいるだろうに、、。赤っ恥をかきたくない冷静さが混じりあった紫の男など飲みの席では不要である。


「へー。ZEN吉さんて左利きなんですねー。いいなぁ器用で」


左利きがメシを食っている姿というのは不自然に写るのだろう。しかも居酒屋などの座席の場合だと肘が上がり、より不自然に見えるのだが、ここで「器用」と言ってくれた目の前の女性は優しい人なのだろう。この文章をそのまま返せれば可能性の一つや二つあっただろうにそんな余裕はこの男になかった。


来た。いつもの。
えーと、どうするんだっけ?ドヤ顔するんだっけ?箸クルクルすればいいのか?ヤバい。早く返さないと。もう一秒も経っている。


「○○さんは右利きなんですね。いいなぁ器用で」


「ん??はい。右利きですよ。ははっ」


やめてその反応。あたりめーだろーが的な。普通に傷つくから。いや、今のはオレが悪いよ。つまんねーよ。つまんねーってゆうか終わってるけど何だあの本。困ったらリピートって書いてあっただろうが。ふざけんな。これ以上の困り状態ねーだろ。


「わー。コレも美味しそう!いい店ですねー」


ほらな。興味が料理の方に行っちまったじゃねーか。変に邪魔するのはよそう。もう一発リピートだ。


「うん、美味しい!いい店ですねー」


「、、、、、。うんうん」


あれ??なんか怒ってない??
よし。明日あの本燃やそう。
とゆうかさー、アナタも「お前同じこと言ってるだけやんけ」って突っ込んでくれてもいいんじゃない?オレそうゆうの言われたい派だから。Mだから。あー関西人に蹴られたい、、。


彼女は悪くない。悪いのは私の立ち位置であって、こういうスカした準レギュラーは何の脅威にもならないことを野球部時代に学んでいたのだが人はすぐには変われない。ベンチ要員で培ったオーラというのは何かしらの結果を得て変化していくものだが、その経験が当時の私にはなかった。今もないのかもしれないが、、。




よーし。じゃあ男性陣は席移動しよっかー!!


合コンは中盤に差し掛かり、皆の顔が赤くなってきたところで席替えが始まる。特に必要性を感じない。もうオートマのスイッチが入ってしまっている。


いる?この席替え?
もう勝手に動けば良くない?いやもうさぁ、、。楽しいんだけど楽しくないってゆうか、、。楽しいふりってゆうか、、。学芸会ってゆうか、、。


私は皆のテンションが上がる程、自分のテンションが下がる体質の持ち主で、物心ついた時からそうだったので最早これは直しようがないだろう。それじゃあ社会に適合するのは難しいだろうと相づちや手拍子を取り入れてはいるが、一定の旋律を弾かされる演者の精神は病んでくるものである。


「おい。ZEN吉~。飲んでるかー?」


アンタ今日それしか言ってなくない?
もうチョットいいパスくれよ。オレの趣味わかってんだろ?古今東西AVゲームっ!!とか言ってくれよ。結局さー、アンタ達って自分で点取りたい人間だよね。ほら、あそこにいる静かな子。あの子とかオレにくれよ。


「おい○○~。飲んでるかー?」


おい。次行っちゃったよ。
何だこの、おい飲んでるかゲーム??そんなことしてもお前の株上がんねーかんな。早くこっちに回せ。回せってゆうかオレの番号渡せ。オレにそんな力はない。


「おい○○~。みんな盛り上がってるぞー。よーし!」


と、言って幹事の男は静香ちゃんに狙いを定めていた。どうやら○○と静香をマッチアップさせたいらしい。


ちょい!!
不公平だろ!!コイツのターン長くない?何でオレのとき素通りしたんだよ?アンタ幹事だろ?平等に回せよ!


「君たち。お互い大人しいのが似合いそうだね。それじゃあ、、」


やめろ。
オレだってなぁ、、。ホントは「静か枠」に入りてーんだよ。でもそれじゃあ不安なんだよ。何なんだよこのゲーム?オレの存在意義は?


