AVレンタルコーディネーター

はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの『初めてプロに会った』日」。


スマートフォンでエロを楽しめるようになった昨今、いい時代になったものだなと感慨にふけている中年男性も多いのではないのだろうか?もちろん私もそのうちの一人なのだが、たまに無性にあの「18禁市場」に赴きたくなる。市場には市場のルールがある。戦場での記憶を人々に忘れ去られる前にここに記しておきたい。


まずは大前提に服装。これは絶対に派手になってはならない。これを守れない者は一生自分はモテると勘違いしながら生きていけばいい。別に否定するつもりはないが、私たちの世界にも入って来ないでもらいたい。私の制服は黒系統のジャージ上下で、ビギナーの頃は局部の膨らみを抑えることができずカッチカチのジーンズを着用していたのだが慣れてくるにつれ、どの素材まで耐えられるかを楽しめるようになっており、今では極薄のナイロン素材を好んで着用している。
次に入室の仕方なのだが、これはなるべくゆっくり入った方がいい。何も恥ずかしがって急ぐ必要はなく、18禁と書かれた美しい文字に直前まで見惚れていればいい。私はあの暖簾を手でかき分けること自体が邪道だと思っていて、ピクルに会いに来た時の範馬勇次郎ように顔から入るようにしている。ちなみに暗黙の了解で退出人が優先になっており、かつて私は急いで入ってきたガキと衝突し、「熟女村」というAVを一般のお姉さんに拾ってもらった苦い過去がある。これが焦らず入室を勧める理由でもある。入室してからも好きにしていいわけではない。皆、本マグロのせりの如く真剣な眼差しをしており、決して視界に入ることをしてはならない。どうしてもその商品がほしいのであれば、退室して待つか、店を変えるかをした方がいい。早く終わんねぇかなオーラを出すのも御法度である。
あと、店員さんが商品の補充にきた場合は、どんな理由があろうと即座に場所を譲らなければならない。飯のタネがあってこそ賑わう市場である。店員に敬意を払うのは当然である。もちろんケータイはマナーモード、私語も厳禁である。

AVレンタルコーディネーターの資格を得るには最低限これくらいの知識は必要である。あとは実務経験が10年以上、、。

さて、次は待ちに待った実践編に行ってみよう!

「レンタル」とは言ったものの、私が好んでいたのは買うことであった。レンタルだと真剣さが失われどうしても衝動借りになってしまい、結局最初の一本しか見なくなることが多い。何より返却しに行くのが面倒なので、それなら命懸けでネタを仕入れようというのが私の出した結論であった。「買う」ことに関してはレンタル店より断然リサイクル店の方が品ぞろいは豊富で、特に小型リサイクル店だと客が少なく商品を独占することができる。


いい店だな。

私が見つけた宝島はほぼ無人島の状態で、しかも見たことのない古今東西の宝が眠っていた。

最高だ。しばらくここにいよう。

宝の解析には時間がかかる。私たちが生きていた時代は何でも簡単に調べられる時代ではない。不便な時代なのだがパッケージに映るわずかな情報から制作会社の規模や、女優の加工具合を分析する作業はとても楽しく何時間でもそこにいることができた。しかし、そんなおいしい状況をほかの仕入れ業者が放っておいてくれるはずもなく一癖も二癖もありそうな奴らが集まってきた。


ちっ。やっぱりこうなったか。
どうする?先に買っちまったほうがいいか?
いや待て。まずは相手の癖を見抜こう。だいたいの商品の場所は暗記している。

一つ、二つと宝が減っていく。

やるなコイツら。
確かあの場所にあったのは「淫・ディ・ジョーンズ」と「水責め24時」。やっぱりアブノーマルだったか。こんな辺鄙な店に来る奴はだいたい特殊性癖だ。
オレは違うけどね。オレが得意なのは熟女系。そこにさえ手を出さなければ許してやるよ。

上手く共存できそうだったので私はこの市場を使い続けることにした。

 



いつものように仕入れに熱中していた時、少々恥ずかしいことが起こった。
客が少ないリサイクル店ではたまに起こることなのだが、閉店間近になると隔離された18禁コーナーに人がいることを気付かず、店員が電気を消してしまったのである。恥ずかしそうに出てきた私だったのだが、もうひとりの人影が見え、ほっと胸をなでおろした。

よかった。オレ以外にも業者がいたか。
とゆうか誰だ?人の気配なんて感じなかったが、、。

そこに現れたのは二十代後半の女であった。

女!?何だこの女!?

ごく稀にだが18禁コーナーに流れ着く女というのは確かにいる。そういう女は罰ゲームもしくは彼氏のために勉強するような勇気を振り絞ってきている女で、羞恥心が全身から溢れ出ており見ているこっちが逆に恥ずかしくなってくる。だがこの女の雰囲気は違う、、。

本物だ。
見ろこの表情。明らかに怒ってやがる。アタシの楽しみ邪魔すんじゃねーよ使えねー店員だなみたいな顔してやがる。
怖えぇ、、。
こんなバケモンと一緒にいたのか。しかも色白でちょっと美人なのが逆に怖えんだよ。

こんな女とは関わりたくないと思った私はすぐさまその場を去ったのだったが、なんと三日後に再会を果たすことになる。

 



三日間私はあの女のことを考えていた。

 

たぶんアイツは本物のドSだ。
SM、もしくはBLそれかロリ。どちらにせよ虐める系だ。あの気配の消し方と冷たい目。完全に殺しを楽しんでやがる。あんなの千人に一人くらいの確率だろ。もう店変えよっかな。


そう思った私は買いそびれていた商品を仕入れに行くことにした。すると、、、。


ん?やばい!いる!
あの女だ!先を越された!
しかもあの立っている場所って、、、。

 


「熟女コーナー」

 


何ィーー!!!
そんなバカな、、。
熟女好きの女なんて天文学的な確率だぞ。オマエその女優に親でも殺されたのか?しかもカゴいっぱいに大人買いしてやがる。
ホントなんだコイツ?五つ星ハンターか?


呆然と立ち尽くしていた私に気付いた女がこちらに近づいてくる。


ヤバい!!
逃げなきゃ。マジで殺される。
うわ、、。足が動かない。
終わった、、。「死因:熟死」。

まっ青に怯えている私とのすれ違いざま、彼女はクイッと熟女コーナーへ向かって合図を送りながら去っていった。


えっ?どうゆうこと?