「それじゃあ、番号交換したまえ!」


言いやがった、、。
二人の反応は?
ツンしろ。ツンすればオレに流れるハズだ、、。


「え、それじゃあ、、。恥ずかしいけど、、」


終わった、、。
しかも静香ちゃんから話しかけやがった、、。その照れた顔がめっちゃ可愛い、、。マジでふざけんな。つーか○○。お前マジでズルくない??一番何もしてねーだろ。テメー全部払えよ。金ねーつったらブッ殺すかんな。




「さーて!!それじゃあ今日は平日だし、そろそろお開きにしますかー」


といった具合に今回の試合は終了した。
エースたちは相応しい相手が居なかったのかサッパリとした顔で引き上げて行き、一つのカップリングを成立させたという点がこの試合の見所だろう。私的には悔しさしか残らない内容なのだが、ごく稀にゲームセット後に判定が覆ることがある。さて、今回はどうだったのだろうか。


「そういえばZEN吉よ~。この間の合コンでいた大人しそうな子いただろ?その子がよ、、」


来た。逆転スリーラン。
そうだろ。○○なんてつまんねーだろ。男から見てつまんねー奴なんて女からしたらダニみてーなもんだ。オレなら静香ちゃんと年中メダパニ踊れる自信がある。


「その子がお前のこと、、」


オレのこと??
いいよ。ストレートで。抱きしめてあげるよ。


「うっ。ぷくく、、。おサルさんみたいだったってよ笑」





ゲームセット!!
10対0でZEN吉ンカスファイターズの完封負けになります。

くそっ。16ビート早口の上を行かれた

モテない奴の三大要素。「裏表」「独り言」そして、、、「早口」。わたしは特にコレに自信を持っており、2:2:6くらいに振り分けているつもりである。うるさく言われて治そうとした時期もあったが、短所と長所は表裏一体である。32ビートを扱う魅力的な男であった。





自分の声は、脳に響いている「イケてるボイス」の認識しかなく、本気で治そうと思うなら録音するのが一番である。私はその事を理解しつつも、自分を敵に回すことは人生をダメにする事だろうと、素材の矯正には否定的な人間である。


早口という素材。
遅い人に「もっとテキパキ喋れ!」といっても変わらないように早口の人も変わらない。右利きか左利きかが決まっているように、言語を覚えた段階でそれも決まっているのだろう。この先天的な素材に後天的なプライベートを付け加えることでその人のキャラクターが決まってくるのであって、現場作業員という仕事柄せっかちだと思われがちだが、私は超スローペースな人間である。というよりスローペースを好む人間である。


私が思うに、話すスピードと時間軸がかけ離れている人間ほど変人具合が強くなっていき、そういう人たちは無意識に「他と一緒じゃつまらない」と思っており、また「変人」というパワーワードをエネルギー源にしている節がある。何故って?そのキョトン顔を見るのが好きなのさ。



のそのそのそ、、。


私は歩くのも運転も遅い。
当然、急いでいる一般人はこう言う。


「あー!ちょっと早くしてくんない!?」


そして16ビートでこう返す。


「すいませんすいません今行きます」


あまりの早口に面を食らった彼らはこう思う。


「ん、ああ、、」


そして私はこう思う。


最高だ、、。
今日もいい一日になる、、。


人口の一割程度の変人とは、こうやって生きていることを理解してほしい。一般人との相性は最高で、「無敵かよ」と思われるかもしれないが決してそんなことはない。それは逆サイドの変人たちの存在である。



ブロロロ、、。


私の運転する軽トラが走っている。
積載量満載のはた迷惑な車である。一本道だったため渋滞が起こっているのだが、変に幅寄せして側溝に落ちるよりはマシだろうとマイペースな運転をしていた。信号待ちをしていると、後ろの高級車から優雅な男が出てきた。


コンコン。


「は、はい?」


活字では句読点があるが音読では「わ?」一文字くらいのスピードだろう。対して相手の使う言語は4ビートくらいの緩やかさだろう。


「お疲れさま。お仕事忙しいね。ちょっと渋滞ぎみだからコンビニで一服しようか?200m先くらいにあるからコーヒーご馳走させてよ」


「は、ははい。オケーす」


「はは。面白いね君」


最悪だ、、。
こんな世の中なくなればいい。
オレだってそのつもりだったもん、、。


優雅な枕ことばを扱う彼らは、それに反比例した行動力で一代で財を築く天才たちである。本人たちはそのコミュニケーションは努力の賜物だと言っているが、対岸の私たちからすれば、それは神から与えられたギフトに他ならない。何も私はこんな怪物どもと競い合うつもりはない。カテゴリー違いなのである。その代わりコッチの奴らには負けるつもりもない。