命拾いした私が辿り着いた熟女コーナーでは見事に狙っていた商品だけが抜き取られていた。


そうか、、。わかったぞ。
三日前の彼女は店員に怒っていたんじゃない。いつまでもエリアを独占しているアマチュアのオレに怒っていたんだ。
これがプロのAVレンタルコーディネーターか、、、。
おそろしい。



いかがだったろうか?
これが私たちの生きてきた時代、灼熱の物語である。

鬼太郎のOPのような人生を送りたい

ご存じ「ゲゲゲの鬼太郎」のOP又はEDなのだが、端的に言って神曲だと思う。アニメーションとメロディーの調和、ホラーに絶妙なゆるかわ感を加えた演出。それでいて最後はバンッ!と妖怪たちの集合写真。こんな人生を送れたらなんて幸せなのだろうと子供ながらに思っていた私の想いは、今もなお強がるばかりである、、、。




「オバケにゃ学校も~、試験も何にもないっ」

この曲はアニメーション・メロディー、全て含めての作品なのだが、ひと言で表せと問われれば私はこの一文を挙げる。もし読者がこの曲を知らないのであれば、こんなブログは読まなくていいから直ちに聞きに行っていただきたい。そしてよーくその世界観を味わってほしい。置いて行かれるようなスピードではないので、コーヒーでも飲みながら自然体で聞くことをお勧めする。

この一文を分かり易く言うなれば

オバケ → いたずら好き
学校 → 社交の場
試験 → 競争

と、用は「いたずらっ子が人目を気にせず好きに生きていく」というもので、大人にこそ必要な言葉ではないだろうか?いたずらと犯罪の線引きができるのが大人であって、逆にいうと法律さえ守れば何をやってもいいという捉え方もできるだろう。私はコッチ寄りの考え方の持ち主で、よく一般人に「そんなこと言われなくても分かるよね??」と呆れられることがある。その際にする「え?何が??」とポカーンとした顔に腹を立てた相手が

「もういいわ。クソキモいなクソが」

というWうんこバーガーを投げつけて来ることが多かった。その際、私は

ふっ。キモいのオマエなんだよ。
自分の物差し押し付けてくんじゃねーよ。自分のウンコでも食ってろよ。こういう奴は相手にするだけ無駄だな、、。くらえ。

「はい!すいませんでした!」

と満面の笑みで、Wうんこバーガーを20%増量させて返すと、さらに腹を立てた相手がシカトをぶっこいて帰っていった。

よし。あきらめたか、、、。これが一番いい。

この時相手は私にダメージを与えるためにシカトという作戦を取ってきたのだが、オバケマインドに憧れている私にとっては屁の河童である。

くくく。残念だったな。
オマエら真人間と違ってオレはあの世で生きている。オバケ相手にシカトしてどうする?シカトなんてものは諸刃の剣で、相手に効果がなければそのストレスは全部自分に返ってくる。今日オマエらは悔しさで枕を濡らすだろう。友達の「まくらがえし」に連絡しといてやるから安心して泣き続けるがいいさ。


この「オバケマインド」で大抵の対人関係は気にならなくなる。それから現実的にこの世で生活していく事についてだが、コレは生まれた時代と国が良かった。
まずはこの情報社会。これだけ有益な情報が溢れていれば金なんか最低限あれば生きていけるし、おまけにここは社会保障が整った世界一安全な国JAPANである。つまり今のご時世、世間体を気にせず社会のルールさえ守りながら生きていけば絶対に死ぬことなど有り得ないというもので、あとは個人がどういう世界観を持って生きていくかだけの話である。
が、何も私は世捨て人になるつもりなどはない。適度な競争も論争も嫌いではなく、一つの逃げ道というかメンタルケアのためにこの世界観を大事にしているのであって、一般的な幸せを望むただの中年男であることを理解していただきたい。

 

 



「そのー、ZEN吉さんが思う「幸せ」って、どんなのですかー?」

という質問を知り合いの知り合いの知り合いの女性からされることがあり、この回答には私も困った。

何この人?何で急にそんなこと聞いてくるの?
メッチャ他人なんだけど、、。というかさっきから凄い見下した目で見てくるよねアナタ。おれはキジムナーじゃねーぞ。

「えっと、、。急に聞かれても、、。どうしてですか?」

「アタシの友達の友達の友達に少し変わっている人がいてー、ZEN吉さんとなら合うんじゃないかなぁって。ははっ」

うん。失礼。
オレとアナタも他人だし、アナタとその人も他人だよね。三角関係にすらなってねーよ。あと面と向かって変人認定してくんなよ。それ言うアナタも十分変人だからね。

「うーん。幸せですかぁ、、。例えるなら鬼太郎一家のような緩い家庭というか、かといって悪でもない、、そんな感じですか、、はは」

な、これでいいだろ?
ちょっと変わった回答が欲しかったんだろ?オレは正直に答えたぞ。後は好きにしてくれ。

「あー、ZEN吉さんソッチ系でしたかー。その子ソッチ系じゃないんですよねー。ちなみにアタシも違いますー」

ホント何コイツ??
オレ女子にはビビッて怒れないんだけど久々にイライラするわ。まずソッチ系って何だよ??オレの大事にしている世界ひと言で片付けてるんじゃねーよ。ちゃんと鬼太郎系って言えよ。ちなみにオマエはネズミ男系な。卑屈なオーラが出まくってんだよ。

「えぇと、、。それは残念でしたね。ちなみにその方はどういうタイプの人だったんですか?」

気になるから聞いてやるよ。もし猫娘系だったらオレの好きなタイプだ。全力でアタックしてやる。

「えーとその子はー。何ていうか泣きやすいっていうか、、。そうそう!!鬼太郎に出てくる小泣きジジイみたいな!!それでいて見た目は、、。そうだ!砂かけババアだ!!うわぁ~全部鬼太郎ファミリーで揃っちゃった!!めっちゃウケる~!!」

はぁ??
それもう人間じゃねーだろ。不人気ツートップ融合させてんじゃねーよ。田舎のパチ屋にたまにいる奴だろそれ。何がウケるだよ。ネズミ男でもまだマシな話もってくるだろ。なめんじゃねーぞ。

「あーでもでもー。その子にZEN吉さんの話したら~、何か微妙な反応してました(笑)。やっぱりこの話なかったことにしましょ!!あ~おなか痛い!!」

 

ふう、、。この世での恋愛はあきらめよう、、。

人間は歩き方で見極めよ

よく外見には内面が表れるというが、それには私も賛成である。ここでいう外見とはアップで写した時の表情や服装のことを言うのではなく、30mくらい離れた「引き」のアングルから映る姿のことを指し、その人の性格というか気分というか、、、。どちらにせよ曖昧な答えになってしまうのだが「歩き方」というのは人間を見るうえで大事な要素である。


「歩き方」というのは職業病と言ってもいいだろう。営業職などイメージを優先してしまう仕事だと、ある程度クセのない歩き方に矯正されてしまうのではないだろうか?だが、私のいる建築業界の職人たちは違う。彼らの歩き方は十人十色であって、一見すると悪ぶっていた頃のガニ股歩きが抜けきらず皆同じように見えるのだが、よーく見ると一人ひとりの個性が表れた絵画のような作品に感じられるのである。

十人十色とは言ったものの、やはり7割以上はヤンキーのようなガニ股歩きをする者で溢れており、これは本人がこの歩き方がカッコいいと思っているのが第一の理由である他に、我々の制服がそうさせるのである。サラリーマンが着こなすスーツは「ブレーザー」のようにシュッとした真っすぐな感じがするのに対し、私たちの作業着は動きやすさを考慮したダボっとしたものが多く、イメージとしては「学ラン」といった印象を受けるだろう。この学ランチックな作業着は少しガニ股で歩かなければ、ももの部分がすれてしまって作業に影響が出てしまい、しかも一部の女子がカッコいいなんて言うもんだからいつまでたってもガニ股歩きが抜けない四十路ヤンキー・五十路ヤンキーが出来上がる仕組みになっている。

100%個人的な偏見になるのだが私服姿でもこの歩き方をする人間は多様性が低いと判断してもいいだろう。彼らはこれまでに何十回も「パパその歩き方恥ずかしいからやめて」と言われているはずなのに変えることができず、私服姿になってまで現場感が漂ってしまうのは仕事時のキャラクターをそのままプライベートにまで持って来る切り替えが苦手なタイプであることが考察できるだろう。つまり、スポーツ選手のような太ももがぶつかるくらい筋骨隆々な人間以外がこのガニ股歩きをしていた場合、高確率で自分の意見を曲げない頑固者であることが多く、実際に話してみるとそんな感じは受けないのだが長い付き合いになればなるほど「ああ、やっぱりそうだったか、、」と納得せざるを得ないことが多々あった。私が思うに「人は第一印象がすべて」の第一印象とは、会った3mの距離で決まるのではなく、目に映った30mの距離で決まるのではないだろうか。


ホントそうじゃない??
大抵この歩き方してる奴ってキレたら勝ちだと思ってる奴ばっかじゃん。しかもいくらカッコよくても「ガニ股」って超ださいネーミングのせいでどう頑張ってもマイナスだからな。

 

さてヤンキー歩きの批判はこれくらいでいいだろう。言ってしまえばただの好みである。私が興味のあるのは少数派である「内股歩き」もしくはそれよりレアな「片足体重」の者たちで、それに「猫背」を加えることで100m先からでも希少種であることが確認でき、彼らに対する憧れからか私は片っ端からマネをしてみることにした。

 


内股歩きの代表格といえば世界の「イチロー」であろう。野球部出身の者からすれば本当に「神」と呼べる存在であり、神のことを「あいつカッコつけすぎ(笑)」などと言っているものがいるが、神なんだからカッコつけるのは当たり前だろ、と諭してあげるのが私の務めでもあった。


くぅ~!イチローまじでかっけぇー!!
そのクネクネした動きホント最高!!たまにするオカマみたい発言も最高!!

イチロー信者の私としては全てを真似したかったのだが、私のメンタルとフィジカルで出来ることといえばあのセクシーな内股歩きくらいのもので、運よく体型だけはイチローと近かったこともあり、日夜習得に励むことにした。

 

信者だから言うのではないが、この「イチロー歩き」はマジで全員が取り入れた方がいい。背筋をしっかり伸ばしながら内股で歩くことによって肩が勝手に揺れ、何というか無敵のテンションになることができるのである。ガニ股肩揺れのような「どけよてめー」みたいな野蛮な感じではなく、「アタシ今恋してます」的なスーパーヒロインモードに突入することができ、このメンタルを身に付けた者の大成する確率は低く見積もっても3割5分といったところであろう。なるほど、世界の安打製造機はこうやって生み出されたのか、と納得した毎日を送っている私に水を差したのはニューヨークヤンキースの腐れファンのような先輩であった。

 


「おいZEN吉!!オマエ最近何よその歩き方?気持ちわりーからマジでやめろ!!」

はぁ?なんだコイツ?
お前らのヤンキー歩きのほうが百倍キモいんだよ!!つーかお前それイチローの前で言えんのかよ?たしかお前も野球部だったよな?

「いやぁ、、。これイチロー意識してるんですよね、、。へへっ」

「バカかお前?それイチローがやるからカッコイイんだよ!!お前みたいなブサイクがやってもメダパニ踊ってるようにしか見えねーんだよ!!一人だけピチっとしたズボン履きやがってよ!動きづらくねーのかソレ?とりあえずウケ狙いならもう分かったから明日から普通に仕事しろよ。目ざわりだからよ」

言いすぎだろ、、。
容赦なしかよ。マジでヤンキースファン並だろ。死ねよ。ブーイングのしすぎで変形骨折しろ。ファックできなくなれ。マツイのホームランボールで想像妊娠しろ。

イチローの精神力をもっていない私にとってこの一言によるショックは大きく、しばらくイチロー歩きを封印することにしたのだが、職人には職人の正解がある。


熟練工が見せる片足に体重が乗った不規則な歩き方はその人が培った技術の歴史を表しており、現場でする「一服」というやすらぎの時間を経て完成された猫背はその人の人柄を表していた。

私たち現場作業員は現役生活50年のスポーツ選手のようなもので、長年重いものを持つなどの作業をし続けると体に偏りが生じ、歩き方が微妙にズレてくる。もちろん全員がそうというわけではなく、その歩き方を身に付けた者を本物の熟練工といっていいだろう。それでいてあの猫背。あの猫背は一服中のリラックスした姿勢によってできたもので、年中ピリついている切り替えができない輩では決して得ることができない「優しさの証明」でもある。私の目算だとそのような人物は100人に1人くらいの珍しさで、運よく私の会社に存在していた○○さんをよーく観察することにした。