建設業は割りと「コッチの奴ら」の溜まり場である。
ここで気を付けたいのが「訛り」と「自慢話」は早口に含まれないことである。訛りは、まぁ分かるだろう。ただ訛っているだけなのだからコレ以上の追及は思わぬ傷を与えかねない。問題は自慢話であって、この劇薬を早口に含んでしまうと上で紹介した天才たちも一般枠に来てしまい、自慢時に早口になるというのは、ただの人間の証なのだろう。それらを除外した上での早口というのは、挨拶、質問、相づちといった基本動作すべてを16ビート以上で行う本物のスタンド使いである。




建設現場の朝は早い。しかし私のバディは来るのが遅い。


「はょぅす」


「ょう」


早口同士の挨拶とはこういう風になる。
これが後輩や同僚ならシカトを決め込んでも構わないのだが、遅れて来たこの人は一応先輩であり、怒りを含んだ小さい声は「挨拶くらいしてやるか」という意思表示である。それを感じとったコイツは


「しゃる」


と、言うと作業を開始しはじめた。


「よしやるか」じゃねーんだよ。
詫びのコーヒーくらい買ってこいよ。毎回、毎回遅刻ばっかしやがってよー。遅刻だと思ってねーだろ?てめえみてーな言語障害とコンビ組まされてるオレの身にもなれっつーの。


早口は早口を聞き取れる。
脳内に流れている声質が多少変わったところで会話に支障がある訳でなく、もちろんこれは少数派の意見であって、結果わたしはコイツと組まされる。


いや、オレだってね。組みたくないよ。
組みたくないけど悔しいじゃん。なんでコイツ相手にキョトン顔しなきゃならねーんだよ。なんで会社に「なに喋ってるか分かりませ~ん」て泣きつかなきゃならねーんだよ。逆だろ。てめーが折れろ。


こうして世界一レベルの低い争いが始まるのであった、、。





ノロノロノロ、、。バンッ、、。バンッ。


遅っ!!
おっせぇぇー!!いや、オレも遅いよ。でも仕事だからな?納期ってもんがあるからな?もう少し早くできるだろ?



バリバリバリ、、、。


んで何で壊してんの??
遅せーならせめてミスしないでくれよ。いや、オレもするよ。でももう少し焦るよ。


コレには私も声をかける。残業はイヤだ。ボルテージが上がって18ビートくらいにはなっていただろう。


「オレも手伝うんで二人で壊しましょう!ソッチ持ってて下さい」


「わっよ」


と、言ったくせにコイツはのそのそと自分の持ち場に戻って行った。


は?
てめえ何一人で開始してんだよ?
「わかったよ」って言ったよな?
「悪ぃな、あと任せたよ」って言ったのか?お前もうそんなレベルなのか?とりあえず早くコッチ来い。てめーが持つもんだと思ってたから支えきれねーだろ。


「○○さん早くコッチ戻って来て!落ちる!」


「わったわったわったよ」


ノロノロノロ、、、。


早くしろ!!!
ぶっ殺すぞ!!!


「ヤバいヤバいヤバい早く下持って!」


「わたわたわた」


のそぉ~、、。


「早く早く早く!!あぁぁぁー!!」


ガッシャーン。


、、、、、。


「ああ」。


ぶっ殺すぞ。
のそぉ~、じゃねーんだよ。どうゆう神経してんだよ?何が「ああ」だよ。100%てめえのミスだろ。誰掃除すんだよ?ふざけんな残業確定だろ。だから朝早く来いっつてんだろ。てめーが掃除しとけ。


なんという醜い争いだろう。
仕事が遅いペアの現場は汚く、汚い現場の進みは悪く、進みの悪い現場の打ち合わせは多くなる。気の毒なのは現場監督だろう。なんせ言語障害二人を相手にしなければならないのだから。
と、言っても彼らもプロ。
仕事柄、耳が良い人が多く、彼らに「ん??」と言わせた時点で高みに登ることができ、切磋琢磨を重ねた私たちはあと一歩の所まで迫っていた。



トュクトュクッ!トュクトュクッ!