ふむ。なるほどね、、。
○○さんは怖い人で有名だが、怖いというかコレは覇気だな。真剣さゆえの覇気だ。確かに目の前に居たらビビる。でも一服中のあのリラックスした顔はただの「怖い人間」では絶対に出せない表情だ。見ろあの猫背。猫背になりすぎてお辞儀になってやがる。みんなが緊張している理由はコレだろう。年長者にお辞儀されちゃたまらんからな。
そしてあの歩き方よ。
どうやったらそんな片足体重になるんだ?おそらく自分の得意とする右半身で全てを受け止めてきたんだろう。どこまで真っすぐな人なんだアンタは。そのウォーキングデッドみたいな歩き方もビビらせる要因になっているんだろうな、、。


そんなことを思い、遠目から大先輩を分析していた私は先程のヤンキースがこちらに近づいてきていることには全く気付いていなかった。

「おいZEN吉!!なにボーっとして○○さん見てんだ?」

「えっ!!?いや、、。あの、、。別に、、、」

「別にじゃねーだろ!!オマエ仕事できねーんだから教えてもらって来いよ!!」

ヤンキースに連れて行かれた私は、○○さんの真剣な表情にビビりまくったあげく凡ミスを繰り返し、帰る頃にはヘトヘトな片足歩きになっていた。その姿を見た○○さんは昔の自分を思い出したのか

「おつかれさん。明日も仕事頑張れよ」

と笑顔で労ってくれた。それに対しヤンキース

「ったく。オレに恥かかせんなよ」

という大打撃を与えてきた。



死ねよ。大谷の160km顔面に喰らってろ。

共生とは心の矯正のこと

共生=共に生きる。素晴らしい言葉ではないだろうか?結婚相手など大切なパートナーとの生活に意識する言葉だと思うのだが、私にそのパターンは無縁である。私に当てはまるのは古い実家での虫や小動物、彼らとの暮らしにピッタリとくる言葉である。



南国ではどうかわからないが、私の住んでいる北国での彼らとの生活を四季で表すと

春 → ハエ 数少。

夏 → 蚊、ハエ、ハチ 数多。   カエル、ヘビ 数極小。 

秋 → カメムシ 数極多。

冬 → カメムシ 数多。   ネズミ、アライグマ 数極小。

と、なり、古い家屋内だと一年中アニマルパラダイスとなることがお分かりいただけるだろう。私的には秋・冬がハイシーズンだと思っていて、寒さを凌ぐために床下には換気口からネズミが入ってきており、そのネズミを食べるためにアライグマが手をガサガサとこまねいている。居間の天井ではストーブの暖気を浴びたカメムシがブーンと非常に不快な音をたてながら飛んでいて、その飛行も不規則なもので髪や肌にくっつくことが多く、呪いたくなるくらいの異臭を人体に付着させてくる。

このカメムシってマジで何なの?
オマエら自分の臭いで死ぬことあるんだってな?じゃあ最初から生まれてくんなよ。マジでイラつくから。そのガニ股な歩き方が最高にムカつく。誰だよカメムシって名付けたやつ。カメの方が一億倍かわいいから。カメに謝れよ。


こいつらの駆除にはちょっとしたコツがあり、絶対に潰してはならない。彼らは打撃にはめっぽう強く、デコピン程度の打撃では少しフリーズした後、くう~効いたぜ~と言ってピンピンしながら歩きだす。かといって上から潰すような攻撃を与えてしまうと、自らの死と引き換えに呪いのような死臭を床面や指に残してこの世を去っていく。
彼らの駆除の最適解は、ブーンと気持ちよく飛んでいる時にハエたたきで叩き落とすことである。普段は鋼の甲羅に覆われている彼らもこの時ばかりは無防備な遊覧飛行を楽しんでおり、軽くでもヒットすれば確実に30秒は動きを止めることができる。もちろん、不規則な飛行をしている彼らに一撃をお見舞いすることは至難の業なのだが、私の経験上これは技術ではなく気持ちの問題であり、てんめぇー!ぜってー殺す!と息巻いているうちは命中率10%といったところであろう。大切なのは、スミマセンちょっと失礼いたします、といった接客するようなマインドチェンジをすることで彼らの油断を誘い命中率が50%まで跳ね上げることができ、ウソだと思った読者はぜひ試してみてほしい。見事ヒットした後も決して油断してはならず、奴らのまとった死臭液はティッシュペーパーを貫通してくるくらいの破壊力を秘めており、ガムテープのようなビニール製品でやさしく包み込むように退室をお願いするのが正解である。

説明を聞いてわかるようにカメムシというのは特定危険生物であり、そもそもこんな迷惑な客など家屋内のありとあらゆる隙間を埋めて入店拒否しまえばいいのだが、私の両親は「あら、今年はカメムシ少ないのね、、」などと季節の風物詩のようにとらえていて、なんの対策も練らずにウェルカム状態なのである。

マジでお前らのその考え方理解できねーわ。
カメムシに命でも救われたことでもあんのかよ?いつだがカレーにカメムシ入ってた時はマジでこの家にいるのイヤになったわ。それがトラウマになって店でカレー食う時、かき混ぜて確認するクセついちまったじゃねーか。おかげで変人扱いじゃねーかよ。責任取れよバカがよ。


カメムシの件はこれくらいでいいだろう。
1cm程度の虫に振り回されるメンタルなどたかが知れているのだが、それが小動物となると話が変わってくる。私は人間以外の生物は絶滅してもいいと思っているくらいの博愛主義者であり、元々そういう人間なのか育った環境のせいなのか、どうしてそういう考えになったかは不明だが、おそらく後者であろう。


まずは我々に一番馴染みの深い「ネズミ」。

はい。気持ち悪いです。
動き速すぎ。しっぽ長すぎ。ドブネズミに至ってはただのゾンビだろ。タイラントかよ。
ディズニー好きの女子ってミッキーが好きなの?それホント?だったら女子にモテないオレはゾンビ以下ってことですか?もしゾンビになったら愛してくださいね。