早口同士が会話している姿を一般人がバカにする場合、よくこの擬音が使われる。
が、本人たちは誉め言葉だと勘違いしており、次なる擬音への挑戦を止めるつもりはない。それを解っている現場監督は「もう少し落ち着いて話しなよ」などど月並みなことは言わず、少しでも無駄な会話を避けるため、あらゆる七つ道具を使い私たちを操ってくる。流石は幾つもの現場を掛け持ちしているプロである。何とかしてキョトン顔を引き出してやりたいものである、、。


「ここの仕様なんだけどさー、この図面に載っているプラスこの写真のように作ってほしいんだよねー、その分のかかった手間はメールで教えてくれれば、上と掛け合って損しない金額は出すからさ。いいかなそれで?」


こうされると返せる答えはイエスかノーしかなく、私たちのような実力も度胸もない奴にとってはイエスしかないのだが、ここでイエスと言ってしまえば残業確定である。しかもこの手の決まり文句でタダ同然の仕事をさせられることなど良くある話で、かといって会話を録音するのも如何なものか、、。自分の声など聞きたくないものである、、。


イヤだ。断れ。
この写真のようにってのがこの業界じゃ呪いの言葉だ。そんな後々メンテナンスが来るような仕事はしたくない。つーか普通にめんどくせぇ。設計者が自分の色を出したいだけだろ。事件は会議室で起きてるんじゃねーんだよ。レインボーブリッジを封鎖せよ。


だが、てめーが断れ。
オレは「素直な早口」でいたい。てめーが一言「リっす、、」って超っ早で言えばいいだけだ。打ち合わせ担当はお前だ。お前はオレだ。ハズレくじを引くくらいなら逃げる人間だ。


私は一言「うっ。ショベ」といい放ちトイレに逃げ込んだ。おそらく戻ってくる頃には話がついているだろう。断れ。断れば流れる。コレはその程度の案件だ。



ノロノロノロ、、。バンッ、、。バンッ。


戻って来ると、いつものトロくさい作業風景が写ったのだが、一つ違うのは焦った一般人も写り混んでいることである。現場監督がまだ帰っていない。そんなに重たい案件なのか?


「あれ?まだ何かありましたか?」


たまらずそう訪ねると「いやー、これオレの知り合いのやつだからサービスしてやりたいんだよねー」と言ってきた。なるほど。情絡みか。相手を選べ。早口は過半数以上がドライな人間だ。特に同性にはな。


だが、フランクに接してるとはいえ相手は管理職である。
嫌われていいことなど一つもなく、答えに困ったコイツは作業を開始したのだろう。普通はこの行動自体がノーと捉えられるのだが、私たち早口者はなぜか「コイツ耳も悪ぃな」と思われることが多く、「粘れば何とかなる」と舐められた結果、負けることになる。



「○○さーん!監督がまだ話あるみたいっすよー」


バンッ、、、。バンッ、、。


っちゴミが、、。
聞こえないフリしてやがる、、。
確かに現場には超スピードの爆音職人というのは一定数いるが、オレらはソッチ側じゃない。白状する。全部聞こえてます。もちろん悪口も含めてな、、。


「いーよいーよZEN吉さん。別に誰でも出来る仕事だからさ。ジロッ」


やめろオレに振るな。
じゃあお前がやれよ。お前の知り合い何だろ?ちょっとは作業しろ。この前「道路にゴミ飛んでるから拾っといて」って言われた時さすがにキレそうになったわ。気付いたんならテメーが拾え。ビニールも拾えねーのかタコ。


「あー、もう○○さん呼んできますわ。最近人生の調子悪いみたいなんで、、」


まくし立てる様にそう言うと、私は彼のもとに歩み寄った。言っても分からない奴にはこうするしかなく、私たちが最も嫌う行動である。


ウィィィーーン!!


すると彼は勢いよく、持っていた電動工具を回し始めた。
コレ以上近づくな。という警告なのだろう。私は気にしない。動きの早さはコッチが上である。


ザッザッザッ、、、。


彼との距離が縮まる。
それに合わせて工具の回転数が上がっていく。


16、、20、、24、、、、32!!


「寄るな寄るな寄るなオレ早く来るの無理。ロリ朝見逃せない。ZEN吉オマエ熟女だから朝も夜も平気。すいません監督、それZEN吉お願いします!!」


それを聞かされた私たちの顔は、、、


キョトン。


そして台詞は、、、


「ん、、。ああ、、」。






早口とは我を通す言葉なのだろう。
防御力は0である。回避力80に攻撃力20といった所だろう。それで人生は上手くいく。それを教えてくれたのが、、、


「32ビートの男」である。