このゾンビが私の実家では所狭しと駆け回っており、初めのうちは勇気を振り絞って軍手を三十重ねで捕獲を試みていたのだが、捕まえた後のしっぽが軍手からはみ出す感覚がマジで気持ち悪く、アレを気持ちいいという者がいるなればソイツは確実に真性の変態で、どんな店からも入店拒否されるだろう。私はコイツらの捕獲に原始的な手法は無駄だと感じ、粘着シートや毒エサを使った方法を両親に促したのだが、彼らの返答は渋いものであった。

「えぇ、、、。そんなことしたらネズミ死んじゃうんじゃない?何も悪いことしてるわけじゃないんだから捕まえて逃がすだけでいいんじゃない?」。

よくねーんだよ。しっかり殺すんだよ。
お前らが逃がしたネズミ1分後には家の中に入ってきてるから。たまにお前らの生き物への愛情に恐怖を感じるわ。
この前粘着シートに絡まったネズミ助けるために無理やり引っ張ってたよな。そのネズミどうなった?皮だけ剥がれて死んでたよな。マジでこれ以上の拷問ねーだろ。悪魔かよ。

彼らとの話し合いは無駄だと思った私は、大量の罠を仕掛けるためにコッソリ床下に潜ってみるとそこでは実写版のトムとジェリーが放映されていた。


「シャーー!!」

と唸っているアライグマが暗闇で目を光らせながらネズミを追いかけており、急に登場した私の姿に驚いたトムは手をガサガサさせながらコッチを威嚇してきた。トムとしては突然現れた人間によって、まさか自分がジェリーの立場になるなんてと思ったらしく、だがその思いは私とて同じである。


「ギャーー!!」

と驚いた私は手に持っていた懐中電灯を落とすと、飛び上がった拍子に頭も打ち付けパニック状態になっていた。たしか当時中学生だったと思うが大人になった今でも同じリアクションを取るだろう。

「チューー!!」「シャーー!!」「ギャーー!!」と三者三様の鳴き声を放ちながらするドタバタコメディーは撮影者さえいればアカデミー賞にノミネートされるくらいの傑作に仕上がっていたと思うのだが、コレは私の脳内だけで完結する自作自演作品として生涯の宝にしようと思っている。

床下で繰り広げられるコメディーを何事かと思った家族によって救出された私の興奮はしばらく冷めず、放つセリフも意味不明なものが多かったという。後で聞いた話によると服は糞やら泥やらがこびり付き、頭からは流血。それでいて「し、シートン動物記」「家賃払わせろ!!」「アライグマ」などと訳のわからないことを言うものだから心配になった両親が落ち着かせるために私に言った言葉が

「あー、アライグマね。あの穴から入ってきたのね。でも、そのくらいで騒いでたらこの先、人とやってけないわよ」

であった。

それを聞いた私は、何でその穴ふさがねーんだよ、と強い憤りを覚えたのだが、大人になった今、短いながらも他人との生活を経験するうちに分かってきたことがある。


共生とは心の矯正のことである。と。

アメリカナイズな男

違う文化を取り入れるほど素晴らしいことはないだろう。何かをつきつめた人間もカッコイイのだが、ミーハー気質の私は幅の広い人間に憧れる傾向があり、単純に英語を話すだけの彼を見て、凄いと思ってしまっていた。しかし、我々「無言の美学」を持って生まれた日本人。それまで捨ててどうする?どうするんだ、アメリカナイズな男よ、、、。


「成長」とはキャラクターの追加だと私は思っている。私が恐れているのは、環境が変わることで違う価値観や文化を取り入れたのはいいが、それによってキャラクターの相殺が起こり、本人としては「成長」しているつもりが傍から見れば「停滞」もしくは「衰退」となることである。そういうのも含めて成長と呼ぶのかもしれないが、友達が少なく女にモテない私にとって自分の中にあるキャラが減るという苦行はどうも耐え難く、このような数学的な考えをすることでバランスを保っていることをご理解してほしい。


ある時、知り合いのツテで離島でのアルバイトをする機会があり、私のテンションは非常に高まっていた。

よっしゃぁ!来たぞ、キャラクター大収穫祭や、、。
こういうリゾートバイトを転々としている人たちの方がそこら辺の社会人よりよっぽど面白いんだよな、、、。
だってそうでしょ?この人たちは常に環境を変えて成長してるでしょ。まぁ、オレみたいなネクラ体質な人もいるけどさ、、。

今回の離島での仕事内容は、まぁまぁキツイ肉体労働ということで欧米的なパリピ型というよりは真面目な日本人型といった人の割合が高く、私もそちらの方が肌に合っていたので雰囲気に飲まれることなくスムーズに溶け込むことができた。

今回のストーリーの登場人物を絞ると、


「私」
デキる女である「○○さん」
仕事斡旋係である「大将」
見た目は大人しそうな「アメリカナイズな男」

この4人で十分であろう。


リゾートバイトでは基本的に男子寮と女子寮に別れており、大将が用意してくれた部屋に私とアメリカナイズな男とで住むことになったのだが、この男、人当たりは悪いわけではなく私もこのようなタイプには割と自分から話しかけることができるので会った初日に仲良くなることができた。


「いや、相方がZEN吉さんでホント良かったですよー。大将って自分の自慢話ばっかりで部屋の説明とか全然しないでしょ?いくらバイトだからってアレはダメですよねー。あんなの通用するの日本だけですからねー」

何コイツ?めっちゃ喋べんじゃん。

まぁ、確かに契約書的なやつもなかったし、いくらバイトだからって緩すぎるかもな、、。でも短期のアルバイトなんてそんなもんじゃないの?つーかじゃあ何でアンタ来たの?

「はは。確かに事前にもう少し説明があっても良かったかも知れませんね。ちなみに海外での仕事の経験とかあるんですか?」

「はい。アメリカに3年、オーストラリアに2年、計5年働いてましたね」

「えっ、マジっすか?じゃあ英語もペラペラ?カッコいい!」

英語を話せるグローバルな人間と接する機会がなかった私にとってこの出会いは新鮮であり、実際彼の話は非常に面白く、一時間程度の会話ではあったが親密な関係になって歓迎会に行くことができた。

ここで少し大将の説明をすると、いかにも江戸っ子といった気前のいい人物で、余計な説明をするくらいなら行動してしまえといった人情味溢れる性格を用い、地元の観光協会の会長まで登りつめた人間であった。自慢話が多くみんなから面倒くさがられる節はあるが、情の厚い彼のことを皆は「大将」と呼び、大将は私たち二人のためにわざわざ酒席を用意してくれたのである。


「お~!お疲れさーん!たくさんごちそう作ったから腹いっぱい食べてってくれよー!」

居酒屋に着くと大将の手料理が並べられており、大将の隣にはいかにも手慣れた看板娘といった雰囲気の女性が立っていた。

「紹介するね。アンタらより少し早めに働いてもらっている○○さん。たまにコッチの居酒屋でも働いてもらってるんだ。明日からはアンタたちと○○さん三人で農作業の方お願いね」

この○○さんって人スゲーな、、。
オーラがハンパない、、。絶対何でもできるでしょ。

彼女はリゾートバイト歴が長いらしく、仕事はもちろんのことコミュニケーションにおいても百戦錬磨といった正にリゾバの完成形のような女性であり、彼女のつくり出す雰囲気によって気持ちの良い会話を楽しむことができた。おそらく飲み屋で働いていた経験もあるのだろう。

4人の会話のバランスは、大将とアメリカナイズな男がひたすら自分の話をし続け、私と○○さんが聞く側にまわるといったもので、二人の自慢話がヒートアップ気味になってきたので、

「そういえば明日の仕事内容ってどんなのでしたっけ?」

と、少し熱の冷める質問を投げかけるとアメリカナイズな男が信じられない一言をぶっこんできた。

「あー、それなんですけど、オレ明日レンタカーで島一周する予定なんですよね。明日から仕事するって言われてなかったんで、、、」

はぁ!?何言ってのコイツ?
そんなの言われなくたってわかんじゃん!!
つーかそれしたいんならオマエが前もって大将に連絡入れとくのが筋だろうが!!子どもかよ!
ダメだって今の一言は、、。もう終わりや、、、。

私の思った通り、顔を真っ赤にパンプアップさせた大将は、

「何ぃ!?明日は出てもらわないと困るって!!農家さんの方には三人で行くって言ってあるんだから!!」

と、激怒しかけていたのだが、隣に座っている○○さんの笑顔を見て熱が引いたのか

「まぁ、確かにオレも事前に何も言わなかったけどな、、、。観光なら仕事終わった後にいくらでも行けるからよ。明日は行ってくれよ」

と、いう大人の発言に私たちも乗っかることで、何とか彼を説得し予定通り三人で行くことになった。こんなやり取りがあった後では酒席が盛り上がるわけがないのだが○○さんが絶妙な立ち回りを見せることで何とか穏便な終わり方をすることができた。

コイツやばいかもな、、。
今の宴だって○○さんがいなかったらただの地獄の茶会だからな、、。
マジで何で来たの?普通に観光客として来いよ。


その後、部屋で彼は

「いやぁ、大将にやられましたわ。今回は大人しく仕事行きますけど、事前に連絡もなく仕事行ってくれってアメリカじゃありえないですからね」

と納得がいっていない様子であったが、私も変に敵対はしたくなかったので中立の立場を心がけることにした。

まぁ、アンタの意見も一理あるけどさ、、。
ココ日本だからね?あと何回も言うようだけど何で来たの?



次の日、○○さんと三人で仕事場まで向かっている際中、彼は○○さんに対してヤケに距離をつめた会話をしていた。どうやら昨日の歓迎会で私同様○○さんに好印象を持ったようで、しかもその夜部屋で彼は日本人女性に対して

「日本の女って世界一ガード固いっすかんねー。アメリカの女だったら話しかけないと、ハァ?何で話しかけないの?アタシに興味ないの?って怒られますかんね」

と、意気揚々と語っていた。

へぇ、、。じゃあオレもアメリカ行ったらチャンスあるかもな。
だってアンタ、オレよりブサイクじゃん。久しぶりに自分より低スペックな奴見たわ。
とゆうかそのアメリカ女とはどうなった?自慢しないってことは相手にされなかったんだろ?

肝心の○○さんの反応は誰がどうみてもノーチャンスといった対応で、彼女も昨日の酒席での彼の発言に対し怒りを覚えているようだった。彼が挽回するためには仕事で圧倒的なパフォーマンスを発揮するしかないのだが、彼が得意なのは英語を生かしたIT系の分野であって、農作業のような肉体労働では女性にも負けるくらい仕事ができなかった。ホント何で来たの?

どうやら彼は仕事に来たというよりは、夏休みの無料体験会に参加しに来たという心持ちだったようで、仕事が終わると誰よりも成果を上げていないくせに誰よりも充実感を漂わせた顔をして○○さんに話しかけていた。

「いやぁ、農作業って面白いですねー。○○さんは初めてですか?」

初めてなわけねーだろ。
アンタの3倍は稼いでたから。ほら見ろ。さすがにキレかけてるだろ。彼女怒らせるなんてよっぽどだぞ、、。

だが、そこはリゾバの女王。すぐにメンタルを整え、怒っている素振りなど毛ほども感じさせない笑顔でこの男をあしらっていた。


本当の問題はその日の夜。彼の遊んでいるような仕事の態度に農家から大将へのクレームが入ったのである。大将も気を使ってそのことを優しく彼に伝えたのだが、どうやらコレは彼にとっては重い問題だったようで、私に本心を打ち解けてきた。

「ZEN吉さん。この仕事中に話したらダメって文化どうにかならないですかね?コレが日本とアメリカの決定的な差だと思うんですよね、、、。」

えぇ、、。何か重いって、、、。
まぁ、実際にアッチで仕事してきたアンタがそう感じたんならそうなんだろうけど、、、。
誰も話したらダメなんて言ってないけどさ、、、。とりあえずアンタは話しすぎ。明らかにみんなピリついてたよね。野菜ぶつけられそうになってたじゃん。

「ええと、、、。アッチで働いたことがない僕にはちょっとわからないんですけど、、。使い分けることが大事かと、、、。」

そう答えると、男は少し考えこんだ素振りを見せ、私たちはその夜を終えた。


次の日の朝、男はスッキリとした顔で

「ZEN吉さん。オレ今日で辞めます」

という報告してきた。

えっ?はやっ!!
さすがアメリカナイズ。無駄な時間は使わないってことか、、。

「でも、大将と○○さんにも、あなたに会えてよかった、ってちゃんと報告してから帰ります。ありがとうございました」

いや、それはやめた方がいいんじゃない?
まず謝るのが先だろ。怒っている相手に楽しい感情を伝えても逆効果だから。それならオレが伝えとくから無言で帰った方がいいって。

そんな私の心配をよそに二人の元へと向かった彼に浴びせられた言葉はご存知の通り

「アンタ何で来たの?」

であった。



アメリカナイズな男よ。あなたとの出会いは考えさせられることが多かった。その上で私は「価値観の融合」という道を行こうと思う。いつの日かまた会えるときを楽しみにしている。

「オマエがな」

このセリフは私が言ってみたいランキング一位のセリフであり、大事なのはどのシチュエーションで使えるかである。理想は罠を仕掛けてきた相手をさらに罠にかける時に発することができれば最高なのだが、その夢はまだ叶えられずにいる、、、。


「クックック。この穴に落ちたオマエに助かる道はない、、。死ねぇぇーー!!」

「オマエがな」

と言って、華麗なる大逆転を決めたのち、相手の絶望顔をたしなめる。理想はこうである。だが、現実は

「ZEN吉って、何でモテないんだろうなー。デリカシーないからじゃない?」

オマエがな、、。

心の中でそう思い、復讐を誓うのみである。

コイツ絶対いつか殺す、、、。
イジるの下手なんだよオマエ。かといって褒め上手なわけでもないし、、。何で結婚できたのアンタ?よっぽど相手、切羽詰ってたんじゃない?

私は人を嫌いになるくらいなら逃げてしまえ、という考えの持ち主なのだがこの男はハッキリ言って嫌いである。この男は、否定こそがコミュニケーション!だと強く思っており、ゼロ距離同士でキャッキャッと話すためにそれは大切なことだと私も思うが、相手との距離が遠いうちは肯定こそが正義だろう。そのうえ彼はイジリ上手の仲間に囲まれることで自分もイジリが上手いと勘違いしているのも厄介で、イジリとはただの才能であり、凡人は余計なことはせず共感力の教科書でも買って勉強するくらいが丁度いいのだが、どうやら彼にその気はないらしい、、、。

この男、イジられる方には耐性があり、それが彼の長所なのだが、「オレはこういうコト言われても全然平気!!」という基準をそのまま他人に当てはめてしまうことで、見事に長所が短所にすり替わってしまっている典型的なデリカシーがない奴になっていた。いじられキャラということで彼の周りには面白い人が多く、彼から完全に距離をとることはその人達とのつながりも切ることになりかねず、私は逃げる決断ができずにいた。

いやぁ、、ホントこの人苦手、、、。
苦手って用はキライってことだからな。みんな上手く言いかえてるけど全然かわってないから。カフェラテとカフェラッテくらい同じだから。
いやさぁ、べつに悪い人じゃないんだけどさぁ、、、。

コレも悪い人によく使われる言葉であって、私的には「アイツは悪人だ」と堂々と言われる人間の方がよっぽどマシな気がする、、、。

だってすぐ逃げれるじゃん。コイツみたいな中途半端に仲間多い人間が一番めんどくさい、、。とりあえず、こんなこと思っててもダメだ。思考法を変えよう。

私の出した結論は、夢の実現のキャストにこの男を任命することであった。

少々、役不足だがコイツに「オマエがな」を引き出してもらうことにするか、、。
コイツは罠を張るタイプじゃないから、オレがあえて人工的な罠を作らないと行けないんだよな、、。そんな自作自演のフィクションはクソつまらんからやりたくなかったんだが仕方がない。このままストレスを感じてるよりは百倍マシだろう、、。


ストーリーの構成とはクライマックスから逆算すればいいだけで、最後にこの男に吐かせるセリフはもう決まっていた。

「ZEN吉って、もし結婚しても絶対別れるよな」

「オマエがな」

このセリフを吐かせて一カ月以内に離婚を成立させることができれば夢は達成したと言ってもいいだろう。もちろんオレは犯罪行為などしないしコイツの家族と関わるつもりもない。オレがすることはシンプルに褒めるだけだ。ただそれだけでコイツはオレの脚本通りに動くだろう。


「○○さんて何歳になってもモテますよね」
「○○さんってイジリやすいから誰からも愛されますよね」
「ホント、コミュニケーション能力高いですね」


ベタだがこれらの言葉を浴びせ続けると、この手の人種は自分のコミュニケーションは完璧だと錯覚し、まぁ、わかりやすく言うなればキャバクラの客状態になり、それが私の狙いであった。

くくく。いい感じに仕上がってきたな、、、。
自分のコミュ力が高いと思っている奴は変化を嫌う。オマエはこのままデリカシー0のいじられキャラを脱却できないまま地獄に落ちる。
いいか?
オマエは自分がいじられた分だけ、他人をいじってプラマイゼロだと勘違いしているがそれが許されるのは一部の才能のある人間とキャバクラ内だけだ。正解はいじられた分だけ相手を褒める。これでプラマイゼロだ。
オマエはちゃんと奥さんを褒められているか?
ワンパターンなキャラしか持っていないオマエはおれ達に対する態度と変わらないんじゃないか?そろそろ子供も大きくなってきただろう。女性は何歳になってからでも輝くぞ。世の中はオレと同じく年上好きの男であふれているはずだ、、。それを見逃す彼女たちではない。



クライマックスが近づいていた。

最近この男は嫁の話を全くしなくなっており、それ自体は普通のことなのだが、他人の嫁というか家族の話にも希薄になっていた。

来たな、、。そろそろ最終確認をしておくか、、。

「○○さーん!オレ、キャバクラ行っても全然会話盛り上がんないんですよねー。ただ褒めてるだけじゃダメなんすかね?」

「そんなの当り前よオマエ!!キャバ嬢なんて褒められ慣れてるんだから、もっとコッチも傷つくけどアッチも傷つけるくらいの距離感でバシバシ行かないとよー!!」

そう言っている彼の表情は、カイジに出てくる「ニヤァ」とした効果音が聞こえてくるほど歪んでおり、完全にキャバクラ漬けのゼロ距離ドランカーに仕上がっていた。

よし!!
マリオネットの完成だ!!
どうする?
今言ってしまった方がいいか?
コイツの奥さんはとっくにキャバクラ漬けに気付いているだろう、、。半年前から離婚を決心していると考えて、、、。今は2月だから、、、、。入学式が4月だとして、、、。あ~!もう分からんけど言ってしまえ!!

「そういえば○○さんの子供って何歳でしたっけ?」

この質問で彼の表情がドランカー状態から慈愛の表情へと変化しなければ、勝負は私の勝ちである。子どもへの愛情を失った父親など穴のあいた靴下と同じで、即ゴミ箱行きである。

「ええと、何歳だっけなぁ」

勝った!!
何だそのニヤケ面は?自分の子どもを想像するときの顔じゃねーだろ。児童ポルノかよ。

「あー!オレも早く結婚して○○さんみたいな幸せな家庭築きたいっすねー」

「いいんじゃない。でもZEN吉ってよ、」

来いっ!!

「もし結婚できたとしても、絶対別れるよな」

完璧、、、。
こんなにも脚本通りいくことがこの世にあるだろうか?
よく噛みしめてから言おう。こんなにも気持ちいいセリフは一生味わえないだろう、、。

すぅーっと大きく息を吸い込んで、口の形を「オ」に整えたその時!!


「それオレや。オマエかいっ!!」


えぇーー!!!
まさかのノリつっこみぃぃーーー!!!

どこで覚えた?
キャバクラか?いや、そんなことより、、。

「えっ?冗談ですよね、、、。ホント別れたんすか?」

「ああ。一か月前に別れたわ」

「えぇ、、、。大変だったすね」

「はは。もう慣れたから、いじってくれよ。でもやっぱりZEN吉は結婚無理だと思うぞ。だってキャバ嬢にすらモテないじゃん」


、、、、、。


オマエもな、、、。


現在、わたくしモテない中年街道まっしぐら。「オマエがな」ストーリーに参加していただけるキャスト募集中です。

思い上がりレフティには気をつけろ

レフティ、つまり「左利き」のことなのだが彼らは思い上がりが強くなる傾向があると思う。確かにセンスのいい人間が多い気もするが、自分は希少価値が高いという自負が少し強すぎるのではないだろうか?そんな彼らの思い上がりを変な左利きである私ことZEN吉が説明していきたい。



私が自分のことを「変な左利き」といったのは不器用な人間だからである。もし私が器用な人間であれば「両利き」という超希少価値が高い、ただ黙っていてもモテる男になれただろう、、。私のような変な左利きは初めてする作業の際、自分の利き手がどっちか分からなくなってフリーズすることが多く、じゃあ素直に全部右手で統一すればいいんじゃない?と思われるかもしれないが、中には明らかに左手の方が上手くいく作業もあるので右手一本にしぼるよりは効率がいいのである。

こんな私であっても純粋な右利きよりは左手を上手く使えることが多く、「いいなぁ器用で」とお世辞を言ってもらえることで「へへっ。あざっす」と存分に勘違い野郎の気分を味わうことができるのだから純粋なレフティというのは毎日がお花畑であろう、、。



「ええと、、、うんと、、、」

私が初めての作業で、もたついている所に先輩がやってきた。

「何もちゃついてんだ。ここはこうしてだなー、、、。ん?オマエ左利きか!!」

ここで先輩に同族意識が芽生え、私に対してのハードルが上がる。先輩は生粋の左利きであり、仕事もできる男であった。

「あれ?ええと、、、。どうだこれ、、、」

「何やってんのよ!?どんくせーな、、」

いや、チョット待ってよ、、。
それ言われたらもっと出来なくなるから、、。つーかコレはどっちだ??右手のほうがやりやすかったか??

なかなか進まない作業を見かねた先輩は、

「だめだオマエ、、。センスねーわ。ホントに左利きか?」

という差別用語を放って去っていった。

アンタ何しに来たの?
ただ悪口言いにきただけじゃん。いじめかよ。
勝手にハグしてきて右ストレートかましてんじゃねーよ。普通にトラウマになるわ、、、。



センスのある左利きの人間は、同じ左利きに厳しくなる傾向があり、それは彼らの成長過程がそうさせるのだろう。基本的に世の中にあるものは右利き用に作られており、その中で生活する左利きは常に頭を使って生活しなければならなく、そんな生活を数十年続けていくと違った世界が見えてくるようになる。本質を見抜くというか、物を元素記号から見るような考え方が定着し、自分なりのアイディアを作ることで生き抜いてきた彼らは、低レベルの左利きを見ると「何で同じ世界の住人なのにこんなことも分からないの?」という気持ちになるのだろう。

彼らの成長曲線は常に右肩上がりで

工夫する → 成果を出す → 褒められる → 自己満足 → また工夫する

という無敵のルーティンを繰り返すことで、一時的に停滞することはあっても基本的には上がり続けており、正にうらやましい限りである。

だが、この世で一番大事なことは人間関係。
こころ優しき強者は好かれるが、弱者に歩みよる気持ちがない強者というのはコミュニティおいては不要であろう。



「おい見てZEN吉!あの看板センスなくね?」

先程の先輩との会話である。センスねーな、と見切られた私であったが何かとこの先輩と一緒になる機会が多く、正直めんどくさかった。

あー、めんどくさい、、。
じゃあ看板職人にでも転職すれば?

「ははっ。確かにシンプルすぎる感じがしますね。大人しくしたつもりのデザインが逆に攻めてるみたいな」

「だろ?センスなさすぎだろ。ところでよ、この「センス」ってどう磨かれるんだろうな?」

マジでめんどくせー、、。
自慢したいだけだろ、、。自己満足野郎が。

左利きは「センス」という言葉が大好物で、それを主食に今まで生きてきており、決して飽きることなく何杯でもいけるらしい、、。

「センス磨くコツですか?どうなんすかね、、、。うーん、、色んな角度から見ることじゃないですか?まぁ、オレが言っても説得力ゼロすけど、、」

「おぉー。お前センスない割にわかってんじゃん!」

うるせーよ。
オマエだって見る人からしたらそんなに変わんないからな。所詮オレたち左利きなんてトップにはなれねーんだよ。右利きとは圧倒的に分母数が違うんだよ。上には上が山ほどいるんだよ。
アンタだってそんなこと分かってんだろ?だからステージアップせずに見下せる位置に居たいんだろ?結局トップから殴られるのが怖えーんだろ?

その後も自覚症状のない自慢話が長々とつづき、「センス」というワードが30回は出てきたであろう。


うー、もうお腹いっぱい。オマエはまず会話のセンスを磨く努力をして下さい。